ソニー FE 50mm F1.2 GMレビュー|山本まりこ
はじめに
今年の春、ソニーG Master初となる開放F値1.2の大口径標準単焦点レンズFE 50mm F1.2 GMが発売になった。
焦点距離50mm、開放F値1.2のレンズ。
そしてGMレンズ。
聞いただけでもゾクゾクする。
11枚羽根円形絞りや超高度非球面XAレンズ、球面収差コントロールで、G Masterならではのとろけるようなぼけ味を実現している。そして、ナノARコーティングIIによる高い逆光耐性とヌケの良いクリアな画質、静止画・動画を問わず、高レベルな描写をサポートするAF性能を誇る。さらには、最短撮影距離0.4m、最大撮影倍率0.17倍の高い近接撮影能力を持つ、などなど心躍る高性能な言葉が並ぶレンズ。
お花に、ポートレート、旅に、使ってみたいと想像が膨らんでしまう。
初対面
そんなある日、我が家にFE 50mm F1.2 GMがやってきた。
箱から取り出してみる。
しっかりとした大口径のレンズ。
主な仕様は、
・外形寸法(最大径×長さ):φ87×108mm
・質量:778g
・フィルタ―径:72mm
・最短撮影距離:0.4m
・絞り羽:11枚
である。
特に筆者が注目したいのは、最短撮影距離が0.4mであること。
SONYの約60本のレンズ群の中で、焦点距離50mmのレンズは4本ある。
FE 50mm F1.2 GMの他の3本は、
・FE 50mm F2.5 G
・Planar T* FE 50mm F1.4 ZA
・FE 50mm F1.8
である。
この中で、
開放F値が近いレンズは、Planar T* FE 50mm F1.4 ZA。
Planar T* FE 50mm F1.4 ZAの最短撮影距離は、0.45m、すなわち45cmだ。
FE 50mm F1.2 GM は、Planar T* FE 50mm F1.4 ZA よりも5cm近くに寄れて撮ることができる開放F値1.2のレンズという事になる。Planar T* FE 50mm F1.4 Zの圧倒的な美しいボケは、筆者も愛してやまないところ。それを超えるF値と5cm近くに寄れるGMレンズ。
これは楽しみだ。
とろけるボケ力と俊敏なAF
台風がそれて、外ではミンミンゼミとヒグラシが大合唱をしている。
とても涼しい一日。
そう、台風が来ると言うので、昨日、作品撮りに向かった。
向かった先は、今住んでいる小さな海まちに小さな山、吾妻山(あずまやま)。136.2m。
もちろんレンズは、FE 50mm F1.2 GM。
山に向かうまでに、通りの庭先に咲くお花を撮影してみる。
F値を開放f1.2に設定して撮影。
こちらは、少し絞って撮影した写真。
2枚目の写真で分かるように、一般的な家屋の塀の柵のあたりで撮影している。開放f1.2に撮影すると、すぐ後ろの柵もトロリとボケる。まるで最初から背景として描かれている絵のように柔らかく滑らかにボケて写っている。
こ、これは…
FE 50mm F1.2 GMボケ表現力を目の当たりにし、このレンズはもしや被写体が何であれ物語のようなボケを描き出してしまう魔法のようなレンズなのではと期待が心に過ぎる。
ボケだけではない、AFもすこぶる爽快。
ピント面にスーッとピントが合う。いや今はほとんどのレンズがそうであると思うけれど、このスムーズさは爽快。新しくなればなるほど、レンズの性能が上がるのは分かっている。筆者が愛用しているPlanar T* FE 50mm F1.4 ZAよりも、断然俊敏なAF力を感じてしまうのだ。
焦点距離50mmで遊ぶ
焦点距離50mmと言えば、標準レンズと言われ、撮影をする中でど真ん中に位置するレンズだ。写真を楽しむ大多数の人が1本は持っていると言っても過言ではない焦点距離のレンズだ。例に漏れず、筆者も焦点距離50mmの単焦点レンズは大好きだ。
山に登り始める前に、焦点距離50mmの画角を楽しんでみようといろいろな被写体を撮影した。
心地のいい画角。
広いも、寄りも、どちらも美しい。
