ペンタックス smc PENTAX-FA645 75mmF2.8 レビュー|まるでGR!? 体が軽くなる魔法のレンズ

新納翔
ペンタックス smc PENTAX-FA645 75mmF2.8 レビュー|まるでGR!? 体が軽くなる魔法のレンズ

はじめに

これはまさに魔法のレンズである。今回取り上げるのはPENTAX645シリーズの中でも屈指のパンケーキレンズ、smc PENTAX-FA645 75mmF2.8だ。1997年、PENTAX 645Nの標準レンズとして発売され、その重量たったの215g。135フルサイズ用のレンズと比べても軽い部類だろう。なにをもって魔法のレンズと言っているのか順々に紐解いて行こう。

中判645がGRになる!?魔法のレンズ

■撮影機材:PENTAX 645Z + smc PENTAX-FA645 75mmF2.8
■撮影環境:F8 1/800秒 ISO200

普段645Zと67用のマニュアルフォーカスレンズをセットに使っている人間からすると、75mmを付けて街に繰り出すと体が軽くなるのを感じる。まるでGRのようなコンパクトカメラを持って街を颯爽と駆け抜けていくような感覚なのだ。

33×44mmセンサー搭載の645機に装着した場合、135換算でおよそ59mm。3:4のアスペクト比と相まって、見た感じがそのまま大きなファインダーの中に広がる。

645Zに75mmを装着しておよそ1.7kg、一眼レフ機にf2.8クラスの明るいズームレンズを付けるよりも軽いのだ。「中判=重い」というイメージがあるので意外かもしれない。冒頭で触れた通り物理的な軽さ以上に、体がとても軽く感じられるという精神的な意味合いの方を強調したい。同じカメラなのかと疑ってしまうくらいに、被写体を見つめる視座が変わってくる。なんでも数値化される時代ゆえに、こういうスペックで表現できないところが重要なのである。

コンパクトながら中判特有の繊細な描写は素晴らしい
■撮影機材:PENTAX 645Z + smc PENTAX-FA645 75mmF2.8
■撮影環境:F5.6 1/1250秒 ISO200

撮影に行き詰まった時、ちょっと頭が固くなった時に違う機材を使うのはまさに特効薬である。またAFかMFかというのも大きな差だ。

撮影というものが被写体との会話であるなら、シャッターを切る行為よりじっくりと向き合ってピントを合わせている時こそまさに「撮影」なのではと、このところ思うのである。

光量が少ないシーンでもピントの合った部分の立体感はピカイチ
■撮影機材:PENTAX 645Z + smc PENTAX-FA645 75mmF2.8
■撮影環境:F4 1/500秒 ISO200

ボディは同じなのに全く違ったカメラアイを与えてくれるsmc PENTAX-FA645 75mmF2.8は、まさに魔法のレンズなのだ。

描写

そのコンパクトさからは想像できないほど、画面全域に渡って非常に素晴らしい描写を見せてくれる。フィルム時代のレンズながらデジタルで使っても遜色なく、撮っていて安心感がある。

開放f2.8ではピント合焦部においては極めてシャープながら全体として優しい雰囲気が特徴的。室内などで撮影すると最近のレンズよりはやや低コントラストで軟調気味に感じるが、Adobe Photoshopなど編集ソフトで追い込んでいくタイプの人にはその方が編集の幅が広くなるので好都合かもしれない。画面左上のハイライト部が美しい。

参考までにPhotoshopでエッジを立てる方法としてアンシャープマスクの他に、ハイパスを使う方法がある。こちらは応用範囲も広いので簡単に紹介しておく。レイヤーを複製し、図のように上のメニューバーから、フィルター>その他>ハイパスと進み、プレビュー画面を見ながら適切な量をかける。そしてそのレイヤーの合成モードをソフトライトにする。もし効きが強すぎた場合は不透明度で調整するとよいだろう。細かく言えばアウトフォーカスの部分やオリジナルのままでいい場所もあるので、マスクでハイパスをかける範囲を調整するとよいのだが、本稿の趣旨とずれてしまうのでそこは割愛する

ちなみに掲載している写真はそういった処理は施していない。

現代的なカリッとした描写と違って雰囲気があるが、場面によってはややボケがうるさくもある。ただこれもf4あたりまで絞ればかなり改善され、画面全体のシャープさもエッジが効いて現代的な描写になってくる。

■撮影機材:PENTAX 645Z + smc PENTAX-FA645 75mmF2.8
■撮影環境:F8 1/500秒 ISO200

こちらは三軒茶屋のキャロットタワーから撮影したもの。f8までしか絞っていないが、中心部はもちろん周辺の解像度も非常に高く、都会の密な街の様子がとてもよく描写されている。四隅の流れなども見当たらず、まさにTHE中判という描写である。コンパクトながら描写に関しては少しの妥協もない。

このような情報量の多い写真こそ中判の真骨頂。B0クラスにのばしてじっくり鑑賞したいものだ。

■撮影機材:PENTAX 645Z + smc PENTAX-FA645 75mmF2.8
■撮影環境:F8 1/800秒 ISO200

逆光やハイライトの粘りも強い。白い壁の質感を保ちつつシャドーから中間部をしっかりと描いている。一見飛んでいるようなシーンでもしっかりと記録されており、14bit機ながらそのセンサーの優秀さが伺える。

