カールツァイス ZEISS Touit 1.8/32 X-mount レビュー|深み・ボケ味・繊細さ・再現力が魅せる優しさ
はじめに
今回紹介するのはZEISS Touit 1.8/32 X-mountです。このレンズは今回紹介するFujifilm Xシリーズ向けのほか、SONY「α」Eマウントシリーズ向けもあります。外観的な大きな違いは絞りリングの有無で、APS-Cフォーマット用のレンズで焦点距離は32mm(35mm換算48mm相当)となります。
主な仕様
・撮影距離 0.30m (11.81″) – ∞
・フィルター径 M52 x 0.75
・重量 X用:210g
・発売年 2013年
発売は2013年なので、10年前に発売されたレンズになりますが、新しいレンズに引けを取らない「深み」・「ボケ味」・「繊細さ」・「再現力」を持っています。
開放F値はF1.8と大口径ですが、それほど前玉は大きくないので取り回しが楽なのもこのレンズの魅力で、フィルター径も52mmです。付属のフードをつけた状態で少し小型のX-E3に装着してもバランスは良好です。ピントリングと絞りリングはローレットのないゴム製で、独特の手触りで手に馴染むOtusと同じような仕様です。
ピント面の繊細さと深みと再現力の高さが魅力
開放F値の小さな大口径レンズではどうしてもボケの話が先になりやすいですが、このレンズの最大の特徴はピント面の繊細さと深みと再現力の高さだと感じています。もちろんボケも素晴らしいですが、ピント面の繊細さと深みにZEISSらしさを感じます。
絞り開放のこの距離とこの天気で、ここまで切れ味と深みを感じるのが魅力です。このレンズを使うときは電子シャッターを併用してできるだけ絞り開放で撮るようにしています。
ステンレスのボディーに反射した輝きを再現しながら暗部に粘りを感じるのは、再現力の高さがあるからです。
この光条の形はTouitシリーズの特徴でもあります。線が細くその線に対して光が少しにじむような感じで、長い光条と短い光条が交互に出るのでちょっと不思議な感じが好みのポイントのひとつです。
ボケ味の柔らかさは一級品
できるだけ開放F値のF1.8で撮影するようにしているのも、このボケ味が良いからです。ピント面は絞り開放からとても繊細で分離能力にも優れています。
※分離能力とは物を分ける力で、解像感よりわかりやすいのでこの表現を使っています。
絞りを開放F値にして近接撮影にするとボケを最大限に活かせます。後ろにあるものの形はおぼろげにありながら、少しずつ背景に溶けて行くようです。ボケ味の優しさも気持ち良いですが、ピント面の細かい描写も主張しすぎず形が分離されていて、しっとりとした雰囲気の中にポイントを作っています。
少し離れた枝の背景のボケも、気になる2線ボケはほとんどなく自然な感じです。そのあたりの微妙な雰囲気もレンズの優しさがもたらす利点です。
※2線ボケは線のボケが2重に見えることです。
カラーではボケの中に色のにじみを感じず、再現力が高く暗部に濁りがないのでスッキリしています。
前ボケも形を少し残しながらボケているので自然な印象です。ボケは距離でも印象が変わりますが、どの距離でも自然で柔らかく、少しずつ風景に馴染んで行く印象があります。
ボケがなめらかなのは開放絞りを使っていることだけでなく、このレンズの描写特性も影響しています。その描写特性は少し優しさを感じるもので、その優しさはこのレンズを使う楽しみになっています。
深みがあるのでアンダー気味の表現が楽しい
個人的には少しアンダー気味で暗部をしっかりと落として撮影するのが好みで、そんな表現にはこのレンズの深みは欠かせない存在です。暗部をしっかり落とすと、カラーの場合は色の濁りを感じることがあります。それを防ぐためにコントラストをあげるとしっとりした優しい雰囲気はなくなります。しかし、このレンズには優しさはあっても濁りを感じない良さがあります。
日陰にあったバケツに貯めてあった水に映り込んだ風景を撮影しています。確かに色に関してはフィルムシミュレーションの影響もありますが、日陰の光の弱い状態でもスッキリしているのは、レンズを抜けてくる光の素性の良さ(透過率の高さ)を感じます。
手前と奥に明るさの差があるので、露出補正で悩む条件ですが、レンズの再現力が高いと明部と暗部に粘りがあるので助けてくれます。
夕暮れの雲と空の色をメインに考えた露出にしています。完全に潰れたように感じる建物もよく見ると少し質感が残っています。
ハイキーもいける
かなりオーバー気味の露出にしても再現力が高いので、ハイライトがトビすぎずにスッキリした表現を楽しめます。
曇天気味でもここまでオーバー露出にするとスッキリした感じになります。かなりオーバー露出にしても線の描写には繊細さがあります。
秋から冬にかけての斜光線をスッキリと爽やかに表現するのにもこのレンズはあっています。ここまでオーバー露出にしても細かい葉っぱの分離や地面のハイライトの質感は保たれています。
まとめ
今回紹介したZEISS Touit 1.8/32 X-mountは懐が深く、様々なシーンで好みの表現を楽しむことができます。標準レンズの画角は何本持っていてもその個性を楽しむことができます。このレンズは最新のデジタル対応レンズでは少なくなっている「優しさ」という個性を持っています。
■写真家:佐々木啓太
1969年兵庫県生まれ。写真専門学校を卒業後、貸スタジオ勤務、写真家のアシスタント生活を経て独立。街角・森角(モリカド)・故郷(ふるさと)というテーマを元に作品制作を続けながら、「写真はモノクロ・オリジナルはプリント」というフィルム時代からの持論を貫いている。八乃塾とweb八乃塾を主宰しフォトウォークなども行い写真の学びを広めている。