これを読んで下さっている方は、もしかしたら初心者の方かも知れないし、熟練者の方かも知れない。もし初心者の方がいたら、焦点距離50mmの単焦点レンズは1本持つことをお勧めする。被写体の間合い(被写体との距離感)を勉強するのには最適な焦点距離のレンズだと思う。そしてさらに、開放F値は、このレンズFE 50mm F1.2 GMのように絞り値(F値)が小さい数字の明るいレンズを持っていると楽しい。今回のこのレンズの開放F値は1.2。F値の数字が小さければ小さいほど、何かにピントを合わせたときの背景がトロリとボケる。
グッと寄ってみる
あ、ヒマワリだ。
吸い寄せられるように畑に咲いていたヒマワリに近寄る。
夏なんだなあ。そんなことを思いながら、シャッターを切る。
最短撮影距離0.4mに寄って撮影してみる。グッと寄る。
さらに、フルサイズからAPSCサイズに切り替えて(クロップして)撮影してみる。(APSCサイズにクロップ(1.5倍))
しべが、∞とか、数字の8に見えて可愛い。
さらに、超解像ズームで2倍に拡大して撮影してみる。(APSCサイズにクロップ(1.5倍)×超解像ズーム(2倍)で撮影)
少し絞って、絞りをF5.6にして撮影。(APSCサイズにクロップ(1.5倍)×超解像ズーム(2倍)で撮影)
50mmの単焦点レンズでも、フルサイズからAPSCサイズに切り替えて1.5倍で撮影したり、さらに超解像ズームで2倍にして計3倍ズームで撮影すると、こんなにも幅広い撮影ができる。最短撮影距離0.4mによって撮影し、さらには3倍ズームで撮影した写真は、マクロレンズで撮影したような迫力もある。1本でここまで幅広い撮影ができたら、それは楽しい。
山を撮る
さあ、山を歩いていこう。
夏でも、山を歩くのが好きだ。山に入った瞬間に、温度が変わる。体感で言ったら、5℃くらい下がるように感じる。小さな山でも、山の入口に入ると、すうっと気温が下がって気持ちがいい。
ボケ力を生かした柔らかい表現はもちろん美しい。
でも、クールな表現ももちろん美しい。
圧倒的なボケ力を楽しむ
それではここで、このレンズの圧倒的なボケ表現力を見て欲しい。
背景の映り込みの滑らかさ、優しさを体感して欲しい。
と、この写真を夢中になって撮っていたら、頭上でコンコンコンと音がする。ずっと止まないので見ると、コゲラが木をコンコンコンと突いている。
さすがに遠くの木にいるコゲラを焦点距離50mmのレンズでは取り切れない。そうだ、こんなときのために100-400mmレンズを持って来ていた!と思い出して、そおっとレンズ交換をして撮影する。
夢中になってコゲラを撮る。やっぱり、100-400mm、大好きなレンズだ。
そんな100-400mmについて知りたい方は、こちらの記事を読んで欲しい。
話を戻しましょう。
やっぱり、FE 50mm F1.2 GMのボケ力は、たまらない。
FE 50mm F1.2 GMとPlanar T* FE 50mm F1.4 ZAの描写を比較する
先述したが、私は既にソニーのレンズ群の中に愛する50mmレンズがある。Planar T* FE 50mm F1.4 ZAだ。圧倒的なボケ力を表現できながら、ピント面はスッキリシャープに描くことが出来る、エアリーを表現するのに欠かせないレンズだ。愛するあまりに、雑誌やネットなどで、その素晴らしさをいろいろと語ってきた。「どのレンズが好きですか。」と聞かれたら、迷わずそう答えてきた。だから、FE 50mm F1.2 GMが発売になったと聞いたとき、実は、試したいようで試したくなかった。愛するレンズのそれを超えるスペックのレンズが登場してしまったからだ。
さあ、でも、今回はレンズを試す機会をいただいたので、挑戦してみたいと思う。
FE 50mm F1.2 GMとPlanar T* FE 50mm F1.4 ZAの描写を比較してみたいと思う。
怖いような、嬉しいような、でもやっぱり怖いような。
山の中にヤマユリが咲いていた。
まずは、FE 50mm F1.2 GMで撮影。
次は、最短撮影距離に近づいて撮影。
思わず息を飲む。
美しいボケ表現力。