■撮影機材:PENTAX 645Z + smc PENTAX-FA645 75mmF2.8
■撮影環境:F4.5 1/640秒 ISO500

夢の島熱帯植物館に張り巡らされている温水パイプ。温室に入ると、たまにしか顔をださない魚が池にいたらしく親切な施設の方が「これは貴重ですからシャッターチャンスですよ!」と教えてくれた。ただ温度差でメガネが真っ白に曇ってしまい、カバンの中からレンズ拭きをだそうにも「あー、早く撮らないと隠れちゃう!」と急かされるものだから撮っているフリをしようとするも、今後はレンズの曇りでAFが全く効かず困ってしまったのは苦い思い出だ。

金属の描写を見て欲しい、まさにそこにあるかのような立体感。レタッチで特別なことはしてないが、これだけ表現できることには正直驚きだ。

レンズの歪みに関して言えば非常に優秀である。

■撮影機材:PENTAX 645Z + smc PENTAX-FA645 75mmF2.8
■撮影環境:F8 1/400秒 ISO200
■撮影機材:PENTAX 645Z + smc PENTAX-FA645 75mmF2.8
■撮影環境:F9.5 1/400秒 ISO200

都庁で撮ったカット、東雲で撮った道のカットも特に嫌な点は見当たらない。これらはRAW現像時点で湾曲補正などは行っていない。プロファイルを当てて収差を取り除くことはできるが、その必要性を感じさせないポテンシャルを持っている。

■撮影機材:PENTAX 645Z + smc PENTAX-FA645 75mmF2.8
■撮影環境:F4 1/200秒 ISO1000
■モデル:hi-co(@hico730

初めの方でGR感覚と言ったが、もちろんしっかりと被写体と向き合って撮ることもできる。これはモデルの知人に頼んで撮らせてもらったカットだが、ほぼ撮って出しでこれは凄い。ピンが来ている目の部分のシャープさと、なだらかにボケていく背景が実に美しい。

開放付近はピント面も紙のような薄さなので、ポートレート撮影ではMFでのピント合わせを推奨する。リズムよく撮っているとついつい背面モニタでのピント確認が疎かになりがちだ。そういう時にかぎって微妙にピンがずれた写真を量産しがちなのだ。

操作性など

■撮影機材:PENTAX 645Z + smc PENTAX-FA645 75mmF2.8
■撮影環境:F6.7 1/400秒 ISO400
雪の日の渋谷。二枚目の道路に積もった雪に残る足跡など細かい部分を見て欲しい
■撮影機材:PENTAX 645Z + smc PENTAX-FA645 75mmF2.8
■撮影環境:F6.7 1/200秒 ISO400

このレンズには欠点を上げるとすると二点ある。まぁどちらもやや主観的な見解でもあるが、一点目はAF/MFの切り替えスライドレバーがとてもやりづらい点である。爪の長い方などはさぞ難儀するだろう。

最近のレンズはフルタイムマニュアルが普通になってきているので、こういう点は余計に気になってしまう。せっかく素晴らしいファインダーがあるので、MFへの切り替えがもっとスムースにいけばと思う。

先程のポートレートのように開放付近のピントは本当にシビアなのでMFで追い込んだ方が良い。1997年発売ということで時代的にAFメイン仕様と思われるレンズが多い気がするが、切り替えレバーの改善とトルク感も増してくれたら言うことなしだ。

もう一点はパンケーキレンズに言うのも矛盾する話なのだが、ボディの厚みに対してレンズが薄すぎて不格好になってしまう点である。純正のラバーフードRH-A58より、他の金属フードを付けたほうがイケていると感じる。ちなみに筆者はシグマのAF105mmF2.8EXマクロ用のフード「SIGMA LH580-02」を付けている。

撮影時に自分のカメラは見えなくてもカッコいいに越したことはない。見ていても美しいカメラを使いたいものだ。

■撮影機材:PENTAX 645Z + smc PENTAX-FA645 75mmF2.8
■撮影環境:F4.5 1/125秒 ISO400
※フラッシュ使用

フィルムカメラやオールドコンデジが値上がりする中、PENTAXの中判レンズはまだまだ中古市場で安く手に入る。若干この75mmは値上がり傾向にあるようだが、645D/Zをゲットしたらまずは前回紹介したsmc PENTAX-FA645 45-85mmF4.5と、この75mmを使うのがオススメだ。

是非多くの方に楽しい中判ライフを送って欲しい。

 

 

■写真家:新納翔
1982年横浜生まれ。麻布学園卒業、早稲田大学理工学部中退。2000年に奈良原一高氏の作品に衝撃を受け、写真の道を志す。2007年から6年間山谷の簡易宿泊所の帳場で働きながら取材をし、その成果として日本で初めてクラウドファウンディングにて写真集を上梓する。2009年から2年間中藤毅彦氏が代表をつとめる新宿四ツ谷の自主ギャラリー「ニエプス」でメンバーとして活動。以後、現在まで消えゆく都市をテーマに東京を拠点として活動をしている。日本写真協会(PSJ)会員。

 

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