タムロン 11-20mm F/2.8 Di III-A RXD Xマウントレビュー|コンパクトで明るい超広角ズームレンズ
はじめに
こんにちは、旅写真家の三田崇博です。今回は2023年5月にタムロンから発売された、富士フイルムXマウントの広角ズームレンズ「11-20mm F/2.8 Di III-A RXD(Model B060)」をレビューします。似た焦点距離を持つレンズに富士フイルム純正のXF10-24mmF4 R OIS WRがありますが、タムロンのこのレンズは開放F値が2.8というのが特徴で、星やホタルの撮影でも重宝しそうです。
また、XマウントにはXF8-16mmF2.8 R LM WRというF2.8通しの高性能なレンズもありますが、その重さゆえ旅に持っていくには少し躊躇してしまいます。そんな中登場した本レンズです。今回はこのレンズを持って佐賀県のインターナショナルバルーンフェスタと唐津くんちのお祭りを中心に撮影してきましたので、その作例とともに紹介させていただきます。
本レンズの特徴
APS-Cサイズミラーレズカメラ用としては世界初のF2.8通しの広角ズームとして登場した11-20mm F/2.8 Di III-A RXD(現在はシグマ 10-18mm F2.8 DC DNもあります)。広角側は11mm(フルサイズ換算16.5mm)と最近の超広角レンズにしては控えめですが、その分望遠側は20mm(フルサイズ換算30mm)まであるので、広角域を広くカバーした画角になっています。
また、F2.8通しでありながらそのコンパクトさには驚きました。F4通しのXF10-24mmF4 R OIS WRと比べても一回りコンパクトになっています。加えてこのレンズは最短撮影距離が15cm(広角側)とかなり寄れるので、F2.8のボケ味を生かした簡易マクロ的な撮影もこなすことが可能です。
▼XF10-24mmF4 R OIS WRとの比較
11-20mm F/2.8 Di III-A RXD | XF10-24mmF4 R OIS WR | |
焦点距離(フルサイズ換算) | 16.5-30mm相当 | 15-36mm相当 |
寸法 | φ73mm×86.5mm | φ77.6mm×87mm |
質量 | 335g | 385g |
最短撮影距離 | 15cm | 24cm |
開放F値 | F2.8 | F4 |
レンズ内手ブレ補正 | – | 〇 |
フィルターサイズ | 67mm | 72mm |
絞り羽根 | 7枚 | 7枚 |
防塵防滴 | – | 〇 |
発売時期 | 2023.05 | 2020.11 |
▼最短撮影距離での比較
左が11-20mm F/2.8 Di III-A RXDの最短撮影距離の15cmで撮影。右はXF10-24mmF4 R OIS WRで同じ被写体を最短撮影距離で撮影しました。一目でその違いが実感できるかと思います。
解像度比較
同じF2.8の明るさを持つXF8-16mmF2.8 R LM WRと撮り比べてみました。有名な道頓堀のスポットです。ではグリコの看板部分を拡大してみましょう。
左が11-20mm F/2.8 Di III-A RXD、右がXF8-16mmF2.8 R LM WRです。両方とも画角を11mmに合わせF2.8の条件で撮影しました。価格差が3倍近くあるレンズと比較するのは少し可哀そうな気がしますが、開放では少し甘めの描写となりました。
▼開放F2.8で比較
しかしF4に絞ると解像感がアップしているのが分かります。絞って撮影できる環境であれば、少し絞るほうがこのレンズの性能を引き出すことができるようです。
▼F4で撮影
作例
目的地である佐賀県までは自宅から約700km。高速道路を使うと8時間ほどで到着できますが、今回はのんびりと下道を通って向かいます。実はこのルートはライフワークで撮影を続けている世界遺産の宝庫でもあるのです。
まずは姫路城に立ち寄りました。諸事情で夕日の時間帯には到着できなかったのですが、その後のマジックアワーの時間帯にライトアップされた真っ白な姫路城が撮れました。雲の感じがよかったので思い切って最広角側で空を広く写し込みました。
続いてちょうど奈良と佐賀の中間に位置する広島にも立ち寄りました。有名な大鳥居をアップで撮影するには標準から中望遠レンズが必要ですが、超広角ならではのアングルを見つけて撮影しました。超広角レンズではありますが前面にフィルターが装着できるので、PLフィルターを使って海面のコバルトブルーの色を引き出すことができました。
世界遺産ではないですが、福岡県には赤い宮島の大鳥居とは対照的な白の鳥居が立っている場所があります。ドライブコースとして人気のスポットです。こちらも快晴だったのでPLフィルターを使うと海面の色が綺麗にでます。
