シグマ 24mm F1.4 DG DN | Art と LUMIX S5で撮る旅の記録
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はじめに
シグマの単焦点F1.4 Artシリーズに新しいレンズが2本追加された。20mm F1.4 DG DN | Art と24mm F1.4 DG DN | Artである。Artシリーズの妥協のない高画質を、コンパクトなボディに閉じ込めた、全く新しい超広角と広角単焦点レンズとなる。すでに発売されているF1.4のArtシリーズよりも、さらに小型で軽量になった。
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このレンズは、星景撮影に適したレンズとして開発されており、その証としてF1.4 Artシリーズで、初めてリアフィルターホルダーを採用した。リア側に星景撮影でよく使われるソフトフィルターなどを装着できる仕様となっている。
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今回は、24mm F1.4 DG DN | Artをお借りして、気ままな小旅行に出かけることにした。目的は星景写真ではなく、日常使いのレンズとしてスナップ撮影や、動画撮影時の使い勝手や写りを試す旅である。そしてリアフィルターホルダーにNDフィルターを装着して、動画を撮影してみたので、まずはその映像をご覧いただければと思う。
24mm F1.4 DG DN | Artで気ままなスナップ撮影へ
今回の旅の目的地は、熊本県阿蘇郡にある「はげの湯温泉」。周辺をスナップ撮影しながらのんびりと散歩してみることにした。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
阿蘇郡小国町、標高約1500mある湧蓋山の西麓にある「はげの湯」は、数軒の温泉旅館と貸切露天風呂が集まる雰囲気の良い温泉郷である。山の麓から細い坂道を登ると、途中に分かれ道があり、小さな看板が。この辺りで有名な豆腐屋さんがあるようだ。誘惑に負けず温泉郷を目指すことにした。右へ進み一山超えると目的地なので、先を急ぐことに。
F2.8まで絞って撮ってみた。周辺までとてもシャープな画質で、このレンズの解像感の高さが伝わってくる。少し進んで前ボケを見てみることに。繊細で緻密な表現の合焦部分と、滑らかなボケの部分が違和感なく調和している。ローコントラストな曇りの日でも、このレンズのクオリティーの高さがわかる。これは楽しみだ。
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■撮影環境:1/250 f2.8 ISO640
細い山道を対向車に気をつけながらゆっくり進んでいくと、丘の上にバンガローが立ち並ぶ雰囲気の良い集落があった。写真を撮りたかったが、ここはそのまま進むことにした。カーブミラーが立っている辺りで景色を見渡せそうだったので、車を停める。
ゴーストやフレアは極めて少ない。ここはやはり、言わずと知れた逆光に強いSIGMAのクオリティーである。安心してフレーミングに集中できた。
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■撮影環境:1/250 f5.6 ISO640
車を降りて少し歩き、高く伸びた草の隙間から遠くの景色が見えたので撮影してみることにした。F5.6に絞って撮影、さらに解像感が増す。雲や森のディティール、手前の草たちの表情も自然に表現している。立体感を感じる描写は、撮影をしていて楽しく感じる。
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■撮影環境:1/250 f1.4 ISO640
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■撮影環境:1/500 f1.4 ISO640
山の麓へ降りてしばらく国道を進むと、側溝から湯気が上がっている場所を見つけたので、止まってみることに。この辺りは湯量が豊富なのであろう、贅沢にも温泉が溢れている。
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■撮影環境:1/500 f1.6 ISO640
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■撮影環境:1/500 f1.6 ISO640
しばらく辺りを散歩していると、オギ(イネ科の多年草)でいっぱいの広場に、一軒の朽ちかけた建物が残されていた。かつては賑わっていたであろうこの建物を見ながら、自分の人生に置き換えて、年を重ねたことを実感した。特に懐古主義的ではないが、スナップで単焦点レンズを使っていると、なぜだか昔を思い出す。
解放に近いF1.6で道端のオギの穂に近づいて撮る。最短25cmまで寄れる、被写界深度が浅すぎて少しだけ絞った。小穂の毛を繊細に描写しながらも、周りのボケはとろけるように滑らかで美しい。
