ソニー E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSレビュー|パワーズーム搭載APS-C用の入門レンズ
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はじめに
E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSはAPS-Cサイズのセンサーを搭載したソニーミラーレス一眼、αシリーズ用のパワー(電動)ズーム搭載レンズ。登場したのは同社ミラーレス機がNEXブランドで展開していた頃なので10年以上も前のこと。35mm換算24-75mmをカバーしながら軽量コンパクトな常用レンズとしての使いやすさもあり、それ以降いくつもの機種にキットレンズとして採用されてきましたが、他のズームレンズがキットに選定されたα6500以降は暫く影が薄い存在になっていました。
しかし、コロナ禍により高画質webカメラの需要が高まり、ミラーレスαを簡単にwebカメラとして利用するアプリがソニーからリリースされたこともあり、手軽な電動ズームレンズとして再びその存在が注目されました。そして現在は動画撮影主体のカメラには電動ズーム搭載レンズが最適なこともありVLOGCAM ZV-E10のキットレンズとして返り咲いたご長寿レンズと呼べる1本です。
E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSSのスペック
型名 | SELP1650 |
レンズマウント | ソニー Eマウント |
対応撮像画面サイズ | APS-Cフォーマット専用 |
焦点距離 | 16-50mm(35mm判換算24-75mm相当) |
レンズ構成 | 8群-9枚 |
開放絞り | F3.5-5.6 |
最小絞り | F22-36 |
絞り羽根 | 7枚(円形絞り) |
手ブレ補正 | レンズ内手ブレ補正方式 |
最短撮影距離 | 0.25-0.3m |
最大撮影倍率 | 0.215倍 |
フィルター径 | 40.5mm |
外形寸法 最大径x長さ | φ64.7×29.9mm |
質量 | 約116グラム |
外観と操作部
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電源オフまたはパワーセーブモードに入ると自動で格納します。この伸縮駆動は電動のためレンズ単体では行えません。
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鏡筒側面にあるスライド式スイッチはW(ワイド側)もしくはT(テレ側)にスライドすることで一定の速度でズーミングが行えます。光学式手ブレ補正が内蔵されていて、ボディー側でON/OFFを行う事が可能です。
少々クセのある使用感
一眼カメラの初心者でも扱いやすい焦点距離をカバーし、かさばらず軽量で携行の負担にもなりにくい常用レンズに向く普及クラスのズームレンズです。普及クラスなのにパワーズーム?と不思議に思われるかもしれませんね。話が少し過去へ遡りますが、このレンズとほぼ同時期に発売されたNEX-3Nは片手で自撮りしやすい操作性がセールスポイントの小型軽量ミラーレス機でした。この機種にはカメラボディにもレンズのズーム操作のためレバーが搭載されていました。つまりキットレンズとして相応しい安価で軽量な電動ズームが必要だったというわけです。
外観の項目でも説明の通り、鏡筒先端のリングと側面のスイッチのどちらでもズーム操作できますが、リング操作時は回転させる速度に応じてズーミングの速度も変化します。僅かに回転しただけでも敏感に反応するため、特に手が大きかったり指が太い男性ユーザーはうっかり撮影時にリングに触れてしまったり、コンパクトな鏡筒故にレンズを保持しようとしてズームレバーに触れ、意図せずズーム操作をしてしまうミスをおこしがちです。そのため、左手はカメラの底部を支えるように保持し、ズーム操作もしくはアニュアルフォーカス操作をする時以外はなるべく鏡筒に触れないようにするのがお作法と言えるでしょう。
また、レンズの沈胴、ズーム、フォーカシングの駆動を担う内部構造がデリケートなため、レンズが伸びた状態で衝撃や圧力がかかるようなことは絶対に避ける注意が必要です。
α6600に装着して晩秋の港街を撮り歩いた実写作例でレンズの描写力を見てみましょう。
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■撮影環境:16mm(24mm相当)・絞り優先AE・F3.5・-1.0EV・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
ズーム広角端の開放絞りで撮影。ピントを合わせた画面中心部分は絞り開放でも無難な描写ですが拡大すると画面周辺に向かい解像感は甘くなり隅の光量不足も見受けられます。
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■撮影環境:16mm(24mm相当)・絞り優先AE・F3.5・-1.0EV・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
ピント位置を手前の係船柱に。被写界深度外に向かっていくロープのボケ具合と、このレンズ特有の描写の甘さが絡んで味のある奥行き感が生まれました。
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■撮影環境:16mm(24mm相当)・絞り優先AE・F3.5・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
工事が終わったばかりなのか、これから始まるのか。更地を囲うオレンジ色が太陽光に透かされて鮮やかだたったので思わずシャッターを切りました。強烈な色の印象がそのまま再現できています。
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■撮影環境:16mm(24mm相当)・絞り優先AE・F10・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
絞り込むとグンと解像感が増します。遠距離よりも数メートルから15メートルくらいの距離感くらいの撮影でそこそこ絞るとシャキッとした印象が得やすいレンズです。色づいた葉や澄んだ秋空の再現性も良好です。
