フォクトレンダー NOKTON 50mm F1 Aspherical|キヤノンRFマウントのサードパーティレンズでF1の世界を描く

金森玲奈
フォクトレンダー NOKTON 50mm F1 Aspherical|キヤノンRFマウントのサードパーティレンズでF1の世界を描く

はじめに

2023年10月26日、キヤノンのライセンスを受けた初めてのサードパーティー製RFレンズとして、コシナの「NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount」が発売されました。フォクトレンダーのフルサイズ用交換レンズとして最も明るいF1.0が見せるやわらかいボケ味と芯のあるシャープな描写が、キヤノンRシリーズとどんな化学反応を起こすのか、その実力に迫りました。

仕様・デザイン

最大径×全長はφ79.3×64.0mm、重量は650g。金属製の本体にF1.0という明るい開放F値でありながらこのサイズと重さに収まっているのは、コシナ独自の高精度な研削非球面レンズ(GAレンズ)を採用したからこそと言えるでしょう。電子接点を搭載しており、撮影情報のExifの記録が可能です。

ボディ内手ブレ補正機構搭載のカメラでは3軸のボディ内手ブレ補正に対応していますが、ボディ側での収差補正は非対応のため、撮影シーンによっては周辺光量落ちが若干目立つ場合もあります。ですが、このレンズの描写にとってはほのかに落ちる周辺落ちも良いアクセントに感じました。

金属製ボディならではの高級感のある外観はこのレンズを所有する満足感にもつながるように思います。そしてキヤノンのEOS Rシリーズのローレットパターンに準じた絞りとピントリングの存在が、メーカーの壁を超えてレンズとカメラの一体感を高めてくれます。こういった細かい部分にも手を抜かないのがコシナらしさと言えるでしょう。手に馴染むピントリングの質感と回した時のトルク感も非常に心地良く、マニュアルレンズとしての完成度の高さを感じさせます。

異次元のボケ味

12枚構成の絞りを採用したことで、絞り羽根が形作る丸ボケは限りなく円形に近いものになっています。点光源を背景ボケにした場合、開放から二段程度絞るだけでもかなり円の直径がちいさく見え、開放F1.0が描くボケの大きさをより実感できます。

▼F1

■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/80sec F1.0 -1EV補正 ISO5000 WBオート

▼F2.5

■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/13sec F2.5 -2/3EV補正 ISO6400 WBオート
夕暮れ時、横断歩道の向こう側にあるレストランのやわらかな明かりの丸さにほっこりした気持ちになりました。
■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/60sec F1.0 -2/3補正 ISO100 WBオート
手前のコスモスを前ボケにして撮影。F1.0の大きなボケ味によって、標準域の焦点距離でも望遠レンズで撮影したような奥行き感を感じられました。
■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/1600sec F1.0 +3EV補正 ISO100 WBオート

絞りで表情を変える世界観

前述した通り、コシナ独自の高精度な研削非球面レンズ(GAレンズ)を採用したことで幅広い被写体に対して安定した画質を得られます。カメラ側の収差補正に対応していないため、開放付近では周辺光量落ちを感じることもありますが、二段程度絞ればほぼ気になりません。また、二段絞っても平均的な明るいレンズの開放F値(F2.8)というのも改めて考えると驚異的です。

F1.0でもピントの芯を捉えれば文句なく隙のないシャープさを実現してくれますが、スナップや少し動きのある被写体を捉える時にほんの少し絞り込むと、被写体の存在感がグッと高まると共に、周囲の現実感も増すような気がします。開放F1.0が見せる幻想的な雰囲気と、絞ることで立ち上がる周囲の存在感。「NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount」はいくつもの顔を見せてくれるレンズと言えます。

レトロな屋内アーケードのど真ん中でくつろぐ猫を激写。アーケードの雰囲気が伝わりつつ、主役の猫の存在感を邪魔しない程度に絞り込みました。
■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/100sec F2.8 +1/3EV補正 ISO800 WBオート
コロコロと寝返りを打つミーアキャットを撮影。マニュアルでピントを合わせるには難しい被写体でしたが、少し絞ったことでピント面が厚くなりシャッターチャンスに集中できました。
■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/800sec F2.0 +2/3EV補正 ISO100 WBオート
お気に入りの和菓子屋さんでひと休み。F2.8まで絞ったことで店内の雰囲気も程よく感じられる一枚に。
■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/80sec F2.8 +EV1補正 ISO320 WBオート

心もとろけるF1.0の世界

■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/400sec F1.0 ISO100 WBオート
■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/60sec F1.0 −2/3EV補正 ISO250 WBオート
■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/80sec F1.0 ISO1600 WBオート
■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/800sec F1.0 +1 1/3EV補正 ISO100 WBオート
■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/1000sec F1.0 +3EV補正 ISO100 WBオート

さいごに

■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/160sec F1.6 +2/3EV補正 ISO2000 WBオート

今回「NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount」を使用し、まず心を掴まれたのは一も二もなくF1.0が描くやわらかな空気をまとった包み込むようなボケ味と、温度を感じさせるようなしっとりとしたこのレンズ独特の描写でした。近年はカメラ側での補正がデフォルトになりつつある収差補正が効かないことで得られる画面周辺の落ち込みすら、このレンズの世界観を構築するのに必要な要素に感じられるほどでした。

また、マニュアルレンズということもあり、普段のスナップより少しだけじっくり被写体と対峙する時間を持てたのも「撮る」楽しさを再確認する良いきっかけになったように思います。ピントが合った瞬間に被写体の存在が画面上に浮かび上がってくるような感覚は他のレンズではあまりできない体験でしたし、マニュアルだからこそ喜びもひとしおに感じました。そして手に馴染む金属製のボディと美しいローレットパターンのピントリングは近年の軽量化を追求するレンズの作りとは一線を画しており、コシナの持つ唯一無二のオリジナリティの表れだと思います。

キヤノンが初めてライセンス契約を結んだサードパーティー製レンズとしても注目すべき「NOKTON 50mm F1 Aspherical RF-mount」の登場をきっかけに、また別のコシナ製RFレンズが出ることが今から待ち遠しいです。

 

 

■写真家:金森玲奈
1979年東京生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。東京藝術大学美術学部附属写真センター勤務等を経て2011年からフリーランスとして活動を開始。雑誌やwebマガジンなどでの撮影・執筆のほか、フォトレッスン「ケの日、ハレの日」を主宰。個展・企画展多数。11月に福岡で開催される「Wonder Foto Day Fukuoka2023」に選出。

 

 

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