タムロン 11-20mm F/2.8 Di III-A RXD Xマウントレビュー|星景写真を撮る初心者に真っ先におすすめしたいレンズ!
はじめに
富士フイルムXユーザーは超広角レンズに困っている。もちろん純正品でもXF8-16mmF2.8 R LM WRやXF10-24mmF4 R OIS WR、新製品XF8mmF3.5 R WRなどが発売されているのだが、困っているのは私のような星空を撮影するユーザーなのだ。XF8-16/2.8は星空でも素晴らしいレンズだが高価だし、他の2つはf値が暗いので星空撮影におすすめとは言い難い(レンズが良くないのではなく、星空を撮るにはちょっと、という意味であることをお忘れなく!)。
私は富士フイルムのXシリーズがスタートして間もないころから愛用しており、「フルサイズじゃないと星撮れないよ」という考えが一般的な中、あえてAPS-Cでフルサイズにも負けない写真を撮るということに注力していた(もちろんフルサイズにはない良さがAPS-Cにもある)。
ただ、そんな私の活動を見てくれた方から「初心者におすすめな星景写真向けのレンズはなんですか?」と聞かれることが増え、私はとても辛かった。なぜなら、おすすめできるレンズの選択肢がとても少なかったためだ。でもそんな時代はすでに過去のもの。タムロンがやってくれたのだ!ナイスタムロン!である。
今回はそんなタムロンから発売された、11-20mm F/2.8 Di III-A RXD (Model B060)のXマウントについて紹介していきます。
APS-Cミラーレス対応の11-20mm F/2.8 Di III-A RXDは、35mm判換算16.5mm-30mm相当という超広角ズームレンズです。フィルター径は67mm、全域f2.8で、最短撮影距離はワイド/テレ側で0.15m/0.24m、重量はなんと335gと大変小型で軽量。広角側でレンズが前に繰り出す仕様になっています。お値段はなんと10万円を切るという大変手頃なレンズです。ソニーEマウントもラインナップしています。
星空適正をチェック
実際に星空を撮影した画像を見てみましょう。
赤道儀を使わずに撮影しているため、地球の自転(日周運動)の影響が少ない縦構図で撮影したものをお見せします。
まずはワイド端11mmから。
右上を拡大。
そしてテレ端20mm。
同じく右上を拡大。
星空は人間の目にはすべて点で見えます。そのため、真ん中から端まで点の形が崩れていない写りが理想です。点光源が横に広がるコマ収差が少ないことがよくわかります。
そして何より好印象なのは色収差が少ないことですね。色収差は画像処理で補正できると思われますが、他の部分で色収差とは関係ない同じ色も補正されてしまうため、なるべくデータをマイナスするという作業はしないというのが私の考えです。コマ収差がないよりも色収差がないことのほうが好みですかね。
横構図では日周運動の影響もあり、周辺に引っ張られるような収差を感じることがありますが、これも許容範囲。なぜならばこのレンズ、10万を切る値段なのです!この値段でこの描写が得られるズームレンズとは、タムロンらしいというか、これまたコスパに優れたレンズを作ってくれましたね・・・!!
