ソニー α1×木村琢磨|次世代のフラグシップ「THE ONE」
はじめに
2021年1月27日、ソニーからとんでもないカメラが発表された。
その名は「α1」。
「THE ONE」という称号を与えられたα1はαシリーズの特徴でもある「高解像度のR」「動画・高感度のS」「高速性の9」を一つにまとめたフラグシップモデルだ。ソニーはこのα1で今まで用途に合わせて使い分けていた3機種を一台にまとめてしまったのである。つまり、α1は「高解像度」「高感度」「動画」「高速性」の全てを兼ね備えた次世代フラグシップということだ。
ボディ
実はαシリーズのボディを使うのはα7R II以来で、それ以降はしばらくαシリーズから離れてしまっていた。しかし、α1の発表を見た時に「これは買わなくてはならない」という衝動に駆られた。スチルだけでなくムービーの仕事も同じ割合で増えているため1台で全てが完結するα1は魅力的だった。特に私の場合は高画素、高感度と動画性能が必要となるため仕事カメラとしてはこれ以上無いスペックだ。
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撮影を楽しむ上で画質以外に重要なのがボディの造りだ。質感は非常に良く、機能盛り沢山なカメラにしては非常にコンパクトに纏まっている。またミラーレスの弱点でもあるセンサーダスト問題も電源OFF時にシャッター幕を降ろすことで軽減している。センサーが剥き出しにならないおかげで日中屋外でのレンズ交換も安心してできる。
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α1では操作系も細かな改善が施されており上面左手側のドライブモードダイヤルとAFモードダイヤルにロック機構が搭載され撮影中の不用意なモード変更を防止してくれる。どのカメラにも言えることだが、モードダイヤルはカメラバッグから出し入れしているときにモードが知らないうちに変わっていたということもよくあるので嬉しいポイントだ。
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背面モニターはチルト可動式でありα7S IIIの様なバリアングル方式ではないので好みが分かれるところかもしれない。光軸がズレないためカメラセンターを重要とする建築の撮影などでは、チルト式は重宝するが私の様に縦位置撮影が多かったりローアングル、ハイアングルで撮影することが多いタイプにはバリアングル方式も捨てがたい。チルト可動式の場合、ボディ左側のコネクタ部分と干渉することがないため動画撮影時には重宝する。
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α1はマルチスロットとなっておりSD(UHS-I/II対応)カードとCFexpress Type Aカードと対応している。スチル撮影であればSDカードでも十分足りるが、連写を多用したり4K120pやハイスピード撮影をするのであればCFexpress Type Aカードを使いたい。カードの速度によっては使用できないモードもあるので(その場合は警告が表示される)あらかじめ自分がα1でどの様な撮影をしたいのか明確にしておく必要がある。
CFexpress Type AカードはSDカードと比較するとコストもかかるため、ボディやレンズだけでなく使用するカードの金額も考えて購入計画を立てておく必要がある。私の場合はUHS-IIのSDカードで足りないということはほどんどなく、バックアップを兼ねて128GBのUHS-IIを2枚同時記録設定(2枚のカードに同じ画像を記録するモード)で運用している。画素数が多いのでカードの書き込み速度が早い方が撮影のテンポも良くなるが、風景撮影であればUHS-Iでも使えないことはない。
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画質・撮影性能
α1のスペックで多くの人が気になっているのは画素数だろう。α1の画素数は5010万画素(8640×5760px)とトップクラスの画素数だ。5010万画素がどれくらいの情報量かというと解像度350dpiでA2サイズ(420×594mm)のプリントが補完なしで可能であり大判プリントをしても解像感が損なわれない程情報量を持っている。これだけ高画素であれば大胆にトリミングをしても画素数に余裕があるため、わざと広めに撮影して後からトリミングで画角や構図を調整するということも簡単にできる。今回の記事では特に画質面について紹介していきたいと思う。
「高画素=高感度に弱い」というイメージを持っている人も多いかもしれないが、実際に使ってみるとそんなことはない。もちろん低感度で撮影するほど画質は良いわけなので、α1は丁寧に撮影するほど期待に応えてくれるカメラだと思っている。高画素になるほどブレにはシビアになるがそれだけ解像しているということだ。高解像性能を引き出すためα1には光学式5軸ボディ内手ブレ補正が搭載されており、どのレンズとの組み合わせでも補正が効くのはありがたい。
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■撮影環境:f/4.0 1/320秒 ISO400 焦点距離105mm
