佐藤俊斗 × ポートレートVol.8|すぐに実践できる路地裏ポートレートテクニック

佐藤俊斗
佐藤俊斗 × ポートレートVol.8|すぐに実践できる路地裏ポートレートテクニック

はじめに

こんにちは。写真家の佐藤俊斗です。 
最近は日が長くなり、少しずつ春の暖かさを感じられるようになりましたね。

前回は距離感についてお話ししましたが、今回はそちらに引き続き、距離感をテーマとした撮影のロケ版です。
7月の連載記事で、ロケでの街撮りポートレートの解説をしましたが、皆さん覚えていらっしゃるでしょうか?色使いや変わった構図、街撮りならではの雰囲気をご紹介してきました。

モデルさんは、2回目の登場となる女優の久保乃々花さん。
https://instagram.com/kubononoka__gram

暖かくなり始めた季節、ロケの撮影も増えてくるこのシーズンに、撮影の参考になれば嬉しいです。
被写体の動きをより引き出す撮影方法や、背景選びなど私なりに詳しくお話ししていきますので、ぜひ最後までご覧下さい。

画角で魅せる寄り写真

まず本文を読む前に、こちらはどこで撮った写真だと思いますか?

■撮影機材:ソニーα7R IV + SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:1/400秒 f/4 ISO320 41.4 mm

答えは表参道の路地裏。

一見、表参道は第一印象として高級感のあるおしゃれな街というイメージがあり、ポートレートの撮影には向いているのかと疑問を持つ方もいるかもしれません。あえてその洗練されたイメージ通りにはせず、休日にラフに散歩しに行くような雰囲気を演出して撮影をしてきました。

まず、下の写真をご覧ください。

■撮影機材:ソニーα7R IV + ペンタックス Super Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:1/1250秒 ISO320

レンガの壁に模様のように光があったので、そこに入って立ってもらいました。
真正面から捉えた一枚で特段いい光というわけではないのですが、面白い光だったので一緒に写してみています。

まず、私が初めに選んだのはオールドレンズ。
この壁は光と影が真っ二つにくっきりと分かれていた場所だったので、コントラストをあまりつけず、ナチュラルな写真にするためにオールドレンズで撮影しました。

オールドレンズのメリットは、強い光でも柔らかく撮影できること。

一見ちょうど半分の場所に見えますが 顔にかかる影の量を減らすために気持ちだけ左にずれてもらい、顔が直接光らないように調整。
パッと撮っているように見えて、実はこだわりのある一枚です。

■撮影機材:ソニーα7R IV + ペンタックス Super Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:1/1250秒 ISO320

2枚目は、少し引いて斜めに角度をつけて撮影。

動こうとしている脚部分まで写すことで動きのある写真に見えます。空間ありきでの写真をあくまでも撮影したいということを踏まえて、余白は多めにとっています。

■撮影機材:ソニーα7R IV + ペンタックス Super Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:1/1250秒 ISO320

次に、ピントを甘くしてぼかした写真。

もちろん顔にピントを合わせていないのですが、どこにピントが合っているか、ぜひ探してみてください。

見つかりましたか?

よく見ていただくとわかるのですが、ピントは服の左肩あたりに合わせています。このようにぼかして撮影するポイントとしては、本来合わせるべきである瞳や顔付近からの距離が近い場所で合わせられれば、そこまでぼけすぎることもないため、いい具合にぼかせるという点。今回は衣装もとても可愛らしかったので、あえて肩部分のリボンのステッチに合わせています。

ぼかして写した写真は、モデルさんが柔らかい表情に見え、適度なコントラストでふんわりとした優しめな雰囲気を出すことができます。

■撮影機材:ソニーα7R IV + ペンタックス Super Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:1/1250秒 ISO320

一通り引きの写真を撮影したので、次はぐっと近づいての撮影。モデルさんとの距離感や、臨場感が伝わるでしょうか。
この写真は、右目にちょうど光が入り込んでいたので、そこにピントを合わせて中心を右にずらしています。

肩が寄ることで可愛らしい印象になり、またそれだけでなくニットの素材やブルーの寒色が入り冬らしさも表現しています。
レンガの茶色い壁に、顔の肌色だけでは寂しい印象になってしまうので、バランスを見て服の色を少し入れるのもこだわりの撮影テクニックの一つです。

■撮影機材:ソニーα7R IV + ペンタックス Super Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:1/1250秒 ISO320

すでに綺麗な写真をこの時点で撮り終えていたので、もう一歩踏み込んでシャッターを切りました。
ふと出た表情、モデルさんとの距離感やその時の情景が思い浮かぶような最後の一枚です。

■撮影機材:ソニーα7R IV + SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:1/2500秒 f/4 ISO320 33.7 mm

先ほどまでは陰影を柔らかく撮影するためにオールドレンズを使用して撮影しましたが、次はレンズを変えてスタイリッシュな雰囲気に。

まず、影の出方に注目してみてください。
被写体から向かって奥側に影がかなり濃く出ていますよね。同じ光でも角度を少し変えるだけでこのように写真の質感に差を作ることができます。

