タムロン 70-180mm F/2.8 Di III VXD レビュー|工場夜景は高解像望遠ズームにおまかせ!
はじめに
こんにちは!フォトグラファーの鈴木啓太|urbanです。長年オールドレンズやフィルムを中心にポートレート、スナップ、家族写真を撮影しております。
今回はTAMRONからリリースされているソニーEマウント用のズームレンズシリーズから、70-180mm F/2.8 Di III VXD (Model A056)をご紹介します。70-200mm F2.8近辺のズームレンズと言えばいわゆる「大三元レンズ」と呼ばれ、1本持っていれば絶対に重宝するレンズです。先日、後継品となる70-180mm F/2.8 Di III VC VXD G2 (Model A065)が発表されたばかりですが、まだまだ現役と言える本レンズ。さっそく見ていきましょう。
大三元ズームレンズ70-200mm F2.8との出会い
カメラを始めた当初、星の数ほどあるレンズとそれらで撮られた作例に魅せられ、夜な夜なwebサイトを徘徊していたという記憶があります。私はそのたくさんのレンズから、自分が気に入る、自分の撮りたいイメージに合うレンズを日々捜し歩いていました。
そんなある夜、衝撃的な作例を目にします。使用レンズはメーカー純正の70-200mm F2.8。今でもハッキリと覚えているのは、単焦点レンズと比べるとそこまで明るくないF2.8というスペックにもかかわらず、今まで見たことのない大きなボケに包まれた、インパクトのある写真。当時は大三元レンズという言葉すら知らず、webでたまたま見つけたこの70-200mm F2.8というズームレンズに強く惹かれ、もやもやする毎日。このレンズに一体どんな秘密があるのか?その謎を解明するため、私はAmazonの奥地へと向かうこととなったのでした。
テレ端-20mmで得られる大きなメリット
Amazonからレンズが届き、開封。最初の感想は「重っ!!!」の一言でした。それもそのはず、それまで使っていたレンズは、入門用の単焦点レンズ50mm F1.8。目の前に鎮座する約1.5kgの巨砲と比較すると、当時の私の一眼デジタルのメインレンズは約160gとおもちゃ同然。それからというもの、急に転がり込んできた70-200mm F2.8との蜜月は、そのわがままボディに私の腕が耐えられなくなるまで続くことになったのです。
時を経て他社ミラーレスカメラにシステムを移行した私は、そのレンズを使うことはなくなってしまいましたが、製品発表でTAMRON 70-180mm F2.8の存在を知った瞬間、懐かしさとともに、またあの描写に会えるのではという期待が湧き上がってきたのでした。
一方で、テレ端が180mmなのは、気にならなかったといえば嘘になります。ですがこのレンズはテレ端200mmの常識を覆し、180mmに変更したことで、光学性能はそのままに大きく軽量化を図ることができていたのです。
特に重量に関しては、平均して1.5kg程度ある70-200mm F2.8シリーズの半分近い810gと大幅に軽量化されており、レンズの長さも149mmと1/4ほど短くなるなど想像以上にコンパクト。20mmの差は撮影者が何を撮りたいかにもよりますが、個人的に足りないと感じることはありませんでした。むしろ20mmを我慢した見返りの方が大きいのでは考えています。
TAMRON 70-180mm F/2.8のテレ端、ワイド端の解像力
本レンズはこれと言って苦手な撮影シーンはなく、万能なズームレンズです。高い描写性を見るために今回は工場夜景を被写体に選びました。
工場夜景はロケーションによりますが、50mm程度から300mm程度まで様々な画角のレンズが活躍します。近距離で撮影することが難しいため、広角レンズが活躍することは稀で、標準よりも望遠レンズが活躍するフィールド。
特にズームレンズはピカイチで、ワイド端で全体を撮影、テレ端で工場の一部を切り取るなど自由自在。高解像力を誇るレンズと金属の相性は良く、配管や梯子、煙突などのサビや汚れといった工場には欠かせないお化粧の部分もしっかりと表現することができます。
ワイド端70mmの作例です。中心解像度は開放からほぼ最大解像となるのは正に最新レンズと言って良いでしょう。風景等で気にすべきは周辺の解像度ですが、F2.8でも非常に高くα7R Vといった高画素機での使用も全く問題ありません。F5.6あたりが解像度のピークとなりますが、向上幅は小さく開放からトップスピードのレンズであるということは間違いないでしょう。