■上の写真は実は下の写真をトリミングしてアップにしたもの。これだけ大胆にトリミングをしてもA4サイズのプリントでも画素数不足にはならない。5010万画素もあれば撮影後に焦点距離やマクロ撮影の倍率をトリミングで稼ぐことも簡単だ。
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■撮影環境:f/16 1/15秒 ISO400 焦点距離46mm
■高画素化の恩恵は解像感だけでなく立体感なども向上している様に感じる。以前は高画素はそこまで重要視していなかったがα1を使ったことで考え方が変わった。
高画素の恩恵は解像感、トリミング耐性の向上、豊かな階調表現、と写真を撮るモチベーションにも繋がるためメリットが非常に大きい。フルサイズセンサーということもありダイナミックレンジも広く絵作りの自由度も高い。高画素モデルのα7R IV(6100万画素)の解像感に匹敵する解像感をキープしたままボディのレスポンスを向上させているのは凄いの一言。軽快な動作なおかげで撮影のテンポも良い。
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■撮影環境:f/11 1/2500秒 ISO100 焦点距離78mm
■逆光のハイコントラストなシーンでの撮影。5010万画素の高画素が飛沫や水面のディティールまで写しとった。シャドウからハイライトの階調も残っている。
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■撮影環境:f/11 1/125秒 ISO200 焦点距離76mm
■FE 24-105mm F4 G OSSを標準レンズとして組み合わせることが多いが、α1の5010万画素にも十分耐えうる性能だ。
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■撮影環境:f/4.0 1/125秒 ISO100 焦点距離105mm
■F4.0とは言えフルサイズだとかなり被写界深度が浅い。デジタルカメラのフルサイズは銀塩135フィルムよりもピントが浅い様に思う。α1のAF精度には毎回助けられている。
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■撮影環境:f/4.0 1/640秒 ISO200 焦点距離16mm
■屋内と屋外と輝度差があるシーン。上の写真が元の明るさ。ハイライトよりもシャドウに情報が残るためハイライトに露出を合わせた。撮影後に暗部を持ち上げて肉眼で見た時の明るさに調整。シャドウを持ち上げてもディティールが十分に残っている。
大前提として、いくら高画質と言っても、ピントが合っていなければ意味がない。高画質とAF精度はイコールでなければならないのだが、α1はAFの性能もさらにブラッシュアップされており、ピントを合わせる精度と追従性能がとにかく素晴らしい。フルサイズの浅い被写界深度を生かした撮影や動体撮影で撮影者をサポートしてくれる。絞り込んでパンフォーカス撮影をする場合でもピントは重要な要素であるため正確なピント合わせは大切だ。AF追従に関してはこちらが一度ピントを合わせたい被写体を選択すればあとはα1が勝手に合わせ続けてくれるので、こちらは構図やシャッターチャンスに集中して撮影ができるのだ。
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■撮影環境:f/1.4 1/125秒 ISO400 焦点距離105mm
■瞳AFを使って撮影。α1のAFを使えば動きが予想しづらい子どもでも正確なピントを狙える。AF追従が始まれば後はこちらがフレームに収める様に追い続けるだけだ。105mmのF1.4とかなり浅い被写界深度でも正確に瞳にピントを合わせてくれる。
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■撮影環境:f/13 1/100秒 ISO400 焦点距離56mm
■葉の隙間から射す太陽の光条を狙った。ちょっとしたカメラ位置の違いで光条がでなくなるため、桃にピントを追従させた状態で光条がベストな状態になる位置を探りながら撮影した。
α1を使っているとフルサイズというよりもまるで中判カメラで撮影しているような気持ちになる。高速連写と高感度に注目されることが多いため手持ちでとなりがちなのだが、5010万画素の高画素ということもあり一枚一枚丁寧に撮影するスタイルも楽しい。ボディは小さいがレンズはフルサイズ設計のサイズと重量なので、三脚はなるべくしっかりとしたものを使いたい。電子シャッターも搭載されているので、セルフタイマーと三脚と組み合わせて撮影することでより良い結果を得られる。
また、電子シャッターの性能も向上しており、ローリングシャッターの歪みもほとんど感じない。さらに電子シャッターでもフラッシュ同調速度が1/200というのだから驚きだ。
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■撮影環境:f/8.0 1/160秒 ISO800 焦点距離43mm
■高解像度が気持ちがいい。植物や柱状節理の質感がしっかりと再現されている。ISO800程度では画質の変化がないためF値とシャッタースピードの自由度が高い。暗所でも絞り込んでシャッタースピードを犠牲にすることはなくなった。
