サムヤン AF 35-150mm F2-2.8 レビュー|様々な撮影に対応する高性能ズームレンズ
はじめに
今回はSAMYANG AF 35-150mm F2-2.8のレビューをさせていただきます。
このレンズは、SONY Eマウント用とLEICA Lマウント用が発売されており、今回はLマウント用でのレビューです。近年参入するメーカーが増え、勢いに乗るLマウントアライアンスに参加したSAMYANGから発売された、初のLマウント用レンズになります。
広角端35mmから望遠端150mmの標準レンズですが、開放値がF2~F2.8と非常に明るいため、特にボケ表現を活かした撮影や暗所での撮影に使いやすいレンズだと思います。ポートレート撮影を中心に、スポーツや風景撮影でのレビューを掲載させていただきます。
ポートレート撮影作例
はじめに和歌山のマリーナシティ近くの海岸ポートレート撮影会にて、LUMIX S5IIXに装着して撮影した数カットです。
海は青く、陽の光は少し夕日色になりはじめの印象的な時間に、波打ち際を歩くモデルを焦点距離80mmで撮影したショット。動くモデルにしっかりAFが追従してくれました。
少し離れたポジションから望遠端150mmでの撮影。構図上モデルを小さく写していますが、モデル自身の解像感は保たれているのが解ります。
強めの逆光でもモデルのディテールが失われることなく撮影出来るのは、ポートレートに限ったことではありませんが、特にポートレート撮影では重要な利点です。
続けて逆光のショットになりますが、先程と焦点距離は同じ150mmを使用して今度はバストアップまでモデルに近寄って撮影しました。このショットもディテールが失われず撮影出来ており、被写体までの距離に関係なく逆光に強いレンズだと思いました。
海が夕日に染まって美しい金色になりましたので、カメラの設定を変更して撮影。
私はカメラの色味を変更することが多いのですが、最近のLUMIXはLUTを静止画に活用する事ができ、色味の変更を撮影時に大きく活かせる機能が充実していて自分好みの色を出しやすくなってきています。そういった機能を活かすには発色性能の良いレンズを使う事が大前提となり、当レンズは逆光時の淡い色も青い海も金色の海も美しく表現出来るので、とても好印象を持ちました。
夕日が沈む直前、辺りは薄暗くなりはじめておりレフ板だけでは厳しい撮影状況なので、最近必ずと言って良いほど持ち歩いている、超小型軽量GODOX R1ミニクリエイティブLEDライトを使用して撮影。焦点距離35mmの広角端で、沈む夕日をバックに白いワンピースの裾が舞うようにモデルに廻ってもらい撮影しました。揺らぎと動きを表現したくてSS 1/60設定に変更すると、モデルの腕の動きや、ワンピースと波も良い感じになりました。
沈む直前の陽の光を小道具の酒瓶に入れる構図で撮影。モデルから酒瓶の範囲までピントが欲しいので、絞りを開放ではなくF2.8に設定。広角端35mmは背景を大きく取り入れた撮影が出来るので、ポートレート撮影によく使う焦点距離です。ポートレートに使用したい焦点距離を上手くカバーしているのも、よく考えて造られたレンズだと思います。
撮影会の締めくくりはマリーナシティの花火をバックに撮影。花火の形を柔らかくする為にSS 1/30に設定、花火の光跡が想像以上に良い感じになったのは、このレンズのボケ感の良さに他なりません。そして、ここでもGODOX R1が大活躍でした。
ポートレートの撮影会では殆どの場合、1対1の撮影とは違い限られたポジション、限られた撮影時間内で撮影することになります。そういった条件での撮影の場合、単焦点レンズでは思ったような構図で撮影出来なかったり、レンズ交換する時間がなかったり、交換時のレンズ落下や、埃の混入の心配もしなければならず、気持ち良く撮影することが難しい場合が多いです。
ですのでズームレンズを使用する方が合理的なのですが、よくある24-70mm F2.8のレンズだと望遠側が足りず不満が残り、24-105mm F4だとボケ感に不満が残るといったことがあると思います。しかし、このレンズはポートレート撮影でよく使用する35mm~105mmという絶妙な焦点距離をカバーしており、絞りの開放値もF2.8通しではなく広角端35mm F2.0という広角使用時でもボケ感を活かせる設計がなされていて、本当にこのレンズ1本あれば、撮影会でのポートレート撮影問題をハイクオリティに解決出来ると思います。
ここからは、撮影会ではなく地元の京都市内で、引き続きボディにLUMIX S5IIXを使用し、りなぽそさんにもモデル協力していただき撮影した写真でお話しいたします。
