レンズワークを極めて風景写真をグレードアップ!|高橋良典
はじめに
一言で交換レンズといってもたくさんの種類がありますよね。皆さんがすでにお持ちのレンズや、購入を検討しているレンズには必ず焦点距離が書かれています。基本的すぎてご存知の方が多いと思いますが焦点距離の数字が小さいほど(16mmや24mmなど)広い範囲が写り、数字が大きい程(300mmや400mmなど)望遠になり遠くの被写体を引き寄せることができます。
また、レンズには焦点距離ごとに写り方の特性があり、それを作画に取り入れることでさらに一歩進んだ作品が撮影できるようになりますし、次に購入したいレンズも見えてきます。そこで今回は焦点距離やレンズごとの特徴を解説してまいります。
※本記事はフルサイズカメラを基準とした焦点距離で作成しております。
標準レンズ
焦点距離50mm前後のレンズを標準レンズといい、ズームレンズの場合は50mm付近を含むものを標準ズームレンズと呼びます。なぜ50mmが標準なのかは諸説あるのですが「肉眼で注視せず普通に景色を眺めた時の視野角に近い」や「遠近感描写が肉眼に近い」からとされています。そういう意味では、実際に現場で目にした印象との差異が少なく最もナチュラルに見える焦点距離だと言えます。
【下2枚】標準域で撮影すると肉眼で景色を眺めた時に近い印象に写ります。
広角レンズ
焦点距離が概ね35mm以下のレンズを広角レンズといいます。前述の標準ズームレンズには24mmや28mm等、35mm以下の焦点距離を含むので標準ズームがあれば広角レンズ域も使えるということになります。
また、24mm未満のレンズの事を超広角レンズといい、12-24mmや16-35mm等、広角域だけをカバーするズームレンズの事を広角ズームレンズ(超広角ズーム)と呼びます。描写の特徴として標準レンズを基準に焦点距離が短く(小さく)なるほど「遠近感描写が強くなり、被写界深度が深くなる」のが特徴です。
広角レンズは肉眼よりも遠近感が強調され、広さが表現できます。被写界深度が深いのでパンフォーカス表現にも向いています。
落差80mほどの大きな滝。これ以上、後ろに下がれない場所ですが、画角の広い超広角レンズを使えば全体を写すことができます。
望遠レンズ
焦点距離が85mmを超えるレンズの事を望遠レンズといい、70-200mmや70-300mm、100-400mm等、望遠域のみで構成されたズームレンズの事を望遠ズームレンズと呼びます。
さらに300mmを超える400mmや500mmは超望遠レンズといいます。描写の特徴として標準レンズを基準にした際に焦点距離が長く(大きく)なるほど「圧縮効果が強くなり、そして被写界深度が浅くなる」のが特徴です。「圧縮効果」の詳細については後述いたします。
望遠レンズと言えば、やはり引き寄せ効果。遠くの被写体を大きく写すことが出来ます。
風景全体から一部分を切り取るときにも望遠レンズが活躍します。
高倍率ズームレンズ
28-200mmや24-240mm等、一本のレンズで広角域~標準域~望遠域までをカバーするレンズの事を高倍率ズームレンズと呼びます。レンズ交換をせずに幅広い焦点距離が使える非常に便利なズームレンズです。私が初めてカメラを手にした35年程前には(歳がバレますね・・・)そのようなレンズは存在しませんでした。
また、高倍率ズームの黎明期では特定の焦点距離での描写が極端に落ちる等、倍率を高くすることの弊害が出たものです。しかし、技術の進歩によって近年発売されている高倍率ズームは、利便性に加えて小型軽量化を実現するとともに、実用上十分な画質も保っています。
しかし、画質を突き詰めるならズームレンズの倍率を抑えたものの方がより高画質であることには今も変わりなく、画質面を考えると以下の図式は昔から変わらずに成り立つと言えるでしょう。
単焦点レンズ ≧ 倍率を抑えたズームレンズ > 高倍率ズームレンズ
技術の進歩によって、単焦点レンズとズーム倍率を抑えたハイグレードズームレンズの画質差は僅かなものになりつつあります。
マクロレンズ
マクロレンズとは最短撮影距離が短く、より被写体に近づいて写すことのできるレンズです。普通のレンズでは近寄れないような、水滴や花のしべなど小さな被写体を撮影するときに使うと別世界が楽しめますよ。
【下2枚】普通のレンズではここまで被写体に迫ることは難しくマクロレンズでしか表現できない世界があります。
焦点距離による描写の違いを生かす
焦点距離が変わると、写る範囲(画角)や望遠度合いが変わるだけではなく遠近感や圧縮効果等、描写も変わる訳ですが、それらを理解しないまま撮影を続けていると、焦点距離の変更はただ単に写る範囲を決めているだけにすぎないということになります。
普段の撮影で焦点距離を意識せず何気なくズームリングを回し、写る範囲だけで構図を決めている方も少なくないと思いますが、レンズごとの描写の特徴を頭に入れ、深めることが出来ればよりステップアップした写真が撮れるようになります。