テレ端180mmの作例です。こちらも開放から申し分のない解像力ですが、ワイド端の方がわずかに解像力が高いという結果が出ました。ピークもF4~5.6となります。テレ端はワイド端よりも周辺光量落ちが強く、糸巻き型の歪みがあるためカメラ本体、もしくはAdobe Lightroom等のソフトウェア現像処理で、補正をしてあげるのが良いでしょう。
工場夜景を撮影しよう!ポイント解説
さてここからは工場夜景における基本的な撮影方法を解説していきます。工場夜景撮影は、風景(夜景)撮影の一種ですが、風景にありがちなロケーション特有の事象(山岳・星景撮影における天候や気候、撮影地そのものが秘境といった交通問題等)がほぼなく、非常に初心者向きのカテゴリです。
今回撮影した川崎にある工場地帯の様に、バスや電車などの公共交通機関で撮影地にたどり着けるので、車をお持ちでない方でも始めやすいのが強みです。
準備編
撮影に必須のアイテムは三脚です。三脚ごとに耐荷重が決まっており、カメラとレンズの重量から最適な三脚を選ぶことが必要です。工場地帯は沿岸にあることが多く、風の影響を受けブレてしまうのは日常茶飯事ですので、耐荷重にゆとりがある堅牢な三脚を選ぶのがおすすめです。
作例は露光時間30秒で撮った写真です。三脚のほかにブレを防ぐレリーズもあると便利ですが、セルフタイマー機能を使うことで、本体に触れずシャッターを切ることができますので必須ではありません。
撮影編
次はカメラの設定です。夜景撮影ですので、SSは数秒から数十秒になることが多く、ブレが写真の解像度を大きく落としてしまいます。三脚がなく手持ちで撮影する場合は、カメラやレンズの手ブレ補正をオンにすることを忘れないようにしましょう。三脚を使用する場合は反対に手ブレ補正はオフにして撮影します。
F値は色々と選択できますが、中心から周辺までの解像力がバランスよく発揮されるF5.6~8程度を選択することが多いです。長時間露光になることも多いですが、距離がある程度離れているのであれば必要以上には絞らないというのが私の考え方です。
ピントの合わせ方はMFが必須となります。工場夜景は配管や梯子、タンクなど複雑に入り組んでおり、AFが合焦しても微妙にピントが合っていないということになりかねません。本体機能でピントを拡大しMFできっちりピントを合わせるようにしましょう。
現像編
撮影後は、可能な限りLightroom等で後処理を行うようにしましょう。工場の強いライトとその陰になっている部分の露出差が大きくなり、未現像ではその良さを発揮する事ができません。
工場夜景の現像は独特で、ハイライトを大きく下げながらシャドウを大きく上げて全体の明暗差を小さくするような現像を行うことが多いです。明るすぎても夜景ではなくなってしまうので、バランスを考えた現像を行うことが重要です。撮影時は工場のライトに引っ張られることなく、シャドウ部も黒つぶれしないようしっかりと全体の露出を確認することが良い現像につながる第一歩となります。
ホワイトバランスを調整することで、写真全体のイメージを変更することができるのも現像ならでは。撮影時はオートを設定し、現像時にテイストを変えていくというのが良い方法です。こちらはLightroomでWBを4500Kから4050Kに変更しています。
まとめ
誰もが憧れる70-200mm F2.8ですが、TAMRON 70-180mm F/2.8 Di III VXDは解像力とボケを維持したまま、大幅に小型化した望遠レンズです。今回はMFが主でしたが、AFの駆動にはリニアモーターフォーカス機構を搭載しており、動体撮影も問題なく可能です。望遠レンズ特有の圧縮効果から生み出されるボケはポートレートにも適しており、正に万能。
メーカー純正70-200mmと比較しても非常にリーズナブルで、TAMRONがリリースしている超広角ズームレンズ「17-28mm F/2.8 Di III RXD (Model A046)」、標準ズームレンズ「28-75mm F/2.8 Di III VXD G2 (Model A063)」と揃えて、新大三元レンズとして活用するのもおすすめです。必須級の1本となる本レンズ、是非使ってみてください!それでは、また次の記事でお会いしましょう。
■フォトグラファー:鈴木啓太|urban
カメラ及びレンズメーカーでのセミナー講師をする傍ら、Web、雑誌、書籍での執筆、人物及びカタログ撮影等に加えフィルムやオールドレンズを使った写真をメインに活動。2017年より開始した「フィルムさんぽ/フランジバック」は月間延べ60人ほどの参加者を有する、関東最大のフィルム&オールドレンズワークショップに成長している。著書に「ポートレートのためのオールドレンズ入門」「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」がある。リコーフォトアカデミー講師。