京都の嵐山にて撮影。夕暮れどきに赤のスパンコール衣装は映えますが、発色が良いレンズでなければ良い写真が撮れません。その点、このレンズを使用すれば心配無用な事は先の撮影会で確認済みなので、自信をもって撮影することが出来ました。背景のボケ感も夕焼けの色合いも良い感じで撮影することが出来ています。
焦点距離85mmのまま、バストアップより更にアップに近い構図で撮影。背景のボケ感が被写体に対して、近い時と遠い時どちらでも柔らかく自然に表現出来るのも、このレンズの良い所です。
前述の撮影会での白いワンピース撮影時、当レンズは白が美しく写る印象があったので、日中に白い衣装で撮影したくてリクエストさせていただくと、白くて可愛いチャイナ服を用意してくれましたので、感謝しつつ撮影させていただきました。
想像通り白い衣装とモデルの肌が透き通るように表現出来て、背景の田園のグリーンとのコントラストもあり、イメージ通りの撮影が出来ました。
ここまで使用していなかった焦点距離を使いたくて111mmにて撮影。このレンズを使用していて好印象の一つに、焦点距離による描写の違いの少なさがあります。35mmから150mmまで一貫した描写を得られる性能は仕事で使う事を考慮すると、私としてはズームレンズに求める必須条件であり、このレンズは条件を高次元でクリアしており、すごく優秀な印象です。この要件をクリアできるレンズは意外に少なく、焦点距離は好みでも自分自身が購入してでも使いたいかと問われた場合にNOな事が多いのですが、当レンズはYESと言えます。
夜用の衣装は黒でお願いしました。靴までコーディネートされたB&Wな衣装を用意していただき、日中撮影に続けて感謝しつつ撮影させていただきました。少し光源が欲しかったので前述の超小型軽量ライトGODOX R1ミニクリエイティブLEDを使用して撮影に挑みました。
私は高架下でのポートレート撮影が好きなのですが、この場所は街灯の蛍光灯の色がバラバラで難しい条件でした。しかし、このレンズの発色の良さを更に確かめたくて、敢えてこの場所を選んで撮影しました。結果は良好、私のイメージしたコントラスト高めの、夜スナップポートレート撮影を簡単に行う事が出来ました。
先程の写真に対して、今度は夜らしく写るよう、コントラスト控えめに撮影してみました。
GODOX R1の光の当て方の違いもあるのですが、どちらも肌の発色が美しく、自分の思うとおりに撮影出来ました。画像に写る点光源に注目すると、画像の端にある点光源がズームレンズの絞り開放で撮影したとは思えない程、綺麗な円形をしているのも素晴らしいです。
フラッグフットボール撮影作例
ここからは、2028LAオリンピック競技に決定しているフラッグフットボールを、フラッグフットボール実行委員会関西のご協力を得て撮影させていただきました。大阪の長居スタジアムで行われました試合の写真でお話しさせていただきます。
この写真は大会前の集合写真です。絞りをF13まで絞って中望遠91mmでの撮影ですが、最前列から最後列まで、選手皆さんの顔をハッキリと解像していて、このレンズの描写力の高さが解ります。この中に4年後のオリンピアンが写っているかもしれません。
フラッグフットボールはアメリカンフットボールを起源とするスポーツで、タックルの代わりにプレイヤーの腰に付けたフラッグを取る事から、名前が付けられています。アメリカンフットボールより安全かつ装備品も少ないので気軽に始められるスポーツでもあります。
以下、競技中の写真をご覧ください。
流石、アメフト譲りの競技なのでプレイヤーの動きは縦横無尽に素早く、撮影前は少し不安もあったのですが、動体追尾モードで撮影を始めると、その不安は杞憂に終わりました。使用したボディはポートレート撮影にも使用していたLUMIX S5IIXです。S5IIXはAF性能が高いボディですが、その性能を活かせるかどうかは、レンズ次第になります。しかし、このレンズの動体撮影能力はとても高く、プレイヤーに合わせて素早く正確に動作を繰り返してくれましたので、フレーミングに集中して撮影することが可能でした。
プレイヤーだけでなく、高速で飛び交うボールも止めて写したいと思い、撮影の殆どをSS 1/8000で撮影しましたが、開放絞りが明るいのと解像感の高いレンズである事で問題なく高速シャッターで撮影可能でした。焦点距離については、今回の撮影はフラッグフットボール実行委員会関西の許可を得てフィールドコート際で撮影させていただきましたので、35mmから150mmの焦点距離はすごく撮影に適していました。
