シグマ fp + 105mm F1.4 DG HSM | Artでのポートレート撮影のススメ
はじめに
シグマ「fp」は約2,460万画素の35mm判フルサイズセンサーを搭載し、Lマウント規格に準拠したミラーレス一眼カメラである。 外形寸法 112.6×69.9×45.3mm、質量 422g (SDカード, バッテリー込)と非常にコンパクトかつ軽量なボディが特徴で、同じくシグマから発売されている軽量コンパクトなLマウント用交換レンズ「Iシリーズ」と組み合わせれば、まさに掌に収まるサイズ感の良さを実感できる。一方、同社のLマウント対応交換レンズには、高画質を追求したArtシリーズのレンズもラインナップされており、撮影者が求めるクオリティに合わせてシステムを自由に構築できる点がfpの魅力でもある。
Artシリーズのレンズは描写性能の高さを第一の目標としており、各種収差を徹底的に抑え、かつ明るい開放絞りを採用することによって、被写体の前後に発生する「ぼけ」の美しさにもこだわった設計となっている。それだけにレンズの大きさや質量はどうしても大きくなるが、高品位な作品を制作したい方にはぜひおすすめしたいレンズだ。
そのなかでも「105mm F1.4 DG HSM | Art」は開放絞り値F1.4の大口径レンズであることと、徹底的な収差補正が行われた設計により、周辺光量の豊富さと解像力の高さから生み出される画像には定評のあるレンズだ。特に「BOKEH-MASTER」との異名を得る理由となったアウトフォーカス部のぼけ味の美しさは、ポートレート撮影においてその実力を大きく発揮する。そこで今回は、fpと105mm F1.4 DG HSM | Art Lマウント用の組み合わせによる女性ポートレート撮影を通じて、システムとしてのfpの実力に迫ってみたいと思う。
シグマfpの主なスペック
・ライカL規格マウント 有効画素数約2460万画素35mmフルサイズ裏面照射型CMOSセンサー採用
・常用ISO感度100-25600/ AUTO(静止画ベース感度ISO100および640)
・拡張ISO感度 コンポジット低ISO6-80相当・高ISO拡張32000-102400
・連写 高速 約18コマ/秒・中速 約5コマ/秒・低速 約3コマ/秒
・電子シャッター1/8000〜30秒・バルブ (最長5分)
・49点コントラストAF
・電子式(EIS)手ぶれ補正
・3.15型 約210万ドットTFTカラー背面液晶モニター 静電容量式タッチパネル
・UHS-II/UHS-I対応 SDXC/SDHC/SDメモリーカードスロット・ポータブルSSD,(USB3.0接続, バスパワー対応)
・カメラ内部記録動画フォーマット CinemaDNG(8bit, 10bit, 12bit)/ MOV:H.264 (ALL-I, GOP)
・カメラ内部記録動画解像度/フレームレート 3,840×2,160(UHD 4K) / 23.98p, 24p, 25p, 29.97p
1,920×1,080(FHD)/ 23.98p, 24p, 25p, 29.97p, 48p, 50p, 59.94p, 100p, 119.88p
・HDMI外部出力動画フォーマット 4:2:2 8 bit 出力
RAW 12 bit 出力:※外部レコーダー記録 Atomos Ninja V, Blackmagic Video Assist 12G 対応
・HDMI外部出力動画解像度/フレームレート 4,096×2,160 (DCI 4K)/ 24p ※RAW出力時のみ
3,840×2,160 (UHD 4K)/ 23.98p, 24p, 25p, 29.97p
1,920×1,080 (FHD)/ 23.98p, 24p, 25p, 29.97p, 48p, 50p, 59.94p, 100p, 119.88p
・インターフェース USB3.1 GEN1 Type C(マスストレージ, ビデオクラス, カメラコントロール対応)/ HDMI端子Type D(Ver.1.4)
・大きさ112.6mm(W)×69.9mm(H)×45.3mm(D)
・質量 422g (SDカード, バッテリー込)
