暮らしに溶け込むレンズ SIGMA Iシリーズ
はじめに
シグマから2019年7月に発売されたフルサイズミラーレスカメラ「SIGMA fp」。そのキットレンズに採用されて登場したのが45mm F2.8 DG DN | Contemporaryで、デザインの良さとコンパクトさが記憶に残っている。このレンズは、その後3本のレンズと2021年9月に発売された24mm F2 DG DN | Contemporaryと90mm F2.8 DG DN | Contemporaryを加えてIシリーズとして統合され、6本のレンズラインナップとなる。Iシリーズは24mmの広角から90mmの中望遠域までと、非常に早いスピードでシステムとして充実してきている。今回はそのIシリーズの中で、既に使い込んでいる方も多い24mm・35mm・45mm・65mmの4本を使用してレビューをしたいと思う。
Iシリーズとの出会い
実はfpをレンズキットで購入しなかった私、初めて手にしたIシリーズレンズは24mm F3.5 DG DN | Contemporaryで、レンズのレビュー動画を制作するためにシグマさんからお借りしたものである。
▼その際の動画はこちらからご覧頂けます
ファーストインプレッション
このレンズを手にして最初に感じたのは、ひんやりとしたメタルの質感だった。そこからじっくりと観察すると筐体からフードの先端まで続く美しいローレットがあり、フォーカスリングや絞りリングを回してみると非常に滑らかに動き、とても精巧な作りで質感が高いことが分かる。手の中に収まる大きさと軽さにも驚いた。そしてfpにセットした姿は「本当にこれがフルサイズのカメラとレンズなの?」と疑うほどのコンパクトさと凝縮感、機能美を追求しミニマライズされた佇まいで、しばし見惚れてしまうほどだった。
手にすると分かる質感の良さ
常に触り続ける筐体の質感は、ブラスト処理でマットに仕上げられ、タフでエレガントなアルマイト処理が施されている。とても上品な艶がありプレミアム感が伝わってくる。昨今の洗練されたモダンなイタリア家具のような仕上げをしたレンズは数少ない。これほどまでに私の所有欲をくすぐるカメラとレンズがあっただろうか、これまで写真は大柄な中判デジタルカメラをメインで使用してきた私が、この小さなカメラとレンズに完全に魅了された。
それからというもの、ダイニングテーブルの隅や車のダッシュボード、庭の外テーブルなど、お気に入りの場所で過ごす時間にいつも傍に置いている。日々の記録や作品を見事な描写力で写してくれる頼もしい相棒のような存在であり、いつの間にか暮らしに欠かせない大切な『道具』になった。
スペックだけではないモノとしての価値と機能美を熟考して形になったであろうこのレンズ達は、大切に防湿庫に入れるのも良いが、カメラにセットしてリビングのキャビネットなどに無造作に置くのもしっくりくる、いつでも気軽に写真を撮れるように。
田舎暮らしでの作例
今回は私の暮らしに溶け込んでいるIシリーズレンズで撮った、田舎暮らしの平凡な日常の一コマを作例として見ていただければと思う。
『お隣さんの夏野菜』雨が降る前に急いで家に帰ると、お裾分けの野菜が置いてあった。何気ないシーンが画になる。開放f2の浅い被写界深度と滑らかなボケ味、曇り空の柔らかい光と繊細に描写された野菜のディティールからも空気感を感じる。
■撮影環境:1/320 f2 ISO200 焦点距離65mm
『いつ植えたのかすら忘れてしまったタイム』ローズマリーの隣に植えた2株ほどのタイムが、今では一番広いスペースを占有している。ピントがあった部分は非常にシャープ、対照的にボケ感はとても滑らかでソフトな印象。
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■撮影環境:1/2000 f2 ISO200 焦点距離65mm
『食事の前に』夕食の準備をする頃、音楽と早めの晩酌を楽しみながらレンズを眺める時間。レンズの筐体とグラスのディティールを写したかったので少し絞る、絞りリングの操作感がとても心地よい。
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■撮影環境:1/5 f3.5 ISO400 焦点距離65mm
『庭のテーブルでツユクサと』天気の良い日は庭でゆっくりと過ごす。その際のお供には65mm F2 DG DN |Contemporaryとfpの組み合わせが楽しい。いつも手帳の上が特等席になる。革の手帳の上に何気なく置くときの「トンッ」という小気味よい音と、塊感のある適度な重みを感じるが、実際はとても軽いシステム。
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■撮影環境:1/4000 f2 ISO100 焦点距離35mm
空き時間ができるとコーヒーとレジャーシートを持って、リラックスをするためにお気に入りの所へ移動。Iシリーズ4本とfpを持ち出してゆっくりと過ごす。スマホの電波も繋がらない湖畔の森で、自分もオフラインになって自然豊かな景色と風の音や小川のせせらぎを動画や写真に残して楽しむ。沢を渡ったり草をかき分けたりしながら、少し険しいルートを通らないと行けない場所なので、軽量でコンパクトなIシリーズのレンズとfpにはとても助けられた。持てる荷物が限られることが多いアウトドアにも最適だと思う。軽量コンパクトで機能的なキャンプギアとも相性がよく、「ここのポケットにカメラが入るかも?」とあれこれ考えながらパッキングするのも楽しい。それでいて、いざ撮影となるとfpのフルサイズセンサーに余すところなく妥協のない画質で描写してくれる。実に頼もしい。
