シグマ 100-400mm F5-6.3 DG DN OS | Contemporaryで撮る旅の記録
携帯しやすい100-400mm
SIGMAから発売されているミラーレス専用超望遠ズーム100-400mm F5-6.3 DG DN OS | Contemporary。「ライトバズーカ」の愛称で知られ、DG DN版となる前から人気のレンズである。400mmという超望遠を普段使いできる稀有なレンズで、私の機材構成でも実際、Lマウントの望遠域はこのレンズ1本で賄っている。
このレンズの特徴といえば、まずはサイズと質量だと思う。全長197.2mm、直径86mmというサイズに驚く。一般的な500mlのペットボトルのサイズが全長184.5mm、直径70.5mmと考えるとコンパクトさがイメージしやすい。重さも1,135gとこのクラスのレンズでは驚くほど軽い。気軽に100-400mmの超望遠レンズを持ち歩くことができるので、旅行などにも持っていきやすいレンズとなるだろう。
当然だが画質にも妥協がない。同社の標準ズームレンズ「24-70mm F2.8 DG DN | Art」と併用しても遜色のないクオリティーである。画面全体に解像感があり高コントラストで、SIGMAらしさのあるクリアな描写を、全焦点距離で安定的に写し出す。まるで心強い相棒といった感じで、使用するのがとても楽しい。
今回は、佐賀県唐津市呼子町にある加部島に訪れた。町とは呼子大橋だけでつながる離島で、島の中に多くのビューポイントがある魅力的な場所である。今回はこの呼子大橋を、高台から見渡せる「風の見える丘公園」で、のんびりと撮影をすることにした。まずは、 このレンズを使って丸一日撮影をした旅の記録を、動画でご覧いただきたい。気になる写りや、焦点距離による画角の違いなどを見ていただけると思う。
旅の記録を超望遠で写し撮る
曇り時々晴れとすっきりしない天気だったが、まずは橋を撮影する。強めの風にあおられた雲が海側からこちらへ流れてくる。霞がかったように見える景色は個人的に好みで、淡いトーンと緻密な描写のギャップが楽しい。実際の見た目よりも、鮮明に描写されている。このレンズの解像感とコントラストの高さがわかる。斜めに張られた、何本ものケーブルが重なり合った部分も、非常に繊細に描写している。 直線の連なる細かい部分からも、このレンズの画質の高さを感じる。
100mmから400mmの高倍率なズームレンズなので、焦点距離による画角を比べてみようと思う。上から100・135・200・300・400mmの順で撮影した。
画角の違いを見てもらうと、このレンズが高倍率であることがわかりやすい。頭では把握していても、実際に撮影をしてみると、実感するものがある。各焦点距離で撮影をしてまず感じたのは、どのショットも画質が安定しているということである。これはとても大切なことで、動画の撮影などでは特に、焦点距離ごとに写りの違いがあるとシーンがつながりにくく、カット毎にカラーコレクションをする必要があるので、とても使いづらい。その点、このレンズはそういったネガティブなことを考えず、自由にフレーミングができるとても良いレンズだと感じる。
フェンスから伸びる細い蔓を、100mmでの最短撮影距離で撮ってみる。114cmまで寄れるので、背景をボカした撮影も難なくこなす。ボケ味はなめらかで柔らかい。今回は撮影していないのだが、ポートレートでもこのレンズはよい写りをする。少し遠いワーキングディスタンスで、モデルにカメラを意識させない自然なポートレートにも使いやすい。
広角レンズでは埋もれてしまう景色の中の一部分を、400mmで引き寄せて撮る。望遠レンズの圧縮効果も相まって、フレームの中にギュッと納められた木葉と対照的な枯れ木。生命力溢れる濃い緑の葉と、枯れた木が対照的。時間のコントラストを感じる。
望遠レンズでは使い慣れた200mmで撮影してみる。前ボケも適度で柔らかく立体感を感じる写り。
