シグマ 65mm F2 DG DN Contemporary レビュー | 「Art」「Cine」レンズで磨かれた描写を独特の距離感で楽しめる
はじめに
斬新な製品を続々とリリースしているシグマから、またもや新たなレンズ群が登場した。「SIGMA GLOBAL VISION」3ラインのうちの1つ「Contemporary」内に設けられた「I シリーズ」がそれだ。このシリーズは高級感あふれる金属外装を身にまとい、Artラインの写りを標榜する、注目のミラーレス一眼カメラ専用設計レンズになっていた。
I シリーズの位置づけ
「SIGMA fp」と同時に発表された「SIGMA 45mm F2.8 DG DN | Contemporary」。高い工作精度の金属製鏡筒と心地よい操作感の絞りリング、そして美しいメタル製レンズフードが話題になったのをご記憶の方も多いだろう。世界最小最軽量のフルサイズフォーマットミラーレス一眼カメラ「SIGMA fp」のキットレンズとして爆発的に売れたレンズだ。「I シリーズ」はそのデザインフォーマットを展開したイメージ、と思ってもらっていいだろう。シグマはこのシリーズについて公式サイトで下のように語っている。
“綺麗な画が撮れる”、それ以上の価値を追求し、道具選びを通して自分らしいスタイルを大切にする。そんな人々に「私はこれ」と選ばれる存在でありたい。その想いからシリーズには“I”の字を冠しています。そして、その期待に応えられるのも私=SIGMAだけ。その自信と覚悟も込めた新しい“I”の誕生です。
https://www.sigma-global.com/jp/lenses/cas/special/i-series/
このように、「I シリーズ」は高い画質だけでなく、操作感や質感までも愉しめる新しいシリーズとなっているのだ。実際に手にするとその「想い」が伝わってくる。「モノ」としての存在感が他の製品とは全然違っているのが体感できるはずだ。
3つの新しい焦点距離
その「I シリーズ」だが、既に昨年から販売されている「SIGMA 45mm F2.8 DG DN | Contemporary」に下記の3本が加わる形となる。
・「SIGMA 24mm F3.5 DG DN | Contemporary」
・「SIGMA 35mm F2 DG DN | Contemporary」
・「SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporary」
「SIGMA 24mm F3.5 DG DN | Contemporary」のみ発売が2021年になるが、他のレンズはすでに販売が開始されている。45mmに3つの焦点距離が加わった形になるが、「高画質と常用性」に重きを置いた「SIGMA 35mm F2 DG DN | Contemporary」、「SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporary」。コンパクトネスを追求した「SIGMA 24mm F3.5 DG DN | Contemporary」、「SIGMA 45mm F2.8 DG DN | Contemporary」と性格がわけられている。4本とも仕上げが美しく、使っていて気持ちが高ぶる造りだ。選び抜かれた焦点距離も日常的に撮りやすいレンジになっているので常用できるレンズシリーズになっている印象だ。
魅惑のメタル外装
ルックスはとても精悍(せいかん)だ。メタル素材なので精密さを感じさせる輝きが美しい。このフィニッシュは「SIGMA fp」にマッチする仕上げだと感じる。もちろんライカLマウントを採用する「パナソニック LUMIX S5」などにも似合う。ソニーEマウント版もあるので「α」シリーズでもこの佇まいを楽しむことが可能だ。映画撮影用レンズ SIGMA CINE LENSシリーズで培った、見事な加工技術を自分の愛用するカメラで味わえるのが感慨深い。面白いのは「マグネット式メタルキャップ」というレンズキャップが新登場の3本に採用されたことだ。文字どおり磁力でレンズキャップをレンズに合体できるのだ。フードやフィルター装着時には使えないが、シグマらしいユニークな製品への取り組みとなっている。
「SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporary」
新たな焦点距離の「SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporary」。高精度グラスモールド非球面レンズを複数枚採用し、レンズ構成は9群12枚となっている。フィルター径は62mm、最短撮影距離は55cm、重量405gと使いやすいスペックに仕上がっている。実際に「SIGMA fp」や「パナソニック LUMIX S5」に装着した感じもいい。85mmより取り回しが良く、F2とほどよい明るさなので軽快に感じた。