シグマ105mm F1.4 DG HSM | Art Lマウント用の主なスペック
■ライカL規格マウント
■焦点距離 105mm
■レンズ構成 12群17枚(FLDレンズ3枚、SLDレンズ 2枚、非球面レンズ 1枚含む)
■最短撮影距離 1m
■最大撮影倍率 1:8.3
■絞り羽枚数 9枚(円形絞り)
■開放絞り F1.4
■最小絞り F16
■大きさ 最大径115.9mm 全長155.5mm
■質量 1625g
■フィルターサイズ 105mm
■防塵防滴仕様
ポートレート撮影に合わせてfpのカスタマイズを行う
fpはそのコンパクトなサイズからスナップ撮影を得意とするカメラというイメージが強いが、実はさまざまな撮影においても活躍できるオールマイティーなカメラを目指して作られている。そこで、ここではポートレート撮影に合わせたカメラのカスタマイズを考えてみよう。
多くのカメラがそうであるように、fpでも初期設定ではシャッターボタン半押しと同時にAFがスタートする設定になっている。通常はこの設定のままでも良いのだが、ポートレート撮影の際には人物の表情や仕草のシャッターチャンスを優先するべく、シャッターボタンとAFスタートを切り分けて行いたい場合もある。その場合はまずメニュー内[SHOOT -半押しAF-ON-切]にしてシャッターボタンからAFスタート機能を省いた後に、同じく[SHOOT -AELボタンの機能-AF-ON]に設定すると、カメラをグリップした際に右手親指の位置となるAFLボタンにAFスタート機能を割り当てることができる。
ここ最近のトレンドともなっている顔認識AF/瞳認識AFはfpにも搭載されている。メニュー内[SHOOT -フォーカス(STILL)-タブ1-顔/瞳優先AF]で[顔のみ]もしくは[顔/瞳オート]を選択すると、画角内で人物の顔が認識されれば優先的にフォーカスを合わせてくれる。ただし顔/瞳機能を使用する場合は、通常のフォーカスポイントを使用してのAFも併用するとよいだろう。
fpではアクセサリーとして用意されているホットシューユニットHU-11(fpに付属)を装着することで、シャッターにシンクロしたフラッシュ撮影が可能だ。ただしTTL調光などの機能はELECTRONIC FLASH EF-630などシグマ純正のフラッシュでのみ使える機能となる。ホットシュー自体は汎用のフラッシュと互換性があるものなので、メーカー保証外とはなるが他社製のフラッシュやコマンダーを使用してマニュアル発光させることができる製品もある。今回は一部の作品でニッシンデジタルのワイヤレスコマンダーAir10sとDi700Aを使用している。ただし全速電子シャッターとなるfpでは、フラッシュ同調速度が12bitRAW記録時で1/30、14bitRAW記録時では1/15秒となる。
記録bit数は記録画質の詳細設定から選択が可能。14bit記録の方が記録される画像の階調が豊かになるが、人物撮影では被写体ブレを避けるためにも12bit記録に設定してフラッシュ同調速度を1/30まで上げて撮影するようにしたい。それでも手ぶれや被写体ブレなどには十分な注意が必要だ。
fpのボディはコンパクトである点が大きな特徴であるが故に、105mm F1.4 DG HSM | Artのように大きなレンズとの組み合わせではアンバランスになってしまう。そこでお勧めしたいアクセサリーが「ハンドグリップ(大) : LARGE HAND GRIP HG-21」と「LCDビューファインダー : LCD VIEWFINDER LVF-11」の組み合わせだ。HG-21をfpと組み合わせると大型のしっかりとしたグリップにより105mm F1.4 DG HSM | Artのような大きなレンズでも安定したホールドが可能だ。またLVF-11をfpに装着すると、背面モニターをLVF-11の内蔵ルーペで拡大したうえで隅々まで確認できる。特に明るい場所で発生しやすいモニター表面への周囲の映り込みを無くすことができるので、画面が非常に見やすくなり常に安定した撮影が行える。同時にファインダーを覗くスタイルでのホールディングは、カメラの安定性の向上にも繋がる。見た目はかなり大げさになってしまうが、一度このスタイルに慣れてしまうと手放せなくなってしまうほどだ。なお先日発表された「電子ビューファインダー:ELECTRONIC VIEWFINDER EVF-11」は将来的なファームアップによりfpにおいても使用が可能になる予定だ。
