風景写真の引き出しを増やす!|その12:撮影ポジションを意識しよう
はじめに
撮影ポジションとはすなわち「カメラをどの位置に構えるか?」ということ。特に難しいことではないのですが意外と意識できていない方が多い印象です。そこで今回は私自身が撮影する際、どういったことを考えながらカメラ位置を決めているのか?を解説しながら進めてまいります。
撮影ポジションの重要性
写真を撮る時に大切なことと言えば「ピント」「絞りやシャッタースピード、露出補正」など、他にも多岐に渡りますが、まずカメラの設定や扱いに関する事が思い浮かびます。
ただ、それらは機材の高性能化が進むに従って自動化されてきました。ある程度のことまではカメラが勝手にやってくれますので「シャッターを押せば誰にでも簡単にきれいな写真が撮れる」とも言えます。
もし失敗したとしても写真の明るさや色などは後から修正可能ですし、撮影後にリカバリーできることも多いですよね。
では、撮影ポジションはどうでしょうか?具体的にはカメラ位置の「左右」「高低」「前後」、そしてそれらの組み合わせが挙げられるのですが、撮影から戻り写真を見た時「もう少し左から撮れば良かった」とか「カメラを低くして撮れば良かった」等を反省することが誰しもあるでしょう。
また自分では気づいていなくても、仲間から指摘される・・・なんてこともありますよね。しかし悔やんだところで撮影後の修正は不可能。撮影時にしっかりと考えながら撮っておく必要があります。
構図決定に撮影ポジションの意識をプラス
構図やフレーミングという言葉から皆さんはどんなことを連想しますか?
【ファインダーを覗く(モニターを見る)→ 狙ったところにカメラを向けズームレンズで画角調整】
この一連の動作は私を含めた全員が写真撮影の時に行っています。しかし構図決定の要素はそれだけではありません。加えて「撮影ポジション」の意識を取り入れてみましょう。
単に広く撮りすぎたと感じた場合は撮影後のトリミングで対応できますが、前項でも触れた通り「どこにカメラを構えるか?」は撮影時に決めるしかないのです。以下、作例と共に解説していきますので撮影の参考にしてくださいね。
(1)カメラの左右
左右の場合は2通りの意味合いがあります。ひとつは「自分の立つ位置を変えずに左右にカメラを振る」もうひとつは「左右に動いてカメラを構える位置を変える」です。
前者に関してはわざわざ意識しなくても自然と行っている動作だと言えますが、後者は意識しておかないとおろそかになってしまいます。
【写真1】上 【写真2】下
【写真1】や【写真2】のように遠くの風景を望遠レンズで切り取る。
また、主役の前後に対比させるものがない場合は立つ位置を変えずにカメラを向ける方向や画角を調整して構図のバランスを取ればOK。構える位置をそう気にする必要はありません。
【写真3】上 【写真4】下
彼岸花のつぼみが木に寄りそうシーンを撮影。【写真3】に対して【写真4】はやや左側にポジションを決めて撮影しています。中央の木の両横を見るとわかりますね。
【写真3】はNGカット。中央の木の左側に奥の木が重なってしまい画面が重くなりがち。
対して【写真4】はOKカット。木の両横に適度な空間が生まれ遠近感が出ています。木々が立ち並ぶような場所ではカメラ位置を調整して、その重なりを整理することが重要です。
【写真5】
上記【写真3】と【写真4】で解説したような点に注意して、多くの木々がなるべくバランスの良い配置となるよう左右に動きカメラ位置を決めました。
【写真6】上と【写真7】下
この2枚はどちらが良い悪いではなく、表現の違いだと思ってご覧ください。【写真6】では石楠花と滝を対比させるようにカメラ位置を決めました。
対して【写真7】は【写真6】より左側にカメラ位置を決めて石楠花の中央を滝が突っ切るような表現としました。
【写真8】上と【写真9】下
【写真8】はNGカット。小さく可憐なバイカオウレンの花に対して前ボケが出しゃばり過ぎた印象です。対して【写真9】はわずかに左に動くことで前ボケを控えめに取り入れたカット。もちろん背景の光と影のバランスも見ながらフレーミングしています。
ボケと主役の距離感が近いほど繊細にカメラ位置を探る必要があり【写真8】と【写真9】では数センチほど左右の位置が変わる程度です。
(2)カメラの高低