しかし、この撮影距離は子どもなどの運動会でスタートから目の前を通過してゴールするシーンを追いかけるのに丁度よい気がします。私自身、スタートシーンと目の前を通過するシーンの撮影で今までカメラ2台で持ち替えて撮影していましたが、このレンズを使用すればカメラ一台で撮影可能になります。是非試してみてください。
フラッグフットボールを撮影して感じた事は、プレイヤーが真剣にプレーしているのですが、笑顔が多く真剣勝負を楽しみながら試合に挑んでいる事がすごく印象的でした。今後も撮影したいスポーツに出会えたことがとても嬉しいです。
フラッグフットボール実行委員会関西、関係各位の皆様、本当に御協力ありがとうございました。
風景撮影作例
次は引き続きLUMIX S5IIXを使用しての風景撮影になります。
私の、もう一つの地元、滋賀県高島市での撮影。
斜光がかかる時間の鳥居に露出を合わせて、全体的にアンダー気味かつ彩度を上げて撮影しました。結果、空と琵琶湖の青さが際立ち、傾いた陽の光が白い雲を一部オレンジ色に染めて、良い雰囲気で撮影出来ました。遠くを気持ちよさそうに滑るウェイクボードも良いアクセントになってくれました。対岸の遠景と波と雲の質感を出したくて絞りF16で撮影しましたが、回析の影響も少なく解像感がとても高く、発色も素晴らしいので風景撮影にも適したレンズだと思いました。
こちらも高島市での撮影。
色づき始めた新米が美しい田園風景です。この写真は焦点距離35mm絞りF9にて撮影しました。
京都に戻って、京都のお盆の風物詩である大文字を撮影。
三脚を使わず手持ちSS 1/4にて撮影しました。お世辞にも軽いと言えるレンズではないのですが、LUMIX S5IIXとのバランスが良くブレずに撮影出来ました。拡大すると現場の火付け役の人々が大勢写っていて、これ程多くの人々のお陰で楽しめていたのだと実感するとともに、このレンズの優秀な面も再確認出来ました。
京都の嵐山の風景。手前の船にピントを合わせて焦点距離73mmにて開放絞りF2.8で、背景をボカシて撮影してみました。水に浮かぶ船から、このレンズ特有の柔らかいボケ感で、橋から山々まで自然にボケ表現ができ、夕暮れの嵐山の風情を演出して撮影してみました。
こちらも京都にて撮影。池に映り込む山をしっかり表現したいと思い、絞りF18にて撮影してみました。最短撮影可能距離より少し近い距離から撮影する事でコスモスを前ボケに使ってみましたが、このレンズは前ボケも良好でした。
先程、前ボケに使用したコスモスを、今度は主役にする為、望遠端150mm、開放F2.8にて撮影。ピントを置いたコスモスの芯まで解像していて、なだらかに廻りのコスモスをボカシながら背景の山まで優しいボケで表現することが出来ました。
滋賀県高島市の写真で焦点距離の違いでの比較になりますので、参考にしてください。
Lマウントアライアンスボディで撮影
Lマウントのレンズなので他メーカーのボディを使用して撮影してみました。
Lマウント本家LEICA SL Typ601に装着して大阪の海辺での撮影会にて使用してみました。因みに私の所有するLEICA SL Typ601はSLシリーズの初期型フルサイズミラーレス一眼で現在新品での発売は終了しており、後継機のSL2、SL2-S、SL3が発売中となります。
LEICA SL Typ601の描写が好きなので手放さず使用しているのですが、中古市場では比較的、手に届きやすい価格になっていますのでキタムラの中古で気に入る個体を探してみては如何でしょうか。
少し話がそれてしまいましたが、まずポートレートに使用してみました。前述通り現在販売終了のLEICA SL Typ601ですが、流石Lマウントアライアンス加盟のSAMYANGレンズなので、AF含め問題なく快適に撮影可能でした。
この写真は、一見すると船上に見えますが、浜辺の建物の屋上が船上風の造りになっており、雰囲気を活かして撮影してみました。ボディを変更しても発色が良く解像感もあり、このレンズ自体が優秀な事を再度確認する事が出来ました。
今度は中望遠域114mmでアップに近いフレーミングで撮影しました。
ボケ感に関してもボディ変更の影響は少なく、柔らかく優しいボケ表現が得られ、背景の海と空の境目もしっかり写っていて、レンズの描写力も変わらず素晴らしいと感じました。
ポートレート撮影の場所から望む海を撮影。
夏の海らしくギラギラとした海面、シルエットでも解る楽しそうに海水浴をする人たち、遠景のヨットは拡大するとしっかりと帆に船体番号が読めます。レンズ性能はそのままに、ボディによる描写の違いを感じられますので、Lマウントアライアンスのシステムの素晴らしさも実感出来ました。
