ダイヤモンド富士撮影のポイント vol.3 「ダイヤモンド富士の撮影テクニック」

TAKASHI
ダイヤモンド富士撮影のポイント vol.3 「ダイヤモンド富士の撮影テクニック」

はじめに

これまでダイヤモンド富士の撮影に関して、Vol.1「ダイヤモンド富士とは:基礎知識」ではダイヤモンド富士の撮影に必要な知識について、Vol.2「ダイヤモンド富士撮影の機材」ではダイヤモンド富士の撮影に適した機材の情報について、それぞれご紹介してきました。
今回は最終回としてVol.3「ダイヤモンド富士の撮影テクニック」と題して、いざダイヤモンド富士を撮影する時の助けになるテクニックについてご紹介します。

ダイヤモンド富士の命は美しい「光条」ですが、Vol.2でご紹介した通りゴーストを最小限にして美しい光条を得るためには、富士山頂に太陽が半分から2/3くらい隠れるタイミングが良いとされています。その間、わずか30秒程度ととても短いので、勝負は30秒と心得てください。(実際にその30秒を見極めるには経験が必要ですが)

ただし、条件によってはその前後の時間帯の方が良い光条を得られる場合もあります。また、Vol.1でご紹介したダブルダイヤモンド富士やトリプルダイヤモンド富士は上記のタイミングの前後の時間帯(沈むダイヤモンド富士では「前」、昇るダイヤモンド富士では「後」)にやってきます。セオリー通りのタイミングを逃さないことは重要ですが、その前後も撮影しておくようにして下さい。
したがって、慣れていないとダイヤモンド富士の瞬間は結構慌ただしくなります。

今回はいざダイヤモンド富士という時の助けになるテクニックについてご紹介します。

※本連載ではデジタルカメラで富士山周辺(富士山から20km前後)からダイヤモンド富士を撮影する場合についてご紹介します。遠距離から撮影する場合やフィルムカメラで撮影する場合も多くは同じですが異なる部分もあります。

※本連載ではダイヤモンド富士撮影の経験から得た私なりの知識とテクニックを基本としています。私と異なる知識やテクニックによって最高のダイヤモンド富士を極めている方々もいらっしゃいます。皆様にはより広い視野で様々な知識やテクニックを習得していただき、ご自身に適した道を見出していただければ幸いです。

最も重要なのは「絞り」

Vol.2で光条の数はレンズの絞りばねの数で決まるとご紹介しました。したがって、光条の数はテクニックで変えることはできませんが、光条の長さや明瞭さは絞りによってある程度コントロールできます。
ただし、画角、薄雲の有無、レンズの個性によってもそれは変わってくるので、ここでは私が行っている基本設定をご紹介します。

ダイヤモンド富士撮影でベストな絞りは最大絞り(一般的なデジタル一眼ではF22くらい)という説もありますが、私の場合はF16を基本としています。F16で光条が伸びすぎたりしていると感じたら(画像1)のようにF11くらいまで変更して撮影します。F16以上に絞らないのは小絞りボケを避けるためですが、逆光のダイヤモンド富士をアンダー露出で撮影する場合、小絞りボケはさほど問題にならないとも言えるのでさらに絞って撮影する場合もあります。

初めてのダイヤモンド富士撮影では途中で絞りを変更することは難しいでしょうから、最初はF16で撮影されると良いかと思います。

【1】

■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 24-70mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離28mm、絞り優先露出(F11・1/400秒)、ISO100

フォーカスの取り方

実際にダイヤモンド富士を撮影して困惑することが多いのはフォーカスミスではないでしょうか。私も、ダイヤモンド富士の強い逆光でオートフォーカスが迷ってしまう結果、ピンボケしたり、シャッターが切れなかったりするトラブルを経験しました。(画像2)

【2】

■撮影機材:ソニー α7R III + FE 24-70mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離62mm、マニュアル露出(F16・1/500秒)、ISO100

マニュアルフォーカスで画角を固定して撮影される方もいらっしゃいますが、いざダイヤモンド富士になるともう少し画角を広げたり、ズームしてアップにしたくなったりします。そこで、私の場合はオートフォーカスを使用しますが、フォーカスエリアをワイドやゾーンやマルチなどにすると太陽光に引っ張られてフォーカスが迷う原因となるため、スポットフォーカスに設定しています。そして(画像3)のように、太陽の位置から離れた富士山の裾野などにフォーカスポイントを置いて撮影しています。一つの方法として参考にしていただければと思います。

【3】

画面のフォーカスポイントはイメージしやすいように後から書き加えたものです。

撮影モードについて

次に迷われるのは撮影モードでしょうか。基本的に絞り優先モードかマニュアルモードの2択かと思いますが、私はマニュアルモードで撮影することが多いです。その方が露出をコントロールしやすいからですが、慣れないうちは絞り優先モードでも良いかと思います。また、タイムラプス撮影などの場合は絞り優先モードを使用します。

