これから始める星景写真 Vol.3|星空と風景のマッチングを意識して撮影しよう!
はじめに
星景写真家・写真講師の北山輝泰です。「これから始める星景写真」の連載もVol.3を迎えました。前回は身近な場所で、構図を意識しながら撮影する際のポイントについてご紹介をしましたが、今回はいよいよ星景写真で最も重要な「星空と風景のマッチング」について、私の遠征記録を振り返りながら深掘りしていきたいと思います。本格的な星景写真の撮影に挑戦したいと思われている方、必見です!
星景写真の考え方
Vol.2でもご紹介しましたが、星景写真の面白さは星空と風景のマッチングを考えることにあります。マッチングは大きく二通りの考え方があります。
(1) どのような星空を撮りたいかを考えてから、撮りたい風景を探す(星空が優先)
(2) 撮りたい風景を探してから、どのような星空を撮りたいかを考える(風景が優先)
考え方に優劣はなく、作品の狙いによって変えることが重要です。心に留めておくことは、星空と風景のどちらも疎かにしない、ということです。とはいえ、星景写真をこれから始められる方の多くは、星はあまり詳しくないという方がほとんどかと思います。そのため、まずは(2)の考え方の「撮りたい風景を探す」ことから始めるのがおすすめです。星景写真で必要な星の知識などは、また別の機会にご紹介できればと思います。
星景撮影に適している場所
人を魅了する星景写真を撮影する場合は、やはりある程度空が暗く、たくさんの星空が見える場所で撮影することが重要です。そのため、車を使い自由に撮影場所まで行ける方が、作品のバリエーションを増やすことができるのは間違いありません。ですが、公共交通機関を使って行ける宿泊施設などを探し、そこをベースに星空撮影をするスタイルもありますので、車移動ができない方はそのような場所を探してみるのも良いでしょう。
星景写真撮影でおすすめの撮影地の条件は以下の通りです。
(1) 視界がある程度開けている場所
(2) 構図のアクセントになる自然風景、人工物などがある場所
(3) 撮影したい方向に撮影の邪魔になる明るい街灯や建物の灯りなどがない場所
これらの要素を全て満たしながら、かつ夜間に自由に撮影ができる場所となると、日本全国たくさんあるように思えて意外とありません。特に(2)の「構図のアクセントになる自然風景、人工物」を夜に見つけるのは至難の業です。そのため、日中の空き時間を使ってロケーションハンティング(以下、ロケハン)をするのがおすすめです。
しかしながら、お仕事の都合などでロケハンをすることが厳しい方もたくさんいらっしゃると思います。そのような方は、まず各都道府県の有名な観光地・景勝地の中から、夜間に出入りができる場所を探して撮影していくのが良いでしょう。インターネット上で「○○県 観光名所」などと調べると、観光地の情報が手に入りますし、旅行雑誌やツーリング雑誌などを購入してみるのもいいでしょう。今回は、福島の遠征の途中で見つけた鳥居のある海岸風景を前に撮影を行いましたので、その様子をご紹介します。
撮影候補地を探したらまず行うこと
こちらもVol.2で簡単に触れましたが、撮りたいと思った風景が見つかったら、まずはじめにコンパスを使って方角を確認します。この時、同時に方位角もおおよそ分かるとシミュレーションをする時に役に立ちます。インターネット上で撮影地を探す場合は、GoogleMapの航空写真表示機能を利用して、撮影場所と被写体とのおおよその距離や方角を調べるのが良いでしょう。過去にそこを訪れたことのある方の写真投稿なども、貴重な参考資料になりますので、一つずつチェックするのもいいでしょう。
今回撮影をした福島県いわき市の勿来海岸は、東の方向に鳥居がありますので、東の地平線から昇る星空と一緒に撮影できることになります。
ちなみに、もし山や人工物など高さがある被写体を撮影する場合は、その被写体が邪魔になり星空が隠されてしまう可能性がありますので、被写体の高さをおおよそ測っておくことも重要です。測り方ですが、はじめに握り拳を作り、つぎに目の高さでまっすぐ腕を伸ばしたらその拳の厚みが10度となります。仮に目の前の被写体が10度の高さがあるものであれば、10度以上の高さの星空を見ることができることになります。私の場合は、スマホのカメラ機能と連動しながら、目の前の方角と方位角、そして高さを同時に調べることができる「SpyGlass」というアプリを導入してロケハンを行なっています。
・App Storeでの「Spyglass」アプリページはこちら
