目からうろこ!並木隆の花撮影術|みなさんピントはどこに合わせてます?
はじめに
花撮影のピント位置の基本は「花芯」ですが……あくまで基本であって、花芯にピントを合わせなきゃいけない! という決まり事ではありません。
でも、花撮影の解説にはだいたい「花芯にピントを合わせましょう」と書いてありませんか? これは、花全体の印象を見せたいフレーミングをしたときに花芯が見える角度からレンズを向けたなら、ピントを合わせる位置は花芯がいいですよ、という意味なんです。だから絶対じゃありませんし、当然ながら例外もあります。
ピントの基本は花芯だけど……
例えばチューリップを撮るときにどんな角度からレンズを向けていますか? だいたいがカップのように見える真横から、花芯が見えない角度からレンズを向けていますよね。その角度からがキレイだと思ったからでしょ? でもそのときどこにピントを合わせていますか? 「花芯は茎の上にあるから茎!」なんて思っていませんか? 見えない花芯にピントを合わせる必要も、そこまで基本に忠実になる必要もありません。この角度から見たときにキレイだと思ったのは花びらの部分ですよね。だったら手前の花びらにピントを合わせればいいのです!
ではバラはどうでしょう? 花の正面からレンズを向けたとしても、花芯が見えるバラもあれば見えないバラもあります。花芯が見えるなら花芯でいいですし、見えないなら花びらの巻いている中心でいいんです。花全体にピントが合っていなくても大丈夫です。
んじゃもうひとつ。タンポポならどうでしょう? この角度だと花芯といっても奥行きがありますねぇ。手前に合わせたものと奥に合わせたものを比べてみると、手前に合わせている方がすっきり見えませんか? 奥に合わせたものは手前の花芯が中途半端にボケているので気になるだけでなく、ピンボケのように見えてしまいます。だからこの場合は手前にピントを合わせた方がすっきりしますね。
このように花の形、アングル、方向によってピントを合わせるところはいろいろなんですが、共通しているのは「手前」ってことです。花芯があれば、見えれば花芯の手前、花びらなら手前の花びらに合わせておくとだいたい大丈夫ってことです。でも花全体の印象のときだけですからね。
それともうひとつ、花芯にピントを合わせなきゃいけない=花芯が見える方向からレンズを向けなきゃいけない=花芯が見える正面からレンズを向けなきゃいけない、と思ってしまう人が実はたくさんいます。
どんな角度からレンズを向けてもいいんです。花がキレイだなと思う方向からレンズを向けましょう。後ろからだって下からだっていいじゃないですか、それがキレイだと感じるなら。
クローズアップのときには……
こう書くと花撮影のピント位置は手前に合わせるのが正解なんだ! って思ってしまう方が多いのですが、これが当てはまらないこともあるんです。それがマクロレンズによる、小さい花や花の一部分をクローズアップしたときです。
マクロレンズではクローズアップするほど被写界深度が浅くなり、撮影倍率が等倍のときには被写界深度が1mmと非常に浅くなります。オオイヌノフグリのような、花は小さいけれど花芯がニョキっと伸びていて花びらと花芯に距離のある花を正面から狙うと、花芯にピントを合わせると花びらがぼけてしまい、次に花びらにピントを合わせたら花芯がぼけてしまうことになり、いったいどちらに合わせていいか迷ってしまいます。絞り込んで被写界深度を深くしようとしても数mm程度の被写界深度しか得られず、花芯と花びらの両方にピントを合わせるのは難しいのです。
ではこういう場合どっちにピントを合わせばいいのか? はい、どっちでもいいのです! 花の印象を強く見せたいなら花びらにピントを合わせればいいですし、花芯の印象を強く見せたいなら花芯でいいのです。どっちが正しい、正しくないではなく、どこに合わせたらどんな印象になってどっちがご自身の好みか、でピントの位置は変わっていいのですよ。
でも撮影しているときにどこにピントを合わせたらいいのか迷ってしまいますよね。そんなときはピントを合わせる位置を変えて複数枚撮ってみましょう。その上で比較しながらどのように印象が変わるのかを、ご自身で判断するのです。花の形によって花芯の方が好みの場合もありますし、花びらの方が好みの場合も出てきます。そうすれば自然と答えが出てきますし、それが正解ってことになるのです。
クローズアップでは花芯以外にも目を向ける
マクロレンズは小さいものをクローズアップするイメージが強いですが、花の一部分を切り取ることも得意です。そのとき花芯にピントを合わせるという基本を忠実に守っていると、どんな花でも花芯のクローズアップしか撮ることができません。
花をクローズアップするときは花をよく観察し、気に入った一部分だけを切り取り、そこにピントを合わせましょう。そのとき、どんな花のどの部分という説明の要素を入れようとすると主題や表現の曖昧な作品になりやすいので、大胆に切り取るのがポイントです。
どこを切り取ったら、どこにピントを合わせたらいいのかではなく、花をよく観察して気に入った部分や、それがよりキレイに見える角度を探しましょう。
花びらの縁は、花びらに平行にカメラを構えたらピントの合う縁の範囲は広がり、鋭角に構えると狭くなります。ピントを合わせる場所は……どこでもいいですよ!