シグマ公式サイトによると、
65mm F2 DG DN | Contemporaryは、開放F値2.0という明るさにおける最高レベルの光学性能と、ミラーレスシステムとのバランスの良いボディサイズを両立させています。中望遠で目立ちやすく、かつカメラ側での補正が効かない軸上色収差はSLDガラスを採用することにより徹底的に補正し、キレのある描写を実現。更に2枚のグラスモールド非球面レンズは、球面収差やコマ収差、非点収差の補正、そしてレンズ構成全体の小型化に寄与しています。最新の光学設計技術とそれを実現させる高度なレンズ加工技術が、高い光学性能とコンパクトさの両立を可能にしています。球面収差をコントロールすることで得られた美しいボケ味に加え、口径食の発生も抑制しているため、気になるレモン型や渦巻状のボケが抑えられ、思い通りのボケ描写が得られます。さらに、SIGMA基準の徹底したゴースト・フレア対策により、高い逆光耐性も有します。
サイズと明るさ、そして描写と操作感が実にバランスよくまとまった中望遠レンズだという印象を持った。それでは実写をご覧いただきたい。
実写
静岡の宇津ノ谷峠「明治のトンネル」をF2の絞り開放で撮影。カメラは「SIGMA fp」だ。レンズもボディも手ブレ補正機能を持たないが、絶妙なフィット感と重心バランスで安心してシャッターを切れた。明るいプライムレンズならではだ。ランプに浮かぶいにしえのレンガが美しい。
「SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporary」はとてもヌケがいい。多摩川に架かる橋脚を撮影したが、ハイライト部の気持ちのいいヌケが気に入った。粘りのある高輝度部と深いトーン描写の暗部がお見事。
フレーム内に太陽を配置して河川敷で遊ぶ家族連れを撮った。ハレーションもイヤなゴーストもなく、イメージどおりのカットを捉えてくれた。逆光時でもオートフォーカスが正確かつ高速に動作し撮影に不安はない。
カメラを「パナソニック LUMIX S5」にスイッチして、歴史ある土壁の倉庫を狙った。F8に絞り込んでディテールを全面に表現するとともに、ピント面を深くした。このレンズは克明に壁の凹凸を浮かび上がらせた。色の再現性も良好で見た目に近い仕上がりとなった。
F2の絞り開放で石の祭壇に置かれた杯にフォーカスした。背景のボケ具合が何とも美しい。落ち葉が陽光を反射した玉ボケが端正だ。また祭壇の前ボケもスムーズで好感が持てる。両ボケとも整っており、ポートレート撮影でも活躍するに違いない。それでいてピント面は実にシャープ。オススメの中望遠レンズだと言える。
懐かしい自動販売機を発見した。瓶に入った清涼飲料水のものだ。昔街角で見かけたものと形状が異なるので復刻版だと思われる。その中に入った瓶のラベルにピンポイントでフォーカスしてシャッターを切った。F2絞り開放の薄いピントの切れがイイ。またアクリル製ケースに写った景色と玉ボケの写り具合が何とも言えないではないか。
「パナソニック LUMIX S5」で走り去る列車をコンティニュアスオートフォーカスで狙った。「SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporary」は全コマしっかりと合焦してシャープな車体をメモリーカードにキャプチャーしてくれた。この追従性があれば動き回るモデルや子ども、そしてペットなどの撮影でも大いに活躍してくれるに違いない。
まとめ
シグマ「I シリーズ」は同社らしいチャレンジングな製品ラインだ。緻密な加工を施された金属外装をまとい、「Art」「Cine」レンズで磨かれた描写を味わえるというユニークな製品群だと言えよう。特に「SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporary」はちょっと長い標準レンズ&ちょっと短い中望遠レンズとして、独特の距離感を楽しめるのが面白い。明るさもF2と十分で、日常的に使用できるサイズ感なのがうれしい。この美しいレンズを自分のカメラに装着しただけでにやけてしまう。そんな存在感のある希有な新しい眼が「SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporary」なのだ。
■写真家:三井公一
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービー、執筆、セミナーなどで活躍中。有限会社サスラウ 代表。