ネイチャースナップのすすめ|真冬の道東・白い世界を撮る

小林義明
ネイチャースナップのすすめ|真冬の道東・白い世界を撮る

はじめに

真冬の北海道というといろいろなイメージがあると思いますが、広い北海道では札幌や旭川などの日本海側と、私の住む釧路などの太平洋側東部では大きく天候が違います。日本海側では雪が多く、冬の間はずっとどんよりした天気が続きます。逆に太平洋側では晴れることが多く、雪はあまり降りません。天気が安定していることから、わざわざ札幌あたりから撮影に来るカメラマンも多く、冬の北海道で撮影するには道東の方が適しているといえます。

そこで今回は、真冬の道東で風景を撮影するときのアドバイスをしてみたいと思います。

冬の撮影事情

北海道での撮影は車で移動することが基本となります。雪のない時期は人の来ない林道や脇道などにも出かけることが多いですが、冬になると除雪されているところしか行けなくなり、行けるのは基本的には一般的なところ、または観光的な場所=「定番の撮影ポイント」ということになります。

撮影は晴れた日の朝を基本とします。晴れると気温が下がりやすく、冬らしい景色が期待できるからです。曇天の場合は風景を諦めて、タンチョウやハクチョウなどのいきものの撮影に切り替えることも多いです。

気温は氷点下が続き、朝はマイナス20℃程度になることも珍しくありません。しっかりした防寒装備をしていても慣れないとかなりキツイかもしれません。とくに風があると寒く感じるので、万全な防寒の準備をしてください。よくカメラの防寒対策を聞かれますが、今のカメラはバッテリーを余分に持っていけば問題ないと思います。

摩周湖の朝日。外輪山の標高が高いことから平地の日の出に比べて太陽が見えるのは10分ほど遅くなる。木々には霧氷がついて朝日に赤く染まっている。こんな景色に出会えたら最高だ。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED PLM AW
■撮影環境:F11 1/50秒 ISO200 WB:CTE カスタムイメージ:鮮やか
釧路エリアの大きな道路は路面が出ているところも多いが、脇道や路地裏に入るとしっかり雪が残っている。ちょっとくらいならと油断して雪のあるところに車で入っていくとスタックしてしまうので、乗り入れないようにしよう。心配な人は撮影ツアーに参加したり観光タクシーを利用したりするといい。
防寒着は温度調節がしやすいように重ね着する。上半身はハイネックの長袖Tシャツにベスト、フリース、ジャケットという感じで重ね着。下半身は暖パンの上に厚手のオーバーパンツ。その他、防寒靴や手袋なども必須。眩しいと感じる人はサングラスや帽子があるといい。耳も冷たいので、イヤーウォーマーなども有効だ。

定番の次を見つけよう

撮影に行ける場所が定番の撮影ポイントに限定されてしまうと、撮れる写真も定番だけで終わってしまうと考えるのは間違いです。晴天の雲ひとつないときの富士山のように、ワンカット撮影したら次の切り取り方が思いつかないということの方が珍しいと思います。

景色を広くフレーミングしているだけだとあまり変化はないので、少しずつ部分的に切り取っていくようにしてみましょう。雲が流れていたり、光の当たり方が変われば、画面の中でアクセントになる部分も変わっていきます。広く撮ったら次は望遠で部分的に切り取るということを繰り返しながら、自分が気になるところを撮影していきましょう。移動できる場所なら、面倒がらず自分の足で歩いて違う景色を探すのもネイチャースナップには大切です。

網走・能取岬からの流氷。青空もが広がり適度に海面も見えていて流氷らしい定番カットをおさえることができた。もう少し雲があってもいいくらいだ。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED PLM AW
■撮影環境:F11 1/250秒 ISO200 WB:太陽光 カスタムイメージ:鮮やか
少し歩いて行くと、手前の浅瀬の海にグリーンがかった海面部分を見つけた。青く見える海面の他にこのグリーンを入れることで、画面にちょっと変化をつけることができた。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED PLM AW
■撮影環境:F11 1/160秒 ISO200 WB:太陽光 カスタムイメージ:風景
グリーンの色をより強調したくて、望遠レンズに切り替えてアップで捉えるようにした。このように目的をはっきりさせながら、切り取り方を変えていろいろなバリエーションを撮影しておこう。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + DA★60-250mmF4ED[IF]SDM
■撮影環境:F11 1/50秒 ISO200 WB:CTE カスタムイメージ:鮮やか

