春は生命が誕生し、そして輝きながら成長していく季節。
 
――被写体に対して竹内先生がお感じになっている、春と秋の違いはどのようなものでしょうか?


 春は生命が誕生し、その生命が輝き成長していきます。梅や菜の花、そしてさまざまな野生の花が咲きます。こうした中で桜はそのシンボルでもあります。
 そして、桜が終わると桃、杏、梨などの果樹の花も狙い目です。同時に草の緑や新緑など、緑鮮やかな風景も春ならではの被写体です。
 また、桜の時期は花曇といって視界が遠くまでクリアでないことがあります。おぼろにかすんだ風景もいい素材です。このような花曇こそが春らしい風景だと思っています。
 さらに、春雨といわれているように、しとしととした雨が降ります。その雨が風景をちょっとやさしい雰囲気にしてくれます。冬と違い春は微妙な気象変化があるので、写真の素材としては好条件になります。


【花の里】福島市の花見山は、花の里としてアマチュア写真家に絶大な人気がある。これは第二の花見山と言われている地域で撮った。モクレン、レンギョウ、桜などが入り乱れている様子を撮ったもの。
■カメラ:ペンタックス645N2 レンズ:SMC ペンタックス645 80-160mm F4.5 絞り:f22 AE +2/3補正 フィルム:E100VS PLフィルター 三脚使用 撮影地:福島県福島市

――これまでにも数多く桜の写真集を出版してこられた竹内先生から見た桜の魅力とは?


【雪村庵の桜】姿の美しいシダレ桜である。竹林の前で美しい姿を見せてくれる。桜と竹と、ツバキの花が情感をかもし出している。
■カメラ:ペンタックス645N2 レンズ:SMC ペンタックス645 80-160mm F4.5 絞り:f16 AE +1/3補正 フィルム:RVP PLフィルター 三脚使用 撮影地:福島県郡山市

 私は桜を撮りはじめて30年近くになりますが、日本で最も多く桜を撮っていると思っています。自分で言うのも変ですが、かなり丁寧に撮っているつもりです。つまり写真を撮っているからこそ、桜を丁寧に見つめなければならいのです。
 目の前にある桜を、自分のフィルムに留めようと思うから、さらにより深く見つめられる。桜を撮ることによって、その桜の美点、長所を引き出そうと考える。
 そのような気持ちがなかったら桜は撮れません。桜の長所を最大限引き出すためには、満開の時でなければなりません。それはたった1日しかありません。
 桜が最も輝いている時に、一瞬の勝負で、最適なポジションからとらえなければなりません。やはり、このようなスリリングさが桜を写真に撮る一番の面白さだと思います。
 桜は1年間じっと辛抱強く、咲く時が来るのを待っています。こちらも今咲くか今咲くかと待っていて、パッと咲いたと思ったら、一日だけで散ってしまうこともあります。見る人もその一日に賭けていますが、その一日が終わるとすっかり覚めてしまいます。
 すると、次の年まで桜のことは思い出さないものです。
 だから桜の本が売れるのも2月から4月にかけてです。それは人々の桜に対する記憶が少しずつ戻り、桜に対する気持ちが高まってくるからだと思います。このように桜は日本人にとって特別な花なのです。
 花が咲いてやがて散る。そして新緑の季節へと移っていく。繰り返される営みを、人間の生き様にオーバーラップさせて考えたのだと思います。そのような点がとても面白い。そんなシンボリックな植物は他にはないです。日本人がとても恵まれているのは、そのような花を身近に持っていることです。日本人の心は桜によってかなり癒されていると思います。
 そして、桜にはさまざまな種類があって、それぞれの桜がそれぞれの色合いを放って輝いるのです。そのさまざまな姿を人間が見て、喜んだり、感動したりする。そういう単純なことの繰り返しなのですが、これほどまでに人を喜ばせる花は他にありません。そこが桜の面白いところです。
 当サイトに掲載されている写真・テキスト等を無断で複製・転載することを禁じます。