シグマ 35mm F1.2 DG DN Art レビュー|最高性能を追求した究極の35mmレンズ
高画素に対応する孤高のF1.2
はじめての広角レンズとして使いやすいとされる「35mm」。標準レンズの50mmから「やや広い」範囲を自然なパースペクティブで撮影できるため、多くのフォトグラファーが愛用する画角となっています。誇張の少ないワイド感はポートレート、スナップ、風景撮影でよく使用されます。
そんな人気の高い「35mm」ですがレンズメーカーの雄、シグマは3本ものフルサイズミラーレスカメラ用35mmをラインナップしています。金属製鏡筒でビルドクオリティの高さが人気を呼んでいるIシリーズの「35mm F2 DG DN | Contemporary」、写りに妥協を許さない画質至上主義のArtラインでは「35mm F1.4 DG DN | Art」と「35mm F1.2 DG DN | Art」という商品構成になっています。
今回はその中でもシグマで最も明るいレンズ「SIGMA 35mm F1.2 DG DN | Art」をご紹介しましょう。
SIGMA 35mm F1.2 DG DN | Artの特徴
何よりも「F1.2」というシグマで一番の明るさを誇るのがウリでしょう。わずかな光しかない環境で撮影したい、35mmという画角で極限の薄いピントを味わいたい、などこのレンズでしか撮れないシーンが想像できます。F1.2という明るさを実現するためにレンズ自体はやや大きめです。そこに「SIGMA fp L」の6100画素という驚異的な解像力を持つカメラでも余裕で対応できる最新の光学系が詰め込まれているのです。
シグマの公式サイトではこのように記されています。
12群17枚というレンズ構成に、SLDガラス3枚、両面非球面レンズを含む非球面レンズ3枚を最適に配置。ショートフランジバックの特性を生かした光学設計に加え、歪曲収差や周辺減光については、カメラ内補正機能を効果的に利用しています。5,000万画素オーバーに耐えうる解像感を実現しつつ、サジタルコマフレアのように後処理での補正が困難な諸収差に対してはSIGMAが培った光学設計技術を全投入、徹底的に補正することで、圧倒的な解像度を実現しています
上記のようにシグマのArtライン中、最高の明るさを誇るレンズならではのスペックの高さになっています。
スゴいのは光学系だけではありません。クリック感をON/OFFできる操作しやすい絞りリングや、カメラボディからさまざまなアクションを割り当てられる「AFLボタン」、そして大型の超音波モーターによる正確で高速なオートフォーカス性能、絶妙なトルク設定のマニュアルフォーカス時バイワイヤ駆動フォーカスリングなど、写りと操作性を高次元で両立させています。高い光学性能をあらゆる環境下で発揮できるように、防塵防滴構造になっているのも見逃せませんね。実に頼もしいレンズだと言えるでしょう。
ブラブラ実写スナップ!
さて今回はLマウント機の「SIGMA fp」とパナソニック「LUMIX S5」で、シグマで一番明るい35mmの世界をブラブラとスナップ撮影して味わってみました。
▼F1.2
▼F2.8
▼F5.6
▼F8
まずは絞り値の変化によるボケ具合を見てみましょう。竹林を絞り開放F1.2、2.8、5.6、8と変えて「LUMIX S5」のシャッターを切りました。背景のボケ量と被写界深度、竹の描写が違うのがお分かりいただけるでしょう。やはりF1.2の大きく美しいボケは魅力的です。
写真家の山口規子さんをギャラリーで撮影しました。ShaShaでも紹介されていた『I was there.』展にお邪魔して、絞り開放F1.2で世界中を股にかける彼女の素顔に迫ったカットです。彼女に正対してF1.2でもピントがくるようにしました。様々な被写体を見つめ続けてきた写真家の美しい瞳を捉えることができました!
