タムロン 28-75mm F/2.8 Di III VXD G2 レビュー|小型軽量な大口径標準ズームレンズの第二世代
はじめに
タムロン 28-75mm F/2.8 Di III VXD G2(ModelA063)は、同社初のソニーEマウントフルサイズ対応レンズとしてリリースされた28-75mm F/2.8 Di III RXD(ModelA036)の後継モデル。2018年5月の発売からわずか3年半という短い期間でのリニューアルに複雑な気持ちの先代モデルユーザーもいると思いますが、その進化の程をレポートしていきたいと思います。
Eマウント用レンズはサードパーティー製であっても、公開されているEマウント仕様書に則って開発されているため、周辺光量や各種収差のカメラ内レンズ補正にも対応。また、カメラ側のAF性能をスポイルしないので安心して購入できます。今回の撮影でも純正レンズと変わらず快適に使用することが出来ました。
外観と操作性
先代のストレートな外観と比べると、やや凹凸が付き、ホールディングが良くなりました。そしてツヤ感のあるデザインに一新され高級感がアップ!より所有欲を満たしてくれる仕上がりとなっています。サイズと重量は最大径75.8mm×長さ117.6mm、540gで先代とほぼ同じ。大口径F2.8の標準ズームレンズとしての小型軽量さはしっかりと継承されています。花型のレンズフードが付属します。
フィルター径はタムロン同シリーズ共通の67mm(35-150mm F/2-2.8 Di III VXDと150-500mmF/5.6-6.7 Di III VC VXDを除く)。ほかの焦点距離のレンズも含め、同社のレンズで揃えている方はフィルターが共用できるのがありがたいですね。とは言え、CPLフィルターの使用頻度が高い風景撮影などの場合は、レンズ本数分のフィルターを購入、全てのレンズにつけておくと速写性が上がるのでおすすめです。そんな場合でも径が大きすぎず、フィルターの金額を抑える事が出来ます。ソニー純正のズームレンズと比較すると、ピントリングとズームリングの前後が入れ替わっており(ソニー製はズームリングがカメラ側、ピントリングが前玉側)、混在して使う場合はやや慣れが必要だと感じました。
レンズにAF/MFの切り替えスイッチは装備されていないので、素早く変更出来るようカスタムキーやファンクションメニューに割り当てておきましょう。この点は正直に言うと、ファインダーから目を離さず直感的操作が可能なスイッチの装備をしてほしかったところ。ズームのロックスイッチは装備されていませんが、望遠側にした時でも繰り出し量が少ないので問題ありません。
フォーカスセットボタンとUSB-Cポートが先代より追加装備されています。簡易防滴構造が採用されており、USB Type-C端子にも防水タイプが採用されているので雨や霧の中での撮影も安心です。手ブレ補正機構VCは内蔵されていませんが、現行のソニーフルサイズカメラにはボディ内手ブレ補正が内蔵されているので心配ないでしょう。手持ち撮影に加えて三脚使用が多い風景撮影においては、手ブレ補正のONとOFFを頻繁に切り替えることになりますので、こちらも使いやすいようにカスタム設定をしておくのがベターです。私の場合、手ブレ補正の切り替えはソニー製レンズを使用する際、フォーカスホールドボタンに割り当てていましたので、それと同様に扱えるフォーカスセットボタンのタムロンレンズへの採用はとてもありがたく感じました。
描写性能
小型軽量にこだわり続けるタムロン。本レンズに限らず、従来からの「大口径、高画質レンズは大きくて重い」イメージを覆してきました。最初はその見た目の小ささに不安になったものですが、今となっては全くその心配はありません。細かな絵柄が多い風景撮影において実写でもリアリティある描写性能を発揮してくれます。
実は少しの期間、先代モデルも試用したことがあるのですが、比較すると明らかに周辺部の解像感が増した印象で6100万画素のα7R IVでも躊躇なく開放から使えると感じました。競合ひしめく標準ズームレンズ群の中、この小さく軽い筐体ながら一歩も引けを取らない性能には驚くばかりです。ここは光学系をゼロから見直し、刷新したこと。そして広角端を28mmとしてズーム倍率を抑えたことで実現できたと想像できます。
被写界深度の浅い望遠レンズと比べて、標準ズームでは背景をぼかしにくいものですが、ここで大口径F2.8と近接性能が生きてきます。円形絞りによるボケ具合は柔らかく満足のいくもので、非球面レンズ採用にも関わらずボケが玉ねぎ状にならない点が気に入りました。開放時、周辺部では口径食が見受けられますが、そもそも無しにすること自体が難しいことです。どうしても気になる場合は1段階程絞ることで改善されますが、せっかくの大口径レンズ。そこは割り切って積極的に開放を使いたいところ。
最短撮影距離と最大撮影倍率は望遠端で0.38m、1:4.1、そして特筆すべきは広角端。0.18m、1:2.7まで寄ることが出来るので、広角マクロとして背景の雰囲気を取り入れ、遠近を生かしたボケ描写が楽しめます。最も近づくとレンズフードが被写体に当たってしまうほどです。
今回の使用で最も驚かされたのが耐逆光性能です。先代より進化したBBAR-G2コーティングによる効果は絶大で、カメラと太陽の角度、また焦点距離によって多少の違いはあるもののゴーストやフレアの発生が相当に抑えられています。直接太陽を画面に取り入れる強い逆光時においてもコントラストの低下は感じられず、ゴーストに関してもシーンによっては全くと言ってよいほど気にならない、もしくは入る場所によっては後処理で対応できる程度です。
光条は絞り羽根の枚数によって出方が変わり、奇数の羽根枚数の場合はその倍数が出ます。本レンズの絞り羽根は9枚、つまり18本で派手めの光条が楽しめます。光条の一本一本の線は細めでシャープなので扱いやすいと感じました。ちなみに偶数の羽根枚数のレンズの場合、それと同数が出ますので覚えておきましょう。(例えば絞り羽根が8枚なら8本)
AF性能
描写性能だけではなくAFも大きく進化。先代のステッピングモーターRXDからリニアモーターのVXDにアップデートされました。もちろんファストハイブリッドAFやリアルタイムトラッキング、リアルタイム瞳AFなど、ボディ側の各種AF機能にも対応。特に望遠側でのピント移動が大きなケースでは明らかに体感速度が上がり快適になりました。風景撮影というと止まっているものを撮影するイメージで、高速なAFは必要ないという考えもあるかもしれませんが、やはり合焦までの速さと精度は、撮影時の集中力や作品の仕上がりに影響してくるものです。
TAMRON Lens Utility
新たに装備されたUSB-CポートにTAMRONコネクションケーブルを介してPCを接続することで、フォーカスリングやフォーカスセットボタンへ各種機能の設定が出来るようになりました。設定は多岐にわたりますが、動画撮影を意識した設定も出来るようになっています。また、ファームウェアのアップデートが簡単に出来るようになり利便性が高まりました。
まとめ
大幅な性能アップで第二世代として進化を遂げた本レンズ。弱点の見当たらない描写力に加えて、小型軽量とくればおすすめしない理由がありません。それを前提に敢えて言うならですが……やはり広角側がもう少し欲しいと感じるシーンがあったことは事実なので、できれば広角ズームと組み合わせて使用するのがおすすめです。例えば、同社17-28mm F/2.8 Di III RXDであれば重量は420g。本レンズと組み合わせても1kgに満たない重量で、超広角域から中望遠域までカバーできるとなれば撮影のバリエーションが広がる事間違いなしです。
■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニーイメージングプロサポート会員・αアカデミー講師