ソニー FE 50mm F1.2 GM レビュー|葛原よしひろ
はじめに
今回レビューさせて戴くレンズはSONY(ソニー)から新しく発売されましたFE 50mm F1.2 GMです。焦点距離50mmの標準レンズなのですが、何と開放絞りF1.2と凄く明るいレンズということでワクワクが止まりません。早く撮影したい気持ちを抑えられないので早速作例を交えながらレビューさせて頂きます。
開放F1.2でのポートレート撮影
開放F1.2の実力を確認する為、まずは本レンズをα7Cに装着してポートレート撮影を行いました。今回ご協力戴きましたモデルさんは世界的ミスコンテスト、ミスグランドジャパン2019グランプリの湊谷アドリンさんです。都内の八芳園さんにも御協力戴き、お庭の桜の花をバックにエキゾチックな雰囲気が魅力のアドリンさんを開放F1.2で撮影しました。
明るい春のイメージにしたかったので露出を少しオーバー気味に撮影してみました。ピント面の解像感は、これぞGMシリーズと言わんばかりの描写力で微笑むモデルさんの表情をしっかりと表現してくれます。そしてピント面からのボケが本当に柔らかく、なだらかなので少し強めの光の中でも優しい雰囲気で写し止めることができました。このような絞り開放の撮影で、背景の桜にも強い光があたり、その光に包まれている状況でもディテールが残ってくれるので、安心して開放F1.2で撮影出来るのは心強いですね。
こちらは赤い毛氈(もうせん)を構図に入れて、先程よりも落ち着いた雰囲気にしたかったため適正露出にて撮影。適正露出にすると良く分かることの一つがレンズの発色性能です。本レンズはグラデーションも含め豊かに表現され、毛氈の赤、背景の緑、モデルさんの衣装の藤色、原色から淡い色まで美しく再現してくれます。人物を追いかける瞳AFにも高速かつ高精度に対応しており、撮影中は肉眼でのピント合わせが難しいF1.2の薄いピントを合焦し続けてくれました。
40cmの最短撮影距離
このレンズの最短撮影距離は40cmと標準レンズとしては被写体に寄れるレンズなので、このように花に寄って撮りたい時にも重宝します。開放F1.2、しかも寄れるという事でとろけるようなボケの表現を堪能出来ます。
浅い被写界深度の世界は、何の変哲もない公園のベンチすら作品にしてくれます。
スナップを愉しむ
続いてはα7Cに装着して大阪の淀屋橋界隈でスナップ撮影。この辺りは古く趣のある建物が多く残っているのでスナップ撮影が楽しいエリアです。この建物も歴史を感じるビルなのですが、そこに少し傾き始めた日の光が当たる事でフォトジェニックになります。そしてビル外壁の煉瓦一枚一枚の模様までFE 50mm F1.2 GMが解像してくれることにより歴史の重厚感を演出してくれました。
こちらも同じ場所でのスナップ撮影。格子窓の内側に豪華なシャンデリアの灯が見えたので近づくと、窓に向かい側のビルが写り込んでいて良い雰囲気だったのでシャッターを切りました。ピント面のシャンデリアを、格子窓のなだらかなボケがより美しく引き立ててくれます。絞りF2.5での撮影でしたが開放F1.2と同じ柔らかで自然なボケなので、ニュアンスが変わらずとても使いやすいレンズという印象です。
少しのどが渇いたのでカフェに立ち寄ると、店内の装飾に心奪われてしまい喉を潤す前に許可を得て撮影開始。落ち着く店内のセンスの良い間接照明は居心地が良い反面、写真を撮るには暗すぎる事が常。ただそんな薄暗い場所でも流石開放F1.2のレンズは暗さを物ともせずに、素早くAFが合焦してくれるのでストレスなく撮影が出来ました。このAFスピードと暗所性能はスナップ撮影にはかなりのアドバンテージになりますね。
風景での解像力
次はα1に装着して風景撮影に使用してみました。地元の滋賀県高島市でノウルシが満開だったので撮影してみました。本レンズはノウルシの小さな花一輪までもディテールが損なわれる事無く解像してくれますので、このような引きの構図でも成立させることが出来ます。青空と白い雲のグラデーションや後ろの雑木林も発色も含めきちんと描写されているので、ここまで撮影をしてきて分かってはいたのですが風景撮影に使用しても最高の画質を得ることが出来ました。
Planar T* FE 50mm F1.4 ZAとの比較
ここからは皆さんも気になるところだと思いますので、FE 50mm F1.2 GMより以前にSONYより発売されておりますPlanar T* FE 50mm F1.4 ZAとの比較をしてみたいと思います。
レンズ本体の外観の比較写真ですが横向けにした状態では殆ど同じ大きさに見えますね。
こちらはレンズ前玉方向から見た写真です。フィルター径はどちらも72mmなのでレンズ外径は殆ど同じくらいに見えますが、FE 50mm F1.2 GMの方が少しだけ太い印象ですね。