顔半分に影を入れることによって雰囲気を表現してみました。ライティング的な要素を含んだ、コントラストをはっきりとつけた一枚です。

背景の選び方

晴天の日の撮影は、青空の中で陽射しが降り注ぐ絶好の環境である分、その青空を魅力的に映すこと・光の角度や強さ・影の使い方など、着目すべき点が増えてきます。この点も踏まえてご覧ください。

先ほどとは場所を変え、通路を背景に撮影。

■撮影機材:ソニーα7R IV + SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:1/400秒 f/4 ISO320 41.4 mm

この通りは、背景の建物のクリーム色がレトロな雰囲気で、よく壁を見てみると絶妙に光が当たっています。
電柱や三角コーン、植物など背景には様々な物が写っているのがわかるでしょうか。

こういった背景に情報量が多い場所で撮影する場合、私なりの細かなルールづくりがあるので、以下の写真を見ながら一つずつご紹介していきます。

先ほどの写真と、この写真を比較してみてください。

■撮影機材:ソニーα7R IV + SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:1/400秒 f/4 ISO320 39 mm

どちらもモデルさんの表情や動きも良く、いい写真にはなっているのですが僕が今回選んだのは1枚目です。
光の加減や背景などに少しずつ違いがあるので、一つずつ見ていきましょう。

この2枚で違う部分を列挙してみると

1.背景の抜け感
2.建物の色
3.光

こちらの3点です。

1つ目の抜け感に関して。
抜け感は両方ともありますが、2枚目の写真は奥への道を遮ってしまっていますね。坂になっていない道なので、真正面から撮るよりも少し斜めから撮る方が抜け感が出やすいです。
少し引きで背景の抜け感を残しつつ撮ることで、写真自体をすっきり見せることができます。

次に、背景の建物の色についてです。
モデルさんの顔周りにくる色が大事、と前回までもお伝えしてきた通り、顔周りに情報量が多いと色んな方向に目線が入ってしまうのが難点。
この場合も、1枚目はクリーム色の壁のみなのに対して、2枚目は右からレンガ色、奥のグレー、左のクリーム色と全てが違う色であり、建物自体もシンプルではないのでまとまりがない印象になってしまいます。

最後に光です。
向かって右側のレンガの壁ではじめに撮影していたのを想像してみるとわかりやすいのですが、この路地は光が左側から差し込む場所。

1.2枚目は逆光と半逆光になり、服の色味、顔の光の入り方に少しずつ差があるのがみてとれます。
絶妙に角度を変えることで、逆光で撮影してモデルさんの顔に入る無駄な光を消し、それと同時に壁の光を写真の情報として入れ込んでいます。

このように、不必要な情報を削除し、最も必要な情報のみを入れる、咄嗟に判断する取捨選択が撮影の際に大事にしているポイントです。

動きのある写真の撮影テクニック

次の2枚の写真をご覧ください。

■撮影機材:ソニーα7R IV + SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:320秒 f/4 ISO320 62.5 mm

同じ写真ですが、トリミングと角度を調整しています。

1枚目が、私が実際に撮影した一枚。
レンガの壁で撮った写真と同じ手法で、被写体の進む方向と反対にカメラを傾けています。これにより、躍動感がでて空間に動きを作り出すことができます。

咄嗟に傾けるのは初めは慣れないと思いますが、進む方向の逆、と一度覚えれば挑戦してみるのは簡単です。また、あくまでもやりすぎない程度に、被写体の顔が平行になる角度あたりでとどめておくのがポイント。

2枚目は、トリミングと調整で傾きは地面に対して水平、右側の抜け感をなくし空も切り取ってみました。
これがリアルに私が見た角度からの景色になります。空と奥行きがない分窮屈に見え、ほんの少しの角度の差で全然違う写真になっていますね。

水平を普段からしっかりと意識しているからこそ、自分が動くことによって自然な動きを作り出せる一枚。

自分と被写体との距離感を感じるような、いい意味でまとまりのない写真になっています。
皆さんも簡単に撮影できるテクニックの一つなので、自分なりの動きのある一瞬を捉えた写真をぜひ撮影してみてください。

おわりに

晴れの日の路地裏ポートレート、いかがだったでしょうか?

ロケでの撮影は良い意味でも悪い意味でも、自由に撮ることができます。初めて足を踏み入れる土地は、特徴のない場所、はたまた整備のされていない綺麗ではない場所かもしれません。

光で遊んでみたり、角度を変えてみたりとどう撮るかは自分次第。
固定観念にとらわれずに思うがまま撮影してみるのも、新たな発見ができると思います。

これからの春のロケ撮影の参考にぜひなさってください。

 

 

■モデル:久保乃々花

■写真家:佐藤俊斗

 

 

関連記事

人気記事