フォクトレンダー SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical レビュー|しっとりと優しい描写のF0.8の超大口径レンズ
はじめに
2020年12月10日に発売された、フォクトレンダーのマイクロフォーサーズ用単焦点レンズ「SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical」は、現在発売されている写真用のレンズとしてはもっとも明るい、開放F値0.8の超大口径レンズです※。35mm判換算では58mm相当の画角になり、絞り羽根枚数12枚で自然な丸みのあるボケが得られ、金属製で高級感を醸し出すクラシカルなデザインを有する本レンズの性能と魅力を、ポートレートを通じてお伝えしたいと思います。
※2020年11月株式会社コシナ調査による
F0.8の大口径が生み出すとろけるようなボケ味
フォクトレンダーのマイクロフォーサーズ用レンズのうち29mm以外は、10.5mm、17.5mm、25mm、42.5mm、60mmがラインナップされており、いずれも開放F値は0.95でした。これらのレンズの名称には「NOKTON(ノクトン)」が付いていましたが、本レンズはさらに明るい開放F値0.8を実現して「SUPER NOKTON(スーパー・ノクトン)」と、パワーアップをイメージさせる名称になっています。
皆様が興味を惹かれるのは、なんといってもこのF0.8の開放値についてだと思います。第一印象として強く感じたのは、しっとりとした柔らかい描写でした。ポートレート撮影で筆者が大切にしているのは女性を柔らかく描くことですが、それを得意としているレンズです。
ピント面のお話も後でゆっくり行いますが、まずはボケのタッチについて。いわゆるボケ味は優しくなめらかで、好感の持てる自然なボケ方をします。レンズの中でゆっくりと蕩(とろ)かしたような、とろみのあるボケ味を作り出してくれるのが特徴的です。
作例は、筆者が高いところからモデルを見下ろすように撮影しています。モデルの顔の背景はスタジオの床です。この床に作られた太陽の光と影の模様を、ただ白飛びさせるのではなく、印影のあるグラデーションで描き出してくれています。
何気ないシーンをムード溢れるポートレートに変えてくれるレンズ
前ボケがあったり奥行きがあったりするシーンは、ボケの大きさやボケ具合がわかりやすいので、レビュー撮影ではよく撮影するのですが、本レンズは壁と、そこに写った影だけで奥行き感とムードを作り出してくれるので、シンプルな背景の撮影を楽しむこともできました。
レンズ構成は7群11枚で、非球面レンズを2枚採用しています。そのうちの1枚は、独自開発のGA(研削非球面)レンズで、これを採用することでF0.8という超大口径でありながらもコンパクトなサイズ、高い描写性能が実現されています。
絞り開放時のボケ味はもちろん、周辺部の繊細な描写性能は素晴らしく、何気ないシーンをムードのあるポートレートに作り変えてくれるレンズだと感じました。もともと光量の少ないシーンでも、そこにある光だけで撮影できる大口径のレンズですので、木漏れ日や窓辺から入り込んでくる光を利用した、自然なポーズのポートレートが似合いました。
滑らかで適度な重みのトルク
本レンズはマニュアルフォーカスですので、ピント合わせはフォーカスリングを動かして行います。そうなると気になってくるのが、フォーカスリングの操作性です。
するすると滑り過ぎると、ピント位置を行き過ぎてしまうし、重すぎるとシャッターチャンスを逃す可能性がある。トルクの操作性は、使用する方の好みもありますが滑らかさは必須だと思っています。まず、その滑らかさは合格。変な引っ掛かりもなくするっと動き出し、止まってくれるのは、マニュアルフォーカスのレンズでは絶対条件です。
トルクの重さは、レンズ単体で操作してみたときは、もう少し重くてもいいかなと思ったのですが、LUMIX G100に装着して操作してみると、丁度いい重さに感じました。なぜかというと、LUMIX G100のボディが軽くて小さいので、トルクが重いとカメラが回転に引っ張られるように感じることがあります。本レンズはその引っ張られる感がなかったので、小型軽量のボディが多いマイクロフォーサーズ用のレンズとして、適度な重さのトルクになっていると感心しました。
ピント面はシャキッとシャープ!なのでピント合わせがしやすい!
カメラ任せの顔認識、瞳認識のオートフォーカスに慣れてしまうと、マニュアルフォーカスのレンズでのポートレート撮影は敷居が高くなってしまうかも知れませんが、じっくりと瞳にピントを合わせる作業は、写真を撮っていることを実感できる楽しい時間にもなります。
モデルとの撮影距離も2m前後であれば、29mmという焦点距離も手伝って、ボケボケすぎてピントを合わせにくいということもありません。使用するカメラにもよりますが、LUMIX G100では背面液晶でピントを合わせる箇所を等倍して見ることで、マニュアルでのピント合わせも楽に行えました。
そのピントの合わせやすさは、ピントが合っている面をしっかりとシャープに、立体的に描く本レンズの描写性能に依るところも大きいと感じました。今回は絞り開放でのポートレートに拘ってみましたが、絞り込むと切れ味のいいシャープな画が得られるので、街なかのスナップや風景でも使ってみたいレンズだと思いました。
持つ楽しさを感じさせてくれる総金属製鏡筒
数字上のスペックや写真ではわかりにくいけど素晴らしいのが、手にしたときに感じる高級感です。レンズ本体は金属製で、触るとひんやりと冷たく適度な重みがあります。それでも重量は703gと、F0.8の大口径レンズにしては抑えられています。
軽さと携行性を考えればもっと軽い素材でもと思えますが、じっくりとレンズを触るマニュアルフォーカスレンズの場合、金属的な触り心地のほうが撮影するテンションが上がるのは、ここを読まれている皆様なら、おわかりになると思います。
デザイン性の高いフォーカスリング
本レンズのフォーカスリングは、なかなか特徴的なデザインになっています。ですが、見た目だけでなく、指の滑りを防止してくれる、使いやすさも両立した考えられた結果のデザインだと実感できます。この無地とストライプの混合デザインのフォーカスリングは、カメラバッグの中から本レンズを探し出すときに触っただけでわかるので、思わぬところでも活躍しました。
ここでマニュアルフォーカスでのポートレート撮影について、ちょっとだけアドバイス。撮影慣れしているモデルさんの場合、シャッターごとや短時間で色々なポーズを取ってくれたりしますが、このようなマニュアルフォーカスのレンズを使用する場合は、手動でピントを合わせるので、ピント合わせに少し時間が必要なことをお伝えして、落ち着いてピントを合わせるようにしましょう。そうすることで、モデルさんも体の緊張を無駄に続ける必要がなくなるので、自然な表情や仕草なども撮りやすくなります。
モデルさんに声が届く程度の撮影距離なら、ピント位置は最短からスタートして、徐々にピント位置を奥に動かすとピントが合う場所を探しやすいです。そのうち、指がフォーカスの位置を覚えて、ピント合わせはどんどん早くなります。
柔らかい空気感と優しいムードが楽しめるレンズ
今回は室内と屋外、両方で撮影をしてみましたが、どちらでも柔らかい空気感を作り出してくれて、しっとりとした優しいムードに仕上げてくれるので、ポートレート撮影をする方は、一度撮影をするとハマってしまうレンズだと感じました。
描写性能、デザイン共に「もっと撮りたくなるレンズ」に仕上がっています。本レンズの最短撮影距離は0.37mなので、テーブルフォトや小物の撮影も楽しめそうです。今の時期、自宅でゆっくりと撮影をするのもいいですね。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。 (社)日本写真家協会(JPS)会員。