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■撮影環境:f/11 5秒 ISO100 焦点距離70mm
■α1は三脚と組み合わせて撮影することも多い。高画素ということもあり中判カメラで撮影している様な気持ちでの撮影を心がける。
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■撮影環境:f/16 10秒 ISO100 焦点距離24mm
■NDフィルターを使用してスローシャッターで撮影。α1は動画撮影や長時間露光時に熱を持つことがあるが、背面モニターを開いて撮影することで放熱することができる。
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■撮影環境:f/8.0 30秒 ISO160 焦点距離24mm
■滝に近づいてスローシャッターで撮影し迫力のある一枚を狙った。滝の近くは飛沫が多く長時間撮影しているとシャワーを浴びた様にびしょ濡れになることもある。
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写真と動画の境界線
α1はスチルだけでなく動画性能も優れている。ここでは動画の性能というよりはα1に搭載された8Kについて少し紹介したい。テレビで主に使われている解像度はフルハイビジョンという規格であり、ピクセル数で言うと1920×1080pxの解像度(約200万画素)を持つ。そして、最近のスマホやカメラには標準で搭載されるようになった4Kは3840×2160pxの解像度(約800万画素)を持つ。
4Kが搭載された頃は写真が動いているとも言われていたが、α1にはさらに4倍の解像度を持つ8Kが搭載されている。8Kの解像度は7680×4320pxと実に3300万画素の写真データが動いていると考えても良い。3300万画素となればスチルでも高画素の部類に入るわけだが、α1ではその3300万画素のデータを秒30コマで記録しているのだ。
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動画撮影と写真撮影が一度に行える、まさに8Kの解像度がなせる技だ。今後30pから60pや120pも実装されていくのは時間の問題で、8Kよりもさらに高解像度な12Kなども一般的になってくるだろう。今後、写真と動画はどう住み分けるのか…どう使い分けていくのかが課題になっていくだろう。新しい写真表現や動画表現が誕生することにも期待したい。
動画の撮影はスチルと違って難しそう…と思うかもしれないがまずはスチルを撮った後に同じシーンを動画で撮影するところから始めればいいだろう。今回動画用にではなく単純にスチルと同じシーンを動画収録したものを用意しているのでまずはスチル撮影後にRECボタンを押すところから始めてみよう。
まとめ
α1のスペックを見て欲しいと思った人はかなり多いのではないだろうか。フルサイズミラーレスフラグシップの決定打と言っても過言ではないスペックだが、やはり価格もそれなりに高額にはなってしまう。しかしR、S、9シリーズが1台になったと考えればコストパフォーマンスは最高で、1台で全てカバーできるのは非常に楽だ。とにかく撮影時の負担がほとんどなく、「THE ONE」の称号に相応しいカメラであり、このα1の登場により特別な数字である「1」シリーズがいよいよ始動したということだ。
α7R IIで一度αから離れて今回α1でまたαに戻ってきたわけだが、その選択は間違っていなかったと自信を持って言える。今回は使用感や画質についての自分が感じたファーストインプレッションとして書かせていただいたが、このα1に関しては一度に全てを語り尽くせないほどに高密度なカメラに仕上がっているし、自分自身まだまだ使いこなせていないのでこれからさらに使い込んでいくことが楽しみなカメラだ。楽しみな反面、思ったものが撮れなくても言い訳ができないカメラである。
■写真家:木村琢磨
1984年生まれ。岡山県在住のフリーランスフォト&ビデオグラファー。広告写真スタジオに12年勤務したのち独立。主に風景・料理・建築・ポートレートなどの広告写真の撮影や日本各地を車で巡って撮影。ライフワーク・作家活動として地元岡山県の風景を撮影し続けている。12mのロング一脚(Bi Rod)やドローンを使った空撮も手がけ、カメラメーカー主催のイベントやセミナーで講師を務める。
α1はこちらの記事でも紹介しています
■ソニー α1 レビュー|風景撮影で使ってみました!(坂井田富三)
https://www.kitamura.jp/shasha/article/480756709/
■ソニー α1 レビュー|スポーツ撮影現場で使ってみました!(坂井田富三)
https://www.kitamura.jp/shasha/sony/a1-3-20210330/
■ソニー α1 レビュー(前編:野鳥・ポートレート)|葛原よしひろ
https://www.kitamura.jp/shasha/sony/a1-5-20210323/
■ソニー α1 レビュー(後編:風景・ステージ撮影)|葛原よしひろ
https://www.kitamura.jp/shasha/article/480649337/
■ソニー フルサイズミラーレス α1|新次元フラグシップモデルが登場!
https://www.kitamura.jp/shasha/article/479818915/