カールツァイス ZEISS Loxia 2.8/21 レビュー|繊細だけど力強い描写力が魅力!

水咲奈々
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はじめに

 今回は、ソニーのフルサイズミラーレスカメラのために特別設計された、ZEISS Loxiaレンズシリーズのなかでも最広角のレンズ、「ZEISS Loxia 2.8/21」のレビューを、ポートレートのスチールとショート・ムービーでお送りします。

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ディストーションのない素晴らしい光学設計

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■撮影機材:ソニー α7C + ZEISS Loxia 2.8/21
■撮影環境:f/2.8 1/125秒 ISO640 WB5000K
■クリエイティブスタイル:ポートレート
■モデル:大川成美

 本レンズはDistagon9群11枚の設計で、特殊低分散ガラスレンズと非球面レンズで構成されています。焦点距離は21mm、絞り範囲はF2.8からF22、最短撮影距離は0.25mです。絞り羽根枚数は10枚で、同梱のネジ調節ツールを使って、絞りリングのクリック感をなくした滑らかな絞りの演出を、動画で行うことができるのが特徴でもあります。

 本レンズを使用してなにより楽しかったのが、不自然なディストーションが見当たらない写真が撮れることでした。自然物が多い屋外撮影ではそれほど気にならないのですが、縦横のラインが多いハウススタジオ内でのロケなどは、構図内の被写体がひずんでいると、主役のモデルではなく、そちらに目を引っ張られてしまうことがあります。

 そのような水平・垂直の歪んだラインは、ボケていても不自然なものとして、ダメな意味で目を引いてしまうので、できれば排除したいものです。構図の外に追いやるのもひとつの手ですが、それで構図の自由度が下がってしまうのは悲しい…。その点、本レンズは構図の自由度を保ってくれる、ディストーションを極限まで減らした、とてもありがたい光学設計でした。

ポートレート・ショート・ムービー

■撮影機材:ソニー α7C + ZEISS Loxia 2.8/21
■撮影環境:f/2.8 1/125秒 ISO640 WB5000K
■クリエイティブスタイル:ポートレート
■モデル:大川成美

 今回のショートムービーでは、狭い室内ながら広角レンズの焦点距離を活かして、寄りと引きの両方を多用した内容にしました。

 また、全長85mm、重さ394gとコンパクトで軽量なレンズなので、上から見下ろすようなアングルも、床からぐっと見上げるようなアングルも容易く、スチールだけではなくムービーも、様々な角度からフットワーク軽く撮影できました。

逆光時のふんわり感とシャッキリ感を両立させる懐の深いレンズ

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■撮影機材:ソニー α7C + ZEISS Loxia 2.8/21
■撮影環境:f/2.8 1/125秒 ISO640 WB5000K
■クリエイティブスタイル:ポートレート
■モデル:大川成美

 ZEISS Loxiaのレンズシリーズの広角系は、特に切れ味のいいシャープさが特徴的で、レビューを重ねるたびにその鋭さに感嘆していました。

 本レンズはそれに加えて強い逆光での撮影時、逆光のポイント、それ以外のピントが合っている面、アウトフォーカス面の3点のふんわり感とシャッキリ感が、どちらも印象強く、そして力強く描写されることが面白かったです。

 逆光撮影だから全体がふんわりしすぎる訳でもなく、だからといってシャープになりすぎず、構図の中で両方とも表現できるレンズとして、構図内のすべての被写体への包容力のようなものを感じました。

繊細なディティールを描き切る描写力

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■撮影機材:ソニー α7C + ZEISS Loxia 2.8/21
■撮影環境:f/2.8 1/125秒 ISO640 WB5000K
■クリエイティブスタイル:ポートレート
■モデル:大川成美

 前述のシャープさと共に、被写体のディティールを描き切る高い描写性能は、さすがのひとことに尽きます。モデルの肌の質感ももちろんですが、衣装の柔らかい質感、波打つドレープの陰影など、繊細な箇所を押し付けがましくなく、丁寧に描写しています。

粘りのあるトルクがGOOD!

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■撮影機材:ソニー α7C + ZEISS Loxia 2.8/21
■撮影環境:f/2.8 1/125秒 ISO640 WB5000K
■クリエイティブスタイル:ポートレート
■モデル:大川成美

 前後のボケは柔らかく、玉ボケもしっかりと丸くなっています。また、被写体のコントラストを高く表現してくれるレンズで、モデルの瞳の力強さを、より際立たせてくれました。

 本レンズはマニュアルフォーカスなので、ピント合わせは当然手動で行います。だからといって、撮影のリズムが悪くなることもなく、見やすいピントの山を掴みながら、人物の瞳にもしっかりとピントを合わせられました。

 ピント合わせがしやすい理由のひとつとして、ピントリングのトルクの粘り感が丁度いい点があります。マニュアルフォーカスでのピント合わせの際に重要になってくるのが、ピントリングの形状と操作感です。指馴染みの良い形状と、軽すぎないトルクの重みは、筆者好みのピントリングです。

 特にトルクの重みは、ピント位置の微調整を行うときに、スカッと行きすぎる可能性を低くしてくれるのと、じっくりとピントを合わせる楽しさを味わいたいという、ふたつのメリットに通じます。

細い線をナチュラルに、でもしっかりと描き出してくれる

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■撮影機材:ソニー α7C + ZEISS Loxia 2.8/21
■撮影環境:f/2.8 1/125秒 ISO640 WB5000K
■クリエイティブスタイル:ポートレート
■モデル:大川成美

 いままでレビューしてきたZEISS Loxiaのレンズシリーズに共通して言えるのが、細い線の描写がずば抜けて美しいことです。

 モデルのマツゲの描写もそうですが、籐のバッグや麦わら帽子の網目、木の板の筋などの細い線まで、しっかりと描き出しています。それも、シャープネスを強くしたようなギトギトしたやりすぎた描写ではなく、肉眼で見たのと同じような、ナチュラルな描写なのが、その美しさの秘訣なのでしょう。

ぜひ一度手にしてもらいたい世界

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■撮影機材:ソニー α7C + ZEISS Loxia 2.8/21
■撮影環境:f/2.8 1/125秒 ISO250 WB5000K
■クリエイティブスタイル:ポートレート
■モデル:大川成美

 ディストーションを極限までなくして、かつ四隅までシャープな描写だからこそ、このようなカットの撮影が可能になります。水平・垂直を保って、左右対称なシンメトリーな構図は、ポートレートではあまり使用しませんが、本レンズには「撮ってみたい!」と思わされました。

 そして、当たり前ですが、撮影中はレンズにずっと触ることになります。そのときに、キンと冷えた金属の感触と、重厚感のあるウェイトは、撮影欲をぐっとあげてくれる大切な要素になります。持つことが楽しいレンズは、撮ることが楽しいレンズなのです。じっくりとマニュアルフォーカスでピントを合わせた先に、繊細で力強い描写力で描き出してくれる世界がある…ぜひ一度、その手に取っていただきたい魅力的なレンズでした。

■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。 (社)日本写真家協会(JPS)会員。

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