タムロン 28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD レビュー|大口径F2.8スタートの新世代高倍率ズーム
はじめに
2018年以降、矢継ぎ早にソニーEマウント対応レンズをリリースしてきたタムロン。2022年11月現在のフルサイズ対応ラインナップは13本に増え、Eマウントシリーズのみで超広角17mm~超望遠500mmまでをカバーするに至ります。今回レビューをお届けするのは2020年6月発売のタムロン 28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD(Model A071)。登場してから2年強が経過していますが、高倍率かつ小型軽量のズームレンズとあって根強い人気があります。そこで改めて本レンズの使い勝手や描写力についてお伝えしてまいります。
外観と操作性
長年使っても飽きが来ないストレートな外観にマット調のシンプルなデザイン。サイズと重量は最大径74mm×長さ117mm、575グラムと、開放値F2.8スタートの高倍率ズームとは思えない程にコンパクト。花型のレンズフードが付属しています。同社のEマウント対応レンズは一部を除いてほとんどがフィルター径67mmに統一されており、フィルターを共用できるのが嬉しいポイントです。
ズームレンズの回転方向はソニー純正と同様に左回転させると広角側、右回転させると望遠側になるので咄嗟のシーンでも違和感なく使えます。ピントリングとズームリングの前後は純正と入れ替わっていますが(ソニー製はズームリングがカメラ側、ピントリングが前玉側)私の場合はほとんどAFで撮影するので気になることはありませんでした。
レンズにAF/MFの切り替えスイッチは装備されていないので、カメラ側から変更する必要があります。欲を言えば直感的操作が可能なスイッチの装備を望みたいところですが、画質、明るさと軽量化のバランスが求められる高倍率ズームにおいては納得とも言えます。その他では広角側でズームをロックするスイッチが装備されています。手ブレ補正機構VCは内蔵されていませんが、ソニーフルサイズカメラにはボディ内手ブレ補正が内蔵されているので心配ないでしょう。
焦点距離とF値の推移
本レンズは焦点距離によってF値が変動します。焦点距離毎の開放F値は以下の通りです。146mmまではF値が比較的明るく保たれており好感が持てます。
28mm~34mm → F2.8
35mm~53mm → F3.5
54mm~88mm → F4.0
89mm~146mm → F4.5
147mm~200mm → F5.6
描写性能
解像度
望遠端200mmが近づくにつれて周辺解像がやや落ちていくと感じたものの、概ねズーム全域において開放から使える画質です。全紙サイズのプリントにも対応できるでしょう。ズーム比をあえて欲張らず7倍程度に抑え、画質を優先した設計が功を奏していると思われます。但し、細かな絵柄が多い風景写真において周辺までしっかりとした解像を望む場合は、F8~11に絞って使うのがベターです。中心部は絞りに関わらずしっかりと解像しますので、ぼかし表現を望む場合は躊躇なく絞りを開けて使いましょう。
風に揺れる笹を、前ぼかし気味に紅葉を描きました。絞り開放での使用時、画面中央部に比べると周辺部でやや解像度が落ちますが十分な画質です。
夕日に輝くススキを撮影。こちらも前ボケを使うため絞り開放で撮影しています。広角域~中望遠域に比べ、望遠端では周辺解像度が落ちる印象ですが、それでも高倍率ズームであることを考えれば、実用的な画質が保たれていることに驚きました。
光量の少ない状況で、少しでも絞りを開けられるのは大きなメリットだと言えます。このコンパクトさで開放値F2.8が実現されているのはスゴイの一言。この日あいにく星は出ませんでしたが、晴れていれば星もしっかりと写ったでしょう。
波紋を写し止めるため絞りを開けてシャッタースピードを稼ぎました。特に画面中央部は開放からしっかりとした解像感です。柔らかな水面の様子も美しく描写されています。
黄葉に雪。季節の移ろいが感じられるシーンに出会いました。繊細さが要求されるシーンではF8~F11に絞るのがベター。より表現力が高まります。
カラマツの黄葉と雪との対比をパンフォーカスで撮影。特に広角域~中望遠域で絞った時の解像感は素晴らしいもので、ハイグレードタイプのレンズにも引けを取りません。
こちらもパンフォーカスで撮影。広角側を使用しています。素晴らしい解像感に加え、雨にしっとりと濡れた紅葉が鮮やかに描かれており、素晴らしい色乗りです。雨天での撮影が多い風景撮影で簡易防滴構造は心強い味方です。
最短撮影距離とボケ
望遠側での最短撮影距離と最大撮影倍率は80cm/1:3.8。広角側は19cm/1:3.1と優秀。特に広角側はレンズフードを外しておかないと被写体にフードが触れてしまう程です。これくらい寄れれば、よほどの近接撮影が必要な場合を除けば困る事は無いでしょう。また円形絞り採用によるボケ具合も満足のいくもので積極的に背景をぼかしての撮影が楽しめます。
望遠側200mm最短撮影距離で撮影。
広角側28mm最短撮影距離で撮影。開放で撮影することで霜を強調。平面的にならないようにしています。
