カールツァイス ZEISS Loxia 2.4/85|被写体の質感を見る人に伝えてくれるMFレンズ
はじめに
今回は、ソニーのフルサイズミラーレスカメラのために特別に設計された、ZEISS Loxiaレンズシリーズのラインナップで最望遠(2022年4月現在)のレンズ、「ZEISS Loxia 2.4/85」の魅力を、ポートレートのスチールと、ポートレート・ショートムービーでお伝えします。
人肌の暖かさと弾力までも伝えてくれる
本製品は、焦点距離85mmの単焦点レンズで、マニュアルフォーカス方式のレンズです。絞り範囲はF2.4~F22、レンズ構成は7群7枚のゾナータイプで、特殊低分散ガラスレンズを3枚採用しています。絞り羽根枚数は10枚、最短撮影距離は0.8m。
ポートレートと相性の良い焦点距離ながら、開放絞り値はF2.4と控えめな点が気になる方がいらっしゃると思います。ですが、本レンズの魅力はZEISSレンズならではの高い解像度で、被写体の質感とムードを繊細に描き出してくれることであると、あらためて感じさせてくれる実写でした。
もともと、ZEISSレンズの金属質感の描き方は、キーンとした冷たい感触までもが伝わるようで好みだった筆者ですが、本レンズの人物の肌の描き方は、その暖かさと弾力までも想像できる、優しくもしっかりとした描写力で、カメラの液晶の小さな画面を見ただけでもドキッとさせられました。
ポートレート・ショートムービー
ショートムービーは、ジンバルと手持ちの両方で撮影しました。全長108mm、最大径62mm、重さ594gは85mmのレンズにしてはコンパクトサイズ。開放値をF2.4に抑えた効能でもあるでしょう。小型のジンバルにも乗せられ、手持ちでもフットワーク軽く撮影できるのは有り難いです。
今回は室内での撮影でしたのでフィルターは使用しませんでしたが、天気の良い屋外でのムービー撮影で必須になってくるのが、NDフィルターです。Loxiaシリーズは、現在ラインナップされているすべてのレンズのフィルター径が52mmに統一されているので、複数のLoxiaレンズを交換して撮影するときに、ステップアップリングやダウンリングを必要とせず、素早くフィルターの付け替えができるのでとても便利です。
被写体に集中できるレンズ
キツすぎないけどしっかりとシャープなピント部分と、ふわふわしすぎないナチュラルなボケ味。人肌の温度を感じさせながらも、透明感高く描き出してくれる表現力が、本レンズのポートレート撮影時の魅力でしょう。
今回は、アップでも全身でも、モデルのどこを魅力的に切り取るかを、いつもよりもじっくりと考えて撮影したように思います。F2.4の開放値は筆者好みの被写界深度で、使い勝手が良かったのもその一因でしょう。ポートレートではF1.8~F2.8のF値を常用しているので、F2.4での描かれ方の想像がたやすく、Loxiaシリーズの湿度とコントラストの高い描写にも慣れてきたので、出てくる画に引っ張られることなく、被写体に集中できたのでしょう。
あっと驚かせてくれるレンズも面白いですが、スチールとムービーの両方を撮影する場合、ストレートに肌の色味や質感を描写してくれるレンズのほうが、余計なことを考えずに撮影に集中できるメリットがあります。
シンプルながら高級感のある金属の感触
写真を撮るための機材なのだから、出てくる画がすべてだろう!という意見もあると思いますが、筆者は撮影時にワクワクできる機材でもあって欲しいと、欲張りなことを思っています。本レンズは、手に触れた瞬間に高級感を実感できる、ひんやりとした金属の感触が何よりも心地良く、撮影のテンションをさらに上げてくれます。
シンプルな鏡胴と、さりげないブルーのライン。過度なデザインで主張しないレンズこそ、撮影者を被写体に集中させてくれる良レンズなのだと、あらためて感じました。
アンダー部のグラデーションが見事!
女性の肌の優しさを表現したいポートレートなので、大きく明暗の差を作っている訳ではないのですが、それでもできる床や鎖骨のくぼみの影の、しっとりとした描写に特に魅力を感じました。明部から暗部へ、グレーのグラデーションを重ねて、じっくりと黒くトーンを落としていく描写は感動モノです。
ボケのグラデーションも重要ですが、このようにトーンのグラデーションが繊細で美しいと、ポートレートでの肌の表現力がグッとあがります。それを期待して、床に個性のあるスタジオで撮影したのですが、期待以上のマッチングでした。
このアンダー部分の描写が丁寧なので、被写体の質感を感じることができるのでしょう。実際には触ることのできない写真の中の人物の肌の弾力や、床のザラつき、スチールの椅子の凛とした感触を、写真を見る人に伝える力のあるレンズです。
しっかりとしたコントラストの描写はモノクロとの相性もGOOD
コントラストをしっかりと描いてくれるレンズですので、モノクロが見事にハマりました。足のサイドから当たる光は、太ももとふくらはぎの立体感のあるラインを形取り、背後からの光は、デコボコとした個性ある床に落ちる足の影を、黒とグレーのグラデーションで美しく描き出してくれています。
今回はポートレートでの実写でしたが、スナップや風景、料理や花など、他の被写体ももっと撮ってみたいと思わされました。特に、湿度と質感を感じる被写体と、じっくり向き合いながら、シャッターを押すことを楽しめるレンズと言えるでしょう。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。 (社)日本写真家協会(JPS)会員。