シグマ BF|美しい道具として心撃ち抜かれたカメラ

キンキンに冷えたアルミ削り出しのBF
花冷えのある日に届いたSigma BF。包みを解いた夫が「ものすごく冷たいんですけど…」とカメラを手渡す。「キンキンですね」。ビールジョッキを持った際の感想ではない。さすがのアルミ削り出しである。これは冬場は手袋が必須かもしれない。シグマにはアパレル部門があるという噂もあるし、いずれフィレンツェあたりの革工房と提携してBF専用のレザーグローブを作ってくれるのではないかと妄想する。期待しよう。
早々に本題からずれてしまったが、レビュー用に手元にやってきたSigma BF。カラーは気になっていたシルバーだ。早速構えてみると見た目ほどグリップは悪くない。標準ではストラップは付属していないようなので、ストラップはつけずに持ち出すことにした。Contemporary 45mm F2.8 DGを装着してみたが、このサイズであればバランスも良く、ストラップなしでも大丈夫だろう。

すれ違いざまに視線を感じる
天気も良く、新しいカメラを持って気分も上々。Sigma BFにはファインダーがついていないので、早速「モニター設定」で明るさを最大値まで調整。モニター設定の明るさは6段階で調整可能。これなら晴天時でも問題なく撮影できそうだ。が、しかし、だ。早速問題が発生した。モニターの明るさを最大値に設定したためもあるだろうが、バッテリー残量がみるみるうちに減ってゆく。リップスティック型のバッテリーは非常にクールではあるものの、実用向きではないということか。しかしこれはシグマお得意の「バッテリーの持ちが良くないのであれば2個つければいい」という太っ腹キャンペーン(おそらくやってくれるだろうと大いに期待)でどうにかなることなので、さほど問題ではないだろう。普段使用しているリップスティックと並べてみてもほぼ同じサイズ。これなら化粧ポーチに入るから持ち運びも容易である。
しかし美しいカメラだ。そう感じるのはわたしだけではないようで、持ち歩いているとすれ違い越しにSigma BFに視線が注がれるのを感じる。ストラップなしで大丈夫だろう、と言ったものの、片手で持つには不安がある。かといってバッグに収納していちいち取り出していたらシャッターチャンスを逃してしまう。ということでみぞおちにボディ左下の角を押し付けるようにして持ち歩くことに。ほどよく角が取れたデザインなので腹に刺さることはないものの、街なかで撮り歩くのであれば、グリップは必須だろう。早くも外観の3Dデータが無償公開されている(https://www.sigma-global.com/jp/support/catalog/?category=cameras)ので、ここは3Dプリンタークラフト勢のアクセサリを待ちたいところである。


新しく加わったカラーモード
さて、見た目と第一印象はこのあたりにして、重要なのはその画作りである。これはSIGMA fpシリーズから大きく変化した印象。fpシリーズがFOVEONを搭載したdpシリーズやsd Quattroの画作りを踏襲していたのに対し、Sigma BFは「もはやFOVEONに固執しない」という印象が見て取れた。濃厚で重厚感のある画作りがそれまでのシグマカメラであれば、Sigma BFは軽やか、かつシネマティックな画作りが信条です、といったところだろうか。
それに伴い、カラーモードも3つのモードが加わった(それまでの Landscape・Neutral・Off・Portrait・Vivd・Duotoneは非採用)。「RICH」と「CALM」「709ルック」というものだが、特に「CALM」が気に入ったので今回はすべての写真で「CALM」を採用している。いずれのカラーモードもその効果量やハイライトやシャドウ、フェードやビネットもカメラ内で調整できる。また、新しいカラーモード以外もfpまでの画作りとは異なり、効果量を調整することによりだいぶ印象も変わるのでぜひ試してみてほしいところ。

お気に入りのCALMで恵比寿をスナップ

■撮影環境:絞りF2.8 1/500秒 ISO400 WB:オート カラーモード:CALM
まずは写真好きには定番のスポットで一枚。とっさに撮影したのでオートフォーカスが合っているか心配になり、モニターで確認したところ合っているではないか。いわゆる「動きモノ」は不得手だろうと思い込んでいたので、オートフォーカス性能の進化には驚いた。「CALM」の効果量は「+1」、かつフェードとビネットも加えているので被写体のインパクトがより際立つ。

