フォクトレンダー NOKTON 75mm F1.5 Aspherical|RFマウントの頼れる相棒
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はじめに
2024年4月26日、コシナがキヤノンRFマウントレンズ「NOKTON 75mm F1.5 Aspherical」を発売しました。昨年10月にキヤノンとライセンス契約を結んだサードパーティー製レンズ初となる「NOKTON 50mm F1 Aspherical」を発売して以来、すでにRFマウントのレンズとしては3本目になります。開放F1.5の大口径中望遠マニュアルレンズだからこそ、ピントが合った瞬間に浮かび上がる被写体の存在感や、とろけるようなボケと絞った時に際立つシャープな描写は圧巻です。今回はそんな「NOKTON 75mm F1.5 Aspherical」の魅力をご紹介していきます。
仕様・デザイン
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「NOKTON 75mm F1.5 Aspherical」は2019年に発売されたVMマウント用「NOKTON Vintage Line 75mm F1.5 Aspherical」のRFマウント版と言えます。最大径×全長はφ74.0×71.9mm、重量は525gとVMマウント用より175gほど重くなっていますが、最短撮影距離は20cm短縮されるなど、RFマウント用ならではの進化も遂げていると言えるでしょう。
電子接点を搭載しており、撮影情報のExifの記録が可能ですが、EOS RシステムのUI上の絞りの表記が1/3ステップであるため、Exif上の開放F値は「F1.6」と表示されます。すでに発売されているNOKTON50mm F1、NOKTON40mm F1.2と同様に、ボディ内手ブレ補正機構搭載のカメラでは3軸のボディ内手ブレ補正の他に、拡大表示、ピーキング、フォーカスガイド(EOS RPのみ非対応)といった3種類のフォーカスアシスト機能に対応しています。
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今回もこれまでのRFマウント用レンズ同様、キヤノンのEOS Rシリーズのローレットパターンに準じた絞りとピントリングの美しさ、金属製ボディの高級感は持つだけで撮影前から気分を盛り上げてくれます。
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キヤノンRFマウント用ミラーレスカメラのイメージセンサーに最適化された光学系を実装しており、フルサイズ、APS-CどちらのEOS Rシステムのミラーレスカメラでも使用できます。
F1.5で触れる春の空気
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■撮影環境:1/2000sec F1.6 +2 2/3補正 ISO100 WBオート
「NOKTON 75mm F1.5 Aspherical」の魅力といえば、やはり明るい開放F値が描き出すやわらかなボケ味を一番に挙げたいところです。75mmという焦点距離もあり、特に前ボケを入れると主役になる被写体との距離感がより分かりやすく伝わるように感じました。
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■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 75mm F1.5 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/1250sec F1.6 +2補正 ISO100 WBオート
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■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 75mm F1.5 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/1600sec F1.6 +1補正 ISO100 WBオート
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■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 75mm F1.5 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/1000sec F1.6 +3補正 ISO100 WBオート
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■撮影環境:1/80sec F1.6 +2 2/3補正 ISO100 WBオート
色のない世界で見る描写力
コシナ独自の非球面レンズを採用していることで、開放F1.5のボケの美しさとピントが合った部分の芯のある描写はため息ものです。写真全体のトーンのなめらかさを伝えやすいモノクロの世界で「NOKTON 75mm F1.5 Aspherical」の描写の心地良さを感じてもらえたらと思います。
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■撮影環境:1/200sec F8 +1/3補正 ISO100 WBオート
時々雨もパラつくあいにくの天気でしたが、光がやわらかく回ることで全体的に中間トーンがなめらかに再現できました。
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■撮影環境:1/2000sec F1.6 +1/3補正 ISO100 WBオート
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■撮影環境:1/8000sec F1.6 -1補正 ISO100 WBオート
風に揺れる水面の滲んだような描写は、開放F1.5(Exif表記上はF1.6)ならでは。対照的に水面に浮かぶ桜の花びらのシャープな描写が良いアクセントになっています。
