シグマ 28-105mm F2.8 DG DN Art|新時代の到来を感じさせる大口径ズームレンズ
SIGMA 28-105mm F2.8 DG DN | Artの概要
SIGMAのArtシリーズは、光学性能とビルドクオリティの高さに定評があり、フラッグシップと呼ぶに相応しい最高級ラインである。Artシリーズにはプライムレンズとズームレンズがあり、今回レビューするのは新たにラインナップに加わったズームレンズの最新作となる28-105mm F2.8 DG DN | Artである。マウントはソニーEマウントとLマウントの2種類が販売されている。
2024年5月30日に発売された標準ズームの24-70mm F2.8 DG DN II | Artと比べて、広角側が4ミリ狭い28mmスタートとなるものの、望遠端は105mmとズーム域が広く汎用性が高いレンズである。絞りは開放F2.8通しの大口径、F4ではなくF2.8通しである。繰り返すが広角28mmから中望遠105mmと広い範囲をカバーする開放F2.8通しのズームレンズである。
レンズ自体は数あるSIGMAレンズにおいて、高画質と操作性を追求したArtシリーズにラインナップされるので、いわゆるフラッグシップということである。28mmから105mmという画角は、風景やポートレートなど幅広いシーンで活躍することを想定したレンズであり、本レビューではビルドクオリティ・性能・使用感を実際の撮影サンプルを交えて紹介していこうと思う。
開放F2.8通しで105mmまで撮影できるズームレンズ
このレンズの特徴は大きく分けて2つ、28-105mmというズーム域であることと、絞りがF2.8通しであるということ。これだけで説明不要なほど魅力的なスペックである。28-45mm F1.8 DG DN | Artに続き、ズームレンズ新時代の到来を感じさせるスペックである。
105mmまでカバーするズームレンズといえば、SIGMAはもちろん各社から発売されている24-105mmF4というスペックが真っ先に頭に浮かぶ。現在進行形で主力レンズとして使っているユーザーも多い人気のレンズである。その便利なズームレンズが28mmスタートではあるが、F2.8通しになったことは驚きである。
最もポピュラーな標準ズームレンズ24-70mmF2.8の場合、テレ端が70mmであり、ポートレートや商品撮影ではわずかに足りないので、単焦点レンズや望遠ズームレンズを追加で持っていく必要があった。高額な望遠ズームを所有していない場合や、機材を減らしたい場合に、少し妥協して70mmで撮影をすることも実際のところよくある話である。これらの事情を一本のレンズで解決できるのはユーザーにとって嬉しい。
今回もレンズの描写力を感じる作例動画を準備したので、ぜひ見ていただきたい。
レンズの詳細を見る:デザインとビルドクオリティ
サイズ感
実際の撮影において、まず気になるのは筐体の大きさと重さである。下記にサイズを記載する。
最大径87.8mm・長さ157.9mm・質量995g(Lマウント)
実際に手にした感じは、同社の28-45mm F1.8 DG DN | Artに近い大きさと重さである。とはいえこのレンズは繰り出し式ズームを採用しているので、収納時と広角側使用時は比較的コンパクトである。F2.8通しのレンズスペックを考慮すると、とても小さい。
ビルドクオリティについては、SIGMAレンズの工作精度の高さを存分に感じる。高強度なエンジニアプラスティックと金属を組み合わせているにも関わらず、ごく僅かなクリアランスで緻密。異素材の熱収縮を加味しながら、ここまで密に設計できるのは職人の高い技術力があってこそだと感じる。それもそのはず、SIGMAの製品は会津工場にて生産されている、数少ない生粋のMade in Japanレンズである。それだけでも所有感を感じさせる。
レンズ構成は13群18枚とリッチである。低分散ガラス2枚・特殊低分散ガラス1枚・非球面レンズ5枚を使用して効果的に色収差を抑えつつ、解像感のある優れた画質を実現している。広角から中望遠までをカバーする高倍率寄りのレンズで、SIGMAのArtを冠するクオリティーを実現しているのは凄い。
オートフォーカス
本レンズはHLA(High-response Linear Actuator)、いわゆるリニアモーターを採用しているので、精度が高く高速なAFが可能。高速化し続けるカメラ側のAFに対応する性能を持っている。
操作系と表面仕上げ
SIGMA新型ズームレンズ(24-70mm F2.8 DG DN IIや28-45mm F1.8 DG DN)と同様に、絞りリングが採用されている。絞りリングはクリックのオン・オフ切り替えが可能なので、動画撮影にも適している。AFLボタンは角度違いで2箇所、縦横どちらの撮影でも自然に操作ができる場所に配置されている。
その他これまでのSIGMA Artシリーズと同様、ズームロック・絞りリングロックが操作できる。筐体をよくみると表面仕上げがこれまでのArtシリーズと違う。Sportsシリーズと同様の梨地仕上げとなっていて、よりタフな印象を受ける。
