山岳写真の魅力とはじめ方について|スズキ ゴウ
はじめに
カメラのキタムラShaShaをご覧のみなさま、はじめまして。
私は、四季を通じて山の写真を撮影している @endlesssummer10 こと、スズキゴウと申します。
SNSで見たことがある写真ではなく「誰も撮っていないオリジナルな一枚」を求めて日本全国の山々を歩き、自分の感性で撮影ポイントや構図を「Dig」(HIPHOP用語で、レコード店の中から素晴らしい1枚を掘り出す意味のスラング)しながら、唯一無二の「自分だけの一枚」を追い求めています。
春には山菜を摘み、夏は畑で無農薬野菜を育て、冬はバックカントリースキーを楽しみながら、一年を通して山や自然に寄り添った生活をしています。そんな中で「山で写真を撮ること」は、私にとってのライフワークであり、自己表現の一つとなっています。
日本山岳写真協会フォトコンテスト一般の部で特選を受賞した作品
雑誌Sotoの巻頭カラー見開きで使用された紅葉と雲海の穂高連峰
白馬のクラフトビールブランド、Hakuba Brewing Companyの6本入りのBoxsetで使用されている写真
山岳写真をはじめるには
「山の写真を撮る」と一口に言ってもなかなかハードルが高いというか、そもそも山頂付近からの写真になると「登山が出来る」前提になってしまうため、登山経験がなければ、写真撮影にたどり着くことすら簡単ではありません。
山岳写真を始めるには、大きく分けて2つのパターンがあります。
1.風景写真の経験者が山に挑戦するパターン
風景や人物写真のスキルや機材がある方が、その延長線で山岳撮影に興味を持つケースです。構図や光の使い方には慣れているものの、登山に関する知識が必要となります。
2.登山が趣味でカメラを始めるパターン
登山を楽しんでいる方が、スマートフォンやコンパクトデジカメから一眼レフやミラーレスカメラに移行して、撮影を始めるケースです。登山に関する知識は豊富でも、重い荷物を背負って歩くことや、写真の技術や機材、現像の経験はまだ少ないことが多いです。
つまり、山の写真を撮るためには、「写真の知識と技術」「登山の知識と体力」と、両方を兼ね備える必要があるのです。
私自身、最初は風景写真を追い求めていました。富士山や日本各地の風景を撮る中で、次第に山岳写真に興味を持ち、気づけば山岳フォトグラファーとして活動するようになっていました。登山の知識や装備はゼロから始め、登山が好きな友達に一緒に登ってもらって登山のノウハウ教えてもらい、WebやBlogを読み漁って装備を揃えていきました。最初は1-2時間で登れる低山から挑戦し、少しずつ経験を積み重ねていき、気づけば冬山にも登るようになっていました。
初めて2500m以上の山に登って撮影した時の写真。秋の甲斐駒ヶ岳と地蔵岳。記念すべき山岳写真1枚目。
山岳写真を始める理由
「自由な表現」と「山岳写真の魔力」
山で写真を撮り始め、その魅力にどんどん引き込まれた一番大きな理由は、「山の写真には無限の自由がある!」という点です。地上のように建物や高い木々に遮られることなく、何十人ものフォトグラファーと三脚の場所取りを競うこともなく、広大な山の稜線を自由に歩き、自分で見つけた絶景を心行くまで楽しむことができます。
逆に言うとあらゆる構図が想定されてしまうので、自分の登山と写真のスキルやこだわりがそのまま写真に投影されてしまうことにもなります。
もちろん、山での撮影には体力や時間、天候の影響など、さまざまな要素が絡みます。だからこそ、山岳写真は単なる撮影以上の楽しさが詰まっています。登山の魅力と写真撮影の魅力が見事に融合し、「自分との対話」「地球との対話」としての一大イベントになります。
また、山を歩きながら写真を撮ることのバランスは、人それぞれです。例えば、食べ物を贅沢にしてレンズを減らしたり、逆に軽量化を目指してドライフードを選んだりと、何を優先するかも自分の選択次第です。そして、登山には命を守るためのリスク管理がなによりも必要です。「山を歩く、山で過ごす」ことを最優先に、装備を整えてから撮影機材を考えていきましょう。自分の体力や行程に合わせてまずは「安全な工程を確保出来る」装備と計画があり、その上で撮影機材やお酒など楽しむためのプラスαを積み上げていく考えにしていく必要があります。
さらに冬山では、バックカントリースキーやスノーボードなどの楽しみも加わり、「雪山ハイク→撮影→バックカントリーで滑る」という雪山フルコンボ的な楽しみ方もできますが、今回は写真撮影に特化した内容にしたいと思います。
天気とシチュエーションの予測
上記にも記載した通り、山の写真は自由度が非常に高く、非常に時間と労力がかかります。そこで山での撮影で絶対的に重要になってくるのが「天気の予測」です。
ご存知の通り、山の天気は非常に変わりやすいです。これが、山岳写真における最大の課題の一つです。晴れ予報でも、山頂に着いた途端にガスがかかって何も見えなかったり、逆に晴天が広がって最高の景色が待っていたり。これが山の醍醐味であり、難しさでもあります。
富山の街、室堂あたりは雪が降っていたが雲の上は抜けて、高気圧が張っているとデータで確信していたため登頂し撮影。