『氷のような水』小川のせせらぎを高速シャッターで時を止めて撮ると、愛用のロックグラス iittala ウルティマ ツーレのように美しい。水面の繊細な表現が素晴らしく、開放絞りでも周辺までとてもシャープに描写している。
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■撮影環境:1/640 f2.8 ISO400 焦点距離45mm
抜けの良い描写で、透明感を見たままに表現してくれる。
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■撮影環境:1/640 f2.8 ISO400 焦点距離45mm
『猫バスのドア』木の幹の隙間から差し込む光がバスの扉のような形に見える。こちらの写真も開放絞りのf2だが、周辺までとても繊細な表現をしてくれる。
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■撮影環境:1/640 f2 ISO400 焦点距離35mm
『トンネルの先は』木の枝の重なりで偶然にできた穴、その先には池がかすかに見える。その奥に鳥がいればもっと良かったが、この日は留守だった。このカットは少し絞り込んでf4に設定した、画全体から伝わる緻密な描写、解像感がさらに増して素晴らしい。35mmレンズの画角で構図を考えるのはとても楽しかった。
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■撮影環境:1/400 f4 ISO400 焦点距離35mm
『月面着陸』苔むした木の幹を細い足の蜘蛛が、まるで無重力かのようにゆっくりと移動する。私も重力を無視して斜めにカメラを構えてみた。苔の質感や蜘蛛の細い足を繊細に描写している、絞りは開放f2だ。
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■撮影環境:1/320 f2 ISO400 焦点距離35mm
24mm F3.5 DG DN | Contemporaryは個人的に接写がとても楽しいレンズだと感じる。最短撮影距離約10cm、最大撮影倍率1:2と被写体にかなり近づいて撮影することができる。手前にもボケを入れた画が欲しい時は、レンズフードを外して撮影するほど接近できる。これまで24mmレンズでは広い画ばかり撮ってきたが、このレンズで広角の接写を楽しむことが多くなった。数歩下がって構えれば広角レンズならではのダイナミックな撮影ができて、逆にグッと被写体に近づくと細かなディティールも表現できる。この両極端さが撮影する写真に広がりやリズム感を与えてくれる。
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■撮影環境:1/80 f3.5 ISO400 焦点距離24mm
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■撮影環境:1/320 f5.6 ISO400 焦点距離24mm
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■撮影環境:1/2500 f3.5 ISO400 焦点距離24mm
65mm F2 DG DN | Contemporaryは頻繁に使うレンズだ。私は中望遠が好きなのだが、このレンズの少しだけ広い画角がとても使いやすく感じる。主役を引き立てつつも適度に周りの状況を映し出す。50と85の間の65mmというのが絶妙だと使っていて感じる。
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■撮影環境:1/640 f3.5 ISO400 焦点距離65mm
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■撮影環境:1/200 f2 ISO400 焦点距離65mm
Iシリーズでの撮り比べ
同じアングルでレンズを交換して、Iシリーズレンズそれぞれの画角の違いと描写を撮り比べてみた。
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■撮影環境:1/5 F3.5 ISO200 焦点距離24mm
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■撮影環境:1/20 F4 ISO200 焦点距離35mm
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■撮影環境:1/15 F5.6 ISO200 焦点距離45mm
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■撮影環境:1/13 F4 ISO200 焦点距離65mm
統一感のある写り、うまく言い得ないがSIGMA Iシリーズの方向性を感じる。同じIシリーズのレンズなので共通した写りは当然と思うかもしれないが、同じメーカーのレンズシリーズでも印象の違う写りをする事もあるので、カット毎に微調整をする事は珍しくない。しかし、今回のテストでは調整作業を行う必要がなかった。Iシリーズをコレクションして正解だったと感じる。特にシーンの繋がりが重要視されるムービー撮影でも積極的に使いたい。カラーグレーディング前のカラーコレクション(映像の色を修正しフッテージを整える作業)の手間が少し減るかもしれない。