主な仕様
レンズ構成:13群18枚(FLD2枚、SLD1枚、非球面レンズ5枚)
絞り羽枚:12枚(円形絞り)
最小絞り:F22
最短撮影距離:40cm
最大撮影倍率:1:3.1(焦点距離105mm時)
フィルターサイズ:82mm
使用感と画質
使用感
早速フィールドに出て撮影をした。このレンズの質量は995g(Lマウント)、スペックを考慮すればとても軽く仕上がっている。しかしながら約1キロ弱のレンズなので、ハンドヘルドは少々きついのではないか?という先入観があったが、実際に使ってみると意外にも軽く感じた。重量バランスが良いからだろうか、過剰にフロントヘビーになることもなく、ホールドしやすいのでハンドヘルド撮影も個人的には許容範囲である。特に写真撮影時のホールディングもストレスはなく、むしろ余裕があった。
フォーカスリングは上品さを感じるトルク感があり、思った位置にピタッと決まる。この辺りの調整は、さすがというべきか絶妙である。ズームリングは少々重めだが滑らかに動く。最長にしてNDフィルターを取り付けたフロントヘビーな状態でも、筆者の感覚では重すぎることはなかった。
気になる画質
このレンズで撮影した素材を早速確認してみたが、ファーストルックで感じたのは「解像感」である。とてもシャープでキレのある描写に感じた。良好なコントラストとリッチな発色で、全体的にクリアな印象がある。
自動車を撮影してみた。MAZDA MX-30、先進的なデザインの美しい車である。ボディーの艶やかさと、複雑なプレスラインのシャープさを見事に描写している。
業務で使うことが多くなるレンズだと思うので、普段通りの撮影と同様の設定で、ディテールをしっかりと描写するために絞り込んで撮影した。メッキの光沢感や塗膜の質感まで美しく描写している。3枚ともテレ端105mmで撮影したが、画質は素晴らしいの一言に尽きる。このクオリティーなら安心して大判印刷の撮影にも使えるだろう。
自動車のインテリアにはさまざまな素材が使われている。レザー・ファブリック・金属・メッキやプラスティックなど異なる質感が調和するラグジュアリーな空間。ハンドルやシフトレバーやコンソールボックスなど複雑な形状に多くの素材が混在し、表現が難しい被写体だが、立体的で高級な質感を見事に描写している。
佐賀県の山間部にある石造りの橋を撮影するために1時間ほど車を走らせた。目的地に着くと、勢いよく流れる滝から轟音が響き渡る。まずはオーソドックスにスローシャッターで撮る。(写真上)
さらに、落ちた水が岩に当たり弾ける様を高速シャッターで撮影する。(写真下)
対照的な露光時間の撮影でも豊かな表現力で応えてくれるので、安心感のあるレンズである。そして、105mmという画角が70mmまでの標準ズームで「もうひと詰め足りない」と感じていたストレスを見事に解消してくれる。レンズ交換なしで、ここまで自由なフレーミングができるのは本当に使い勝手がよい。しかも、絞りはF2.8通しである。105mm開放F2.8の描写は程よい圧縮効果と相まって、とても立体的に感じる。
陽が頂点に達する目前の11時頃、木の隙間から差し込んでくる日差しが時折眩しい。ここでも解像感を引き出すために絞り込んで撮影してみたが、ファーストルックで感じた印象通りの緻密な描写である。コントラストが下がる逆光や日陰など、敢えて表現が難しいロケーションを選んで撮影したが、情報豊かに描写している。この表現力は実に頼もしい。
橋の欄干から放たれる水しぶきを、余すことなく粒立てて捉える。木漏れ日を受けて輝く水滴と、対照的に木陰のシャドーに消え入るような水滴さえもしっかりと描き分けている。
橋の下へと降りた。アーチ橋をフレームにして滝を撮影する。抜けの空が飛ばないよう露出アンダーで撮影した。後にRAW現像処理で、橋の裏側や岩などのシャドー部分を持ち上げたが、ディテールを失うことなく捉えている。
レンズコーティング
気になっていた逆光耐性は素晴らしいの一言。それもそのはずで、このレンズコーティングは、一部のレンズを除くほとんどのSIGMAレンズで採用されているマルチレイヤーコートに加えて、主にArtシリーズの単焦点レンズに採用されている「ナノポーラスコーティング」が施されている。加工難易度が高くコストがかかる贅沢なコーティングが、このレンズには惜しみなく採用されている。同じナノポーラスコーティングを採用した広角ズームレンズに同社の14-24mm F2.8 DG DN | Artがあるが、このレンズと組み合わせて使うのも良さそうだ。
湖の辺りで自生する極めて貴重な樹木、落羽松(ラクウショウ)を撮影することにした。深夜に出発して、夜が明ける前に目的地に到着。暗闇の中でLEDライト頼りにスタンバイし、三脚を構えた状態で朝日を待つことにした。長さのあるレンズだが、三脚に固定した状態でのブレもさほど気にならない。三脚座がないのも納得した。
スローシャッターで撮影したが、葉や幹のディテールと滑らかな水面の分離は見事である。黒つぶれしそうな暗部もしっかり描写されている。池の水面に表現されるリフレクションが幻想的である。美しい光景を目の当たりにして眠気も忘れ、夢中で撮影をした。
