タムロン 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD ニコンZマウント レビュー|8倍ズームで汎用性が高い超望遠入門レンズ

中野耕志
タムロン 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD ニコンZマウント レビュー|8倍ズームで汎用性が高い超望遠入門レンズ

はじめに

「超望遠は、50mmの視野を手に入れた。」というキャッチフレーズのタムロン 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD(Model A67)。ソニーEマウント用は2年前の2022年9月に発売されているが、このたびニコンZマウント用が発売された。本レンズの登場により、タムロンのニコンZマウント用レンズとしては70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD、35-150mm F/2-2.8 Di III VXD、150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD、28-75mm F/2.8 Di III VXD G2に次いで5本目のラインアップとなる。

一般的な400mm超望遠ズームといえば100mmスタートのものが多い中、この50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXDはワイド端が50mmスタートという、ライバルを圧倒する8倍のズーム比で幅広い焦点距離をカバー。発売時の実勢価格はキタムラネットショップで168,300円と、400mmをカバーする超望遠ズームとしては安価で超望遠入門レンズとしても最適だ。

外観・操作感

収納時の全長は185.8mm(ニコン用)で、三脚座もオプションのため非常にコンパクト。突出部も少なくカメラバッグへの収まりも良い。フィルター径は67mmながら最大径は88.5mmと一回り太いので、サイズ感的には70-200mmF2.8に近い印象だ。

今回の作例撮影ではニコンZ 8と組み合わせて手持ちにて飛行機を撮影したが、ホールディング時の重量バランスは良好。なによりレンズ質量が1,180g(ニコン用)しかないので、400mmまでをカバーする超望遠ズームながら気軽に持ち歩ける。

操作系はカメラ側にフォーカスリング、レンズ先端側にズームリングが配置されており、どちらも刻みが深くて操作性の良いゴムローレットが巻かれている。ズームリングの回転角は75°で、ワイド端50mmからテレ端400mmまでワンアクションでズーミングできる。操作系は左手側に集中しており、フォーカスリングとズームリングの間にカスタムスイッチ、AF/MF切り換えスイッチ、そしてAFボタンが配置されている。右手側には自重でズームが動かないようロックスイッチが配置されている。

光学系

コンパクトな鏡筒内には18群24枚の光学系が詰め込まれており、XLD(eXtra Low Dispersion)レンズやLD(Low Dispersion:異常低分散)レンズ、GM(ガラスモールド非球面)レンズ、複合非球面レンズといった特殊硝材を効果的に配置し、諸収差を抑えている。

飛行機写真の実写

■使用機材:Nikon Z 8 + TAMRON 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD(93mm)
■撮影環境:F8 1/500秒 ISO100 WB晴天

実写では三沢基地航空祭、青森空港、仙台空港の3カ所で撮影を行った。最初に本レンズを使用したのは三沢基地航空祭。戦闘機のデモフライトは400mmでは全然足りないので地上展示機を撮影した。ワイド端50mmなので、地上展示機の機体全景からクローズアップまでレンズ交換なしに撮影できるのはとても便利だった。

■使用機材:Nikon Z 8 + TAMRON 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD(400mm)
■撮影環境:F11 1/250秒 ISO100 WB晴天

通常の撮影では1台のカメラに24-120mm、もう1台のカメラに100-400mmを組み合わせるというように、寄りと引きを撮り分けるために2台のカメラが必要だが、タムロン50-400mmでの撮影では1本のレンズで地上展示機のほとんどのシーンを撮影できた。もちろん50mmよりも広角撮影が必要なこともあるが、本レンズのようにズーム比が大きければレンズ交換の手間は減るので限られた時間内で効率的に撮影を進められる。

画質は高倍率レンズにしてはズーム全域においてシャープでヌケが良く、テレ端400mmでも1段程度絞れば周辺光量不足は思ったほど目立たない。一方で歪曲収差はやや大きめで、画面中心から離れたところに直線を写し込むと強い糸巻き収差が認められる。

■使用機材:Nikon Z 8 + TAMRON 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD(125mm)
■撮影環境:F8 1/100秒 ISO200 WB晴天

