魅力満載!フィルムコンパクトカメラの写りが手に入る、サムヤン「Remaster Slim」システムと世界初光学ユニット交換式オートフォーカスレンズ3本
はじめに
今回紹介するレンズは少し変わった面白いレンズ。サムヤンから発売される世界初の光学ユニット交換式オートフォーカスレンズ3本と「SAMYANG Remaster Slim」のセットです。
「SAMYANG Remaster Slim」は、SAMYANGが提案する新しい光学系交換式レンズシステムで、光学系のレンズユニットを着脱することができるので、レンズ本体の大きさを変えずに、異なる焦点距離、描写のレンズへ交換することができる興味深いギアになっています。新しいもの好きにたまらない魅力満載のアイテムです。そんな「SAMYANG Remaster Slim」を発売前にお借りする事ができたので、魅力とその写りをご紹介します。
「SAMYANG Remaster Slim」の魅力と基本スペック
「SAMYANG Remaster Slim」は、「Remaster Slim AFモジュール FE」と3本のレンズユニットから構成されています。「Remaster Slim AFモジュール FE」に個性満載のレンズユニットを装着してオートフォーカスで撮影ができる、新しい光学系交換式のレンズシステムです。
レンズユニットは磁石固定のバヨネットマウント式で簡単に交換することができ、撮影シーンの状況に応じて素早く交換することが可能なシステムになっています。
3本のレンズユニットの焦点距離は21mm、28mm、32mmで、この3本のレンズユニットは1980年代から2000年にかけて登場したスリムなフィルムコンパクトカメラの光学系にインスパイアされています。それぞれの特性はそのままに、デジタルセンサーに最適化された新しいデザインで現代に生まれ変ったレンズです。
Remaster Slim AFモジュール FEと3本のレンズユニットのスペック
RS 21mm F3.5 | RS 28mm F3.5 | RS 32mm F2.8 | Remaster Slim AFモジュール FE | |
焦点距離 | 21mm | 28mm | 32mm | – |
レンズ構成 | 6群7枚 | 6群6枚 | 6群6枚 | – |
開放絞り | 3.5 | 3.5 | 2.8 | – |
最小絞り | 22 | 22 | 22 | – |
絞り羽根枚数 | 7枚 | 7枚 | 7枚 | – |
フィルターサイズ | – | – | – | 4mm |
最近接距離 | 0.18m (AF) 0.15m (MF) |
0.3m (AF) 0.23m (MF) |
0.37m (AF) 0.28m (MF) |
– |
コーティング | UMC (ウルトラマルチコーティング) | UMC (ウルトラマルチコーティング) | UMC (ウルトラマルチコーティング) | – |
最大径x長さ | – | – | – | 63mmx19.5mm |
重量 | 12.6g | 12.5g | 8.4g | 58.1g |
レンズの焦点距離と開放F値から、インスパイアされたフィルムカメラのレンズは想像しやすいのではないでしょうか。今も中古市場で人気のあの小型フィルムカメラ達です。ここではあえて機種名は伏せて、皆様の想像にお任せしたいと思います。
「Remaster Slim」システムの最大の特長は、フルサイズに対応していながら全長19.5mmの薄さにあります。ポケットにすっぽり収まるので、日常での持ち運びも負担になりません。またレンズユニットも非常にコンパクトで軽量になっており、モジュール込みで70.7g(RS 21mm)、70.6g(RS 28mm)、66.5g(RS 32mm)と約70g前後の超軽量を実現していることが大きな魅力のポイントです。
レンズをモジュールに取り付け交換するのは簡単で、モジュールのマウント指標とレンズの溝に合わせ、その溝に合わせてレンズをモジュールに挿入し、カチッと音がするまで時計回りに20°回すことで装着することができます。取り外す際は、マウントインデックスが見えるまでレンズを反時計回りに回すだけ。モジュールのカメラへの着脱方法は、通常の交換レンズと同じ方法でできます。ただレンズユニットが小さいので、手の大きな人は多少作業がしづらいかもしれません。
「Remaster Slim」システムはユーザーがレンズユニットを交換する際に、毎回カメラの電源をオンオフする手間を軽減するために、カメラの電源がオンの状態でも安定して動作するように開発されていますので、レンズユニットを素早く交換することが可能です。
またモジュールユニットにはステッピングモーターを搭載しているので、レスポンスの良い軽快なオートフォーカスで撮影が可能になっています。もちろんAF/MFの切替もモジュールユニットに備わっているので、瞬時に切り替えることが可能です。MFモードではAF時よりも最短撮影距離が短くなるので、被写体に寄って撮影する際には有効的に切り替えて撮影する事ができます。
レンズの特性を出すためのカメラ側の推奨設定
今回この「SAMYANG Remaster Slim」ユニットを使用するにあたり、気になっていたカメラの設定をサムヤンに確認してみました。
筆者が設定で気になったカメラ側の設定ポイントは、「周辺光量補正」・「倍率色収差補正」・「歪曲収差補正」の3点です。
ソニーαの初期設定では、レンズ補正の項目で下記設定になっています。
・「周辺光量補正」 オート
・「倍率色収差補正」オート
・「歪曲収差補正」 切
「SAMYANG Remaster Slim」ユニットを使用する際の推奨設定をサムヤンに確認したところ、
・「周辺光量補正」 切
・「倍率色収差補正」オート
・「歪曲収差補正」 オート
とのこと。