HG-21とVF-11は付属のネジで連結して、fp底部の三脚ネジ穴を利用して取り付ける。ホットシューユニットHU-11はfpの左手側面のストラップ用ネジを利用して端子接点に接続することで、ホットシューに取り付けたフラッシュでのシンクロ撮影が可能となる。なおHU-11を装着した状態でもUSB端子、HDMI端子、MIC端子は使用可能。HDMIケーブルが撮影中に抜けることを予防するロック機能も備わっている。
マニュアルモードでのフラッシュ撮影の際に、フラッシュ光の露出設定絞りがその場の明るさより暗い設定値になっていると、モニターに露出反映させる設定のままでは被写体が暗く表示されてしまうことがある。その場合はメニュー内[SHOOT -Mモード時露出反映(STILL)]で[切]を選ぶことで被写体を明るく表示させることができる。これなら構図の確認も容易に行える。
ポートレート撮影に限らず縦位置撮影の画像を再生した場合、初期設定では自動的に縦画像としてモニターに表示される。そこでメニュー内[PLAY -回転表示]で[切]を選ぶことで自動回転されなくなる。カメラを90度回転させる必要はあるが、縦位置画像でもモニター全面に画像が大きく表示されるので確認しやすくなる。
シグマ fp + 105mm F1.4 DG HSM | Art 実写作例
天窓から室内に入った外光の拡散光とワイヤレスストロボのミックス光で撮影。限られた明るさの中で光量を最大限に取り入れるべくレンズの絞りを開放値付近に合わせた。その上でシャッタースピードは被写体ブレを避けるため、フラッシュのシンクロ速度上限となる1/30秒に設定。この条件のもとISO感度で全体の明るさを調整した。加えてシャドウ部の明るさを補うべく出力を調整したワイヤレスストロボを、モデル左側の少し離れた位置から天井に向けて発光し、反射拡散した光を補助光とすることでライトバランスを整えている。開放絞り付近での撮影のため被写界深度が極端に浅くなることを考慮して、モデルの目に確実にピントを合わせるように気をつけながら、前ぼけ後ろぼけを効果的に活かせるカメラ位置とアングルを探っている。
廊下の壁面の窓から入る外光のみで撮影。光と影の流れ方を見ながらモデルに立つ位置を指示。顔/瞳認識AFを使用して目元にピントを合わせて撮影した。fpが人物の顔/瞳を認識するとAF枠がオレンジ色に変化するので、それを確認したうえでAELボタンを押しAFをスタートさせて、AF枠が緑色に変化した瞬間にシャッターボタンを押す。これを繰り返すことで浅い被写界深度であってもピント位置がずれてしまう頻度を下げることができた。
春の日差しが差し込むテラスにて撮影。モデルと少し距離を取った位置から構図を決める。カメラとモデル、背景の距離の関係から最適なぼけ具合になると思われる絞り値F4.0を選択。人物全体を均質な描写としながらも、背景となる壁と窓枠のディティールを自然なぼけ具合とすることにより、状況説明を行いつつも遠近感のある画作りとした。明るいレンズだからといって無闇に開放絞りで背景をぼかして撮るだけでは、写真に本質を引き出すことはできない。
古い家屋が残る街並みを散策しながらの撮影。105mm F1.4 DG HSM | Artの柔らかなぼけ味にカラーモードのティール&オレンジを重ねることで、木造りの和風家屋を背景に温かみと懐かしさを感じる風情に仕上げた。このティール&オレンジはさまざまなシチュエーションで独特な効果を生み出してくれる面白いカラーモードだ。
ローカル線のホームにて列車の到着を待つ間の一コマ。夕方になり傾いた日差しに輝くレールとホームを歩く女性の後ろ姿にピントを合わせた。インフォーカスの解像感の高さと、手前から奥にいくにつれ遷移するアウトフォーカスのなだらかなグラデーションがとても美しい。