ただ、ダイヤモンド富士の前後は露出が変化するので、露出ブラケット撮影を駆使するのも良いでしょう。ブラケット枚数は3~5枚くらいで、露出差は0.5~1.0EVくらいが良いです。カメラのバッファーが小さく連続撮影枚数が直ぐにいっぱいになってシャッターが切れなくなる場合は、ブラケット枚数を2枚や3枚と抑えてください。

適正露出の取り方

ダイヤモンド富士でもっとも考えの分かれる所が露出の取り方でしょう。強いアンダーで撮影してダイヤモンドの光条を際立たせたい、富士山の表情(夏なら山肌、冬なら冠雪)もしっかり写したいなど撮影結果のイメージで適正露出はかなり変わってきます。
初めはどの露出に合わせるのが良いかわからないことも多いでしょう。そんな時は光条が白飛びしすぎない露出を選んでブラケット撮影するのも一つの方法となります。ブラケット撮影した結果からイメージに合う一枚を選べば良いのです。

マニュアル露出で撮る場合、沈むダイヤモンド富士の場合はダイヤの直前に露出を決定します。ダイヤ以降は暗くなっていくのでブラケット撮影する場合はブラケット順序を「0 → +」方向に設定すると良いでしょう。

昇るダイヤモンド富士の場合もダイヤの直前に露出を合わせますが、ダイヤの直後からどんどん明るくなるのでブラケット順序を「0 → −」方向に設定すると良いでしょう。
ちなみに、ISO感度は標準感度に固定します。私が現在使用しているSONY α7R Vの場合はISO100です。

※Vol.2 でご紹介したように薄雲があるとそもそも光条が発生しない場合もあります。

(画像4)はダイヤモンド富士を撮り始めた頃のブラケット撮影の3枚です。現在はブラケット撮影の使用機会が少ないので以前のものになります。当時使用していたPanasonic LUMIX DMC-G2ではブラケット撮影の露出差設定も枚数も大きくできなかったので、1/3EVで3枚の撮影で露出差をあまり感じません。今なら0.5EVで5枚程度、1.0EVで3枚程度ブラケット撮影するでしょう。

また(画像4)ではF18まで絞っていますが、当時のレンズでは光条が際立たなかったので結構絞って撮っていました。

【4】

■撮影機材:パナソニック LUMIX DMC-G2 + Lumix G Vario 14-42mm F3.5-5.6 ASPH
■撮影環境:焦点距離39mm(フルサイズ換算78mm)、絞り優先露出(F18・左:1/4000秒、中央:1/3200、右:1/2000)、ISO100

「ゴースト」を減らすには

いざ、ダイヤモンド富士を撮影するとゴーストに悩む場合が多々あります。Vol.2では単焦点レンズの使用についてご紹介しましたが、ここではその他の方法についてご紹介します。

一つ目の方法はアンダー露出で撮影する方法です。
(画像5)では富士山の上にゴーストが発生していますが、(画像6)のようにアンダー露出にすれば目立たなくなります。

【5】

■撮影機材:ソニー α7R III + FE 24-70mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離50mm、絞り優先露出(F16・1/250秒)、ISO100

【6】

■撮影機材:ソニー α7R III + FE 24-70mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離50mm、絞り優先露出(F16・1/500秒)、ISO100

2つ目としてはミラーレスの場合に有効ですが、ビューファインダー(EVF)を見ながらゴーストが目立ちにくい位置になるような構図を選ぶ方法です。慣れが必要ですが手持ち撮影ならそれほど難しくありません。

3つ目としては太陽を中心にして広角で撮影し、後からトリミングで適切な構図に切り出す方法です。レンズによって異なりますが、ゴーストの代わりに鏡胴内の反射によるリングが強く発生する場合があるので、その点に注意が必要です。

4つ目は現像(レタッチ)でゴーストを修正する方法です。暗部のディテールが目立たないアンダー露出で撮影した場合に特に有効で、AIの進化で自然に修正することも可能になりました。この場合、修正部分が不自然にならないように注意することと、フォトコンテストなどに応募する場合は規定に反しないか確認する必要があります。

まとめ

ここまで3回の連載で「ダイヤモンド富士撮影のポイント」についてご紹介してきました。ダイヤモンド富士は一般的なカメラとレンズで十分撮影できますが、奥も深いので、実際の撮影では今までご紹介してきた基本的な内容を応用することが求められます。この3回の連載により素敵なダイヤモンド富士撮影の早道になれば幸いです。

 

 

■写真家:TAKASHI
2011年から富士山をメインテーマに風景写真を撮り続ける富士山写真家。主な所ではNational Geographic Traveler誌の2018年6/7月号表紙に採用されSony World Photography Awards 2018日本3位受賞、WPC 2022 (ワールドフォトグラフィックカップ)で日本最高得点を受賞。作品は世界各国のT V番組・写真集・専門誌・カレンダーなどで数多く紹介・掲載されている。
2019年1月銀座ソニーイメージングギャラリー、2020年1月銀座MEGUMI OGITA GALLERY、2023年3月あさご芸術の森美術館、他で写真展を開催。透明感のある美しいカラー、ダイナミックなコントラストのモノクロ、深みがあり記憶に残るブルーインクシリーズと多彩な作品を世界に発表し続けている。

 

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