「周辺光量補正」を「切」にしたほうが、確かにノスタルジックなフィルムコンパクトカメラで撮影した周辺光量落ちの雰囲気がよく表現されます。「歪曲収差補正」に関しては、レンズユニットにより樽型や糸巻型の収差などが発生するので、「歪曲収差補正」を上手く活用した方がきれいな写真を撮ることができると思いますが、最終的には自身のイメージにあった状態で撮るのが一番なので、推奨設定を参考にして実際に撮影しながら自分の好みにあった設定をするのが正解です。今回の撮影では、この推奨設定で撮影をしたものになります。
「SAMYANG Remaster Slim」+「RS 21mm F3.5」で撮影
「21mm F3.5」のレンズスペックで思い出すフィルムコンパクトカメラは、今も中古市場で人気の2001年に発売されたあの薄形で高級なカメラを想像する人も多いと思います。フィルムコンパクトカメラで、広角21mmのレンズを搭載したものなんて限られますからね。
実際に「SAMYANG Remaster Slim」+「RS 21mm F3.5」で撮影してみると、フィルムコンパクトカメラで撮影した様なレトロな写り、周辺光量落ちなどが再現されており、非常にノスタルジックを感じる描写をしてくれました。特に逆光時には大きなハレーションが発生し、現代の最新レンズとは一線を画する撮影を楽しむ事ができます。全体的には、色の発色は鮮やかかつ濃厚で深みのある表現ができるレンズです。
今回の撮影では「歪曲収差補正」の設定はオートの状態で補正がかかっていますが、「歪曲収差補正」を「切」の状態で撮影すると、やや大きめの樽型の収差が発生します。下の写真はカメラ側の「歪曲収差補正」がかなり効いており、よく補正されている状態が分かります。
焦点距離21mmの画角ゆえに、太陽の光が直接レンズに入り込んでくるシーンも多くなります。正直逆光にかなり弱いレンズで、大きなハレーションが発生することが想定されます。それもまたレンズの味わいなのですが、時と場合によってはレンズのフードが欲しいと感じる事もありました。今回のレンズユニット3本の中では、一番特徴が分かりやすく出やすいレンズです。
「SAMYANG Remaster Slim」+「RS 28mm F3.5」で撮影
次は「RS 28mm F3.5 」レンズユニットです。焦点距離28mmで開放F値がF3.5のレンズスペックのフィルムコンパクトカメラは幾つか存在します。いったいどのフィルムコンパクトカメラのレンズにインスパイアされて制作されたのか非常に気になるところです。
「RS 28mm F3.5」レンズユニットは、今回使った3本の中では筆者的には一番使い勝手が良いと感じたレンズです。もちろん描写の好みの問題や好きな焦点距離の要素も大きいのですが、全体的に大きな歪曲収差も無くカメラ側の歪曲収差補正を「切」にして撮影しても良いかなと感じるくらいよく写るレンズです。中心部の解像度は非常に高い半面、周辺にかけて甘くなり周辺光量落ちが大きく発生するので、オールドレンズらしい描写をしながらも柔らかさとシャープさが両立するのがこのレンズの特徴と言えます。
「SAMYANG Remaster Slim」+「RS 32mm F2.8」で撮影
次は「RS 32mm F2.8」レンズユニットです。焦点距離32mmで開放F値がF2.8のレンズスペックのフィルムコンパクトカメラと言えば、あのロシア製のトイカメラ的なカメラを思い出してしまいます。
実際に撮影してみるとあのフィルムコンパクトカメラと大きく違って、しっかり写ってしまうレンズになっています。スナップ撮影をするのであれば普通に使いやすいレンズです。もちろん周辺光量落ちもありますし、歪曲収差補正を「切」にすると糸巻型の収差が発生する傾向はありますが、カメラ側の補正機能をフル活用すればスナップ撮影の常用レンズとして使っても十分な実力をもっています。なんといってもこの3本の中では一番重量の軽い8.4gの、レンズユニットで10gを切った軽さが魅力のポイントです。
「RS 32mm F2.8」の実際の写りのイメージは、「RS 28mm F3.5」に近い感じを受けました。焦点距離がやや近い事もあるのかもしれませんが、どちらを使っているか時々忘れてしまう感じでした。ただレンズに直接強い光が入るようなシーンでは、「RS 32mm F2.8」の方が大きなハレーションが発生するので、この点については「RS 28mm F3.5」とは大きく異なります。
まとめ
世界初光学ユニット交換式オートフォーカスレンズ3本と「Remaster Slim AFモジュール FE」は、今までに無かった発想で手軽なオートフォーカス撮影を実現し、1980年代から2000年にかけてのフィルムコンパクトカメラの写りを手軽に再現してくれる魅力的なギアです。古いフィルムカメラが好きな方、手軽にフィルムカメラのような写りを楽しみたい方にはとても魅力的なアイテムと言えるでしょう。
3本のレンズがインスパイアされたフィルムコンパクトカメラの名前は今回明かしませんでしたが、どれも今なお人気のカメラです。そういったカメラの複数のテイストが簡単にレンズ交換できて楽しめ、デジタルで手軽に気軽に撮影できるのは、他にはないシステムです。今後のラインナップがどうなるのかは分かりませんが、期待してしまうアイテムです。
■写真家:坂井田富三
写真小売業界で27年勤務したのち独立しフリーランスカメラマンとして活動中。撮影ジャンルは、スポーツ・モータースポーツ・ネイチャー・ペット・動物・風景写真を中心に撮影。第48回キヤノンフォトコンテスト スポーツ/モータースポーツ部門で大賞を受賞。
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員
・EIZO認定ColorEdgeアンバサダー
・ソニーαアカデミー講師