こちらはそれぞれの付属品であるレンズフード装着状態です。レンズフード装着状態ではPlanar T* FE 50mm F1.4 ZAの方が長くなりました。因みにカタログの表記を比べてみると、
・FE 50mm F1.2 GM:フィルター径72mm、長さ108mm、最大径87mm、重さ778g
・Planar T* FE 50mm F1.4 ZA:フィルター径72mm、長さ108mm、最大径83.5mm、重さ778g
ということで殆ど同じ大きさと言っても良いレベルだと思います。シリーズ名こそZEISSとGMの違いは有りますが、純正メーカーから開放値がF1.2とF1.4のレンズとして発売されていて、殆ど同じ大きさと重さというのはかなりビックリしました。GMには本当に凄いと感心しつつ、Planar T* FE 50mm F1.4 ZAの肩を持つ訳では無いですが、やはり2016年7月発売と5年前のレンズなんですよね。という事で、ここは素直にSONYのレンズ開発陣の5年の成果に感謝です。でも少し考えると今の技術でF1.4を造ったら、どれだけ小さく軽くて良いレンズが出来るのかも興味が湧きます。
もう少し比較を続けますが、今度は外観では無く性能面の比較です。5月という事でモデルさんは五月人形です。
ボディはα1を使用して全く同じ設定で撮影しております。この2枚は上がFE 50mm F1.2 GM、下がPlanar T* FE 50mm F1.4 ZAで、どちらのレンズとも最短撮影距離にて、それぞれの開放絞りで撮影しました。色々違いは有るのですが、大きな違いとして圧倒的にFE 50mm F1.2 GMの方が寄れるという事が分かりますよね。明るい50mmというレンズの性格上、ポートレートや花の撮影での使用が多いレンズだと思いますが、そういった被写体の場合に寄れるという事が大切な性能になってきますので、最短撮影距離の短いFE 50mm F1.2 GMの方が使いやすいと思います。
少し拡大した方が説明しやすいので、同じ箇所をトリミングした写真を見て下さい。
上がFE 50mm F1.2 GMで撮影した拡大写真で、下がPlanar T* FE 50mm F1.4 ZAで撮影した拡大写真です。解像感の差が歴然としていることが分かります。
またAFのスピードについては、静止している被写体でも動体撮影時の被写体を追いかけて合焦する性能でも、FE 50mm F1.2 GMが圧倒的に速くて正確かつ追従してくれました。
ここまで書くとPlanar T* FE 50mm F1.4 ZAが悪いレンズみたいになってしまいますが、決してそのような事は無くFE 50mm F1.2 GMが良すぎるというのが私の印象です。先程も書きましたがSONYの技術者の5年の努力の結晶ですから。それに、レンズ選びで何より難しいのは自分の好みの写真が撮れるかという点が重要なので、そこは数値だけでは測れないという難しさであり楽しさでも有ります。
夜景撮影とマニュアルフォーカス
最後は夜景撮影をしてみました。全て前述しておりますが解像感、発色、暗所性能、夜景撮影に必要な性能が全て備わっておりますので何一つ不自由なくAFで撮影可能です。しかし、今回は操作感の確認も含めあえてMFで撮影してみました。MFも気持ちよく操作可能で、個人的にもピントリングのトルク感も含め非常に使い易かったです。抜けも良いので夜景撮影にもってこいのレンズですね。
さいごに
まとめになりますが最初にFE 50mm F1.2 GMを見た時、フルサイズ用の焦点距離50mm開放F1.2のレンズがこんなに小さく軽い事に本当に驚きました。それでいて、物理的操作系の絞り環や絞りクリックのオンオフ切替スイッチ(これは動画撮影時には必須なので有ると嬉しいスイッチです)。そしてAF/MF切替スイッチと他機能に設定変更可能なフォーカスホールドボタンも2か所に装備されています。
目で見えない部分では、4機の高性能なXDリニアモーターを搭載しており高速かつ追従性に優れたAFを可能にしています。また、今回作例は出せませんでしたが効果は実感することが出来たナノARコーティングIIによる対逆光性能、防塵防滴に配慮した設計等、本当に実用的な機能を満載しており、その点でもこの重量によく抑える事が出来たなと感心させられます。勿論GMシリーズのレンズとしての高級感も保たれており、所有する喜びも満たしてくれます。このレンズで、これから何をどんなふうに撮影しようかと考えるだけで楽しくなるレンズでした。
■写真家:葛原よしひろ
ジャンルに捉われず何でも撮影するマルチプレイヤースタイルの写真家。カメラメーカー等の写真セミナー講師としても全国的に活動している。
大阪芸術大学写真学科卒/滋賀県高島市公認フォトアドバイザー
JPS(日本写真家協会)正会員