玉ボケの上に重なる被写体の影も美しい。
さあ、それではAPSCサイズにクロップして1.5倍で撮影してみる。
撮影しながら、美しさにため息が出る。
さあ次は、筆者の愛するPlanar T* FE 50mm F1.4 ZAで撮影。
さらに、APSCにクロップして撮影。
こちらも美しくて、ため息が漏れる。
いやでも、果たして、どっちがどうなのだろう。
撮っている時には、どちらも美しい。
では、並べてみたいと思う。
どちらがどちらかお分かりだろうか。
左が、FE 50mm F1.2 GMで、右がPlanar T* FE 50mm F1.4 ZAで撮影した写真だ。
なるほど。
比べてみるとよく分かる。
FE 50mm F1.2 GMは、開放F値が1.2とPlanar T* FE 50mm F1.4 ZAよりも明るい分、開放+最短撮影距離で撮影した場合、背景の玉ボケが大きく、ボケも少し強く表現できている。
さらに、FE 50mm F1.2 GMの最短撮影距離は0.4m、Planar T* FE 50mm F1.4 ZAは0.45mの分5cm近くに寄れて撮影できるので、被写体が少し大きく撮影できる。
まとめると、僅かだけFE 50mm F1.2 GMの方がボケが強く、被写体を大きく撮影できるということだ。
でも、ボケ表現はとても似ている。
どうだろう。
こんな風にまとめてみたいと思う。
Planar T* FE 50mm F1.4 ZAは、ソニーのレンズ群の中でもとにかく圧倒的なボケがありつつシャープさを共存させて表現したい方に、FE 50mm F1.2 GMは、それ以上のとろけるボケを表現したい方におススメのレンズと言えると思う。
比べて見てホッとする。
やはり私の愛するPlanar T* FE 50mm F1.4 ZAの描写力は素晴らしく美しい、そして、FE 50mm F1.2 GMはこれから作品撮りに加えたい1本に浮上したレンズである、ということと私の頭の中でまとまった。
ホッと一息を撮る
山を下りると、行ってみたかったレストランがあったので寄ることに。
「のうてんき」さんという、オーガニックな野菜を中心に優しい味付けのお料理のレストラン。ラタトゥイユプレートと、発酵和定食、ハーブティーを注文。無農薬のトゥルーシーを自分で摘んで、アイスティーにするという何とも素敵なアクションあり。
店主のまいこさんは優しい口調でお話され、たまたま居合わせた町の知り合いの方と話が弾み、さらには以前お話したと言う方ともお話でき、自分で摘んだトゥルーシーのアイスティーは聞いていたようにスパイシーで香り高く、ごはんは優しい味付けと可愛らしい盛り付けで気分が高揚し、なんとも素敵なお昼タイムになりました。ごちそうさまでした。
FE 50mm F1.2 GMで撮ると、日々がドラマティックになる、そう思いながらシャッターを切った時間。
おわりに
今回、ソニーG Master初となる開放F値1.2の大口径標準単焦点レンズFE 50mm F1.2 GMについていろいろ撮影した。さすが、開放f1.2のGMレンズ。開放で撮影すると、ドラマティックなボケでまるで物語が始まるような感覚さえも覚える表現力を持つレンズだ。
まだ試していない方、圧倒的なボケを撮りたい方は、ぜひ試して見て欲しい。
今これを書いている外ではミンミンゼミの大合唱が聞こえる。
夏のど真ん中。
先述したが、このレンズは、日常をドラマティックに描く力があると思う。
あなたの生活がドラマティックに。
今しか撮れないドラマティックな夏を、そんな写真を、ぜひ撮って欲しい。
■撮影協力:のうてんき
〒259-0124 神奈川県中郡二宮町山西885-5
090-5568-9615
のうてんき – オーガニック農業の情報発信基地
■写真家:山本まりこ
写真家。理工学部建築学科卒業後、設計会社に就職。25歳の春、「でもやっぱり写真が好き」とカメラを持って放浪の旅に出発しそのまま写真家に転身。風通しがいいという意味を持つ「airy(エアリー)」をコンセプトに、空間を意識した写真を撮り続けている。