第6回フィルムカメラを始めよう!21年ぶりの新型フィルムカメラ「PENTAX 17」を使いこなす!
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はじめに
こんにちは!フォトグラファーの鈴木啓太|urbanです。長年オールドレンズやフィルムを中心にポートレート、スナップ、家族写真を撮影しております。今回はフィルムカメラを始めよう!シリーズ第6回として、国内で21年ぶりに新型フィルムカメラとしてリリースされた「PENTAX 17」を紹介します。新型フィルムカメラがPENTAX初のハーフサイズカメラという所に驚いた方も多いのではないでしょうか。今の時代にマッチした新型ハーフサイズカメラの魅力について、紐解いていきたいと思います。
PENTAXブランド初のハーフサイズカメラ
2022年12月20日、写真業界を揺るがすニュースが飛び込んできました。「PENTAXブランドにて”フィルムカメラプロジェクト “開始」。誰もが、そんなまさか!と思ったに違いありません。近年、フィルムカメラはブームが続いており、誰でも簡単に使えるレンズ付きフィルムの「写ルンです」が高校生に人気という話題は、皆さんの記憶にも新しいのではないでしょうか。フィルムカメラを始めたいけれど、1本撮ったらカメラが壊れてしまった、お気に入りだったカメラがもう修理できなくなってしまったなど、ブームの背景には、ユーザー、そして部品の枯渇からカメラを修理できない中古カメラ店の苦悩も共存していました。そんな中での新型フィルムカメラ開発のニュースは、フィルム高騰が続く暗い令和の時代に差した一筋の光にも見えた、と記憶しています。
それから約1年半の月日を経て、2024年7月12日に新型フィルムカメラ「PENTAX 17」はリリースされることになりました。採用されたフォーマットはハーフサイズ。1本のフィルムで2倍撮影できるフォーマットは、フィルムが1本2000円近くとなってしまった現代において、最適とも言えるでしょう。ハーフサイズカメラはフィルムがまだ高かった1960年代に、OLYMPUS PENシリーズを筆頭に大人気となった歴史があります。当時、撮影結果の確認にプリントは必須。2倍撮影できてもプリント代も2倍になってしまうというチグハグさから徐々にその人気は低迷する結果に。現代では、フィルムをスキャン、データ化しスマホやPCに取り込んで楽しむことが一般的になっているので、倍撮れるメリットをそのまま享受することができます。
そんな令和生まれのハーフサイズカメラ、PENTAX 17の気になるカメラスペックを見ていきましょう。
型式 | ハーフサイズレンズシャッターフィルムカメラ |
画面サイズ | 24×17mm |
使用フィルム | 35mmフィルム ISO 50、100、125、160、200、400、800、1600、3200 |
感度設定 | フィルムに合わせて手動設定 |
フィルムの入れ方 | イージーローディング方式 |
巻き上げ | レバーによる手動巻き上げ、巻き上げ角130°、予備角35° |
巻き戻し | クランク式手動巻き戻し(途中巻き戻し可能 |
レンズ | HD PENTAXレンズ |
焦点距離 | 25mm(35ミリ判換算値37mm相当) |
開放F値 | F3.5 |
レンズ構成 | 3群3枚 |
最大撮影倍率 | 約0.13x (0.25m時) |
フィルター径 | φ40.5mm |
ファインダー | アルバダ式ブライトフレームファインダー |
ピント合わせ | ゾーンフォーカス(手動選択方式)6ゾーン(0.25m、0.5m、1.2m、1.7m、3m、∞) |
測光方式 | 部分測光 |
シャッター | プログラムAE電子シャッター 1/350秒~4秒、バルブ |
電源 | 3Vリチウム電池(CR2)1個、充電式電池は使用不可 |
外形寸法 | 約127.0mm(幅)×78.0mm(高)×52.0mm(厚)(突起部を除く) |
質量 | 290g(フィルムと電池を除く) |
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続いて、知っておくべき撮影モードを紹介します。写ルンです感覚で使用したい方は「AUTO:フルオート」が良いですが、PENTAX 17をより使いこなすには、各モードの理解が必要です。フィルムカメラに慣れている方は、「P:標準」にすることで、撮影のバリエーションがグッと広がります。まずは、各モードの特徴を理解していきましょう。
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ピントを合わせる仕組みであるゾーンフォーカスは、6つのモードから成っています。このゾーンフォーカスは慣れるまでがやや難しいですが、簡単に扱う方法について後述したいと思います。重要な注意点として、AUTOではテーブルフォトとマクロが使えないということです。ここでは、遠距離~マクロまでの撮影距離ごとの作例を見ていきましょう。
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■フィルム:富士フイルム FUJICOLOR 100
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■フィルム:Kodak ULTRAMAX 400
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■フィルム:富士フイルム FUJIFILM 400
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■フィルム:AGFA ULTRA 100
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■フィルム:Kodak Gold 200