美しく朽ちていくアザミの花。暖かな日差しに包まれて穏やかな余生を過ごしているように感じました。主役と背景の距離感を考えて撮影すればF5.6でも大きな美しいボケが楽しめます。望遠側200mm、最短撮影距離で撮影。
広角レンズでのボケ表現は空間描写が魅力。望遠でのボケと雰囲気を変え、周りの森の情景を伝えました。上の写真と同じアザミの花を広角側34mm、最短撮影距離で撮影しています。被写界深度の浅い望遠域と比べ、広角域では背景をぼかしにくいものですが、ここでF2.8の開放値が生きてきます。
さらに同じ花をもう1枚。キラキラと光る川面をバックに玉ボケとシルエット表現を狙いました。開放ではボケが大きくなりすぎてハッキリしないので1段階絞ってF8に設定。開放から約2段階絞っても円形絞り採用のおかげで美しい玉ボケが維持されています。望遠側200mm、最短撮影距離で撮影。
逆光
BBARコーティングの採用によって逆光性能が高められているものの、シーンや焦点距離によってはゴーストやフレアが目立つこともありました。同社最新のBBAR-G2コーティング採用モデルと比べるのは酷かもしれませんが、正直に話すとやや物足りなさを感じました。太陽を直接画角に入れるような撮影ではゴーストやフレアが目立たないような場所に入るよう、レンズの向きや画角の調整をするなどの工夫も必要でしょう。また高倍率ズームの場合、広角側に合わせてレンズフードが設計されているので、望遠側ではフードの長さが足りず十分な効果が得られないことがあります。太陽が画角に入らない場合でも逆光時は常にハレ切りを意識しておくことが重要です。
絞り羽根の枚数は7枚。よりハッキリとした光条を望む場合はF16まで絞るのがおすすめ。またシーンによっては色収差を感じることがありました。カメラ側のレンズ補正項目内の「倍率色収差補正」は必ず「オート」に設定しておきましょう。
稲刈り後の里山風景と朝日を狙いました。シーンによってはゴーストやフレアが目立つこともあります。しかしながら「高倍率ズームであること」を考えると及第点と言えます。
上の写真と同じシーン。画角内に直接太陽を入れずに撮影する時でもしっかりとハレ切りしましょう。
焦点距離やシーンによってはゴーストやフレアが目立ないこともあります。そのクセを探るのも本レンズの使いこなしの一つです。
美しい秋の森に太陽が差し込みます。木で太陽を隠し気味に撮影すればゴーストやフレアを極力抑えられます。逆光でもコントラストの低下は見られず、撮影現場でのキラキラとした印象をそのまま持ち帰ることが出来ました。
若草山の鹿をシルエットで描きました。より強い光条を望む場合はF16まで絞ると良いでしょう。
AF性能
AF駆動にはステッピングモーターRXDを採用。作動音はほとんどなくスムーズかつスピーディー、正確な合焦が得られ、大変満足のいくAF性能です。同社から発売されているソニー用レンズは全てEマウント仕様書に則って開発、ボディ側と完全互換が取られているので、リアルタイムトラッキング、リアルタイム瞳AFなどの各種AF機能、その他周辺光量や各種収差のカメラ内補正にも対応しており、純正レンズと変わらぬ使用感が得られます。
まとめ
歴史をさかのぼるとタムロンの高倍率ズームの歴史は1992年に始まりました。発売された当時のインパクトは相当なもので、焦点距離も確か28-200mmだったと記憶しています。約30年を経て開発された本レンズでは、さすがに隔世の感があり、使用する焦点距離と絞りの設定によってはハイグレードタイプのレンズに匹敵するような描写も垣間見られ「高倍率ズームでここまで写るのか!」とその高画質さに感銘を受けました。さらに広角側の開放値がF2.8と来れば、おすすめしない理由がありません。
その上で・・・
最後にハイグレードタイプのレンズとの比較(同社28-75mm F/2.8 Di III VXD G2や70-180mm F/2.8 Di III VXDなど)をするなら「開放使用時の周辺解像度」や「逆光性能」また「諸収差の少なさ」など、率直に言えば、やはりそこは別物という印象を受けたのも事実です。同じ時代の技術で作るならズーム倍率を抑えた方が画質に有利に働く事には変わりなく、重量も金額も違うレンズと全く同じ写りというわけにはいきません。
但し、レンズにはそれぞれの役割があります。高倍率ズームの魅力は何と言ってもシャッターチャンスに強いこと。レンズ交換なしであらゆる被写体に対応できます。そして気負わずに持ち出せる軽快さは、長距離の歩行を伴う場合でも疲れにくく撮影への集中力が途切れないという利点もあります。そういう意味ではエントリーユーザーに限らず既にハイグレードタイプのレンズをお持ちの方でも、撮影地によっては本レンズをチョイスすることも大いに有りでしょう。
移動する水鳥をリアルタイムトラッキングで撮影。咄嗟の状況でも瞬時に幅広い画角に対応、シャッターチャンスに強いのが高倍率ズームの最大の魅力です。
■写真家:高橋良典
1970年、奈良県生まれ。2000年よりフリーの写真家となり写真事務所「フォト春日」を設立。パンフレット、ポスター、カレンダー等へ風景写真を中心とした作品を提供。また、写真雑誌や出版物への写真提供及び原稿執筆を行う。
日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニープロイメージングサポート会員・αアカデミー講師