タムロン 18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXD|旅に最適な高倍率ズームレンズ
はじめに
こんにちは。旅写真家の三田崇博です。今回は2021年10月に発売になった、タムロン初の富士フイルムXシリーズ向けレンズ「18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXD」をレビューします(本レンズはソニーEマウント用もラインナップ)。富士フイルムの高倍率ズームレンズはこれまでXF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WRのみでしたが、望遠側が300mmまで対応する本レンズは、富士フイルムXシリーズユーザーは待ち望んでいた方も多いのではないでしょうか。
高倍率レンズのメリットとデメリット
レンズ1本で広角から望遠まで撮影できてしまう高倍率ズームレンズは、レンズ交換をすることなくほとんどの被写体を撮影することが可能です。風景を撮影していて急に動物が現れた、鳥が飛んできたというようなシーンでも素早く対応することができます。また、レンズ2本分が1本で収まるため荷物も少なくて済みます。個人的には特にミラーレスカメラになってから、レンズ交換時に埃が付着するリスクを減らすことができることも大きなメリットだと思います。
良い面ばかりが目立つ高倍率ズームレンズですが、もちろんデメリットもあります。高倍率を実現するためにどうしてもレンズ構成が多くなり、ゴーストやフレアが発生しやすく、特に望遠側の画質面が不利だと言われてきました。その点も今回検証していけたらと思います。
18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXDの特徴
・APS-Cサイズミラーレス対応レンズとして世界初となる16.6倍のズーム比
・AF駆動にはタムロン独自のリニアモーターフォーカス機構VXDを採用
・高倍率ズームレンズの常識を覆すほど優れた近接撮影能力
・4枚のLD(Low Dispersion:異常低分散)レンズや3枚の複合非球面レンズといった特殊硝材を贅沢に使用することで、画面中心から周辺に至るまで美しい描写を実現
・タムロン独自の手ブレ補正機構VCを搭載
XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WRとの比較
18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXD | XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR | |
焦点距離(フルサイズ換算) | 27-450mm | 27-206mm |
質量 | 620g | 490g |
最短撮影距離 | 15cm | 45cm |
開放F値 | F3.5 | F3.5 |
手ブレ補正 | 〇 | 5段 |
フィルターサイズ | 67mm | 67mm |
絞り羽枚数 | 7枚 | 7枚 |
防塵防滴 | 〇 | 〇 |
発売時期 | 2021.10 | 2014.7 |
富士フイルム純正のXF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WRはすでに発売から6年が経過していますが、今なお高い描写性能を誇るレンズです。焦点距離が違うので重さや大きさの違いは仕方ありませんが、18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXDは300mmまで撮影できるレンズとしては小型軽量に仕上がっています。
気になる画質の違いを、XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS Wの望遠端である135mm付近で比べてみたいと思います。
■18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXDで撮影
■XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WRで撮影
上の写真を切り出して、解像性能を比べてみましょう。
■F5.6で比較
■F8で比較
■F11で比較
解放F5.6の切り出し画像の比較では、XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WRのほうが解像感の高い結果となりました。しかし、F8付近まで絞り込んでいくとその差は縮まっていき、F11では18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXDのほうが良好な結果となりました。このレンズは少し絞って使うことでその性能を発揮するように感じました。
最望遠側での画質比較