■撮影環境:絞りF2.8 1/6400秒 ISO400 WB:オート カラーモード:CALM
アメリカ橋を渡って道路を横切るカップルを。この「CALM」の画作りはfpユーザーにはおなじみの「TEAL AND ORANGE」を思わせるものの、よりあたたかみを感じさせる赤が特徴だろうか。普段でも暖色系に現像することの多いわたしにとっては非常に使いやすい色味である。映画の世界に入り込んだような気分になって楽しい。

■撮影環境:絞りF2.8 1/250秒 ISO400 WB:オート カラーモード:CALM
ギャラリー近くにあった大きな葉。これはサトイモだろうか。ずいぶん立派なので、誰かが育てているのかもしれない。強い風にあおられていたが、ピントはしっかり右側に合っている。フェードを加えているため緻密さこそないものの、どこか生々しさを感じさせる描写である。

■撮影環境:絞りF3.5 1/250秒 ISO100 WB:オート カラーモード:CALM
引き続き恵比寿ビール坂あたりでスナップを続行。このオレンジがかった色味はそうか、ビール越しに見える風景なのだなと妙に納得。効果量を上げすぎると、ほろ酔いの顔のようになってしまうのでポートレートで使用する際は少し注意が必要かもしれない。しかし恵比寿はスナップしていて楽しい街である。美しいカメラを持ち歩くのであれば、身なりを気にして撮影に臨みたいもの。

■撮影環境:絞りF2.8 1/640秒 ISO400 WB:オート カラーモード:CALM
時刻は16時をまわり、ディナータイムが近づいてきたころ。横たえられたグラスがこれから賑わうであろう店内を予感させる。ここはマンハッタンだろうか、と思うような仕上がり。この日はContemporary 50mm F2 DGも持参していたが、ストラップもグリップもない状態ではContemporary 45mm F2.8 DGのほうがバランスが優れていたため、結局後者のレンズのみを使用した。絞り開放で撮影すると独特のふわりとした描写が味わえる、お気に入りのレンズだ。

■撮影環境:絞りF3.5 1/200秒 ISO400 WB:オート カラーモード:CALM
路地を歩いていると足早に追い抜いてゆく女性。すれ違いざまに比較的近い距離でシャッターを切ったが、こちらもオートフォーカスはしっかりと追えている。また、撮影後に気づいたことだが、わたしの場合、Sigma BFでは横位置ではなく縦位置で撮影することが多いようだ。なるほど、このカメラで撮影するときは無意識のうちにスマートフォンに近い感覚で使用しているのかもしれない。
Beautiful Foolishness
正直なところ、Sigma BFに過度な期待はしないほうがいいかもしれない。操作には多少の慣れが必要だし、EVF非搭載であればライブビューモニターの解像度はもう少しほしいところ。バッテリーの持ちの悪さは(往年のシグマユーザーなら理解していただけると思うが)初代のシグマ DPシリーズを思わせる。
しかしながら、人間は美しいものの魅力にはあらがえないのである。現にカメラの物撮りでこれほど枚数を稼いだことはない。小物類まで持ち込んでイメージ写真を撮るなんてはじめてのことである。美しいものは所有したいと思うのがヒトとしての本能なのではないか。この姿に心を撃ち抜かれたのであれば、そこは素直に従うべきだろう。Sigma BFの名の由来に「Beautiful Foolishness」(美しい愚かさ)とあるように、Sigma BFには功利的な尺度では測れない、カメラとしての本質があるような気がしてならない。そう、美しい道具で、純粋に写真を楽しもうではないか。

■写真家:大門美奈(Mina Daimon)
横浜出身、茅ヶ崎在住。作家活動のほかアパレルブランド等とのコラボレーション、またカメラメーカー・ショップ主催の講座・イベント等の講師、雑誌・WEBマガジンなどへの寄稿を行っている。個展・グループ展多数開催。代表作に「浜」・「新ばし」、同じく写真集に「浜」(赤々舎)など。2025年5月14日より新橋芸者の「東をどり」第100回を記念して、個展「東をどり百回記念写真展『新橋芸者』」(KKAG)を開催。