もう一台、Lマウントボディ SIGMA fpを使用しての撮影です。
パターン的にポートレート全身撮影からです。モデルに琵琶湖畔に立ってもらうと同時に、曇り空の合間から湖面に太陽の光が差し込みはじめたので、ちょうどモデルのバストアップより上にハイライトが来るようにフレーミングして、上半身が浮き立って見えるように撮影してみました。結果少し飛び気味ではありますが、その奥の水平線は写っているので自分的にはイメージに近く納得のショットが撮れました。
SIGMA fpもLマウントアライアンスのボディなのですが、SIGMAと言えばレンズのイメージが強いので、当レンズを装着する時少しイタズラしているような、それでいてワクワクする気持ちになりましたが、アライアンスなので普通に問題なく撮影することが出来ました。
モデルの少し持ち上がった髪の毛一本一本を見れば、SIGMA fpを使用してもこのレンズの解像感は保たれている事が解ります。背景の湖面の波模様も発色を含め美しく描写されているのが嬉しいです。
ボディに何を使用するかはあまり関係のない部分ですが、このレンズは本当に、どの焦点距離でも被写体と背景の距離が違っても、自然に優しくボケ表現が出来るので、結果としてどのボディで使用しても、ポートレート撮影が楽しくなるレンズです。
SIGMA fpには多くのプリセットされたカラーモードがあるので、滋賀県高島市で新米が実る田園と、集落の落ち着いた雰囲気を表現することが出来ました。構図に関して、この写真は通りすがりに撮影したのですがこれ以上前に行けない所なので、フレーミングにはズームレンズが必要でしたが、撮影データを見ると123mmで撮影していて、24-70mmや24-105mmでは撮影出来ていなかったであろう事に気付き、35-150mmって風景撮影にもちょうどよいと思いました。
再びLUMIX S5IIXに装着して、びわ湖大花火大会を動画撮影してみました。AF性能が高いのでフォーカスが外れても一瞬で合焦し直すので使いやすく、花火撮影では気になりませんが、AFの動作音も静かなレンズなので動画撮影も得意なレンズです。
最後に京都のAMSスタジオで開催させていただきましたモデル撮影会からのショットです。
大型スタジオにFerrari812を配置してモデル2名での撮影会は華やかでした。
LUMIX S5IIに装着したSAMYANG AF35-150mmF2-2.8はスタジオ撮影でも使い易く、Ferrariとモデルの美しい共演を表現してくれました。
Ferrari812オーナー様、運搬設置までして頂いたFELLOWS様、関係各位ありがとうございました。
おわりに
SAMYANG AF 35-150mm F2-2.8は長さ155.4mm、幅92.8mm、フィルター径82mm、重さ1206gと決して小さく軽いレンズとは言えません。ただ、18群21枚のレンズ構成に高性能なASP2枚、H-ASP1枚、HR3枚、ED6枚が組み込まれており、ズーム域35mm~150mmまでの、どの焦点距離で撮影しても単焦点レンズと遜色のない画質を得ることが出来るので、単焦点レンズを数本持ち歩くことを考えると、とても便利で魅力的な1本になっています。
AF性能もリニアSTMモーターの搭載により、本当に素早く正確かつ静かに動作してくれますし、外観もしっかりと造られていて好感が持てます。フォーカスリングとズームリングの他に、AF/MF切替スイッチ、フォーカスリングを絞りリングに変更出来たり、その他にも動画撮影時に便利なドリーショットモードに設定可能なカスタムスイッチ、他機能に割付可能なフォーカスホールドボタン、ズームロックスイッチが装備されていて、あらゆる被写体に対応可能な機能や装備が充実しています。
Lマウントを採用するボディメーカーも増えており、沢山のボディメーカーのカメラに装着することが出来るのも魅力です。ボケの美しさを考えると、ポートレート撮影に一番向いているレンズという印象が強いですが、風景やスポーツ撮影にも使いやすく、万能で明るい高性能ズームとして是非お試しいただきたいレンズだと思います。
最後まで読んでいただき有難うございました。
■写真家:葛原よしひろ
ジャンルに捉われず何でも撮影するマルチプレイヤースタイルの写真家。カメラメーカー等の写真セミナー講師としても全国的に活動している。大阪芸術大学写真学科卒/滋賀県高島市公認フォトアドバイザー/JPS(日本写真家協会)正会員