外気温はこの日34℃まで上がり、湿度は78%になった。ジリジリと暑く、あまり長い時間撮影を続けると危険なので、少し休憩をすることにした。真夏の昼には、よく冷えたビールが最高に美味しく感じる。ノンアルコールビールと、家から冷やして持ってきたLibbeyのビアグラスに冷えたビールを注いで軽めの昼食を準備した。
こういった何気ない写真も綺麗に撮れる。ビアグラスの結露した表面の質感と、背景のボケ感がとても綺麗だ。このレンズは、レンズシフト式手ぶれ補正を搭載しているので、望遠レンズでありながらも、気軽にスナップのような感覚で写真を撮ることができる。意外と守備範囲が広いことに驚く。
幸運なことに木陰の駐車場を見つけ、そこでのんびりとしていたら日が陰り始めた。暑さも少し和らいで海風が心地よい。そろそろ重い腰を上げて撮影を始めようか。
夕日に照らされる物置小屋。望遠レンズでありがちな糸巻き型の歪曲収差もなく、閉じたシャッターのボーダーラインと外柱の影が直角に交差する。
網目状のアンテナの隙間から、夕日が見えた。昼間とはイメージの違う、ドラマチックな写真が撮れた。シルエットから、このレンズのシャープさがわかる。シルエットを活かした写真ではことさら、レンズの解像感と逆光耐性が大切だが、このレンズはその期待にしっかりと答えてくれた。
時期外れに咲いた紫陽花と夕日にかかる雲。コントラストとグラデーション、シャープとフラット、相対する表現も自然に調和している。記録することだけではなく、表現も得意なレンズだと感じた。
400mmで見る夕陽。濃い雲に覆われる直前に、慌てて手持ちで撮影した。太陽がこんなにも近く撮れる。黄金色の夕日にかかる灰色の雲が印象的だ。
日暮れ前に一艘の船がスピードを上げて外海に向かう、どこへ行くのだろうか。
蔦で覆われた看板。観光客が帰った夕方の観光地は、独特の哀愁を漂わせている。少しノスタルジックで情緒的な場所と時間、どこを見ても美しい。
この日の営業を終えた展望塔は、ラ・マンチャの風車小屋のような佇まいで、夕日に映える。うっすらと茜色に染まり始めた外壁が、日が暮れることを教えてくれた。
漁師町を照らす灯りは、穏やかな内海の水面に美しく反射する。まるで鏡のように、昼と夜の対照的な風景を絶えず映し出している。スローシャッターで露光した写真は、実際の見たよりも華やかに夜の景色を演出してくれた。
望遠で切り取る夜景も美しい。紺色の夜空と黄金色の水面のコントラストが心地よい。シャッタスピードを30秒で撮影した。レリーズを持っていないので、シャッターをセルフタイマーにして注意しながら、ブレないように撮影をした。
さいごに
今回の旅で、100-400mm F5-6.3 DG DN OS | Contemporaryを丸一日使用して感じたことは、気構えることなく気軽に400mmの超望遠を持ち歩ける楽しさである。超望遠ズームであることを忘れるほど、気軽に手持ちで撮影できるレンズで、画質は申し分ないクオリティーである。SIGMAのArtラインと併用しても、違和感を覚えない妥協のない表現力を兼ね備えていて、新たな常識ともいえるコンテンポラリーラインのレンズである。
実際に使用してみると、画質やレンズの質感だけではなく、撮影を快適に行うための工夫もしっかりと施されていることがわかる。4段分の強力な手ぶれ補正や、カスタマイズ可能なボタン類はとても便利である。それだけではなくデュアルアクションズームを搭載し、 通常のズームリングを回すズーム方法に加えて、直進ズームも可能で、2種類の操作方法を直感的に使い分けることができる。ユーザビリティーも実にしっかりと考慮したレンズである。使いやすい=使いたいレンズ。超望遠の必携レンズとなった。
■フォトグラファー/ ビデオグラファー:坂口正臣
雑誌の撮影を経て広告写真・建築写真・映像撮影など福岡を拠点に幅広く活動中。坂口写真事務所(SPO)を運営。