いよいよ佐賀県に到着してバルーンの撮影です。真っ暗のうちから会場に向かいます。対岸で川のリフレクションと一緒に撮れる場所までは指定の駐車場から徒歩30分以上かかるのです。それでも真っ暗な内から多くの人が場所取りに訪れていました。
いい場所はやはりすでに埋まっていましたが、奇跡的に空いていた場所から撮影。画面左に木が写り込むアングルだったので広角側では撮影ができませんでしたが、綺麗なリフレクションを撮影することができました。
気球は一斉離陸した後は当日の風の方向により風下方向に飛んでいきます。このバルーンフェスタは単なるショーではなく競技会なので、ある地点にいかに早く正確に着陸するかを競っているのです。飛び立った後の撮影は大忙しです。気球の向かう方向に走りながら撮影しました。広角だと周りの景色も写し込めるので空を見上げる人々と一緒に写してみました。
翌日は最広角側で撮影したくて夜中から待機しました。何度も来られる場所ではないので少しでもベストなポジションで撮影したいですよね。待つこと数時間、あたりが明るくなり始めたころには濃い霧が発生しました。バルーン競技は風があったり見通しが悪いとすぐに中止になるため祈るような気持ちで待ちました。(実際に前日の午後の競技は風のため中止でした)
祈りが届いたのか開催時刻前にはなんとか霧が晴れました。ベストポジションではないものの超広角を生かしたアングルで撮影ができ満足でした。このレンズの画角でも入りきらないほど広範囲に気球が飛んでいました。X-H2Sの高速連写(電子シャッターで最大40コマ/秒)とCFexpress Type Bカード採用による強力なバッファにより安心して連写することができました。
本レンズではありませんが動画撮影したものもありますのでご覧ください。時々私が横で撮影している手が入っていますがご勘弁ください(笑)
実は佐賀県ではこの時期にバルーンフェスタと唐津くんちの祭りの両方が開催されます。唐津くんちの初日は夜の巡行が行われました。動きながらの撮影で三脚等は使えず、F2.8で軽量コンパクトなこのレンズがとても役立ちました。レンズ本体に手ブレ補正は搭載されていませんが、X-H2Sの強力なボディ内手ブレ補正と積層型CMOSセンサーによる高速AFのおかげで、ピントを外さずブレなく撮影することができました。
手持ち撮影でも遅いシャッター速度で被写体ブレを生かした躍動感のある表現をすることもできました。
翌日の本祭ももちろん撮影しました。多くの人で賑わっていましたが、巡行ルートが長いので見物客が分散しているため比較的撮りやすいお祭りでした。移動していろいろなポイントで撮影することができて楽しかったです。
祭りの開催される唐津の町は鏡山展望台から一望することができます。扇を広げた形の唐津の町は広角レンズで撮影するとその広がりがよく分かります。
もう一か所話題の場所に行ってきました。福岡県との境にあるこの橋はその景観もさることながら現存する昇開式可動橋としては日本最古のもので、国指定重要文化財にも指定されている貴重なものです。佐賀県、福岡県双方から撮影することができますが今回は太陽と橋を絡めるために西向きに撮影ができる福岡県側から撮影しました。
最後にどこかで星を撮りたいと思い太良町の大魚神社、通称「海中鳥居」に立ち寄りました。満潮から干潮に変わるわずかな時間に浜に下りて撮影した一枚です。月明りがあったので星空はそれなりでしたが月をポイントにして撮影しました。ここでもレンズの明るさの恩恵で、真っ暗なのにオートフォーカスでピントを合わせることができました。ちなみにピントは鳥居に合わせているので星は少しぼやけています。
まとめ
とてもコンパクトでお手頃価格のF2.8通し超広角ズームレンズ「11-20mm F/2.8 Di III-A RXD」。旅にも持っていきやすいレンズだと思います。このレンズとともにタムロンの18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXDがあればほとんどの被写体に対応できるのではないでしょうか。
今回のテストでは絞り開放付近での画質で少し不安は残りましたが、それも一段絞ればしっかりと解像します。特に夜の祭りの撮影でF2.8の明るさと軽量コンパクトなこのレンズが大活躍してくれました。普段使いできるF2.8通し広角ズームが欲しいという方には大変おすすめできるレンズです。
■写真家:三田崇博
1975年奈良県生駒市生まれ。旅好きが高じ、現在までに100を超える国と地域で350か所以上の世界遺産の撮影を行う。作品は各種雑誌やカレンダーへの掲載に加え全国各地で写真展を開催している。
日本写真家協会(JPS)会員・FUJIFILM X-Photographer・アカデミーX講師