次は高低です。目線で撮るのか?それより高く構えるのか?もしくはしゃがんで低く構えるのか?これらを意識しながらカメラを構えましょう。当然高低が変われば描写が変わります。
【写真10】上と【写真11】下
【写真10】は中腰くらいの高さ【写真11】はしゃがんで低い位置にカメラを構えています。
カメラ位置が高いと道が奥まで続いていく様子が描かれ、カメラ位置が低いと落葉のじゅうたんが強調されます。これら2枚に関しては遠近表現の違いですので両方ともOKカットです。
【写真12】上と【写真13】下
【写真12】は目線くらいの高さ【写真13】は水面ギリギリほどの低い位置に手持ちでカメラを構えています。
これら2枚に関してもどちらが良い悪いではなく、遠近表現の違いですので両方ともOKカットです。
カメラ位置が高い方が湖の広さが感じられるのに対して、カメラ位置が低い方は水面の揺らぎが感じられます。カメラの高低が変わることに伴い絞りの数値も変えています。
【写真14】上と【写真15】下
晩秋の情景を描いた2枚ですが上の【写真14】はNGカット。目線で撮影したものですが背景が白っぽく写ってしまい軽い写真になってしまいました。
それに対して【写真15】は対岸が写らず、深い水色が背景に来るようにやや高い位置にカメラを構えました。身長が届かないのでカメラを目線より持ち上げてチルト式液晶モニターを下に向けて撮影しています。
撮影前に左右や高低を変えることで背景がどう変わるのかが想像できるようになるのがベストですが、慣れないうちはとにかくポジションを変えて試してみましょう。
(3)カメラの前後
最後は前後です。また単に前後を動くだけではなく、場合によってはレンズの焦点距離まで考えないといけないので難しいと言えます。
【写真16】
ミツバツツジのアーチと桜のバランスを見ながら前後の位置を調整しています。前に出てミツバツツジに近づけばアーチが広がりますし、後ろに下がればアーチが狭まります。
ここでは単焦点レンズを使いましたがズームレンズの場合は自分が動くことを忘れて焦点距離だけの調整で済ませてしまいがちなので注意しましょう。
【写真17】上 【写真18】中 【写真19】下
レンゲツツジ咲く高原に霧が立ち込めるシーン。これら3枚はどれが良い悪いではなく表現の違いです。
「手前のツツジからカメラまでの距離が近く画角が広い」順に【写真17】→【写真18】→【写真19】です。前に出て超広角域を使えば、ツツジのボリューム感が増えて奥の木が小さく写るので空間が広く描かれます。
対して後ろに下がり標準域を使えば肉眼に近い自然な遠近感になっています。ツツジと奥の木の大きさの対比に注目して3枚を見ると描写の違いに気づくでしょう。
【写真20】上 【写真21】下
2枚とも同じ超広角域を使っていますが、カメラの前後位置と高さが違います。【写真20】はやや後ろに下がって風景全体を主役と考えています。対して【写真21】は立ち枯れの根を主役と考え、その迫力が出るよう前に出て低めの位置から撮影しました。少し動くだけで写真の雰囲気が変わることを感覚的につかんでおきましょう。
まとめ
最後に私から質問です。カメラを構える時「いきなりファインダーを覗いて(モニターを見て)構図を決める」or「概ねどこに構えるかを決めてからファインダーやモニターを見て構図を決める」さて、皆さんはどちらでしょうか?
これはどちらが良い悪いではなくケースバイケースなのですが、特に考えずにファインダーを覗いてしまうと細かな部分が見えなくなってしまうことがあるので、筆者はどちらかというと後者です。
そして、最初に構えた位置から自身が動かずにズームレンズの画角調整とカメラを左右に振ることだけにとらわれてしまって、ベストポジションを探れないままに撮影している方も多いように感じます。
三脚使用時は特に顕著で、そういう意味では手持ち撮影の方が動作の制約が少ないために自由なポジションで撮れているように感じます。
今回解説した中で言うと(1)の左右→(2)の高低→(3)の前後の順に意識するのが難しくなっていく印象です。ここまで読んでそれらが出来ていないと感じた方は次の撮影からぜひ実践してくださいね。大切なのは足で稼ぐことです!最後までお読みいただきありがとうございました。
■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニープロイメージングサポート会員・αアカデミー講師