夕方の里山を包む柔らかな春の光の下、桜と菜の花を背景にして撮影。人物と桜の枝はクリアに描きだしつつも、背景の桜と菜の花は色とシルエットが溶け込みすぎないようにするため、絞り値をF2.0に設定してぼけ方をコントロールした。高い解像力と柔らかく美しいぼけ味が融合した、fpと105mm F1.4 DG HSM | Artの組み合わせならではの一枚となった。
シグマfpシリーズが核となり拡がるLマウントシステムの未来
シグマfpはそのコンパクトかつ軽量なボディにより、いわば「ちょうどよい」サイズという意味のスケーラブルがコンセプトのミラーレス一眼カメラである。それゆえ本体にはグリップらしいグリップもなく、一眼カメラの特徴といえる内臓ファインダーさえも省かれ、これまでのカメラの通念を投げ捨てた徹底したミニマムデザインがなされている。一方、105mm F1.4 DG HSM | Artは画質の高さを絶対条件とした設計により、105mmフィルター径という巨大な前玉レンズと贅沢なレンズ構成を堅牢な鏡筒でまとめ上げることで中望遠レンズとしては異例の大きさと質量となっている。これは画質絶対主義を掲げてきた現在のシグマの技術力を見せつけるかのごとくの存在といえるだろう。
そのコンセプトの違いから一見相反するようにも見えるfpと105mm F1.4 DG HSM | Artだが、これらの組み合わせから生み出される「画」は紛れもなく「写真」である。フォーカスが合わされた箇所は限りなくクリアに解像され、そこからアウトフォーカスとなっていく前後のぼけは、まさに水滴を落とした水彩画の如く柔らかな滲みとなって広がっていく。これはfpに搭載された、35mm判フルサイズでありながら約2460万画素に抑えられたイメージセンサーの余裕のある階調と、105mm F1.4 DG HSM | Artが持つずば抜けて高い光学性能の融合によって生み出されたものだ。
これらを踏まえた上であらためて見えてくるのが、シグマがfpを核として構築するシステムカメラとしての方向性と、Lマウント規格を共通規格として採用したLマウントアライアンスの目指す未来の形だ。現在、Lマウント規格の提唱企業であるライカカメラと、パナソニック、シグマの三社によって組織されたLマウントアライアンスだが、共通規格を採用しつつも三者それぞれが得意とする方向性の製品を開発販売することでお互いが補完しあう存在ともなっており、その輪の径はこれからもより大きくなることが期待できる。
つい先日、シグマからfpをベースにした拡張モデルともいえる「シグマfp L」の開発発表がなされたことも大変興味深い。搭載するイメージセンサーを約6100万画素の高画素のものへと変更することで、これまでのfpの約2460万画素から一気に高解像度な画像を得ることができるカメラとなる。またコントラストAFに加え像面位相差AFにも対応するとのことで、より動きものに対するフォーカス追尾や顔/瞳認識によるAFの精度向上も期待できる。それでいてカメラとしてのサイズは変えず質量もわずか5gの増加に抑えていることも、静止画/動画の両面においてのシステムカメラとしての核となる位置付けを揺るぎないものとしようとするシグマの思惑が伝わってくる。
このようにfpをシグマの目指すシステムカメラの核として捉えることで、ミニマムなボディサイズの存在意義をより明確にすることができるだろう。メインフレームとなるカメラでさえ望む用途に合わせ自在に換装し、レンズ、アクセサリーとの組み合わせであらゆる被写体を柔軟にかつ最適なカメラとして臨む。まるで子供の頃に夢中になったアニメの合体ロボのようだ。そう考えると、この一見大げさとも思えるfpと105mm F1.4 DG HSM | Artの組み合わせさえも、得られる「写真」の魅力の前では十分に納得できる選択のひとつと思えてくるはずだ。きっと。
■モデル:夏弥 < https://ameblo.jp/beautiful-summer12/ >
■撮影協力:SLOWTIGER<https://slowtiger.base.shop/>
■写真家:礒村浩一
女性ポートレートから風景、建築、舞台、製品広告など幅広く撮影。全国で作品展を開催するとともに撮影に関するセミナーの講師を担当する。デジタルカメラの解説や撮影テクニックに関する執筆も多数。写真編集を快適に行うためのパソコンのプロデュースも担当。