シグマ 45mm F2.8 DG DN | Contemporaryで撮る寄り道の記録
Iシリーズ始まりのレンズ
SIGMA Iシリーズの最初のレンズである「45mm F2.8 DG DN | Contemporary」。fpやfp Lのキットレンズとしても発売されているためお持ちの方も多いこのレンズから、Iシリーズが始まり現在に至る。このレンズを使って今回の旅の記録を撮影した。
■Iシリーズの24/35/45/65mmをまとめて紹介した記事はこちら
45mmという焦点距離、50mmよりわずかに広い画角がとても好きなレンズである。写りも面白く、開放絞りの際に特に画がソフトになる設定になっていて、クラシカルな印象を受ける一方で、絞り込むとシャープな写りを楽しめる。この「面白いレンズ」は昨今あまり見かけない。
情緒ある写りを楽しむ
5月中旬、晴天が続く九州は湿度も低く、この日の最高気温は26℃で天気は晴れ時々曇り、日差しを浴びると暑く、日陰はひんやりと涼しい気持ちの良い日。この場所は、以前から気になっていたものの車で通り過ぎることしかなかった場所で、今回の撮影を機に立ち寄ってみることにした。
まずは絞り開放で一枚、前ボケの柔らかさがが印象的だ。シャープな合焦部分から大きなボケへのつながりが、とてもナチュラルで立体感を感じ表現力が豊かで情緒的だ。
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■撮影環境:1/160 f2.8 ISO200
使用してまず感じるのは、質感・工作精度・操作感が全てにおいてハイクオリティーであること。佇まいから伝わるコンセプチュアルなキャラクターは、映しだす画にもしっかりと表現されていると感じた。
まずは、このレンズだけで撮影してきた映像をご覧いただきたい。単焦点レンズ一本で撮ったことを感じさせない、バリエーション豊かな表現が楽しめるのがわかっていただけると思う。
ここを通る度に、一瞬見えるこの景色が以前から気になっていた。車を停めるなりシャッターを切る。生い茂る木々と渓流の奥に見える落差工(人工の滝の様に見える部分)の直線がアクセントとなって美しい。
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■撮影環境:1/125 f2.8 ISO200
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■撮影環境:1/125 f2.8 ISO200
コンクリートの陸橋の下には花束を落としたように、コメツブツメクサが咲いている。
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■撮影環境:1/125 f2.8 ISO200
柔らかい中に芯のあるような描写、フレアー感がなんとも言えない独特な描写。普段は花をあまり撮らないが、思わずシャッターを切る。
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■撮影環境:1/125 f2.8 ISO200
美しい水没林を横目に歩きながら、自分好みの構図を探すのも楽しい。エメラルドグリーンの水面は、磨りガラスのように奥の木々をぼんやりと映しだす。
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■撮影環境:1/125 f2.8 ISO200
もう少し進むとさらに開いた場所を見つける。しばらくの間、自然の逆さ絵を鑑賞した。
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■撮影環境:1/125 f5.6 ISO200
川面がつくるアートギャラリーをゆっくり鑑賞して最後の1枚を。ここから沢へと下る道を見つけたので、行ってみることにした。
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■撮影環境:1/125 f5.6 ISO200
水面を撮影するのにF5.6まで絞ってみたが、まるで別のレンズのように解像感が増しシャープな印象に変わる。使い方でこうも性格が変わるレンズはそう多くない。常用レンズにも最適な焦点距離のレンズからこそ、こういった開発者の遊び心が加わった方が楽しい。長く付き合うレンズに相応しい特別な魅力がある。
単焦点レンズとしては開放F値が2.8と、数字だけを見れば控えめな印象を受けるかもしれない。だが、ボケ味にこだわったこのレンズは、見知ったF2.8のボケ味とはまた違う印象で、デフォーカス部分へのつながりが滑らかで唐突感がなく柔らかい。F2.8以上の立体感のようなものを感じる。大きくボケた部分だけではなく、ほんの少しだけボケた部分も綺麗だと感じた。
上流の方を見ると、谷間に差し込んだ日差しに照らされた、水しぶきが微かに見えた。来た道をもどり、車で対岸の駐車場へ向かうことにした。
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■撮影環境:1/125 f2.8 ISO200
先ほどとは違い、クリアでコントラストのある描写をする。被写体との距離があると、開放F2.8でも違った写りを見せてくれるのが楽しい。
このレンズはfpをはじめとした、フルサイズミラーレスとのベストバランスを追求したレンズである。fp以外にもLUMIX S5を所有しているが、どちらと組み合わせてもマッチするデザインは秀逸だ。そして小さなシネレンズのような重厚な質感とデザインでありながらとても軽い。Lマウント用では215gしかない。移動をしながらの撮影では特に恩恵があり、バッグに忍ばせるにも最適で、どこへでも持っていきたくなる。
駐車場から少し歩くと橋が見えた。少し絞ってF5.6に。解像感が増し、しっかりとディティールが浮かび上がってくる。橋の質感を繊細に描写しているのが分かるだろう。
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■撮影環境:1/400 f5.6 ISO200
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■撮影環境:1/200 f5.6 ISO200
見上げると青と緑と赤が見事にレイアウトされていた。よくある光景かもしれないが、見ていて晴れやかな気持ちになる写真は好きだ。F8まで絞ってしっかりと解像感を出した、手前の紅葉のボケはとても自然で違和感がない。
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■撮影環境:1/160 f8 ISO200
いろは紅葉の隙間から見える塔、階段の段数を数えてみる。真っ直ぐに伸びたケーブルが斜張橋をしっかりと支えている。
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■撮影環境:1/125 f5.6 ISO200
川下から見えた水しぶきは、ここから流れてきたのだろう。水量の多いこの川は、せせらぎというには少々騒がしいが、イヤホンから流れるジャズがミックスされると、とても心地よい。今日はここでもう少し休憩しよう。氷で満たしたカップには、今朝濃いめに入れたコーヒーを注ぐ。川を見ながら飲むアイスコーヒーは格別だった。次回は泊まりでどこかへ行きたい。
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■撮影環境:1/400 f2.8 ISO200
さいごに
丸一日、SIGMA 45mm F2.8 DG DN | Contemporaryを使用してみた。印象としては、使い方次第で多くの表現ができる、長く楽しめるレンズだと感じた。スペックを追い求めることだけでは、決して感じることのできない、このレンズ特有の「味」のようなものが、日常を作品に変えてくれる。
そして、どこかアナログ写真的な趣をデジタルでも感じることができた。単にクラシックということではなく、抽象的だがあえていうと「新しくて懐かしい」。日々更新していく日常を、このレンズを使って自然体で気負わずに撮影すると、このレンズが「少し味付けをして美味しくなる」そんな使い方ができるレンズではないだろうか。
■フォトグラファー/ ビデオグラファー:坂口正臣
雑誌の撮影を経て広告写真・建築写真・映像撮影など福岡を拠点に幅広く活動中。坂口写真事務所(SPO)を運営。
「45mm F2.8 DG DN | Contemporary」はこちらの記事でも紹介中
【FPS24】私たちの最初のレンズ
https://www.kitamura.jp/shasha/article/483180936/
【水咲奈々】真綿のようなソフトな描写にハマるレンズ
https://www.kitamura.jp/shasha/article/480386399/