そこで、ここからは焦点距離によるレンズ効果を意識して撮影した写真を例に解説してまいります。ここまで説明してきたレンズの特徴を考えながらご覧くださいね。
~焦点距離を特に意識しなくても良い場合~
以下4枚は写したい範囲に合わせてズームレンズで画角調整して撮影しました。これ以上前に行けない、後ろに下がれない場所等、立ち位置を変えられない場合、また焦点距離を変えることによって描写の変化が感じられないケースにおいては、特に焦点距離の意識を持たず、画角だけで構図を決めてしまって構いません。
棚田の曲線を損なわないよう全体が入るような画角で撮影。
木立と光芒のバランスを考えて画角を調整。
川面の美しい所をクローズアップしました。
晩秋の斜面。デザイン的に美しい箇所を望遠レンズで切り取りました。
~広角レンズを意識した撮影~
以下7枚は遠近感が出るよう、積極的に広角側の焦点距離を使って撮影しています。カメラ位置を変えられる場所では前に出て焦点距離の短いレンズを使うことで、より風景の広がりを描くことができます。
群生するあじさいになるべく近づいて広角域で撮影。広がり感のある描写となりました。ただし、花畑等の撮影で手前に柵などがある場合は、それを超えて近づかない事。また、柵などが無くても花畑に踏み込む事がないようにしましょう。たとえ三脚の脚1本でもマナー違反です。
超広角域で高山植物チングルマの群落を撮影。手前の花は大きく写り、奥にいくにしたがって花が小さく写ることで遠近感がより強調されます。
超広角域を使えば、小さな水たまりでも広く見せることができます。水面すれすれのローアングルで撮影しています。
こちらも超広角域を使い、しだれ桜が覆いかぶさってくるように表現しました。桜の幹になるべく近づいて上を見上げています。
キノコのアップを狙いました。広角域を使えば、背景が広く写るのでその場の情景を伝えることができます。後述しますが、逆に望遠レンズでは大きくぼかして背景を省略することが出来ます。
見上げた際、上すぼまり感が強く出るのも広角域の特徴です。それによって木々の高さが表現できます。
逆にカメラを下に向けると下すぼまり感が強調され、高い所から見下ろしているような描写となります。
~望遠レンズを意識した撮影~
望遠レンズの特徴として「圧縮効果」が挙げられます。「圧縮効果」とは遠近感が弱まり遠くのものが迫ってくるような描写を指すのですが、マラソンや駅伝のテレビ中継でランナー正面から望遠レンズで映された映像を思い浮かべると理解しやすいでしょう。
先頭から2番手のランナーまでの距離が結構離れているにも関わらず、まるで2番手が迫ってくるように映っているのを見たことがあれば、それがまさに「圧縮効果」だと言えます。
以下6枚の写真は望遠レンズの圧縮効果を生かすため、積極的に望遠側の焦点距離を使って撮影しています。カメラ位置を変えられる場所では後に下がって焦点距離の長いレンズを使うことで、密度感のある表現ができます。
圧縮効果により鹿が密集しているように写っていますね。
木々が密集しているような描写とするため、あえて後ろに下がり望遠レンズを使いました。
焦点距離が長くなるほどに圧縮効果が強く出ます。手前の葦から後の木までは相当離れているのですが、近くに迫ってくるように写っていますね。
こちらも超望遠域。奥行きのある桜の木々を圧縮効果で平面的に描きました。
被写界深度が浅く、美しいボケ表現が得られるのも望遠レンズの特徴。背景をシンプルにまとめることができます。立ち位置を変えずにズームで調整するのでなく、自分が後ろに下がってなるべく望遠側を使うことを意識することがポイントです。
ふんわりとした前ボケ表現にも望遠レンズの使用が有効です。
まとめ
ここまで「レンズワークを極めて風景写真をグレードアップ!」のテーマでお送りしてきましたがいかがでしたか?焦点域で異なる描写の特徴を作画に生かすことの重要さが、お分かりいただけたと思います。
ポイントはズームレンズの利便性にのみ頼らず、積極的に自分が動いて焦点距離を選ぶことです。特に高倍率ズームを使っている程、移動することなく画角が変えられてしまうので、その描写の特徴を理解しないまま撮影してしまいがちです。
これからは画角(写る範囲)だけでなく、意識的に標準域、広角域、望遠域を意識することで思い通りの作品が撮れるようになっていただけると嬉しく思います。最後までお読みいただきありがとうございました。
■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニーイメージングプロサポート会員・αアカデミー講師
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https://www.kitamura.jp/shasha/article/485000306/