はじめに
自然の写真を撮るのなら、スッキリと青空が広がっている晴れの日が良いと思う人が多いと思います。でも、撮影に行ってみると、いつも都合良く晴れてくれるわけではありません。曇天のときは気分が乗らないという人もいますが、私は曇天の日を選んで撮影することも多いので、今回はPENTAX K-1 Mark IIを手に曇天で撮影するときのポイントを解説していきたいと思います。ぜひ参考にして視点を広げてください。
曇天の柔らかな光で、湿原の景色をシットリした雰囲気を撮影した。画面のメリハリがないのでインパクトは強くならないが、自然の表情のひとつである曇天ならではの雰囲気だ。作品のバリエーションを広げるワンカットとして積極的に曇天でも撮影したい。
■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR
■撮影環境:F14 1/6秒 ISO50 -0.7EV WB太陽光
曇天の光の特徴
曇天は空が雲に覆われていて、太陽の光が雲を通して地上に届くようになります。晴れているときは太陽を光源として一点から光がくるので、影がはっきりと出ますが、曇天の場合は空一面に広がった雲の広い面から光が届くので、いろいろな方向から光が届いてきて影が出にくくなります。
影が出ない分、立体感を表現しにくいというデメリットはありますが、影が出ないことで撮れるシーンもたくさんあるので、うまく活用したいです。影が邪魔になるシーンを思い浮かべて、そういったシーンを撮影するといいのです。
晴れて影が強く出ているカット(左)と雲で光が遮られて曇天同様に影がほぼなくなった状態のカット(右)。露出はハイライトに合わせている。同じ場所でもこれだけ雰囲気が変わってくるので、それぞれの光の特徴を理解して作品に活かしていくことが大切だ。この違いを頭に入れて、この先の記事を読んでほしい。
曇天のメリット1 形をはっきり見せられる
影が出なくなることで、被写体の形をきちんと見せやすくなります。影が出ると影で黒く写った部分は見えにくくなり、被写体の形が分かりにくくなってしまうのです。
たとえば、晴れた日にソメイヨシノのようにたくさんの花が集まっているものを撮ると、花が重なって凹凸があるため影が出やすく木全体としての形を見せることができても、アップ気味で撮影すると花ひとつひとつの形を見せにくくなってしまいます。こんなときに曇天の光を選ぶとひとつひとつの花を簡単に見せることができます。
言い換えると、曇天のときには形に注目して被写体を探すと絵を作りやすくなります。広い風景よりもアップ気味の視点で見てみましょう。
ヒオウギアヤメの群落を撮影。ちょうど曇天で影が出ず、ひとつひとつの花の形をきちんと見せることができた。アヤメは立体的な形をしている花なので影が出ると形が分かりにくくなってしまうので、ちょうど良い光に恵まれた。
■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AW
■撮影環境:F11 1/125秒 ISO400 +0.3EV WB太陽光
湿原のなかで生えている草の形のバリエーションを見せるように俯瞰気味に撮影した。スゲの細長く放射状に広がる感じや、周りを取り囲むホザキシモツケの葉のほか、シダの形がアクセントになっている。それぞれの葉の形の違いがきちんと伝わるカットになった。
■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR
■撮影環境:F10 1/80秒 ISO200 WB太陽光
曇天のメリット2 色をきれいに見せられる
自然のなかで色があるものといえば、花が真っ先に思い浮かぶと思います。花を撮影するときには影に気をつけることが大切です。影が強く出ていると、その部分は色が濁ったように見えてきれいではなくなってしまうのです。
花の形をイメージしてもらうと分かると思いますが、シベのある花の中央が凹んでいて影が出やすいです。でも、ピントはシベのあたりに合わせることが多いので、ピントを合わせたところの色が濁って見えると花の色の印象もよくありません。
曇天の影が出ない光であれば、花全体の明るさが揃うので、あとはきちんと露出を合わせてやればきれいな色を再現できます。晴天時と曇天時では露出補正値は違ってくることがありますので、きちんと露出補正することが大切です。
ちょっとピーク過ぎとなってしまっているが、クリンソウを晴天の光(左)と曇りの光(右)で撮影している。晴天の光では花の中央に影が出てしまって、花の色が濁ったような印象に見えてしまう。曇天の光であれば影もほとんどなくほぼ均一な色で再現できるので、すっきりと本来の花の色の印象を伝えられる。
黄色のツツジを曇天の光でやさしい雰囲気に捉えることができた。ツツジは花の奥行きがあって影が出やすいため、晴天で撮影するのは難しい花だ。とくに黄色では影が出ると色が濁って汚く感じられるので、光を見極めて撮影したい。
■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AW
■撮影環境:F4.5 1/320秒 ISO200 +1.0EV WB太陽光
エゾスカシユリのシベをクローズアップ。背景にボケて見えるのが花びらだ。やや俯瞰気味に近づいているので、影が出る状態だとマクロレンズの先端や自分の影が花に落ちて邪魔になることもあるシーン。曇天の方が余計なことを気にせず撮影できる。
