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林丈二氏は路上観察学会の発足以前に、すでに路上の様々なモノに興味を持たれ、その写真を数誌に発表されてきました。そうしたことから路上観察学会では「路上観察の神様」とも言われているとか。林氏は路上で自分の感性のアンテナに反応したものなら何でもカメラで撮り、収集されてきました。その興味は国内にとどまらず、海外にまで及んでいます。イヌやネコ、ブロック塀、神社の狛犬、その他なんだかわからない変なモノまで、とにかく、そのおう盛な好奇心が反応するものは幅広い範囲に広がっています。
中でもマンホールの蓋の写真は名高く、マンホールの蓋の写真だけを集めた写真集を、すでに「日本編」「ヨーロッパ編」と2冊刊行されています。まず「路上観察学会」発足のきっかけにもなった、このマンホールの蓋の話から伺いました。 |
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豪華絢爛なヴァチカン市国のマンホールの蓋。中央にあるのがヴァチカン市の紋章。今まで見てきたマンホールの蓋の中で、一番ゴチャゴチャしていて装飾的なデザイン。(『マンホールの蓋』〈ヨーロッパ篇〉より) |
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最初にマンホールの蓋の写真集を出版したのは84年ですが、撮りはじめたのは学生時代からです。美術大学に通っていてデザインの勉強をするのに、町中のデザインを探していたんです。通常は見過ごしてしまうような、町の景観を形づくっている一つ一つのモノを注意して見る、そういう作業をしていたわけです。その中で、特に興味を引いたモノにマンホールの蓋があったんですね。ですから最初は純粋にデザインの勉強のために撮っていたんです。 |
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ロンドンで見つけた、アメーバがウヨウヨしているような、妙な模様のマンホールの蓋。(『マンホールの蓋』〈ヨーロッパ篇〉より) |
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ところが写真が撮りたまってくると、これが面白い。何の変哲もないデザインなのに様々な種類があるんです。もっとも私の場合、マンホールの蓋だけではなく、路上観察学会が発足する以前から、町中にある目立たないけどなかなかいいモノ、奇妙なモノといった類には興味を持っていました。
マンホールの蓋の写真がたまってきたので、写真集にまとめようとした時、出版社の方が建築家の藤森照信さんに書評を書いてもらおうと言い出したんです。ところが藤森さんは、この書評だったら『超芸術トマソン』を発表された赤瀬川原平さんに書いてもらったほうがいい、とおっしゃって、赤瀬川さんに話がいきました。日本でそんな話が進んでいた頃、私はマンホールの蓋の写真集の第二弾として、ヨーロッパ編を手がけることになり、ヨーロッパへ行っていたんです。もともとマンホールを必要とする上下水道施設は、欧米から入ってきたものなので、そのルーツを辿っていったわけです。帰国すると出版社の方が、ヨーロッパで撮ってきたマンホールの写真の映写会を開こうと言うんです。いい機会だから藤森さんや赤瀬川さんも呼ぼうということになって、私の家で映写会を開くことになったんですけど、その時が赤瀬川さんとお会いした最初ですね。それが結局、路上観察学会の発足のきっかけになったんです。 |
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建物の間から霞んだパリのエッフェル塔が見える。翌日、同じ場所に来てみたら、霞んでいたエッフェル塔がくっきりと見え過ぎて、風情は半減。(『閑古堂の絵葉書散歩』〈西篇〉より) |
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パリの凱旋門を横から撮った。正面の印象が強いものほど、横や後ろに興味がある。(『閑古堂の絵葉書散歩』〈西篇〉より) |
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当時、赤瀬川氏は路上の変わった建物などに注目し、特に「不動産に付着して美しく保存されている無用の長物」を『超芸術トマソン』と名付けて紹介されていました。また、藤森氏はサントリー学芸賞を受賞した『建築探偵の冒険』で、やはり路上の建築物の不思議な造形に注目されていました。奇しくも路上におう盛な興味を持つ三人が会合したのです。
この後、「路上観察学会」はイラストライターの南伸坊氏、編集者の松田哲夫氏、江戸風俗研究家の杉浦日向子氏と多彩なメンバーが加わって、正式に発足します。この「路上観察学会」の活動をまとめた出版物の一つに『路上観察 華の東海道五十三次』(文春ビジュアル文庫)があります。町中で奇妙なものを探しながら東海道を歩くこの企画で、林さんは仕事で中断しつつも、51日間かかって東海道を完全に踏破されました。町中をうろうろしながらの行程なので、距離的には東海道全行程の2倍は歩いているということです。
今回の「奥の細道」では、林氏は今のところ、東京の深川から出発して福島県の守山まで歩かれています。そこで林氏の感性のアンテナに反応したモノの写真と併せて、路上観察の醍醐味を語っていただきました。 |
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橿原市の今井町で見つけた竹を模したブリキの雨樋。葉っぱまでついている。(『閑古堂の絵葉書散歩』〈西篇〉より) |
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