光とコントラストに注目

雪景色や霧氷のついた景色など、冬の景色は白が基調となります。そのため、闇雲に撮影しても思い通りの印象で撮影できないこともあります。第一に、白い被写体を引き立てるためには光やコントラストに注意することが大切です。一見真っ白な雪面も、起伏があれば影ができます。この影を利用して被写体を目立たせるようにするのです。さいわい冬は太陽の高度が低く影も出やすいので、カメラポジションや時間帯を選ぶことでイメージに近い光線が得やすいです。光を考えて撮影場所を選ぶのも良い方法です。

光意外にも背景の色を意識するといいです。白と白が重ならないようにすることで、被写体の形が分かりやすくなります。基本的には被写体よりも暗い色のものを重ねると思えばいいでしょう。

例えば、霧氷がついた木を撮影するときには、青空が背景になれば霧氷の白が映えてきます。雲の白いところと重なると、色が同じために分かりにくくなってしまいます。

サイド光でシラカバの幹をシャドウっぽくして背景の雪面よりも暗く見せることで、存在感をしっかりと見せるようにしている。横に伸びた影も画面の良いアクセントとなって、森の雰囲気を伝えられるようになった。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + DA★60-250mmF4ED[IF]SDM
■撮影環境:F11 1/250秒 ISO640 WB:太陽光 カスタムイメージ:フラット
強い風で雪面が削れてできた風紋。影がはっきり出てくる低い光で撮影したことで風紋のパターンを浮き上がらせることができた。日が高くなると影も出にくくなり、分かりにくくなってしまう。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AW
■撮影環境:F14 1/200秒 ISO200 +0.7EV WB:太陽光 カスタムイメージ:鮮やか
雲が多いなかで霧氷を撮影。雲の流れが早かったので霧氷のメインとなる部分が青空と重なるタイミングを見計らってシャッターを押した。幹の部分は雲と重なっても影になっているところが多いので木の形をしっかり伝えることができる。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED PLM AW
■撮影環境:F11 1/400秒 ISO200 +0.7EV WB:太陽光 カスタムイメージ:鮮やか

微妙な色の違いを感じよう

白が多い冬景色ですが、朝夕は太陽の光が赤みがかるために、景色も赤っぽく見せることができます。この時間帯は色の変化も大きいので、てきぱきといろいろなところにカメラを向けて効率よく撮影したいです。

また、雲が太陽を遮り影ができないときでも、頭上には青空が見えている場合には、青空の色が地面を照らして淡く青みがかることも多いです。日影も同様に青みが強くなりますね。

このような微妙な色の変化に気づくことで、作品の色合いをワンパターンから多才なものに変えることができます。撮影するときにはホワイトバランスをオートから太陽光に切り替えておきましょう。そうしないとどの光でも白くなってしまいます。好みによって色調整をしてみても良いと思います。

流氷の海に夕陽が沈んでいく様子を撮影。流氷がびっしりと入っていて手前の部分は変化がなかったので、木立を入れて奥行きを見せるように画面構成した。太陽が低くなると流氷には太陽の光が入らず、青っぽくなる。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED PLM AW
■撮影環境:F10 1/60秒 ISO250 +0.3EV WB:CTE カスタムイメージ:フラット
細かい流氷がびっしりと流れ込んでいるなかで、比較的大きな氷が夕陽に照らされていたので、その部分だけを望遠レンズで切り取った。赤みを強調したくて、カスタムイメージを雅に設定した。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + DA★60-250mmF4ED[IF]SDM
■撮影環境:F9 1/320秒 ISO500 WB:太陽光 カスタムイメージ:雅
手前の斜面を見ると、シカが歩いた足跡が残っていて、夕陽に照らされていた。木の影と組み合わせて森のいきものの気配を感じられる一枚とした。色を強調するためにWBをCTEに設定。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + DA★60-250mmF4ED[IF]SDM
■撮影環境:F11 1/100秒 ISO200 +0.3EV WB:CTE カスタムイメージ:鮮やか
後ろを振り向くと、エゾシカがこちらを見つめていた。北海道の風景撮影ではいきものに会えるチャンスもあって楽しい。生き物が画面に入るときは、彩度が高い色設定だと不自然な色になることも多いので、あまりやりすぎない方がいい。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AW
■撮影環境:F8 1/200秒 ISO400 WB:太陽光 カスタムイメージ:雅
日影の岩場についていた氷。冷たい感じが表現できるようにあえて青みを強く見せるようにしている。カスタムイメージは青を強調できる風景としている。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED PLM AW
■撮影環境:F11 1/80秒 ISO800 +0.3EV WB:太陽光 カスタムイメージ:風景

