特集
陸上ではけして見ることのできない、
海中の雄大な景観の美しさ。

■陸上で撮った写真には、海に共通
 する構図がたくさんあります。
●アマチュアで海中写真を撮っている方に、作品づくりでアドバイスをいただけますか?

 海中写真にもブームがあるように思います。マクロというと、みんなマクロを使うようになりますし、カメがいいとなると、誰もがカメを撮ろうとする。それが悪いとは言いませんが、それから一歩踏み出して、もっとオリジナリティのある作品を撮るように心がけていただきたいです。ウミウシやアメフラシだけが被写体ではありません。外光の入り具合によって様々な色彩を映す岩場を撮っても、立派な作品はできるのです。もっと広い目で海を見てほしい。

 それと、いい作品をもっとたくさん見てほしいですね。それも陸上を撮った写真を見てほしい。陸上で撮った写真には、海に共通する構図がたくさんあるのです。私もよく書店に行って陸上の写真集を見ています。みなさんも、そうした勉強を怠らないようにしてほしいですね。

 また、小型カメラでいいですから、毎日持ち歩いてほしい。スナップをたくさん撮って、普段から様々な被写体に対峙する気持ちを鍛えてほしいのです。被写体はどこにでもある、そのことに気づいてほしい。日頃から面白いと思ったものにカメラを向ける気持ちを養っていませんと、海は陸上よりもずっと雄大で圧倒的に迫ってきますから、一瞬を切り取ることができずに、ぼうっとして見過ごしてしまうのです。ですから私は地上でも、いつでも撮れるように、家や車の助手席に小型カメラを置いています。
おもちゃのように可愛らしいカクレクマノミ。
■カメラ:ニコンF4 レンズ:ニッコール60mm マクロ F2.8 絞り:f8.5  シャッタースピード:1/60秒 フィルム:ベルビア ストロボ使用 撮影地:沖縄
いつも仲良くカップルで暮らすハタタテハゼ。危険が迫ると、素早く小さな岩穴へと身を隠す。
■カメラ:ニコンF4 レンズ:ニッコール60mm マクロ F2.8 絞り:f8.5 シャッタースピード:1/60秒 フィルム:ベルビア ストロボ使用 撮影地:沖縄
●これからの活動のご予定を教えていただけますか?

 東京湾の写真集をまとめたいんです。世界一汚い写真集にしたい(笑)。その汚い海の底で繰り広げられている生命たちのドラマをみなさんに伝えたい。たとえば私が以前から撮りたいと思っているものに、ヒトデの産卵があります。東京湾には年に一度、何万というヒトデが産卵のために押し寄せてくるのですが、その産卵は、ほんの一瞬で終わってしまうので、いまだにその瞬間を撮ることができません。ですから、出版にはもう少し時間がかかると思います。

 福島県の五色沼も撮りたいですね。とても潜りづらい場所なんです。瑠璃沼などは硫黄が積もっていますから、潜るとむせてしまいます。それでも水中の景色は、この世のものとは思えないほど美しいんですよ。ぜひみなさんにその美しさを伝えたい。
 沖縄の珊瑚の写真集も出しますよ。これは今夏に出版されます。沖縄の海の下で、珊瑚が繰り広げるドラマをまとめています。珊瑚の数ミリの世界は、まだ誰も写真に撮ったことがありませんから、機材の開発からはじめなければならず、撮影は大変でした。

 ニューヨークのハドソン川も撮りに行きます。ハドソン川の底には東京湾とはまた違った、いろんなものがあると思うんですよ。棲んでいる生き物だって違うでしょうしね。ハドソン川に潜って河口から上流までたどって、何でも撮ってやろうと思ってます。相手にとって不足はありません(笑)。

●本日はお忙しいところを、ありがとうございました。
あっという間に現れ、サアーッと通過していくウメイロモドキ。黄色ラインは海中でもよく目立つ。
■カメラ:ニコンF3 レンズ:ニッコール28mm F2.8 絞り:f8 シャッタースピード:1/60秒 フィルム:ベルビア ストロボ使用 撮影地:沖縄
水深20メートル、音もなく編隊を組んで楽しそうに泳ぐツバメウオたち。
■カメラ:ニコノスX レンズ:UWニッコール15mm F2.8 絞り:f8 シャッタースピード:1/60秒 フィルム:ベルビア ストロボ使用 撮影地:インドネシア
さらに海中の静けさを強調するため、もう一枚、自然光で撮る。このあと、魚群は追いつけないほどの速さで視界から消えていった。
■カメラ:ニコノスX レンズ:UWニッコール15mm F2.8 絞り:f8 シャッタースピード:1/60秒 フィルム:ベルビア 撮影地:インドネシア
 
 
 
 
 
 
 
 
中村征夫 写真展『沖縄珊瑚海道』ご案内へ
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