野生の世界を撮る|野生動物写真家の機材チョイスを解説
はじめに
写真の楽しみ方は実に幅広く撮影対象も多岐にわたる。撮影機材は日々進化し、あらゆる分野で高度な撮影を容易に行えるようになった。そうした中で、今回は私が主に取り組んでいる野生動物の撮影についてお話ししたい。
撮影対象
世界中には多種多様な野生生物が棲息しているが、日本国内においても大型の哺乳類から小さな野鳥等、非常に多くの生物たちが被写体として撮影対象となる。
撮影フィールドも奥深い山々・森林から都市部の公園・あるいは民家の庭先まで、至るところでその姿を観察・撮影することが可能で、実は意外なほど私たちの身近な環境に野生の命があふれている。都市部の緑地公園等では主に中小型の野鳥たち、季節によっては各地の湖沼が大型の渡鳥たちの中継・越冬地になっていたりして、近距離から手軽に撮影することが出来ることも多い。
また、私が住んでいる北海道では大型の哺乳類であるヒグマ・エゾシカ・キタキツネ他、鯨類等も観光バスや観光船からその姿を観る機会も多く、安全な距離・環境から撮影できることも多くある。
撮影機材(カメラ)
野生動物を撮影するにも様々な表現があり、棲息環境を含めて風景的に捉えたり被写体の体の一部分を切り取ったり、光に着目してシルエットで観せる等捉え方によって選択すべき機材も変化する。ただ、被写体との距離を自分の理想通りに得ることが難しい事も多いのが野生動物撮影の難しさのひとつ。その場合を考慮してやはり望遠撮影を行える機材選択が重要だ。
私が使用しているのはSONY αシリーズとSONY FEレンズ群。メイン機材はα1とFE 600mm F4 GM OSS。よりアクティブに行動しながらの撮影時にはFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSのズームレンズを愛用している。また、ボディに関してはα7R Vやα7S IIIも併用している。
デジタルカメラには主にミラーレス一眼カメラと一眼レフカメラが存在するが、ミラーレス一眼カメラの利点の一つに、撮影時の露出を確認しながら撮れるという点があって、露出オーバー&アンダーの失敗をする心配が無く写真撮影経験の少ない方でも安心して撮影することが出来るのでオススメである。
また、私が使用しているSONY αには動物や鳥に対応する瞳AFという機能が備わっていて、ピント合わせの点でも難しい技術を必要とすることなく、動物の目にしっかりとピントの合った写真を撮影することができる。
撮影機材(レンズ)
レンズについてはやはり超望遠域500~600mmをカバーできる焦点距離のものがとても有効で、なかなか近づけない被写体も迫力ある構図で撮影しやすいだろう。大口径単焦点レンズであるFE 600mm F4 GM OSSは恐ろしいほどのシャープさと自然で美しいボケ味、テレコンバーターを併用してもほとんど性能の低下を感じず、あらゆる場面でその超高性能ぶりを発揮してくれる頼もしいレンズだ。
そしてこれから野生動物撮影を本格的に始めようという方に是非お勧めしたいのが、超望遠ズームレンズのFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSである。
600mmまでカバーし本格的な超望遠撮影が可能なだけでなく、咄嗟の状況にも対応しやすい200mm~のズームレンズで、大きさ重さも充分振り回して撮影できるコンパクトかつ軽量性。x1.4倍やx2.0倍のテレコンバーターにも対応する。また、インナーズーム方式なのでズーミングしても重量バランスが大きく変化することもなく、とても操作性が良いのが特徴だ。実際私自身も撮影シーンによってはこのレンズ1本で撮影に臨むことも多い。
補助装備品
野鳥撮影時には超望遠レンズを使用し離れたところから撮影していてもなかなか近くに来てくれない場合もある。そんな時はブラインド等を使用して、極力相手にストレスを与えないようにする心掛けも重要だ。野生動物たちは我々人間よりもはるかに俊敏で機動力は桁外れに高い。嫌がる動物を追いかけて撮ろうとしても決して良い結果は得られない。辛抱強く待ち続けることも撮影技術のひとつと言えるだろう。
最後に
自然の中で生き生きと活動している野生生物たちの姿はとても美しく魅力的だ。最新の技術で作られた機材のおかげで難しいシーンを誰もが苦労することなく撮影しやすい環境が整ってきた。皆さんも是非、素晴らしい野生の世界を撮影する楽しさを体験してみては如何だろうか。
そして良い写真を撮るだけでなく、撮影中は自分自身が自然の中に溶け込み、ゆったりとした時間を過ごす楽しさも是非味わってほしい。これから様々な被写体・撮影機材についてレビューしていくので是非お付き合い頂きたい。
■写真家:野口純一
1968年、埼玉県生まれ。北海道在住。2輪、4輪のエンジニア時代にバイクツーリングで訪れた北海道に惹かれ、2000年に移住。キタキツネの撮影をきっかけに、2002年より写真家として活動を開始。カメラメーカーの製品作例等を手掛ける他、雑誌やカレンダー等に作品を提供し、国内・海外問わず、野生の命と自然風景を求め活動を続けている。公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員。