シネマレンズの様なスタイルからも分かる様に、コンパクトではあるが映像でもとても使いやすい。ジンバルを使っての撮影が多くなった昨今では、カメラとレンズの軽量化は複数の恩恵がある。フロントヘビーになりがちなミラーレスカメラにおいてコンパクトで軽量なレンズは重量バランスが取りやすい、結果的にジンバルへの負荷が少ないのでペイロードが低めのコンパクトなジンバルも選択肢に入ってくる。
写真を撮る合間に気軽にムービーも撮影する、写真とはまた違った楽しみがある。見苦しいが自分の姿も思い出の一つとして残す。シネマプライムレンズではよく使う、65mmという焦点距離もラインナップされるのがIシリーズの特徴でもある、シネマモードではこの65mm F2 DG DN | Contemporaryを使うことがとても多い。
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■撮影環境:1/2000 f2.8 ISO400 焦点距離45mm
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■撮影環境:1/1600 f3.5 ISO400 焦点距離24mm
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/ 右下 35mm F2 DG DN | Contemporary / 右上 24mm F3.5 DG DN | Contemporary / カメラボディー SIGMA fp
モノとしての価値を再定義する稀有な存在
撮影をするための機材であるレンズなのでスペックはもちろん大切なのだが、このレンズはそれを使うユーザーの体験までも素敵にデザインされているように感じる。シグマは数多くのユーザー達が夢中で撮影する姿やライフスタイルにまで思いを馳せ、それはそれは丹精込めて仕上げたのではないだろうか。日本の会津で大切に作られて私達の手元へ届くこのレンズ達。リアキャップのローレットからも見て取れるように、撮影をする時以外の些細なことまでも気にかけているのが分かる。だからこそ素直に愛着が湧く。ここまで思いを込めて、徹底的にユーザーに喜んでもらえるよう考えられたプロダクツは数少ないと思う。私の相棒であり大切な道具であるこのレンズで、これからも特別な瞬間を楽しんで撮影しようと思う。
■フォトグラファー/ ビデオグラファー:坂口正臣
雑誌の撮影を経て広告写真・建築写真・映像撮影など福岡を拠点に幅広く活動中。坂口写真事務所(SPO)を運営。
Iシリーズ各写真家のレビュー記事はコチラ
■シグマ 24mm F2 DG DN Contemporary レビュー|Iシリーズ2本目の明るい24mm登場!
三井公一
https://www.kitamura.jp/shasha/sigma/24mm-f2-dg-dn-contemporary-%e3%82%bd%e3%83%8b%e3%83%bce%e7%94%a8-2-2-20210921/
■シグマ 24mm F3.5 DG DN Contemporaryレビュー|質感高く所有欲まで満たされる小型軽量の広角レンズ
葛原よしひろ
https://www.kitamura.jp/shasha/sigma/24mm-f3-5-dg-dn-contemporary-20210120/
■シグマ 35mm F2 DG DN Contemporary レビュー|街なかに溶け込めるスナップレンズ
水咲奈々
https://www.kitamura.jp/shasha/sigma/35mm-f2-dg-dn-contemporary-20201226/
■シグマ 45mm F2.8 DG DN Contemporary レビュー|私たちの最初のレンズ
FPS24
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■シグマ 45mm F2.8 DG DN Contemporaryレビュー|真綿のようなソフトな描写にハマるレンズ
水咲奈々
https://www.kitamura.jp/shasha/sigma/45mm-f2-8-dg-dn-contemporary-2-20210309/
■シグマ 65mm F2 DG DN Contemporary レビュー | 「Art」「Cine」レンズで磨かれた描写を独特の距離感で楽しめる
三井公一
https://www.kitamura.jp/shasha/sigma/65mm-f2-dg-dn-contemporary-2-20201229/
■シグマ 65mm F2 DG DN Contemporaryレビュー|モデルとの距離を近付けてくれるレンズ
水咲奈々
https://www.kitamura.jp/shasha/sigma/65mm-f2-dg-dn-contemporary-20210218/
■シグマ 90mm F2.8 DG DN Contemporary|新焦点距離90mmがIシリーズに誕生
三井公一
https://www.kitamura.jp/shasha/sigma/90mm-f2-8-dg-dn-contemporary-3-20210924/