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■フィルム:Kodak ColorPlus 200
新開発レンズ搭載!令和生まれハーフサイズカメラの描写
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■フィルム:Kodak ColorPlus 200
最新のコーティング技術を採用したレンズから成る描写は、従来のハーフサイズフォーマットとは一線を画すものとなっています。レンズ構成のモデルとなったのはPENTAXコンパクトフィルムカメラで単焦点レンズを採用したモデル、ESPIO mini。筆者もESPIO miniの大ファンで、32mmF3.5、3群3枚のレンズ構成、かつ30cmまで寄れると言った利便性の高さは、CONTAX T2、RICOH GRと言った高級コンパクトフィルムの影に隠れた名機として一部ユーザーから絶大な人気があったと記憶しています。
フィルムの面積が半分になることで、拡大してみた場合、フィルムの粒状感は強くなりますがこれも味のひとつと言えるのではないでしょうか。先述した各距離の描写を見ていただくとわかるのですが、遠景よりも近景の方が描写力は高いように感じられます。遠距離で小さくなった建物などを描き切るのはハーフというフォーマットの面でも難しいため、それらは中判等より大きなフォーマットに任せるとして、ハーフでも耐えうる中~近距離をメインとした使い方を主軸としていくのが良いでしょう。
PENTAX 17の特徴として、マクロ域での描写力の高さが挙げられます。ピントの合う範囲が狭く、適切なピント合わせが重要ですが、付属のハンドストラップが届く距離がマクロ域の適正距離となるため、こちらを活用したいところです。
ここからは、夏の合宿で撮影した写真を中心にその描写力をご覧いただきましょう。
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■フィルム:Kodak Gold 200
ハーフサイズでも明暗を美しく描き切ることができます。
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■フィルム:Kodak Gold 200
冷やしていたスイカと野菜を切って並べました。正におばあちゃんの家!な縁側。
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■フィルム:Kodak ULTRAMAX 400
F3.5と控えめな最大F値ですが、マクロ域で撮影することで大きくボケを作ることができました。暗かったため絞り開放と推測しますが、十分なボケ量ではないでしょうか。
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■フィルム:AGFA ULTRA 100
マニュアルで露出を決める場合も迷ってしまいそうなシーンですが、PENTAX 17で露出の失敗はほぼなく、測光はかなり正確です。
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■フィルム:Kodak Gold 200
青空をバックに、スイカを掲げてもらいました。赤と青の対比が良く表れています。晴れの日であれば自然とかなり絞られるため、ピントに神経質になる必要はありません。
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■フィルム:Kodak Gold 200
撮影の裏側はこんな感じです。あ!いいなと思ったらすぐにシャッターを切れるのはハーフサイズカメラの強みでもあります。
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■フィルム:Kodak Gold 200
焚火を手持ち&低速シャッターモードで撮影しました。炎の揺らめきもここまでしっかりと写すことができます。低速シャッターのSSは1/30より低速となりますので、手ブレには十分気をつけましょう。
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■フィルム:Kodak ULTRAMAX 400
こちらは三脚+低速シャッターモードでの撮影です。低速シャッターは最長4秒までSSが伸びますので、夜景を撮る際には三脚に加えレリーズを活用すると良いでしょう。
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■フィルム:Kodak ULTRAMAX 400
人物と風景の組み合わせに多用するのが中距離です。2.1m~5.3mにピントが合うという、目測では非常に難しい距離ですが、意外と簡単に合わせる方法があるのです。それは後ほど紹介したいと思います。
PENTAX 17をより使いこなすためのコツ
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■フィルム:Kodak Gold 200
PENTAX 17はフィルム初心者の方にも十分楽しめるような配慮がされており、感覚で使いこなせるようなギミックが多数盛り込まれています。ですが、フィルムカメラが初めての方などは中々馴染みのないゾーンフォーカスに苦戦しているのではないでしょうか。ここでは、ゾーンフォーカスをはじめとした、各機能をほんの少し上手に使いこなすコツを紹介していきます。
【1】マクロモードを使いこなすコツ
マクロモードを多用する場合は、ISO感度400以上のフィルムを使うように心がけましょう。ISO感度が高いフィルムを使うことで、必然的にF値が上がり、ピントが合う範囲が広くなるためです。ピントは合いにくくてもボケ量が欲しい!という方はISO200を使うのも良いでしょう。
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■フィルム:Kodak ULTRAMAX 400