望遠端300mmでの解像力も検証するため、富士フイルム純正の望遠ズームレンズ、XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRと比較してみたいと思います。望遠に特化したズームレンズとの比較になるので当然画質は劣りますが、十分に実用の範囲内だと思います。
■18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXDで撮影
■XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRで撮影
画面右のお堂の部分を切り出したものが以下となります。作例はF7.1で撮影したものですが、もう少し絞るとさらに良好な結果になるのではないでしょうか。どちらにせよこれだけの高倍率ズームレンズということを考えると、望遠側の画質はかなり良好だと言えます。
驚異的な近接撮影能力
個人的にこのレンズで特に気に入ったところは近接撮影の強さです。最短撮影距離が15cmなので、レンズの長さを考えるとほぼレンズ先端に被写体が当たりそうになるまで近寄って撮影することができます。撮影倍率も1:2(0.5倍)とハーフマクロレンズとしても使えます。先ほど高倍率ズームレンズはレンズ2本分が1本にと言いましたが、このレンズはマクロレンズの代わりにもなり、レンズ3本分を1本でカバーすることができますね。
このレンズを持って東北まで紅葉撮影に
実際の使い勝手や携行性を検証するにはテスト撮影だけでは難しいと思い、実際に1週間ほど東北に撮影に出てみました。私の住む奈良県から青森までは約1000kmの道のりですが、今回は行き帰りの途中の撮影も楽しみました。
行く途中に富士山に立ち寄りました。河口湖より積雪のあった富士山頂を撮影。300mmの超望遠で一部分を切り取って撮影すると、見慣れた富士山がまるでヒマラヤの山々のような荒々しい姿に写りました。
日本三大瀑布でもある華厳の滝です。滝に虹がかかったので急遽望遠側にズームして撮影しました。水の流れが七色になり不思議な光景でした。
岩手県八幡平国立公園の南東に位置する松川渓谷。初めて行きましたが、橋の上から見下ろす紅葉と渓谷のコントラストは「美しい」の一言でした。橋の上に三脚を立てての撮影だったのでこの軽量なレンズで助かりました。
八幡平は霧で覆われていました。その隙間から紅葉が見え隠れし始めた一瞬、風がやみ湖面に赤や黄色が写り込みました。
今回の旅の一番の目的地でもある奥入瀬渓流では、例年より遅めの紅葉に出会うことができました。レンズが軽量なので三脚を使った縦位置の撮影時でもブレなく安定しています。
動画でも撮影しましたので美しい紅葉の奥入瀬渓流をぜひご覧ください。
十和田湖畔の紅葉もほぼピークで、湖の周辺は黄色を中心とした紅葉でカラフルに彩られていました。
世界自然遺産に登録されている白神山地のブナ林です。トレッキングコースになっているので歩きながら撮影しましたが、広角レンズと本レンズのみの軽装で長時間歩いても疲れがなく快適に撮影することができました。
白神山地で撮影中に突然現れた野生のサル。急な時にもレンズ交換することなく被写体に寄れるのは、高倍率レンズの一番のメリットだと思います。
日本一の木造三連太鼓橋である鶴の舞橋です。日の出の時間に太陽を直接逆光で撮影してみましたが、ゴーストやフレアの発生はなくコーティング技術の進化に驚きました。
動く被写体には弱いと言われている高倍率ズームレンズですが、広角側から望遠側に切り替えたときに少しAFの動作のもたつきが見られるものの、一度被写体を捉えると追尾能力は高いです。(もちろんカメラの性能による部分も大きいですが)
鶴を望遠で撮影していると突然虹が出現しました。レンズを交換していると消えてしまうと思い、そのまま広角側で撮影することができました。
帰りに立ち寄った戸隠の鏡池。晴れの予報でしたが日の出前に到着したときには雲りでした。日の出時間後にしばらく待っていると霧が晴れて山々が姿を現しました。広角18mmから望遠300mmまでの様々な画角での撮影を堪能できました。
まとめ
これまでの高倍率ズームレンズの常識を覆す描写性能を誇る18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXDは、旅に持っていくのに最適な一本となりそうです。これに加えXF10-24mmF4 R OIS WRなどの広角ズームレンズが一本あれば、旅写真で撮影する被写体はほぼすべてカバーできるのではないでしょうか。すでに標準レンズと望遠レンズをお持ちの方も、このレンズがあればレンズ交換をする余裕のない動物や祭りの撮影などで活躍することと思います。
■写真家:三田崇博
1975年奈良県生駒市生まれ。旅好きが高じ、現在までに100を超える国と地域で350か所以上の世界遺産の撮影を行う。作品は各種雑誌やカレンダーへの掲載に加え全国各地で写真展を開催している。
日本写真家協会(JPS)会員・FUJIFILM X-Photographer・アカデミーX講師