広角とは思えない被写界深度の浅さと滑らかさ
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■撮影環境:1/60 f4.0 ISO640
そのまま散歩を楽しんでいると、森の向こう側から轟音が聞こえる。気になり車で音が聞こえる辺りへと向かうと、温泉の湯気が噴き出す場所を見つけた。蒸気を使った機械だろうか、地面から轟音と共に盛大に真っ白な蒸気が噴き出している。その迫力に圧倒されながら、シャッターを切った。しばらく見惚れているうちに日が暮れはじめたことに気づいた。
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■撮影環境:1/60 f2.5 ISO640
この日は車に車中泊の道具を積み込んできたので、どこか適当な場所を見つけて泊まることにした。1時間ほど車を走らせて、やっと好みの場所を見つけた。今夜はここにお邪魔しようと思う。車を停めて見事な景色を眺める。昼間は気温が高く暑かったのだが、心地よい温度になった。霜が降り始めた草むらで、ブーツを濡らしながら歩き、山が綺麗に見える場所へ。実際の明るさより1段露出を上げて写真を撮った。
このレンズはF1.4 Artシリーズでありながら、軽量コンパクトでとても携帯しやすい。ストラップで首から下げたカメラに、ストレスを感じることもなく、気軽に持ち歩ける。
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■撮影環境:1/60 f2.5 ISO640
霜が降り水滴を纏った草たちを繊細に描写している。拡大してみたら水滴まで美しく写っていた。もうすぐ完全に日が暮れる。寝床の準備をしよう。
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■撮影環境:1/60 f7.1 ISO640
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■撮影環境:1/60 f8.0 ISO640
ランプの灯りを頼りにコーヒーを淹れて車内でゆっくりと過ごす。少し怖く感じるほどの静寂だが、慣れると心地よい。今夜は音楽をかけずにゆっくりと過ごそう。
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■撮影環境:1/800 f1.4 ISO640
慣れない場所なのでゆっくりとは眠れなかったが、4時間ほど仮眠して心地よく目が覚めた。簡単に朝食の準備をしようか。
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■撮影環境:1/60 f1.4 ISO640
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■撮影環境:1/60 f1.4 ISO640
適当に切ったバケットにチーズを挟むだけ、男一人の食事は得てしてこんなもの。それでも美しい景色を前に食事ができるだけで美味さは格別。
絞り開放で撮ってみる。24mmとは思えぬほど深度の浅い画が撮れる。合焦部分とボケのつながりが本当に滑らかで美しい。歪曲もしっかりと補正されており、広角レンズにありがちな不自然な樽型の歪みも感じない。
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■撮影環境:1/5000 f1.4 ISO640
名残惜しい気持ちになりながらも、そろそろ帰る時間だ。帰りの車中から、朝日が見えたので急いで車を停めて、この旅の最後の1枚を撮った。
さいごに
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1泊の車中泊旅行で、この24mm F1.4 DG DN | Artを写真と動画で存分に使ってみた。使っていてまず感じたのは、他のF1.4 Artシリーズよりも軽くコンパクトなこと。主に星景写真のためにラインナップされたレンズでもあるが、普段使いのレンズとしても、とても使いやすかった。
リアフィルターホルダーには、目的に応じた様々なフィルターを装着できるが、今回はフロントにつけることが一般的なNDフィルターを装着して撮影した。動画撮影を同時に行うためである。グラム単位で軽量化しているレンズに、毎回重いバリアブルNDなどを装着するのは、少し残念な気持ちになるのだが、今回はそのストレスも感じなかった。
開放F1.4でとても明るいので、日が暮れる直前の景色や夜の車内を手持ちで気軽に撮影できた。このレンズは、普段使いできるコンパクトなレンズであり、大口径広角レンズの超高画質を気軽に楽しめるレンズであった。旅の楽しい相棒がまた一つ増えた。次の旅の計画を立てよう。
■フォトグラファー/ ビデオグラファー:坂口正臣
雑誌の撮影を経て広告写真・建築写真・映像撮影など福岡を拠点に幅広く活動中。坂口写真事務所(SPO)を運営。