シグマ 56mm F1.4 DC DN Contemporary Xマウントレビュー|X-E4でスナップ&ポートレート撮影
はじめに
〝Xマウント、はじめます。〟そんなキャッチコピーにワクワクした人も多いのではないでしょうか。小型・軽量がコンセプトのシグマContemporaryシリーズに富士フイルムXマウントモデルが追加となりました。すでに他マウントで展開している16mm F1.4 DC DN、30mm F1.4 DC DN、56mm F1.4 DC DNという、広角・標準・中望遠の単焦点レンズ3本のラインナップです。
その中で最もコンパクトなサイズの中望遠レンズ「56mm F1.4 DC DN | Contemporary」をX-E4につけて、スナップとポートレートを撮影してきましたのでご紹介いたします。
X-E4とのボディバランス
56mm F1.4 DC DN | Contemporaryは、35mm換算で約84mmの中望遠レンズ。大口径の中望遠レンズは大型になりがちですが、高性能を目指したシグマArtラインシリーズとは異なり、APS-Cカメラ用レンズとして、最新技術により高い光学性能とコンパクトネスを両立させています。
レンズ構成は6群10枚、色収差を抑えるSLDガラスレンズ1枚、球面収差などを低減する効果の高い非球面レンズを2枚採用。レンズ側で極端に歪曲収差補正をせずカメラ内電子補正を採用しています。レンズには絞りリング、ボタン、スイッチなどを設けず、こちらもカメラ側での電子操作のため、見た目のデザインはとてもシンプルです。
大口径レンズとは思えない質量はなんと280g。最長59.8mmと小さく、X-E4とのボディバランスも抜群です。レンズフードを装着した状態でモデルさんに持ってもらいましたが大きさは感じられません。むしろちょうど良いサイズでベストバランスです。
開放F値1.4の豊富なボケ表現
純正のフジノンレンズには同じ56mmでXF56mmF1.2 RとXF56mmF1.2 R APDの2本がありますが、それとは開放F値0.5段分の違い。限られた範囲内で高性能を発揮するシビアなピントの開放F1.2に対し、中望遠の圧縮効果とF1.4の明るさから得られる心地よいボケの描写が特徴的な56mm F1.4 DC DN | Contemporary。
コンパクト設計にしたことにより、絞り開放ではレンズ周辺に向かってレモン型の口径食が発生しますが、被写体によっては画面上に同心円状のグルグルとしたイメージをつくり出すことが出来ます。
前ボケの軽やかな雰囲気の中にも合焦面のキレの良さ、シャープさはイキイキとしていて、周辺光量もボケ量も豊富で、ヌケのよい透明感も感じられます。
近接域でもシャープさは変わらず、柔らかいボケ味はコクのある滑らかさでうっとりとします。
中望遠レンズとは思えない最短撮影距離50cm
中望遠レンズとなると、最短撮影は90cm前後と長くなりがちですが、このレンズは最短撮影距離も驚くほど短い50cm。被写体に正対しやすい画角と相まって、テーブルフォトにも最適です。
打ち合わせ中、会話している合間に指先を借りてちょっと撮影。顔に向けると画面いっぱいになってしまいますが、イメージ的な1枚が撮影できました。
自分の目の前に置かれた食べ物は、少々体を反らした状態で撮影するような感覚です。しかし、この距離での撮影が可能であれば物撮りには最適な距離が保てます。物販用撮影の際には、被写界深度が浅すぎないように少し絞り込んで質感や形状を見せるのがポイントになります。
ポートレートに最適な焦点距離
開放F1.4の描写と最短撮影距離の短さはスナップ、ポートレート撮影の強い味方となってくれます。自然光が回り込む場所でのポートレート撮影では、滑らかにボケていく背景がモデルさんの表情を引き立ててくれました。髪の毛やまつ毛の一本まで細部にわたる繊細さと、柔らかく優しい描写が得意なレンズです。
富士フイルムのフィルムシミュレーションの色の良さ、肌色の美しさには定評がありますが、それをさらにレンズ側で角のない、まろやかな雰囲気に仕上がる印象を受けました。これにはフジノンレンズでは味わえない良さがあります。また、ハイライトの粘り強いトーンにもシグマレンズらしさを感じます。
夕暮れ時、日が落ちてきて薄暗く、安定しにくい光となる時間帯はショーウインドウの灯りを活かし、歩きながらのポートレートスナップ。こうした限られた光量で撮影するときにも開放F値の明るさが心強いです。立体感を生み出す背景の奥行きで街の雰囲気を取り入れながらモデルさんの自然な表情を捉えました。人工光なので、ブラックミストフィルターで柔らかい雰囲気をプラスしています。
フレア、ゴーストに配慮した設計とスーパーマルチレイヤーコートの採用により、逆光時の撮影においてもコントラストの高い描写を実現しています。ブラックミストフィルターの効果が加わり、より一層ふんわりと表現できました。
スナップ撮影に中望遠レンズを連れて歩く
開放F値では、余計なものや見せたくないもの、写り込んでは困る物などをアウトフォーカスさせたスナップ撮影を可能にし、56mmの焦点距離と画角は、自然と被写体に注視する力を発揮します。あえて距離を保ちつつ撮影したいシーンに相応しいレンズです。この距離感が好きな方も多いのではないでしょうか。筆者もスナップ撮影時に連れて歩く焦点距離です。
ガラス越しの撮影もF1.4で遠近を捉えてみました。背景である空と海のグラデーションが滑らかに美しくつながっています。このコクのあるマイルドな雰囲気、色乗りの良さ。シグマレンズらしくてとても好みです。歪曲収差補正もしっかりと効いた歪みの無い画面も気持ちがいいです。
おわりに
現代的な写りと共に、最短撮影距離の短さ、ボケの美しさは秀逸で、開放F値1.4だけで撮りたいと思える56mm F1.4 DC DN | Contemporaryにシグマレンズならではの描写力を感じました。私の中ではすでに「キレのあるこくまろレンズ」と称しています。
いつでも、どこへでも持ち歩ける負担のないサイズと重量による機動力も最大の魅力。全てにおいてバランスの良さと軽快さを感じられます。手に入れやすい価格の良さも相まって、これはぜひ手元に置きたい中望遠単焦点レンズです。
■モデル:鈴木マイラ(@nii_shiki)
■写真家:こばやしかをる
デジタル写真の黎明期よりプリントデータを製作する現場で写真を学ぶ。スマホ~一眼レフまで幅広く指導。プロデューサー、ディレクター、アドバイザーとして企業とのコラボ企画・運営を手がけるなど写真を通じて活躍するクリエイターでもあり、ライターとしても活動中。