これ以上の星景用魚眼レンズは今後生まれないだろう。シグマ 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artで撮影したアメリカ・ユタ州の星景
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はじめに
SIGMAから信じられないスペックの魚眼レンズが発売されました。「SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Art」です。こんなスペックのレンズは星を撮るひとしか使わないんじゃないか?というくらいに尖ったレンズです。メーカー側からも星景写真をターゲットにしているという強いメッセージが発せられています。
私は魚眼星景を得意としていて、日頃から使用することが多いのですが、近年は国内メーカーからは魚眼レンズは発売されず、もっぱら海外製のものを使用することが多かったのです。そんな中で、星景写真に最適とうたわれる解像力とF1.4という世界初のスペックを持つレンズが出たのだから、飛び付かずにはいられませんでした。このレンズとSIGMA fp Lの組み合わせでアメリカ遠征してきましたので、今回はその作例と使用した感想・使用例についてご紹介します。
15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artについて
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SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Art はソニーEマウント、ライカLマウントが発売されています。お値段も約30万円と非常に高価ですが、メーカーHPにあるレンズの断面図を見て納得。所狭しとレンズが敷き詰められているではありませんか。それだけこのスペックを実現するのは大変なことなのだろうと思います。
これまでArtシリーズで発売された24mm,20mm,14mmと同じように、夜露対策のレンズヒーターが装着しやすい「レンズヒーターリテーナー」、ピントのずれを防止する「MF Lock」、「リアフィルターホルダー」も備わっています。
非常に大きなレンズなので、前後バランスがとりやすいように三脚台座が付属されています。F1.4のレンズ(正確にはF1.4でも星景写真で使えるくらいに周辺像の良いレンズ)のメリットは、f2.8での撮影と比較して、露出を2段上げられることです。f2.8,ISO6400で撮影していたなら、f1.4,ISO1600で適正露出が得られます。または、f2.8,20秒で撮影していたなら、f1.4,5秒で適正露出になるということです。感度を下げて高感度ノイズの低減やダイナミックレンジの確保をするもよし、露出時間を短くして地球の日周運動をキャンセルし、びちびちの点で撮るも良しという訳です。私は後者を選んで、一枚でも多く撮影できることにメリットを感じています。
しかし、魚眼レンズと聞くと「めっちゃ歪むやつでしょ?」と感じるひとは多いでしょう。でもこの記事を最後まで読むと、きっとそんなあなたも「魚眼ほしい」となるに違いありません。
今回は星景に絞ってお話ししますが、実はゴースト耐性に優れており、レンズフードの短い魚眼レンズにしてはものすごくゴーストの発生が少ないです。海外製のレンズと比べると、これが最も差があるかもしれません。
超広角レンズと魚眼レンズの違い
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右が他社14mmで撮影した画像。左がSIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artで撮影した画像です。魚眼レンズは上に向けるとこのように地面が湾曲して写り、下を向けると逆に湾曲します。地上風景に対してはこのように歪みが強いのが特徴ですが、空を見てみると14mmは左上の天の川が周辺に引っ張られているような描写になっているのに対し、魚眼レンズにはそれがありません。このように星座の形が崩れないという特徴が、魚眼レンズにはあります。
また、焦点距離的には14mmのほうがワイドなはずですが、15mm魚眼のほうが広く撮れていることがわかります。これが対角魚眼の特徴で、歪んだ分内側に詰めたような感じになる、と言えば良いでしょうか。ですので、魚眼レンズの場合は「何度写るのか」という部分を気にすると良いと思います。ちなみにSIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artの場合は180度の画角なので、世界の半分を写すことができることになります。
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また、魚眼レンズのほうが被写体深度が深いため、よりパンフォーカスで撮影できるという特徴もあります。しかし、魚眼レンズはどうしても歪んでしまうので、上の画像のように14mmだと天の川が一直線になるのですが、15mm魚眼では天の川がアーチ状に写ってしまいます。このあたりはどのような表現をしたいかによって、メリットにもデメリットにもなるでしょう。
魚眼レンズ活用術【1】「歪ませる」
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■撮影環境:ISO6400, f1.4, 6sec, Photoshop CC
エレファントフィートにて。
魚眼レンズとの相性が良い風景は、大きなオブジェと、広大な風景です。大きな物体に近づいても、手前から星空までピントが合った状態で撮影できます。このように前景に思いっきり近づいて撮影する、というのが魚眼レンズの基本撮影構図になるでしょう。
魚眼レンズ活用術【2】「歪ませない」
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■撮影環境: ISO6400, f1.4, 8sec, Photoshop CC
地平線・水平線を中央付近に持ってくると歪まない状態になるため、180度が写る超広角レンズとして使用することができます。私が最も好む魚眼レンズの撮影方法です。被写界深度が深いので、手前の椅子に近づいてもさほどピントがずれている様子もありません。
魚眼レンズ活用術【3】「大きく撮ってトリミング」
▼トリミング前
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▼トリミング後
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■撮影環境:ISO6400, f1.4, 13sec, Stack 11 Image, Sequator, Photoshop CC
グランドキャニオンにて。
どうがんばっても広く撮れてしまうので、余計なものが入りやすいです。その場合はトリミングしてみると良いでしょう。不要なものを排除して好みの構図にすることができます。私はこれができるように高画素機であるSIGMA fp Lを使用しています。
描写が選べる魚眼レンズは楽しい
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■撮影環境:ISO6400, f1.4, 10sec, Stack 13 Images ,Sequator, Photoshop CC
グランドキャニオンにて。
魚眼レンズで星景写真を撮っていると、表現力の幅が広がりとても楽しいものです。上記のような特徴を掴んでおけば、間違いなく現在の撮影スタイルに変化が訪れるはずです。私のチャンネルでもSIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artと、魚眼レンズの使い方について動画をアップしています。ぜひこちらもチェックしてみてください。
まとめ
どうですか。魚眼レンズ、欲しくなりましたか?笑
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■撮影環境:ISO6400, f1.4, 6sec, Stack 11 Images, Sequator, Photoshop CC
エレファントフィートにて。
■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」「星空写真撮影ハンドブック」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員