■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX- D FA MACRO 100mmF2.8WR
■撮影環境:F4 1/125秒 ISO400 +0.7EV WB太陽光
湿原で見つけたハンノキハムシ。このような光沢のある甲虫を撮影するときは曇天の方が光がまわっているため光沢感を再現しやすい。カワセミのような鳥も曇天の方が色を再現しやすいので、積極的に曇天の光を活用しよう。
■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX- D FA MACRO 100mmF2.8WR
■撮影環境:F8 1/250秒 ISO400 +0.3EV WB太陽光
曇天のメリット3 輝度差が抑えられる
影が出ないということは、画面内の輝度差が少なくなるということです。デジタル画像ではなるべく白トビを抑えることが大切で、白トビしやすい被写体を撮影するときに曇天は最適の光が得られます。
とくに白い部分がある画面では曇天の柔らかな光は効果的です。例えば滝を撮影するときに、光が射し込んでいるとハイライト部分は簡単に白トビを起こしてしまいます。でも曇天であればまんべんなく光がまわるので、ハイライトからシャドー部まで再現することができます。
曇天の空は一面が白くなっていて、画面に入れると一番明るい部分となることが多いです。広い風景の撮影などではどうしても空が入ってしまいますが、曇天の空に関しては白トビしても構わないと考えています。見せたい被写体を優先して露出を決定しましょう。
滝の流れを曇天の光で撮影。曇天の光でも、流れの強い白く見える部分はギリギリ白トビしない程度の明るさだ。晴れていたら確実に白トビしていただろう。流れの部分の階調性を重視して撮影するのなら、曇天の光を選ぶと撮りやすい。
■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX- D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR
■撮影環境:F11 1/2秒 ISO200 -0.7EV WB太陽光
ルピナスの花を撮影。手前に白い花の前ボケを入れているが、この白い色が極端に白トビすると目立つので曇天の光を選んでいる。ルピナスも影が出やすく、色をきれいに再現できたのもこの柔らかな光のおかげだ。
■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AW
■撮影環境:F6.3 1/400秒 ISO200 WB太陽光
幹が大きく曲がったダケカンバの形が面白かったので、フィッシュアイズームで形を強調して撮影。下から見上げている状態なので、影があまりでない方が幹の様子をきちんと見せることができる。白い空が入っているため、大幅なプラス補正が必要だった。このレンズは17mm側ならケラレなくフルサイズで撮影できる。
■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-DA FISH-EYE10-17mmF3.5-4.5ED
■撮影環境:F8 1/30秒 ISO800 +2.3V WB太陽光
曇天のメリット4 カメラポジションが自由になる
撮影においてカメラポジションはとても重要です。曇天の光では影が出にくいおかげで、カメラポジションも自由になります。
晴天では影の出方に合わせてカメラポジションや被写体の向き、撮影時間を選ぶことが必要になる場合も多いです。風景のように予想ができるものであればまだ対応できますが、いきものの撮影ではこちらの思い通りに動いてくれることの方が少なく、一瞬のシャッターチャンスしかないことも多いので、カメラポジションや被写体の向きが自由になることはとてもありがたいです。
いろいろな方向に向いている花を撮影するときなども、自由な角度から撮影しやすいので向いているといえます。
弱い影が出る光でエゾシカを撮影している。顔の向きで影が出たり出なかったりするのが分かる。顔の表情が伝わりにくくなるので、基本的には顔に光が当たっているときに撮影したい。このように、光によってカメラポジションや撮影しやすい向きに制約が出ることを理解しよう。
繁みの中を移動していたノゴマがシシウドの上に姿を現してくれた。小鳥の撮影では一瞬のチャンスとなることが多く、顔の向きなどを選んでいる時間もないことが多い。曇天のおかげで体全体を分かりやすく見せることができた。
■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-DA 560mmF5.6ED AW
■撮影環境:F8 1/1600秒 ISO1600 +1.3EV WB太陽光
光と色に敏感になろう
実際には曇天といっても雨が降りそうなほどどんより曇っているときと、雲が薄く薄日が射しそうなときでは影の出方も違ってきます。この違いもじっくり読み取ることができると、よりイメージ通りの作品を撮影できるようになります。
