シグマ 45mm F2.8 DG DN Contemporaryレビュー|真綿のようなソフトな描写にハマるレンズ
はじめに
シグマの「45mm F2.8 DG DN | Contemporary」は、フルサイズミラーレスカメラ対応の「I シリーズ」に属するレンズで、2019年に発売されました。同シリーズは2021年発売の「24mm F3.5 DG DN | Contemporary」と、2020年発売の「35mm F2 DG DN | Contemporary」、「65mm F2 DG DN | Contemporary」の4本が現在ラインナップされています。今回は、本レンズだからこそ撮れるポートレートを、スチールとムービーの両方でレビューします。
シームレスなボケが絶大な魅力!
本レンズの画角は45mmなので、ポートレート撮影にはちょっと望遠が足りないのでは?と思われる方も多いかも知れません。また、F2.8の開放値は暗いのでは?と思う方もいらっしゃるでしょう。最初に、筆者がこのレンズでポートレートを撮る一番の理由をお教えすると、画角やF値のスペック上の数字ではわかり得ない、逆光時の自然でソフトなボケ味にあります。
絞り込めばシャープで鋭い切れ味の描写を楽しめるレンズですので、スナップ撮影やムービー撮影にも活躍しますが、開放時の描写は同じレンズとは思えないほど、ふんわりと、まるで真綿のような優しいボケを作り出してくれます。
特に、強い逆光時に開放で撮影したときに感じられる、フレアーとボケがシームレスにつながったソフトな描写は、このレンズの絶大な魅力とも言えます。
オールドレンズのような優しい画作りと、色収差がしっかりと抑えられた光学性能のおかげで生まれる高い解像力を味わえる、なんとも贅沢なレンズなのです。
ポートレート風ショートムービー
■カラーモード:ティールアンドオレンジ
■モデル:愛咲しおり
今回のポートレート風のショートムービーは、カラーモードをティールアンドオレンジに設定して撮影しています。日常使いのレンズらしく、日常のちょっとしたシーンをシネマティックに仕上げてみました。
やっぱり小型・軽量なのは嬉しい!
ポートレートの撮影というと、モデルに声を掛けながら、笑い合いながらというような、楽しそうなシーンを思い描かれると思います。確かに私の撮影は楽しくをモットーとしてはいますが、撮影者の体は悲鳴を上げそうな撮影スタイルが多いのも事実です。
この作例も、低い生け垣の向こう側の、ちょうど良い位置にモデルの体と顔が来るように、筆者は中腰よりも低い空気椅子のような状態で撮影しています。(柵の中や、芝生養生中の場所など、一般的に入ってはいけないところには足を踏み入れないで撮影をするので、足の位置が不自然になることも理由のひとつでもあります。)
そんなときに助かるのが、レンズが軽くて小さいことです。性能や価格とのバランスもありますが、求める画質が得られるのなら、レンズは小さいに越したことはありません。
瞬間の表情だけでなくムードも表現してくれるレンズ
本レンズの撮影最短距離は24cmです。ポートレートやスナップはもちろん、テーブルフォトでも座ったままテーブルの上のメニューを撮影できる距離なので、普通に使用していて不便を感じる最短撮影距離ではありません。
シグマのレンズらしいなと感じるのが、瞬間の表情と一緒に周りの空気もパッケージするような写真が撮れたときです。主役の被写体だけではなく、その周辺のムードも一緒に表現しようと、レンズとカメラが頑張っている手応えを感じられるのが好きで、シグマの製品を使い続けているとも言えます。
ボケからピント面への滑らかな繋がりがGOOD
撮影日はとても天気が良かったので、影を利用したカットも楽しめました。地面に柵の影が写っていますが、ボケている手前のほうから、モデルの足元より少し前のピントが合っている面の辺りまでを拡大して見てみると、本レンズのボケの繋がりの良さ、滑らかさを感じられると思います。
F2.8というボケが小さな開放F値と、レンズ枚数の制限が出るコンパクトさのなかで、球面収差をコントロールして、ソフトな描写のボケと高い解像力を実現したという本レンズ。寄りでも、引きでも、フットワーク軽くポートレートを楽しめました。
逆光のソフトな描写を楽しもう!
絞り羽根枚数は7枚で、円形絞りを採用しています。作例の遊具にあたった光が丸ボケになりました。その他にも、木漏れ日の逆光などでの撮影もしましたが、本レンズは丸ボケよりも、逆光によって生じるフレアーぎりぎりのソフトさを味わったほうが、より楽しくなるレンズだと思います。
本当のオールドレンズだと滲みすぎてしまう被写体は、自然に立体的に解像され、きっちりくっきり描きすぎて現実に引き戻されすぎない画を作り出してくれるのは、筆者の求めるポートレートレンズの条件としてピッタリでした。
購入当初はスナップ用、風景のムービー用と思っていましたが、これからはポートレート常用レンズとしても活躍しそうです。
ティールアンドオレンジなら何気ないシーンもドラマティックに
45mmの画角ゆえ、狭い都内の道でも全身のポートレートが撮れるメリットもあります。マクロレンズ好きな筆者は、ポートレートでも寄りの撮影が多いのですが、本レンズは、ムービーの中のワンシーンのような、全身ポートレートを撮りたくなるレンズでした。
この作例は、ティールアンドオレンジのカラーモードを使用しています。ティールアンドオレンジは筆者がムービーでよく使用するモードで、ポートレートのスチールではあまり使用しないのですが、ここでは衣装と前ボケの白い手すりの色合いを落ち着けてくれながら、青空をノスタルジックに仕上げてくれました。
スペックだけでは見えないレンズの実力
今回は本レンズでスチールとムービーを撮影しましたが、開放時の描写性能は筆者好みの優しさ、小型カメラにベストバランスのコンパクトさ、街中でのポートレート撮影でカメラを意識させないシンプルなデザインと、高級感のある金属製の素材などなど、まだこのレンズで撮影をしていない方には「貸してあげるから撮ってみて!」と言いたくなるような、スペックだけではわからないワクワクできるレンズでした。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。 (社)日本写真家協会(JPS)会員。