水路沿いをブラブラと散策中、ちょっとレトロチックな雑貨屋を発見。どうやらお休みのようでしたが、F5.6でその佇まいを撮影しました。絞ることによってググッと解像感とコントラストが向上し、実にシャープな絵となりました。画面中央から隅までカリッと仕上がっています。
公園に展示されている昔懐かしい客車内で、今となっては珍しい扇風機を「SIGMA fp」で撮影しました。剥げかかった「JNR」ロゴはシャープながら、その後の天井部分が優しく美しくボケています。絞り開放F1.2の描写は実にいい感じです。
その客車の窓を狙います。窓枠にフォーカスを合わせたので背景がキレイにボケてくれました。ハイライト部とシャドウ部の描写も好感が持てます。このように広角レンズでも主題を浮き上がらせて撮影できるのが明るい「SIGMA 35mm F1.2 DG DN | Art」の魅力の一つでしょう。
そそり立つメタセコイアの木。その幹にフォーカスして絞り値を開放F1.2にしました。浅いピントながら中心部の解像力には驚かされます。また周辺光量落ちがとてもイイ感じです。日の当たり方もあってちょうど画面中心部に目がいくようなカットになりました。チョイ絞りで撮ると周辺光量落ちはグッと減って、画面隅々まで均一な仕上がりになりますよ。
ほころびはじめた梅の花に迫りました。「SIGMA 35mm F1.2 DG DN | Art」の最短撮影距離は30cmです。そこで絞りを開放にするとご覧のように可憐な花だけが浮かび上がりました。驚異的な解像力で梅の花の細かい部分まで判別できますね。また大きなボケ量がとてもいい雰囲気となりました。
古民家ではちょうど鏡開きをしていました。割られた餅に絞り開放F1.2で寄ってみます。やはりピント面のカリカリ感が何とも言えませんね。それでいて手前も奥も大きく美しくボケてくれました。パースが自然なので、スッと違和感なく目に入ってくる絵になっています。35mmという画角のいいところでしょう。
やや俯瞰から同じ餅をF5.6に絞って撮ってみました。解像感が高まりひび割れた餅の様子が手に取るようにわかります。「SIGMA 35mm F1.2 DG DN | Art」は絞りを開けても絞っても存分に描写を楽しめるレンズだと言えますね。
最後に古民家を縦位置で。F4まで絞るとキリリと像が締まります。このように建物を見上げて撮っても35mmなら自然なプロポーションで表現できます。低光量下から一般的なシーンまで、「SIGMA 35mm F1.2 DG DN | Art」はその光学性能の高さを存分にフォトグラファーに提供してくれる素晴らしいレンズでした。
SIGMA 35mm F1.2 DG DN | Artの主要諸元
レンズ構成枚数:12群17枚
画角:Lマウント 63.4°
ソニーEマウント 63.4°
絞り羽根枚数:11枚 (円形絞り)
最小絞り:F16
最短撮影距離:30cm
最大撮影倍率:1:5.1
フィルターサイズ:φ82mm
最大径 × 長さ:Lマウント φ87.8mm × 136.2mm
ソニーEマウント φ87.8mm × 138.2mm
※ 長さはレンズ先端からマウント面までの距離
質量:Lマウント 1,090g
ソニーEマウント 1,080g
エディションナンバー:A019
付属品:ケース、ロック付花形フード(LH878-02)
まとめ
F1.2というシグマで最も明るい超絶スペックのレンズですが、シャープで使いやすい35mmという印象を持ちました。大柄な鏡筒ですがその分ホールド感も高く、シャッターを切るという行為に安定感を与えてくれる気がします。何よりも「F1.2」という明るさを持っているので、写真を撮る「ワクワク感」がハンパではありません。スナップ、ポートレート撮影など、大きく美しいボケ感、薄く魅力的なピント面を味わえる究極の35mmレンズと言えるでしょう。LマウントとEマウントカメラを持っているフォトグラファーなら試さない理由はありませんね。
■写真家:三井公一
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、ウェブ、ストックフォト、ムービー撮影や、執筆、セミナーなどで活躍中。さまざまな企業のイメージ撮影や、ポートレート撮影、公式インスタグラムの撮影などを多く手がける。スマートフォン撮影のパイオニアとしても活動中。