花びらの先端のとがった部分なんかも面白いですね。上からや下からなど見る角度を変えると印象も変わってくるので、いろいろな角度から観察してお気に入りのアングルを探しましょう。
花びらの色が分かれているところです。これも花びらの縁と同じで、平行に構えるか鋭角に構えるかでピントの合う範囲が変わってきます。平行にした上で絞り込むと全体に合いやすくなります。
花の印象なら手前の花びらですが、ワイングラスのような曲線がキレイだなと思うなら外周の縁の部分にピントを合わせてもいいですね。
花びらの間から見える茎だって立派な被写体です。人と違う視点を持つことも写真を変える重要なポイントです。
葉っぱがキレイだなと思ったら葉っぱにピント合わせればいいのです。その中でキレイだなと思う部分にピントを合わせましょう。
こう書くと、今度は「花芯にピントを合わせるのはダメなのか!?」って思う人もいます。そんなことは一切言ってませんよ。花芯がキレイだなと思ったら花芯にピントを合わせてもOKです!
群生地での撮影
花畑のように、たくさん咲いているところで前後のボケを使って一部分にピントを合わせるとき、花がありすぎてどこにピントを合わせたらいいのかわからなくなりますよね。正直言うと私だってわかりません(笑)。こういうときはMFに切り替えてピントの位置を手前から無限遠の方向にジワジワとずらしながら、ピントの位置が変わるとどんな印象になるのか確かめながら撮影し、このように複数枚撮影した中から一番いいなと思うものを選ぶようにしています。
このようにどんどんピントの位置をずらしていくと、撮影する前は見えていなかったものが見えてくるときも多々あります。特に望遠レンズを使っていると手前にピントを合わせたとき遠くにあるものは大きなボケになってしまうので、どんな被写体があるのかすらわかりません。また肉眼で見ても遠くにあるものは小さくしか見えないのでキレイかどうかもわかりません。でもこうやってピントをずらすことによって、気付かなかった被写体に気付けることも多いので是非真似してほしいです。
おわりに
ピントをどこに合わせるのか? というのは何を主題にするのか、どんな表現をするのかによって変わってくるのです。花の撮影で「ここにピントを合わせればよい!」という答えは存在しないので、迷ったら迷ったぶんだけピントの位置をずらして撮影し、撮影後にそれぞれがどんな印象になるのかを確かめて自分が一番いいなと思うものを選べばいいのです。そうやって迷いをなくしていくと、ピント位置で迷うことも少なくなっていきますよ。
■写真家:並木隆
1971年生まれ。高校生時代、写真家・丸林正則氏と出会い、写真の指導を受ける。東京写真専門学校(現・ビジュアルアーツ)中退後、フリーランスに。心に響く花をテーマに、各種雑誌誌面で作品を発表。公益社団法人 日本写真家協会、公益社団法人日本写真協会、日本自然科学写真協会会員。