フォクトレンダー NOKTON 50mm F1 Aspherical Zマウント|ドラマを生み出してくれる大口径標準レンズ

水咲奈々
フォクトレンダー NOKTON 50mm F1 Aspherical Zマウント|ドラマを生み出してくれる大口径標準レンズ

はじめに

 2023年2月23日に発売されたコシナの「NOKTON 50mm F1 Aspherical Zマウント」は、フォクトレンダーのフルサイズ用交換レンズとして、もっとも明るい開放値F1を実現した、大口径のMFレンズです。今回は、本レンズとNikon Z 6IIのコンビでポートレートをテーマにレビューをお送りします。

水に絵の具を溶かしたような滑らかなボケ味

撮影機材:Nikon Z 6II + NOKTON 50mm F1 Aspherical
絞りF1 1/160秒 ISO250 AWB ピクチャーコントロール:ポートレート

 本レンズのボケ味は、水に絵の具を溶かしたような滑らかさで、筆者の好みにピッタリと寄り添ってくれました。ワンシャッター目で、思わず「おおー」と声が出てしまうほど。

 レンズ構成は7群9枚で、コシナ社生産のGA(研削非球面)レンズ1枚、非球面レンズ1枚が採用されています。レンズ名に「Aspherical」が付いているとおり、最近のレンズにしてはシンプルな構成ながら、高性能・高画質、コンパクトなサイズを実現しています。

 F1の浅い被写界深度のお陰もあって、モデルの顔だけで奥行き感を表現できています。ピントを合わせた右目より、カメラに近い位置にある鼻はふんわりとボケて、頬に当てた右手の指と髪の毛で、手前から奥へのボケのグラデーションを表現してくれています。下唇のグロスが反射して、小さな光ボケを作っていることにも感動しました。

少しの光でも見逃さないレンズ

撮影機材:Nikon Z 6II + NOKTON 50mm F1 Aspherical
絞りF1 1/200秒 ISO250 AWB ピクチャーコントロール:ポートレート

 焦点距離は50mmの標準画角ながら、F1の浅い被写界深度のお陰で大きなボケを得られて、奥行き感をぐっと感じる画を生み出してくれます。絞り羽根枚数は12枚で、角のない優しい輪郭の玉ボケが印象的です。少しでも光っているものは、水で溶いたようにボカすか玉ボケにしてしまえ!という、勢いを感じるレンズです。

電子接点搭載でMF撮影アシスト機能が使える!

撮影機材:Nikon Z 6II + NOKTON 50mm F1 Aspherical
絞りF1 1/200秒 ISO250 AWB ピクチャーコントロール:ポートレート

 本レンズはマニュアルフォーカスのレンズなので、ピント合わせはピントリングを回して手動で行います。レンズマウント部には電子接点が搭載されているので、合焦すると色が変わるピーキングを利用したり、ピントを合わせたい箇所を拡大して確認しながら合わせたり、フォーカスポイントの枠の色の変化を見ながら、ピント合わせを行えます。筆者は、それらすべての機能を使ってピント合わせを行いました。

 まず、フォーカスピーキングの色は赤にして、ピントを合わせることの多い目やマツゲの黒色と反対色にします。ピーキングの検出設定は、ピントが合っていると判断される範囲が一番狭い低感度にして、F1の浅い被写界深度に備えます。

 さらに、カメラ前面のファンクションボタン2に、等倍拡大の動作を割り当てて、モデルとカメラの距離が大きく変わった場合は、等倍に拡大してピントを確認してから、シャッターを押すようにしています。

 モデルとカメラの距離が大きく変わらず、ちょっとのポーズ変更や、自分が少し回り込むような構図変更の場合は、フォーカスポイントの枠が、赤から緑色に変わったかを合焦の指標にしてシャッターを押します。こうすることで、マニュアルフォーカスのレンズでも、リズミカルに撮影を行えます。

 また、電子接点があることでボディ内手ブレ補正が使用できたり、Exif情報が記録されたりとメリットがたくさんあります。電気通信ができるカメラボディはカメラとファームウェアによって制限がありますので、本レンズのコシナ公式サイトをご確認ください。

高級感のあるデザインと操作感の良いフォーカスリング

撮影機材:Nikon Z 6II + NOKTON 50mm F1 Aspherical
絞りF1 1/200秒 ISO250 AWB ピクチャーコントロール:ポートレート

 筆者はコシナのレンズのデザインと質感が本当に好きで、持った瞬間に感じる高級感のある適度な重み、余計な装飾を省きながらもわかりやすさを追求した印字、コンパクトながらストレートすぎない凸凹な鏡筒など、ツボにはまるポイントが沢山あります。

 総金属製のローレット加工のフォーカスリングは、粘りがありながらもスムーズな操作感で手に馴染みやすく、マニュアルフォーカス撮影時に大切な、ほんの少しの微妙なピント調整がしやすいのもポイントです。最大径67.6mm、全長66.6mmと正方形に近い形で、カメラボディから出しゃばらない長さなのも、モデルに威圧感を与えない良いポイントのひとつです。

高いコントラストで被写体を印象的に仕上げてくれる

撮影機材:Nikon Z 6II + NOKTON 50mm F1 Aspherical
絞りF1 1/200秒 ISO200 AWB ピクチャーコントロール:ポートレート

 本レンズの描写で特徴的なのが、コントラストの高さです。被写体が印象的な立体感を持っているのは、この特性のお陰でしょう。曇り空のフラットな光の状態と、ピクチャーコントロール「ポートレート」の、コントラストを強調しない画作り設定の組み合わせでも、被写体を力強く表現してくれます。

撮影機材:Nikon Z 6II + NOKTON 50mm F1 Aspherical
絞りF1 1/200秒 ISO200 AWB ピクチャーコントロール:スタンダード

 ピクチャーコントロールを「スタンダード」にすると、そのコントラストの高さはさらに顕著になりました。特にアンダー部の粘りが美しく、色味のグラデーションを繊細に表現しています。

 写真の基礎講座ではないので、白トビ・黒ツブレをうるさくは言いませんが、黒ツブレぎりぎりのアンダー部を綺麗に描写してくれると、撮影できるシチュエーションがぐっと増えるので、とてもありがたい性能だと言えます。特に、この高いコントラストでのアンダー部の粘りは、表彰モノです。

 今回のポートレート撮影では、高いコントラストと滑らかなボケが共存していて、ドラマティックな作品が作れるレンズだと感じました。空気の乾いたどこかの国に持ち出して、街中でスナップを撮るのも楽しそうですね。

 

■モデル:山上ひかり

■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。日本写真家協会(JPS)会員。

 

 

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