景色の変化を眺めよう

これらの景色の微妙な変化に気づくためには、ゆっくりと景色を眺めていることが大切です。撮影し始めるとカメラのファインダーを覗くことばかりに夢中になりがちですが、肉眼でも景色を見て実際の美しさを感じるようにしましょう。

ただ、ずっと同じ景色を見ているとその景色に慣れてしまうこともあるので、ときにはちょっと目を離してまた見てみると、あれっと思うような小さなことに気づくこともあります。

週末しか時間がない現役世代のカメラマンだと、せっかく撮影に出たのだからここはさっさと撮影してあっちもこっちも撮りに行きたいとなってしまうのかもしれませんが、そうすると観光旅行的にいろいろな場所に行って来ましたというだけの写真になりがちです。

定番の場所だからこそ、自分の視点が感じられるような一枚となるようにじっくり景色を見つめて、ここに感動したからシャッターを押したといえるようにしていきましょう。

屈斜路湖の上にかかる雲海。ある程度太陽が高くならないと雲海の手前に光が入らず、立体感が乏しくなる。このときはちょうど良い太陽の高さになったときには雲がかかってしまったが、見事な雲量だった。多くの人が日の出からこのくらいまで撮影して帰ってしまっていた。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED PLM AW
■撮影環境:F13 1/125秒 ISO200 +0.7EV WB:太陽光 カスタムイメージ:鮮やか
このときは雲の切れ間から光が射し込んできて変化があり、1時間以上眺めながら光の入ったところを切り取って撮影していた。刻々と変わる光を楽しみながらシャッターを押すのは楽しいものだ。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + DA★60-250mmF4ED[IF]SDM
■撮影環境:F10 1/200秒 ISO400 +0.3EV WB:太陽光 カスタムイメージ:鮮やか
さらに景色を眺めていると、雲海が晴れてきて湖面が姿を見せ始めた。雲海の中にあった森の木には霧氷がついていて、また違う景色となっていた。何度もないチャンスなので、可能な限り長く景色を眺めてその変化を見ておくことで、次の撮影にも役立つことがたくさんある。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + DA★60-250mmF4ED[IF]SDM
■撮影環境:F11 1/640秒 ISO200 +0.3EV WB:太陽光 カスタムイメージ:鮮やか

困ったときはレンズ交換

標準ズーム、望遠ズームでひととおりの景色を撮影してしまうと、構図のバリエーションにも限界が出てきます。また、面白い被写体を見つけたけれど、周りに余分なものがあってうまく撮れないということあります。

そんなときに私が使うのがマクロレンズと魚眼レンズです。どちらも被写体に寄って撮影する使い方が基本で、魚眼レンズだと周りの景色の雰囲気も取り込めるという違いがあります。

作品のバリエーションとしても変化が出てくるので、ぜひ使ってみてほしいと思います。

天気がよくなかった日に湖畔で見つけた氷をクローズアップすると、色鮮やかな光の干渉が見られた。肉眼でははっきり見えず、C-PLフィルターを通すと見えてくる。こんな小さな景色を探してみるのも面白い。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + smc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WR
■撮影環境:F13 1/160秒 ISO5000 +0.3EV WB:AWB  カスタムイメージ:リバーサルフィルム
打ち上げられた流氷からたくさんのつららがさがっていた。あまり大きくないのと後ろに民家があるのを隠すために、魚眼レンズで近づいてつららを大きく見せながら後ろを隠して撮影するようにした。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-DA FISH-EYE10-17mmF3.5-4.5ED
■撮影環境:F11 1/320秒 ISO200 WB:太陽光 カスタムイメージ:鮮やか

まとめ

広くてスケールの大きな景色が広がる道東の冬。ぜひ一度訪れて撮影してみてください。難しいのは、今回紹介した景色はいつでも見られるものではないということです。霧氷や流氷などは自然のいろいろな条件が揃って出会えるものなので、もし訪れたときにイメージ通りではなかったとしても、ガッカリせずネイチャースナップ的視点を磨いておいて、傑作をものにしてほしいと思います。

 

 

■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。

 

 

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