ペンタックス smc PENTAX-FA645 45-85mmF4.5レビュー|ズーム全域で安定の描写力、初めに手にしてほしい645レンズ
はじめに
新しいカメラを買って誰しもが悩むのがレンズ選びだろう。ズームは便利だけど明るい単焦点も欲しい、大三元も・・・お金のなる木が生えているのなら話は別だが財布と相談しながらのレンズ選びは万人に共通の問題のはず。前回PENTAX 645Zについてレビューしたこともあり、今回は単焦点にも引けを取らない万能ズームレンズ「smc PENTAX-FA645 45-85mmF4.5」を紹介したい。
デジタル時代になってレンズは生まれ変わる
このレンズ、発売は銀塩全盛期の1997年、当然デジタルに最適化された設計ではない。しかしながら写りはピカイチ、PENTAX-FA645ズームの中でも指折りの一本だ。フィルムで使う場合とデジタルで使う場合は評価が変わることもしばしば。特に暗室に入ってプリントするような場合では光学性能がそのまま印画紙上に出るわけだが、デジタルでは本来の収差等を編集ソフトで補正することによって新たに生まれ変わることができる。
デジタルで使う場合は、本来の光学性能に加えてコンピューティング補正を入れた総合点でレンズを判断するべきだと考える。そういった意味では編集(現像)ソフトもバージョンが上がるごとに進化するので、画質もそれに伴って向上していく。こういうのはデジタルならではの恩恵だろう。
元よりワイド端でも歪みが目立たないレンズではあるが、RAW現像時にプロファイルを当てて補正することにより良好な結果を得ることができる。開放の甘さも後からシャープネスを入れるだけでもだいぶ印象が変わる。
45mmから85mmというレンジはフィルム645判で使用する場合は約28~53mmと広角寄りであったが、デジタルではセンサーサイズがフィルム面積と異なるため、135換算で約35.5から67mmをカバーする。僅かながらやや標準よりにシフトしたおかげでより普段使いに適した画角となったといえるだろう。純正の645レンズでは45、55、75mmの三本をカバーすることになり、スナップからポートレートまで幅広く活用できる画角だ。
同じ場所からワイド端(45mm)とテレ端(85mm)で撮影したものがこちらだ。
中判はセンサーサイズが大きいので高倍率ズームを作るのが難しく、ズーム比も二倍弱となっている。FUJIFILMのGFXシステムで似た画角のレンズだとGF45-100mmF4 R LM OIS WRがあるが、それでも2倍強だ。
余談だが45-85と聞くと、どこか国産初の標準ズームZoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5、いわゆる「ヨンサンハチロク」を彷彿とさせる。筆者はミノルタ24-50/4などショートズームにはどこか写るのではというロマンを感じてしまう。
単焦点にも劣らない優れた描写
ズームレンズというと「描写では単焦点には劣るもののレンズ交換の手間が省けて便利」という見方が多いのではないだろうか。しかしこのレンズは見事にそれを裏切ってくれる。ズーム全域において単焦点さながらの安定した描写力を持っている。
もちろん厳しく見れば開放描写の甘さなどを指摘できなくもないが、45・55・75mmが一本に収まっている点も加味して私としては十分満足の行くものである。開放で気になる収差も二段ほど絞れば解決される。ポートレート撮影ではこういう収差は気になるものではないし、スナップ的なものであれば実質的には問題になることはないだろう。
気をつけなければならないのは、135換算の焦点距離でワイドでも思いの外被写界深度が浅いのでピントが十分に来ていないことがある点だ。背面モニタではなかなか気づきにくい。この写真もワイド端45ミリでf8での撮影だが、十分に拡大してみると画面奥はアウトフォーカスになっている。中判ということもあって、被写界深度のことをよく考えて撮影しないといけない。
逆に言えばf8あたりでも街中のオブジェクトが背景からしっかりと分離してくれるので、中判ならではの表現が可能になる。錆びたフェンスの質感はしっかりと表現しつつ、背景のボケ感が程よく情報を残してくれている。フェンスも画面左にいくにつれなだらかにボケている。
また、逆光性能に関しては驚くほど強い。これだけ太陽を画面内に入れてもフレアやゴーストも出ず、しっかりと暗部の階調を保っているのは素晴らしい。Photoshopで拡大してようやくうっすらと発生していることが分かる程度なので、普段遣いなら全く問題ない範囲である。
説明のためにもっと激しくフレアを出そうと「フレアー、フレアー」と何枚も撮ってみたものの、これが一番出ているカットである。
33×44ミリ型の中判センサー、かつ5140万画素ともなるとセンサーの持つポテンシャルを十分に活かしきれるレンズ選びがきわめて重要になる。このレンズ、解像度はもちろん、ハイライトからシャドー部の再現に優れているため安心して使うことができる一本である。
使用感
重量が815グラムとミラーレス全盛の今にしてはなかなかヘビー級であるが、645D/Zに付けた時のバランスは非常に良い。重心がちょうど良い感じなのだろう、撮影時そこまで重さのことが気にならない。純正の花形フードのせいでかなり大きく見えるので、街中などを撮る際は77ミリ系のラバーフードなどに変えてもいいかもしれない。
AFは不満のない速さ。最新ミラーレスの爆速AFと比べるとだいぶ遅いかもしれないが、被写体に気づいてからさっと構えて撮っても十分合致するほどの速度はある。また、MFとの切り替えがクラッチ機構なので鏡筒に手を添えたまま前後にスライドするだけで切り替えできるので何かと便利だ。645D/Zはセンサーサイズのせいもあってそのファインダーの見やすさは抜群。このレンズは開放値4.5ではあるが、ピントの山はとてもつかみやすい。
特筆すべきはf値4.5素通しで最短撮影距離50センチという点だろう。
普段そんなに寄って撮ることはないものの、選択肢が増えることは表現の幅が広がるというものである。
ボケ味はまずまずというところ、悪くもなければ良くもなく。極上というものではないが、変な二線ボケが出たりしないのでポートレートなどでも最短距離の短さを使って色々撮れるだろう。
645D/Zを買ったらまずはコレ!
今フィルムカメラや一部のオールドレンズが高騰する中、PENTAX645系のレンズは幸せなことに中古市場でも比較的安く手に入る。単焦点レンズを揃える前に自分がどの画角をメインに使っているのかを把握する意味でも、まず初めにこのレンズを手に入れてみてはどうだろうか。何日か撮ってExifデータを参照に頻繁に使う焦点距離の単玉を入手するというのもいい作戦だ。
このレンズの唯一最大の欠点はその重量であろう。正直色々書いたが、これだけはどうしようもない。645Zがバッテリーを入れた状態で約1550gなので本レンズを装着すると約2365g、改めて計算するとなかなかな重量だ。ただ先述の通り撮影しているとそこまでの重さは感じない。
これだけ写るので、645Zの後継機よりも先にデジタルに特化させて本レンズをリニューアルさせて欲しいと願うばかりだ。
■写真家:新納翔
1982年横浜生まれ。麻布学園卒業、早稲田大学理工学部中退。2000年に奈良原一高氏の作品に衝撃を受け、写真の道を志す。2007年から6年間山谷の簡易宿泊所の帳場で働きながら取材をし、その成果として日本で初めてクラウドファウンディングにて写真集を上梓する。2009年から2年間中藤毅彦氏が代表をつとめる新宿四ツ谷の自主ギャラリー「ニエプス」でメンバーとして活動。以後、現在まで消えゆく都市をテーマに東京を拠点として活動をしている。日本写真協会(PSJ)会員。