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■撮影環境:50mm(75mm相当)・絞り優先AE・F10・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
同じ露出設定のまま近くの葉をパワーズームでクローズアップ。リング操作はとても俊敏な動きをしますので、ズーム両端の往復を容易に行う事ができます。一方微妙な画角調整は苦手となりますが、その場合ズームスイッチを使う事で微調整しながら撮影することが出来ます。
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■撮影環境:21mm(31mm相当)・絞り優先AE・F5.6・-0.7EV・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
クローズアップ撮影をしてみました。ボケ具合はいかがでしょうか。ズーム全域でそこそこ寄りが効くため焦点距離、撮影距離、アングル工夫で画を整えるのを楽しめればこのレンズと永く付き合えるはずです。
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■撮影環境:28mm(42mm相当)・絞り優先AE・F5.6・-0.7EV・ISO160・AWB・JPEGエクストラファイン
カチカチのシャープなレンズではないぶんドアノブの錆や、厚い塗装の質感などリアル過ぎず年代物の車なりの雰囲気で描写できているのだと思います。
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■撮影環境:50mm(75mm相当)・絞り優先AE・F5.6・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
ガラス越しの撮影ということもあり、ふわっとした描写が被写体のフィギュアにもマッチしました。
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■撮影環境:39mm(58mm相当)・絞り優先AE・F5.6・ISO800・AWB・JPEGエクストラファイン
テーブルフォトも無難にこなします。作例はコーヒカップを入れ込むため39mm程度で撮影していますが、テレ端の最短撮影距離では名刺大くらいの範囲を画面一杯に写すクローズアップ撮影が可能です。
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■撮影環境:23mm(34mm相当)・シャッタースピード優先AE・1/250秒・+07EV・ISO320・AWB・JPEGエクストラファイン
既に10年選手のレンズとはいえ、ファストハイブリッドAFにも対応します。AF測距のスピードは特に不満に思うようなことはありません。
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■撮影環境:16mm(24mm相当)・シャッタースピード優先AE・1/250秒・ISO250・AWB・JPEGエクストラファイン
レンズを向けるのをやめたらもっと撮れといわんばかりに近寄ってきた猫。とっさにズームリングでW端にはできたけど構図が間に合わないままの撮影。それでもピントは問題ないし16mmでも近接撮影ならこれくらい背景はボケるという作例です。
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■撮影環境:34mm(51mm相当)・絞り優先AE・F5.6・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
太陽光を直接画面に入れ込んだ意地悪な撮影も数パターン試してみました。この時のようにフレアやゴーストなども発生せず思いのほか強い耐性には頼もしさを感じます。
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■撮影環境:28mm(36mm相当)・絞り優先AE・F8.0・-1.0EV・ISO3200・AWB・JPEGエクストラファイン
日没後まだ少し明るさが残る状況。近づいてくる船に合わせてズームをワイド側に広げながら撮影。F値の暗さからAFが迷う時もありましたが最終的には合焦し、その精度も問題ありません。カメラ側のレンズ補正おかげもありますが水平線の歪みが少なく関心。
まとめ
発売から10年以上経過する普及クラスのズームレンズなので少々古いレンズという印象はありますが、新品の実売で約3万円、中古なら1万円台が相場という低価格なレンズとなりますので、この軽量コンパクトなレンズの少々ゆるめな描写を持ち味として気に入るのであれば購入の動機としては十分です。他にも以下のような長所を持ち合わせたレンズだと感じでおります。
主力のレンズがトラブルで使用不能に陥った際のスペアとしてカメラバックに忍ばせておくには、その存在を忘れてしまうかもしれないほど場所を取らず軽量です。特に直ぐに代替えを用意できない旅先へのお供にも向きます。本来の撮影目的は超望遠レンズを使う被写体だけど、撮影地までの移動中にもスナップやメモ程度の撮影がしたい場合には適任のズームはないでしょうか。2台持ちの場合はサブカメラの常用レンズとしてもよいかもしれません。
そしてスマートフォンアプリImaging Edge Mobieやパソコン用アプリmaging Edge Desktopのリモート機能の利用で、カメラやレンズに触れずにズームミング操作を伴う遠隔撮影が可能なのはパワーズーム搭載レンズの特権です。ネイチャー系の撮影や特殊なアングルのスポーツ撮影などアイデアとチェレンジで撮影領域を広げることも出来るはずです。もちろんαミラーレスでの動画入門レンズとしては最適なことは言うまでもありません。
■写真家:宇佐見健
1966年東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒。専門誌出版社、広告代理店を経て独立。撮影ジャンルは360度全天球、水中、旅、風景、オーロラ、ポートレート、モータースポーツ、航空機、野鳥etcと多岐に渡る。カメラ誌等では新製品機材の実写インプレッションやHOW to関連、カメラメーカー工場取材取材など多方面の記事を執筆中。