フォーカスブリージング
映像撮影で重要視されるフォーカスブリージング(フォーカス移動による画角変化)もしっかりと制御されている。フォーカス送りなど、演出としてのピント操作において、シネレンズのようにフォーカスブリージングの少ないこのレンズは、見る人の視線を自然に集中させる上質なショットを撮影することができる。
そのことからも、このレンズが動画撮影をしっかり考慮して作られていることが伝わる。最高峰のCineLensを製造するSIGMAの技術やノウハウが、しっかりとフィードバックされていると感じる。この写真は50mm開放F2.8で撮影しているが、ボケ味がとても滑らかで、美しい印象を受けた。
テレ端105mmの描写力
画質が気になるテレ端105mmも同じく解像感のある描写である。開放でも絞り込んでも合焦した部分はシャープな画質。コントラストの低い明け方(写真上)と快晴の日中(写真下)、対照的な光の状態でも安定した描写力を感じる。
最短撮影距離はズーム全域40cmまで寄れる。105mmで撮影すると、最大撮影倍率1:3.1のテレマクロとしても使えるのは素晴らしい。解像感も申し分ない緻密な描写で、ボケ味も素直である。物撮りにも充分な実力であり、改めてこのレンズの守備範囲の広さに関心する。
Lマウントアライアンス3社のボディーと合わせてみる
ソニーEマウントとLマウントで販売されるこのレンズ、筆者は現在Lマウントユーザーである。Lマウントはアライアンスに参加したメーカーが共通のマウントを使用しているので、レンズとボディーの様々な組み合わせが可能だ。
SIGMA・Panasonic・Leica・DJIに加え、新たにBlackmagic Designが加わったことで、さらに選択肢が広がった。筆者の手持ち機材から3台のカメラにセットしてみた。購入前の参考になるように、サイズ感やバランスを見てもらえたらと思う。使用したボディーは、SIGMA fp・LUMIX S5IIX・Blackmagic design BMCC6Kの3台。全てケージに入れた状態でセットしてみた。
▼SIGMA fp
▼LUMIX S5IIX
▼BMCC6K
SIGMA fpはボディーが極端にコンパクトなので、当然フロントヘビーになるが、このカメラはそもそもそういうもの。オプションのグリップやサイドハンドルなどを組み合わせると、しっかりホールドできる。
LUMIX S5IIXとの組み合わせは、バランスがとても良いと感じる。S5IIXはフルサイズミラーレスでは一般的な大きさと形状なので、ソニーαに組み合わせた感じも同じような印象になると思われる。
BMCC6Kは3台の中では最も大柄なカメラであるが、レンズとのバランスがよい。マニュアルフォーカスが基本となるカメラなので、このバランスは良い印象である。
3台のカメラに付けてみての印象としては「大きすぎない適度なサイズ感」といった感想である。映像の撮影時はモニターなど様々なオプションを追加して、用途に合わせたリグを組む読者も多いと思うので、その際の参考になれば幸いである。
まとめ
動画と写真の両方で存分に使ってみた印象をまとめたいと思う。
このレンズは今後「SIGMAの標準ズームレンズと言えば28-105mmF2.8」と、ある意味ブランドを象徴するような製品になるだろうと思う。広角側こそ28mmと一般的な標準ズームより少しだけ画角が狭いが、その分コンパクトに仕上げられている。仮に24mmスタートにしたとすれば、1キロを超える質量になり、三脚座が必要な大柄で重いレンズになっていたと仮定すると、現状が最適解だと感じる。
今回は様々な条件でテスト撮影をしたが、開放から全域で解像感のある描写であった。シンプルに高画質なレンズである。開放F2.8通しのレンズで広角から中望遠までをカバーしつつ、高速なAFを実現し、操作系はスイッチの質感や音に至るまで絶妙なチューニングが施されている。最短撮影距離は全域で40cm、寄れるレンズである。
動画撮影においても、フォーカスブリージングが効果的に抑えられていて、フォーカス送りも違和感なく撮影できる。HLAの採用により、フォーカスの駆動音も気にならないので、音声を収録しながらの撮影でも問題ない。サイズと質量を抑えたことにより、ジンバルでも無理なく使える。「オールマイティー」という言葉が実によく似合う製品である。
価格は実売24万円台(2024年11月現在)で購入できる。決して安いわけではないが、似たスペックを有するレンズの価格を考慮すると、コストパフォーマンスに優れている。あれこれ迷うなら、「このレンズを1本買えば間違いない」と、自信をもっておすすめできる素晴らしいレンズであった。
■モデル:SAKI
福岡県を中心に活動中。
■フォトグラファー/ビデオグラファー:坂口正臣
坂口写真事務所(SPO)を運営。広告写真やTV-CMから、プロモーション映像やドキュメンタリーなど幅広いジャンルで活動し、撮影だけではなく演出もこなす。YouTubeチャンネルSPOを運営、レンズやボディーの作例や、その他機材レビュー動画も公開している。