・Google Playでの「Spyglass」アプリページはこちら
撮りたい風景が決まったら、次にどのような星空を撮影するかを考えます。星空というのは、星座や惑星などの星々や、天の川のことを指します。撮影するタイミングによって撮れる星空は変わってきますので、同じ場所に撮影に行くとしてもその都度調べ直す必要があります。
今回は11月10日に遠征に行くことが事前に決まっていましたので、その日の20時~24時ごろに撮影できる星空を調べます。調べる方法は、Vol.2でもご紹介した、ビクセンから配信されている「Interval Book」というアプリを使います。
・App Storeでの「Interval Book」アプリページはこちら
・Google Playでの「Interval Book」アプリページはこちら
Interval Bookは、撮影日時と撮影場所、撮影地の標高の入力の他に、使用するレンズの焦点距離も入力することができます。自分が使用するレンズの焦点距離が決まっている場合は、その値を入力してください。私の場合は、シミュレーション結果を元に使用するレンズの焦点距離を決めますので、ここではひとまず24mmと入力しています。
一通り入力が終わったら星図の画面を表示し、撮影する方角が表示されるようスワイプした後、左上の方位角と高度の値を見ながら表示位置を微調整します。最後に画面下部の時間のバーを左右にスワイプしながら、撮影する星空を決めます。今回は、地平線から昇るオリオン座と鳥居を絡めて撮るのが面白そうですので、オリオン座が地平線から昇る20時30分からを撮影時間とします。オリオン座は郊外・市街地問わず、どこでも見つけることができる明るい星座ですので、星景写真の入門ではおすすめの被写体です。オリオン座だけを撮影する場合は、35mm判換算で50mmのレンズがあればちょうど良いですが、今回は鳥居と一緒に撮影する狙いがありますので、余裕を持って30mmで撮影を行うことにします。
今回ご紹介をしたIntervalBookの使い方については、動画でも解説しておりますので、こちらもぜひご参照ください。
ここまでシミュレーションができれば、あとは実際に現地を訪れて撮影になります。撮影場所には、撮影予定時刻の1時間前に着けるよう行動するのが良いでしょう。
撮影現場に着いたら
撮影現場に到着をしたら、機材を展開する前に一度撮影場所の確認をしましょう。人気の撮影地の場合は、先に撮影されている方がいらっしゃる場合もありますので、その際は邪魔にならないような位置を探すようにしましょう。もしコミュケーションを取れる状況であれば、声がけも大事です。何を撮りにきているのか狙いが分かれば、どのようなことに注意をすればいいかも分かりますし、情報交換の中で新しい発見があることもあります。
本格的な星景写真の撮影手順
問題がなければいよいよ撮影開始です。まずは、事前のシミュレーションで求めた焦点距離にセットをしたら、明るい星を探してピント合わせを行います。撮りたい方向とは違う方向でピントを合わせても問題はありません。ピント合わせをした後は、ピント位置がずれるのを防ぐため、なるべくレンズに触らない方がいいですが、不用意に触ってしまう恐れがある場合は、ピントリングをテープで仮止めしてしまってもいいでしょう。
ピント合わせが完了したら、構図を決めます。この時、しっかり水平が取れているかを水準器などで確認するようにしましょう。
構図もおおよそ決まったら、試し撮りを行います。試し撮りの値は、場所や月齢によっていくつかパターンがあります。今回は郊外の星がよく見えるところでの撮影でしたが、撮影方向とは反対方向に明るい電灯があるという状況でしたので、ISO1600 / F値開放(F1.8)/ シャッタースピード5秒と設定しました。ホワイトバランスは個人的に好きな色の蛍光灯の温白色を選択しています。
試し撮りをした後は、明るさの確認をするためにヒストグラムを表示します。Vol.1でも紹介した通り、星景写真の撮影では多少明るめに撮影しておくことが重要になりますが、暗いところでの撮影は、ヒストグラムを見てしっかり確認をする方が良いでしょう。今回の試し撮りの結果は以下の通りです。