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■撮影環境:1/100sec F5.6 +1/3補正 ISO125 WBオート
「NOKTON 75mm F1.5 Aspherical」はボディ内レンズ補正には非対応のため、絞り開放での撮影時に条件によっては周辺光量落ちを感じることもありますが、モノクロにした場合、暗室でプリントをした時に四隅を焼き込んだような雰囲気になるため、これはこれで味のある描写になるのでそれも含めて楽しめると思います。
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■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 75mm F1.5 Aspherical RF-mount
■撮影環境:2sec F32 ISO100 WBオート
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■撮影環境:1/100sec F8 ISO100 WBオート
モノクロは色の情報がない分、物のフォルムや質感に目がいく効果があるため、水やコンクリート、桜の花びらや白鷺の羽など、それぞれの被写体が持つ質感の違いを感じてもらえたらと思います。
寄っても引いても、日常スナップの頼れる相棒
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■撮影環境:1/250sec F1.6 +2補正 ISO100 WBオート
中望遠域に属する75mmは、被写体としっかりと対峙する人物撮影や物の形を正確に再現する物撮り撮影などで活躍する焦点距離ですが、今回使ってみて街スナップにも相性が良いという印象を受けました。
スナップ撮影というと、私たち人間の見た目に近い50mm前後の焦点距離のレンズを使うことが多く、75mmの画角では若干狭いと思う人もいるかもしれません。ですが、街スナップにおいては自分が動くことでこの点はほぼ問題なくクリアできますし、単焦点だからこそ自分でベストな距離を探す楽しみもあります。絞りを変えることで、雰囲気がガラリと変わるのもこのレンズの魅力のひとつだと思いました。
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■撮影環境:1/400sec F1.6 +2補正 ISO100 WBオート
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■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 75mm F1.5 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/100sec F1.6 +2補正 ISO100 WBオート
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■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 75mm F1.5 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/100sec F5.6 -1補正ISO1250 WBオート
もちろんマニュアルレンズという特性上、瞬時のシャッターチャンスに対応するのは少しハードルが高いですが、時に思いがけない瞬間を撮ることができたりもするので、街を歩くときは常に周囲にアンテナを張っておくのはスナップ撮影の鉄則ですね。
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■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 75mm F1.5 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/800sec F1.6 +1 1/3補正 ISO100 WBオート
また、最短撮影距離が0.5mなのでテーブルフォトなど、屋内撮影でも活躍してくれると思います。
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■撮影機材:Canon EOS R6 Mark II + Voigtlander NOKTON 75mm F1.5 Aspherical RF-mount
■撮影環境:1/125sec F2 +1 1/3補正ISO100 WBオート
おわりに
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■撮影環境:1/1600sec F1.8 +2補正ISO100 WBオート
キヤノンRFマウント用「NOKTON 75mm F1.5 Aspherical」はコシナらしいとろけるようなやわらかいボケ味と、芯のある描写が心地良いレンズです。絞りの選択によってさまざまな表情を見せてくれるのもこのレンズの魅力と言えるでしょう。個人的には心にじんわりと沁み込むような温度を感じさせる開放F1.5の描写が大好きになりました。
“…weil das Objektiv so gut ist” (レンズがとても良いから)
創業1756年のオーストリア生まれの光学メーカー・フォクトレンダーが掲げたこの信条を大切にするコシナが生み出したVoigtlanderの名前を冠する「NOKTON 75mm F1.5 Aspherical」は、まさに名前の通りの実力を兼ね備えたレンズだと思います。ぜひご自身の目でこのレンズの世界を覗いてみてもらいたいです。
■写真家:金森玲奈
1979年東京生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。東京藝術大学美術学部附属写真センター勤務等を経て2011年からフリーランスとして活動を開始。雑誌やwebマガジンなどでの撮影・執筆のほか、フォトレッスン「ケの日、ハレの日」を主宰。今年5月に祖師ヶ谷大蔵に移転したアトリエで写真をプリントする楽しさを伝えるワークショップなども開催していく。個展・企画展多数。