【2】テーブルフォトモードを使いこなすコツ
テーブルフォトモードのピントの合う範囲は0.47m~0.54mとなります。これは大人が腕を伸ばした距離感とほぼ同じですので、下の写真のように何かを手に持って撮影する際に、腕を伸ばして撮影すると大体ピントの合う範囲に入ります。自分の腕の長さを知っておくと、いざという時に役に立ちます。
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■フィルム:Kodak Gold 200
【3】近距離と中距離の見極め方
ゾーンフォーカスカメラを使って上手に撮影するコツは、イメージしやすい距離を掴んでおくことです。シングルの布団(もしくはベッド)サイズが長辺約2mとして決まっていることから、筆者はこれを記憶して撮影に役立てています。近距離(1.4m~2.2m)を使う時は布団1枚分かそれより短い場合、中距離(2.1m~5.3m)を使う時は布団1枚分よりも明らかに長い場合とイメージして使い分けています。
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■フィルム:Kodak ULTRAMAX 400
【4】フィルターを使いこなそう
PENTAX 17のフィルター径は40.5mmで、数は少ないですがクロスフィルターもリリースされており、フィルター効果を写真に取り入れることができます。クロスフィルターは光の表現に活用しやすくおすすめです。また、NDフィルターを使うことで、ISO400のフィルムで青空を露出オーバーなしに撮影できるなど、PENTAX 17の最速1/350とやや遅いシャッタースピードをカバーすることができます。
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■フィルム:富士フイルム FUJICOLOR 100
【5】ネックストラップに一工夫
付属のハンドストラップはマクロ域を撮影するのにちょうど良い長さとなっており、距離を測るのに重宝します。筆者はネックストラップを使っていますが、付属のハンドストラップと同じ長さとなる位置に印をつけてあげることで、マクロ域の撮影距離が測りやすいよう工夫しています。また、ある意味禁じ手ですが、外部距離計を使ってレンズ下部の距離と合わせて撮影することで、正確なピント合わせをすることも可能です。(軽快さが損なわれるのでおすすめはしませんが 笑)
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【6】フィルムをより沢山撮りたい方へ
フィルム装填が非常に簡単なPENTAX 17ですが、より沢山撮影ができるフィルム装填方法をご紹介します。実は、画像の様に巻き上げギアにパーフォレーションを1コマかけて裏蓋を閉じるだけで、ローディングが可能なのです。その際は、フィルムを巻き上げた時に左肩の巻き戻しクランクが回転するかをしっかり確認するようにしましょう!巻き上げの度にクランクが回転していれば、しっかりとフィルムが巻けているということになります。
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まとめ
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■フィルム:Kodak ULTRAMAX 400
リリースされて間もないPENTAX 17ですが、描写力の高さと上手に使うためのコツを理解いただけたと思います。21年ぶりにリリースされた本機は、現代にマッチした素晴らしい進化を遂げていて、スマホ世代にも馴染みやすい縦構図と写ルンです感覚で使えるAUTOモードから、上級者向けの各モードまで万人が楽しめるフィルムカメラです。新製品ということもあり、確実に修理できるのは今までのフィルムカメラにはない、非常に大きなメリット。なんでも自分で設定できる現代のカメラと違い、カメラ半分、自分半分でカメラと共に作品を作っていく、スローかつ軽快なカメラだと考えています。素晴らしいプロジェクトを達成させたPENTAX、次のフィルムカメラプロジェクトからも目が離せませんね!
ハーフサイズカメラに興味を持った方は、2024年8月30日(金)より筆者も出展する「ハーフサイズカメラ写真展」が都内で開催されますので、是非足を運んでみてください。PENTAX 17をはじめとする数々のハーフサイズカメラの写真を知ることができるチャンスですので、これからフィルムを始めたいという方必見の展示となる予定です!
実践的な撮影方法が知りたい場合は、僕が講師を務めるフィルムワークショップ「フィルムさんぽ」にもご参加いただければ嬉しいです。ではまた、次の記事でお会いしましょう!
■ハーフサイズカメラ写真展
期間:2024年8月30日(金)~9月11日(水)
※9月5日会場休日
時間:10時~20時(最終日~17時)
場所:フォトカノン戸越銀座店
〒142-0041 東京都品川区戸越2-1-3
都営浅草線 戸越駅より徒歩4分
東急池上線 戸越銀座駅より徒歩7分
写真展詳細ページ
https://amemiya-hair.tokyo/half-size-camera/
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■フォトグラファー:鈴木啓太|urban
カメラ及びレンズメーカーでのセミナー講師をする傍ら、Web、雑誌、書籍での執筆、人物及びカタログ撮影等に加えフィルムやオールドレンズを使った写真をメインに活動。2017年より開始した「フィルムさんぽ/フランジバック」は月間延べ60人ほどの参加者を有する、関東最大のフィルム&オールドレンズワークショップに成長している。著書に「ポートレートのためのオールドレンズ入門」「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」がある。リコーフォトアカデミー講師。