また、森の縁のあたりでは、曇天であっても開けたところには光がたくさん当たり、森の中の方は木々に光が遮られて暗くなっています。このような光の違いもしっかり読み取っていけば、曇天であっても適度にコントラストのある画面にすることも可能です。
どんよりとした曇天だったが、スギナについた水滴が印象的だった。すぐ近くのフキの葉が茂っているところに弱い影が出て暗くなっていたので、そこを背景にすると水滴のきらめきを強調することができた。
■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX- FA★MACRO200mmF4ED
■撮影環境:F5.6 1/200秒 ISO800 +0.3EV WB太陽光
曇天であっても森の縁ではそれなりに影が出てくる。木の幹を見ると開けたところから入ってくる光によって森の中側では影ができているのが分かるだろう。こういった微妙な明暗に気づくことで曇天でも作品の幅が広げられる。
■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX- D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR
■撮影環境:F8 1/60秒 ISO800 +0.7EV WB太陽光
攻めの曇天活用方
曇天の撮影でもう少し変化が欲しいなというときに試してみてほしいのが、標高の高いところへ行ってみることです。雲が低いときに限られますが、標高を上げると雲の中に入って霧のなかにいる景色へと変化します。山頂あたりが雲のなかに入っているのが麓から見えれば、山頂付近は霧のような状態になっていますので、登れる山があれば試してみると面白いです。
ときには雲の上に出て、一面雲海の景色が広がっているということもあります。そんなシーンに出会えたらラッキーですね。
曇天のときに標高700mほどのところにあがってみると、雲の中に入って霧のような幻想的な景色になった。ある程度雲が低いときに限定されるが、思い切って移動することで違った景色を見ることもできる。
■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX- D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR
■撮影環境:F11 1/50秒 ISO1600 +1.7EV WB太陽光
私の住んでいる釧路エリアでは、曇天のように見えても低い雲の上に出ることができると雲海となっていることが多い。自宅の周辺で標高の高いところへ行ける人は、チェックしてみるといいと思う。
■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX- D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR
■撮影環境:F11 1/800秒 ISO200 WB太陽光
PENTAX K-1 Mark IIの印象
発売からすでに6年が経過した「PENTAX K-1 Mark II」。解像感の高い絵作りや高感度での画質はまだまだ十分実用になるといった印象です。フレキシブルチルト式液晶モニターも使いやすく、ライブビューや極端なアングルで撮影するときにはとても重宝します。GPSも内蔵されていて、撮影地の情報を記録しておけるのもロケハンに便利です。
さすがに動作面や機能的にはちょっと古さを感じるところも出てきていて、ダイヤルの反応や書き込みの速度に関してはストレスを感じることもありました。また、K-3 Mark IIIに合わせてカスタマイズをやり直そうと思ったのですが、思うような設定ができないこともあって、同時に利用するのは難しいと感じる面もありました。
いまオススメする使い方としては、じっくり風景や自然を撮影するのにいいと思います。光学ファインダーと自分の目で光を感じながら、イメージに合ったカスタムイメージを選択して景色を切り取っていく楽しさを味わってみてほしいと思います。
K-1 Mark IIではユーザーモードが5つあり、自分好みの設定をいろいろ登録しておくことができるのがいい。いくつか必要な設定を登録しておくと切り換えが便利だ。今回は滝の撮影をするときにスローシャッター前提の三脚を使って撮影する設定を利用した。ドライブモードを2秒セルフタイマーに切り替え、ISO感度を低くして絞り込んだ設定だ。
GPSを内蔵しているのは撮影した場所を記録しておけるので便利だ。よく知っている場所では必要ないが、遠方のロケでは記録しておけば、撮影場所が分からないといったトラブルを避けられる。カメラの情報表示では標高も出てくるので見ていても面白い。
まとめ
自然の撮影では敬遠されがちな曇天ですが、曇天の光の活かし方を知ることで見えてくるものが違ってきます。曇天の日に晴天が適している構図で撮影しても魅力的にはなりません。光に合った撮り方をすることで、同じ場所でも違う魅力が見えてくるようになるのです。
ネイチャースナップは、いつでもどこでも被写体を見つけられる視点を磨く練習でもあります。今日は曇天で天気が良くないから撮れるものはないなんて考えないで、楽しくネイチャースナップしてみましょう。
■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。