見るべき箇所は、白い色のヒストグラムです。このグラフのようなデータは、輝度を表しています。枠の横軸は写真の諧調(=明暗の差)を表しており、左側が写真の暗い部分のデータ。右側が明るい部分のデータになります。縦軸はその明るさのデータがどれくらいあるかを示しており、山が高くなればなるほど、その部分の明るさが最も多いことを示しています。仮に、枠の真ん中付近にデータが集まっている場合は、中間の明るさのデータが最も多いことを示しており、おおよそ日中の適正露出になります。星景写真は夜の撮影ですので、真ん中にデータが集まってしまっては明るすぎるということになります。そのため、真ん中から少し左側の位置にデータが集まっているように明るさを調整する必要があります。
試し撮り結果を見てみると、シャッタースピード5秒の写真はちょうど良い位置にデータが集まっており、露出設定は問題ないことが分かりました。仮にもし写真が暗い場合は、シャッタースピードを少しずつ長くするか、ISO感度を上げながら、写真を少しずつ明るくしていきます。逆に明るい場合は、その逆を行えば写真は少しずつ暗くなっていきます。
明るさの確認はヒストグラム以外にカメラ内の露出計を見る方法もあります。露出計は満月近くの明るい月が照らす状況や、今回のように街灯の明かりで風景が明るく照らされている状況では参考にできますが、あまりに暗すぎる環境では露出計自体が参考にならないため注意が必要です。露出計を使う場合は、カメラの測光モードの選択が重要になります。α6400では「マルチ測光」を選択して、露出計が+-0になるところを探してシャッターを切ると、夜の雰囲気が出ているちょうど良い明るさの写真を撮ることができます。
最後に、シャッターボタンを押す際に力が入ると写真がブレる原因になるため、セルフタイマー機能や、有線or無線レリーズなどを使用する方が良いでしょう。
撮影中に確認すること
撮影した写真を再生して満足いく写真が撮影できたと思っても油断してはいけません。特にピントずれはレタッチでもどうすることもできないため、撮影現場で頻繁に確認する癖をつけましょう。
また、写真の構図に関しても注意が必要です。よくやりがちなミスとしては「星座が見切れてしまっている」ということがあります。事前のシミュレーションでどの星座を撮るかを決めても、実際に見える星空と照らし合わせるのは簡単ではありません。シミュレーション通り撮れたと思っていた写真が、実際には撮れていなかったということもありますので、やはり撮影中に隈なく確認することが大事ですし、不安な場合は少し広めの画角で撮影しておくのも良いでしょう。
地上風景に関しても、自分がカメラを構えている位置、アングルが正解なのかを気にしながら撮影するようにしましょう。少しカメラのポジションを変えるだけで写真の印象は大きく変わりますので、少しずつ角度を変えながら様々なバリエーションの写真を撮っておくようにしましょう。また、ソフトフィルターも併用すると写る星の印象も変わりますので、お持ちの場合は、ソフトフィルターあり/なしの作品も撮っておくと良いでしょう。
まとめ
今回はいわき市で撮影した星景写真を元に、本格的な撮影場所での撮影手順についてご紹介しました。自宅周辺での撮影とは違い、暗い中での撮影では、カメラの操作がスムーズにできなかったり、露出の感覚が大きく違ったりと、難しさを感じる場面が多いかと思います。最初のうちは上手くいかなくても、撮影経験を積み夜の撮影に慣れていくことで、スムーズに撮影できるようになりますのでご安心ください。
■写真家:北山輝泰
東京都生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。天文台インストラクター、天体望遠鏡メーカー勤務を経て、2017年に写真家として独立。世界各地で月食や日食、オーロラなど様々な天文現象を撮影しながら、天文雑誌「星ナビ」ライターとしても活動。また、タイムラプスを中心として動画製作にも力を入れており、観光プロモーションビデオなどの制作も行っている。星空の魅力を多くの人に伝えたいという思いから、全国各地で星空写真の撮り方セミナーを主催している。セミナーでは、ただ星空の撮り方を教えるのではなく、星空そのものの楽しさを知ってもらうために、星座やギリシャ神話についての解説も積極的に行なっている。
北山輝泰さん星景写真撮り方講座の連載記事はこちらからご覧頂けます
■これから始める星景写真 Vol.1|自宅周辺で夜の撮影に慣れよう
https://www.kitamura.jp/shasha/sony/483663405-20211008/
■これから始める星景写真 Vol.2|被写体を意識して撮影しよう!
https://www.kitamura.jp/shasha/sony/484194195-20211111/