山の天気予報は有料無料さまざまな予報アプリやサイトがありますが、それぞれが結構違う予報を出してきます。登山ができるかどうかを判断するには、予報を参考にするのはもちろん重要ですが、撮影においてはただの天気予報では不十分です。
撮影を考慮するならば、天気予報ではなく、天気図や等圧線、SCWやWindyなどさまざまな予測データを参考にして、ご自身で撮りたい場所、時間帯、方角などの条件を鑑みて、天候含めて撮影場所から狙う対象がどんな景色になるのかを事前に予測していく必要があります。逆に言うとその予測精度が高まれば、時間と体力を使って登山したのに写真的に敗退(いい写真が撮れなかった)が少なくなっていくわけです。こればかりは、ご自身の経験値を上げていくしかないので、とにかく調べて登って撮影を繰り返し、精度を高めていってください。
最初の頃は山の天気に詳しい方や経験者と一緒に行く方がいいと思います。だんだん経験値が高まっていくと、場所によってのパターンや癖がわかってきて、「こういうデータのときはこうなる!」みたいなことがわかってくるようになります。
過去の経験上、データ的に夕陽で雲が真っ赤に染まると確信し、不帰ノ嶮でいわゆる爆焼けを撮影。
私がいままで素晴らしい爆焼けや大雲海を数多く撮影出来ているのもまさに、経験上培ってきた天気予測データの読みから大雲海や滝雲、爆焼けを予測できていたからこそであって、偶然、ラッキーで撮影できているわけではありません。もちろん、予想外のことが起こるのが大自然なので雷雨に襲われて身動き取れなかったり、逆に素晴らしい虹に出会ったりということもあります。ですが、読みの精度を上げることで、狙うべき撮影場所とタイミングをチョイスし、さまざまなリスクと自分の実力や装備を考慮して、ベストな撮影ポイントを選ぶことで、多くの素晴らしい瞬間を撮影出来ているのも事実です。
予報サイトを見て「晴れマークだから行ける」「雨マークだから行かない」とかだけでなく、データ予測からベストな場所、シチュエーションを見つけられるようになってみてください!
ロケハンの大切さ
天気予報と同じくらい重要なのが「ロケハン(ロケーション・ハンティング)」です。標高が上がるほど、森林限界を超えてくるので遮るものがなくなり、構図の自由度は増します。しかし、地上の撮影スポットやインスタでよく見る構図と違い情報が豊富ではないため、現地での確認が必要です。
2024年11月に撮影した鹿島槍ヶ岳南峰山頂から南を向いた爺ヶ岳への稜線。
登山スキル次第で行ける山は異なりますし、歩く楽しみとのバランスはありますが、出来る限り、時間に余裕を持って明るいうちに撮影場所を歩き、太陽の位置、月の位置、光の入り方、角度、風向き、風速、前景や画角など、実際の撮影時に最短でセッティング、撮影し、もしも不測の事態(良い方も悪い方も)が起こった時にフレキシブルに対応できる余裕を作り、実際の撮影時に無駄なくセッティングできるようにしておくことが大切です。
例えば、後立山連峰の名峰、鹿島槍ヶ岳南峰の山頂は北側の八峰キレット方面、南側の爺ヶ岳方面、西側の剱岳、立山方面と、稜線や尾根沿いを狙うだけでも3方向ありますが、山頂がかなり広いため、同じ場所から3方向全てを撮影するというわけにはいきません。
鹿島槍ヶ岳南峰山頂から西の立山連邦方面を狙った夕陽の構図。
たとえば、夕陽の時間帯を狙う場合、太陽は西側の剱岳側に沈みます。ということは南側の爺ヶ岳側を向けば右側から、北側の八峰キレット方面を向けば左側から夕陽が差し込みます。そして太陽は西に落ちていきますが、西側には3000m級の名峰が続く立山連峰があり、時期によっては陽の光は水平線に沈む前に遮られてしまいます。そのような条件の時に数分しかない夕焼けの綺麗な時間帯に、どこでどのようにどのレンズで撮るべきなのかを事前にある程度わかっているほうが撮影時に余裕ができ、焦って失敗したり、良い瞬間を撮りこぼしたりがグッと減ります。
鹿島槍ヶ岳南峰山頂から北を向き、五竜岳、八峰キレット方面を狙った図。(Patagonia白馬店にて横3mの特大パネルとして展示中)
私は初めての撮影場所はだいたい撮影前1-2時間くらい前に現場に行き、しっかりとロケハンすることが多いです。時間と労力をかけて登山したのにあとから「あれをあんなふうに撮ればよかったなぁ」と後悔しないように、さまざまなシュミュレーションを行なってから撮影に臨むようにしています。
最適なレンズや場所を事前に想定しておくことが、焦らずに理想的な一枚を撮るために重要です。
まとめ
•山の楽しみ方は人それぞれで、同じである必要はない
•登山スキルと写真スキル、両方が必要
•天気の予測を活用し、撮影シチュエーションをイメージする
•ロケハンを行い、確実に「取れ高」を狙う
山の撮影は、「歩く」「撮影する」「泊まる」「滑る」など楽しみ方も無限です! 山の撮影をしたことがない方はぜひチャレンジしてみてください! きっと沼りますよ!
■写真家:スズキ ゴウ(JazzySport / 山ノ革命)
一度会ったら忘れられないブロッコリー🥦なヘアースタイルと一年中日焼けしている堀の深い日本人離れした顔面がトレードマークの山岳フォトグラファー。写真撮影の技術やAdobe Lightroom、Photoshopを使った現像のワークショップも行っている。