三沢基地航空祭のあとは青森空港で撮影した。ここでの撮影は初めてで、どの撮影ポイントから何ミリのレンズが必要なのかは撮影時まで未知であった。地方空港ではトラフィックが少ないため試し撮りの機会が少なく、1機1機が本番の撮影となる。そんなときはこの50-400mmのような幅広い焦点距離をカバーできるレンズならレンズ選択の失敗リスクが無く心強い。

■使用機材:Nikon Z 8 + TAMRON 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD(66mm)
■撮影環境:F6.7 1/1000秒 ISO400 WB晴天

とくに青森空港からは岩木山や八甲田山などの名峰と絡めて撮影できることもあり、機体の動きに合わせて機体アップと風景的なショットを撮り分けることも多く、ワンチャンスでいくつものバリエーションを得ることができた。

■使用機材:Nikon Z 8 + TAMRON 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD(167mm)
■撮影環境:F6 1/250秒 ISO3200 WB晴天

今時のレンズらしく全体的な光学性能自体は非常に高いが、ある条件下において機体前部は解像しても機体後部は解像しないことがあるのに気がついた。どうやら手ブレ補正機構VCが片ボケを誘発しているようなので、それに気づいてからはVCをオフにして撮影した。これは個体差の可能性もあるが、とくに超望遠ズームレンズでは頻発するものである。

超望遠撮影において手ブレ補正機構は、ファインダー像は安定させてくれるメリットはある一方、片ボケの原因にもなり得る。動体撮影において被写体ブレを抑え込むのは手ブレ補正機構ではなくシャッター速度管理なので、メリットとデメリットを知ることでレンズが持つ本来の性能を引き出すことができる。

なお片ボケはレンズを振りながらの撮影時に起こりやすいものであり、レンズを振らない撮影時はほとんど発生しないので、通常撮影時はVCをオンのままで問題ない。

■使用機材:Nikon Z 8 + TAMRON 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD(400mm)
■撮影環境:F8 1/750秒 ISO200 WB晴天

青森空港での撮影の次は仙台空港での撮影だ。仙台空港ではランウェイ27への着陸機を中心に撮影した。ここ仙台に飛来する機体のうちもっとも大型なのはボーイング767で、夕方に着陸する。

■使用機材:Nikon Z 8 + TAMRON 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD(400mm)
■撮影環境:F8 1/1000秒 ISO200 WB晴天

接近時に機体正面から夕日が当たる機体アップをテレ端400mmで狙い、通過後は振り向きざまにレンズをワイド端50mmに引き、露出を整えて夕日バックで撮ることにした。

■使用機材:Nikon Z 8 + TAMRON 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD(50mm)
■撮影環境:F8 1/4000秒 ISO200 WB晴天

通常は2台のカメラで撮り分ける撮影法だが、今回はこのレンズ1本でその2パターンの撮影に挑戦した。2枚の写真の時間差は約4秒。数字にしてみると長いようだが、立ち位置を180°変えて400mmから50mmへのズーミング、さらに順光から逆光なので露出を2段変更する操作をし、安定したフレーミングをするにはあまりにも短い時間だ。全く別の撮影へ切り換えることを考えると一瞬の出来事であり、タムロン50-400mmだからこそこのような柔軟な撮り方を可能にしてくれたともいえる。

まとめ

質量1,180gというコンパクトさながら、標準50mmから超望遠400mmをカバーする8倍ものズーム比を実現したタムロン 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD(Model A67)。今時のレンズらしく比較的安価ながら安定した画質を有している。その卓越した機動力から、飛行機写真はもちろんあらゆる屋外撮影で活躍してくれそうな1本だ。

(c)Koji Nakano/写真の無断転載禁止

 

 

■写真家:中野耕志
1972年生まれ。野鳥や飛行機の撮影を得意とし、専門誌や広告などに作品を発表。「Birdscape~絶景の野鳥」と「Jetscape~絶景の飛行機」を二大テーマに、国内外を飛び回る。著書は「侍ファントム~F-4最終章」、「パフィン!」、「飛行機写真の教科書」、「野鳥写真の教科書」、「飛行機写真の実践撮影マニュアル」など多数。

 

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