友人の天体望遠鏡を前景にして一枚。ここは友人が所有する観測ドームの中で広い空間ではないのですが、超広角のおかげですっきりと構図に収めることができました。
近所の蛍スポットで撮影。3枚の画像を比較明合成で1枚に合成しました。ちょっくら撮りに行ってくるか~という軽いノリで撮影に行ったものですが、この軽いノリについてこられるのは小型軽量ならではだと思いました。
このときはf値を絞ってもう少し感度を落として、長く露出しようかなと考えたのですが、一般の方も蛍鑑賞に来ていたため、あまり長い露出時間だと不意に入ってくる光で写真が台無しになると思いました。そのため、120秒の露出で細かく数枚撮り、よかったものを合成するという手段を取ったのです。f値が明るい分、感度を400まで下げてダイナミックレンジを確保することができました。
小型軽量なのでタイムラプスの運用にも合う
タイムラプススライダーなどのモーション機器の上に搭載するカメラは、重すぎないカメラを推奨します。また、重さと同時にレンズの長さも短いほうが相性が良いでしょう。
加えて、富士フイルムXシリーズ(画像はX-H2)と11-20mm F/2.8 Di III-A RXDの組み合わせになると、使用する雲台なども大げさに重いものを使わずに済むので、結果的に荷物の総重量自体が軽量になります。レンズが軽い・短いというだけで、遠征には大変メリットのある選択になるんですね。
スナップもこなせる焦点距離
奄美大島で見つけたムラサキオカヤドカリ。なんだこいつ!な瞬間にもささっと撮れる。正面に回り込むとすぐに後ろを向いてしまうのだが素早いフォーカスのおかげで顔をゲット。
もうひとつ、このレンズを星景初心者におすすめする理由は、スナップやマクロ撮影など、昼間の普段使いの撮影でも活用できることです。星景初心者の多くは、星景写真“も”撮れるレンズが欲しいと考えています。メインは昼間の撮影ということですね。
このレンズはとても小型軽量であるため、とにかく持ち運びがしやすい。荷物を減らしたい旅行などには省スペースで最適な重量でしょう。私は普段使いでは35mmのレンズを愛用しています。基本はそれ一本でスナップ撮影などをこなすことが多いです。このレンズはテレ端が35mm換算で30mmの焦点距離になるため、まさに私の好きな焦点距離にも近くてありがたい。その軽量さを活かして登山時に、X-S20につけて持って行きました。
とにかく撮影までの流れがスムーズ。カメラバッグに取り付けて即座に撮影できるようにはしていましたが、傾斜が緩やかな登山道で倒れた木に苔が多く育っている場所がありました。その道ではカメラバッグに取り付けることなく、常に手にカメラを持ったまま数歩歩いては撮影、また撮影と、フットワークの軽さがそのまま写欲を掻き立てたように感じます。
これはハマる!魅惑の広角マクロ
そして最後に特筆したいのは広角マクロの世界。タムロンの広角ズームレンズは寄れるものが多く、画角内にいろいろなものが入った状態でのマクロ撮影は大きな花と風景などの撮影に新鮮な世界を見せてくれます。
撮影時の様子はこんな感じでかなり被写体に近づけることがわかります。
目の前にあじさいを配置し、背後には雲海。もちろんここまで近寄れば被写界深度は浅めになりますので、限りなくパンフォーカスにするためにf値を絞り込みます。通常は回折現象によって描写が甘くなることを懸念してここまで絞ることはないですが、この場合はそれよりもパンフォーカスにすることが大事。
理論上、回折現象がでているはずですが、拡大してみてもそれほど甘く感じないのは被写体に近づいているからかもしれません。シャッタースピードを落とすため、背景の空が明るくなりすぎないようにハーフNDを使用しています。
もちろん、f値を明るく設定して、背景をぼかしてもグッド。いろいろな描写が楽しめるレンズです。
まとめ
昼夜を問わずに楽しめる万能レンズがまたひとつ、タムロンから発売されました。これが富士フイルムXシリーズで使えるのはほんとにありがたい。今回は触れませんでしたが、動画の撮影でもとても使いやすいレンズでした。
今まではおすすめできるレンズが少なかった富士フイルムXシリーズでの星景写真でしたが、初心者に堂々とおすすめできるレンズが誕生しました。みなさんもこのレンズで星景写真にぜひチャレンジしてみてくださいね!
私のチャンネルでもこのレンズのレビューをしています。こちらもぜひ見てみてください。
TAMRONさんのレンズインプレッションでも私の記事があります。こちらもチェックしてみてください。
https://www.tamron.com/jp/consumer/sp/impression/detail/20230626154426.html
■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」「星空写真撮影ハンドブック」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員