シグマ 65mm F2 DG DN Contemporaryレビュー|モデルとの距離を近付けてくれるレンズ
はじめに
シグマのミラーレス機用フルサイズ対応のレンズ「Iシリーズ」は、現在4本がラインナップされています。2021年1月に発売されたばかりの「24mm F3.5 DG DN | Contemporary」、SIGMA fpと相性のいいキットレンズ「45mm F2.8 DG DN | Contemporary」、筆者が昨年スナップでレビューをした「35mm F2 DG DN | Contemporary」、そして今回は「Iシリーズ」で一番望遠画角の「65mm F2 DG DN | Contemporary」のレビューを、スチールとムービーでお送り致します。
小さな背面液晶でも感じられる自然で美しいボケ味
65mmの画角とF2という明るさを考えると、レンズ自体の大きさが懸念されると思いますが、トップのカットをご覧いただければ分かる通り、撮影にも持ち運びにも便利な手のひらサイズの大きさに収まっています。今回使用したのはLマウントで、最大径72mm、長さは74.7mm、重さは405gと、手持ちでのスチール撮影はもちろん、動画撮影でジンバルにも気軽に乗せられるサイズなのは嬉しい限りです。
作例は絞り開放での撮影です。ピントが合った右目のマツゲのシャープな描写は見事で、さらに感動したのは背景の優しく自然なボケ味です。構図右にある緑色の葉は、優しい輪郭で嫌味なくボケていますし、ともすれば雑味のあるボケになってしまう構図左下のストライプのクッションも、写真に彩りとストーリーを添える小道具として、とても自然なボケ方をしています。
本レンズは、中望遠で目立ちやすくなりがちな軸上色収差はSLDガラスを、球面収差は高精度のグラスモールド非球面レンズを採用することで補正を行っています。これにより、レモン型や渦巻状のボケが抑えられ、美しいボケ味を作り出しています。このボケ味の美しさは、実際に撮影してみるとカメラの背面液晶でも感じられるほどでした。
ポートレート風ショートムービー
筆者は静止画は中望遠、動画は広角での撮影が多いのですが、「Iシリーズ」が発表されたときに、珍しく65mmの画角を動画で使用してみたいと思いました。特に筆者がシリーズ化しているポートレート風のショートムービーでは、どこかから誰かが覗き見しているような、モデルが大きく映し出されているけれど、手が届きそうだけどなんだか遠いような、そんな遠近感を感じられるシーンを描き出したかったので、この「ほんの少し望遠」の画角はベストなのです。
ベストな理由は画角もですが、今まで筆者が使用してきたシグマのレンズは、被写体の周りの空気を優しく描き出してくれていたので、そこへの信頼感もあります。
今回のムービーは、朝から少しの時間経過を描きました。光の回るスタジオで撮影しており、実際に時間の経過で太陽が動いているのでその光をそのまま取り込んで、時系列もほぼそのままで編集しています。
高級感を醸し出す金属素材
本レンズは描写性能もですが、デザインと質感を味わって欲しいレンズでもあります。「Iシリーズ」のレンズは金属素材の削り出しで作られており、耐久性を上げる意味も強いと思いますが、一方で所持する側の気持ちとしては、その触り心地の良さにテンションが上がらざるを得ないというメリットがあります。金属のキンと冷えた感触、写真を撮る機材として重みを感じさせてくれる質感は、持つ喜びと、撮る楽しさを増幅させてくれます。
撮影者を自由にしてくれる描写性能
最短撮影距離は55cmなので、通常のポートレート撮影であれば不自由は感じません。作例のような寄りと、背景まで写し込んだ引きの両方の画を撮ってみましたが、いずれも気になる収差や口径食は感じられず、自由な撮影が行えました。
不自然なボケ味や気になる収差があると撮影に集中できなくて、ストレスを感じることがあります。特に寄りが多かったり、逆光での撮影が多かったりするポートレートでは、レンズがクリアーできない事項が目につきやすいのも確かです。
スナップではその不自由さが逆に楽しかったりするのですが、ポートレート撮影では無駄な懸念は取り除きたい気持ちが強いので、余計なことを気にしないで撮影に集中できる、自然な描写性能の本レンズは撮影がしやすかったです。
レンズキャップ迷子問題を解決してくれるマグネット式メタルキャップ
本レンズにはプラスチック製のレンズキャップの他に、専用のマグネット式メタルキャップも付属してきます。磁力でレンズの前面にピタッとくっ付くこのキャップは、スムーズな付け外しはもちろん、「撮影中にレンズキャップが迷子になる問題」をスッキリと解決してくれました。
いざ、キャップを付けてカメラをしまおうとすると、よく迷子になるレンズキャップ。コートのポケット、ジーンズのポケット、カメラバッグの中、テーブルの上に置いたまま…などなど、黒いだけに見つかりにくいレンズキャップを何回探したことか。専用のマグネット式メタルキャップホルダーも別売されており、外したキャップを探す手間を減らしてくれます。
落ちる心配のないしっかりとしたレンズフード
レンズ構成は9群12枚(SLD1枚、非球面レンズ2枚)で、絞り羽根枚数は9枚の円形絞りを採用。逆光でのゴースト、フレアもよく抑えられていて、強い逆光状態の撮影でもピント面のシャープさは失われていません。フードは丸形のフードが付属しています。レンズ本体にはカチッとしっかり装着できるので、撮影中に落ちることもありませんでした。
スポーツの撮影などでは、フィールドを走り回っているときに体にフードが当たって、その衝撃で回ってしまい、気がついたらフードが落ちて無くなっていたなんてこともあるのですが、ポートレートでもモデルの上から撮影するときは、万が一でもモデルの顔にフードが落ちないようにとても気を付けています。緩めのフードなどは安全のために逆に外してしまうこともあるのですが、本レンズのフードは装着具合がしっかりとしているので、装着したまま安全に撮影できました。
優しい日常を写し取れるレンズ
筆者の好きな画角が50~60mmなので、65mmは、いつもよりもほんの少し集中した自分の目線で、ストレートに被写体に向き合える、とても撮影のしやすい画角でした。肉眼よりも美しいボケを作り出しながら、不自然にはならない素直なボケ味を作り出す開放での描写性能は、今回のような作り込みすぎない、モーニング・ルーティーンのような優しい日常を写し取るのにぴったり。自己主張をしすぎない穏やかなレンズは、モデルとの距離を近付けてくれます。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。 (社)日本写真家協会(JPS)会員。