思い出をつくる道具たち Vol.3 増田勝正
使用するレンズは、基本的には単焦点。動いている被写体を追うときは、ズームレンズを使ったほうが楽ですが、増田さんの場合は表情をアップでとらえることが多いため、最短撮影距離が短く、より被写体に近づいて撮影することができるマイクロレンズをメインに用いています。ただし、常用レンズはあえて持たないといいます。その理由は…。
「同じ焦点距離を使っていると、似たような写真ばかりになってしまうからです。必要に応じて、105ミリ、200ミリ、300ミリ、ときには20ミリの超広角レンズなどを使い分けています」
撮影でつねに心がけていることは、カメラアングルをペットの目線の高さまで下げること。カメラの位置を下げると、動物たちのいきいきとした表情をとらえることができるからです。増田さんいわく、「本当は穴を掘って、そのなかに入って撮影したい」そうですが、実際はそうはいかず、ほとんどの場合、地面に腹ばいになって撮影しているそうです。三脚も、地上すれすれの高さにカメラを固定できるように特別仕様のものを使用しています。
ペットの撮影は、アシスタントの協力が不可欠です。なぜなら、つねにモデルのそばにいて、位置や動きを調整する必要があるからです。
「300ミリのレンズを使っていれば、撮影距離はだいたい4メートル。モデルが動いてしまうたびに、カメラマンが立ち上がって戻っていては、時間がかかりすぎてしまいます。それにウチのペットの場合は、飼主である私にくっついてきてしまうから、いつまでたってもシャッターを押せません(笑)」
増田さんが世界一優秀なアシスタントだと断言する奥様は、ペットのすべてを知り尽くしたスペシャリスト。動物たちをなだめたり、あやしたり、はげましたりして、テキパキと撮影環境をととのえていきます。その存在感は裏方というよりも、まるで撮影監督。読者の皆さんも、息の合った家族の力を借りてペット撮影にのぞんでみてはいかがでしょうか。
子猫の毛並みがきれいに輝き、芝生も立体的に写っています。
こちらは奥様の足の上でのショット。毛並みの輪郭が輝き、柔らかな質感が伝わります。
【カメラボディ】
ニコンD3s
【交換レンズ】
ニコン Ai AF ニッコール 20mm f/2.8D
ニコン AF-I ニッコール 300mm 1:2.8D(増田さん特製のレンズフード着用)
ニコン AF-S VR マイクロニッコール 105mm f/2.8G IF-ED
ニコン Ai AFマイクロニッコール 200mm f/4D IF-ED
ニコン AF ニッコール 24-85mm F2.8-4D (IF)
ニコンAF-S VR ズームニッコール ED 70-200mm F2.8G(IF)
撮影アシスタントの奥様と息の合ったヒトコマ
取材を終えて、一同は増田さんおすすめのイタリアンレストランへ。取材時にも活躍した奥様との夫婦の会話は、他の者が入る隙を与えないほど呼吸が合っていて、編集部はユーモアあふれるおふたりのお話に笑いが絶えませんでした。「東京暮らしに疲れたら、いつでも遊びに来て。ここはいいところよ」と奥様はにっこり。動物と緑に囲まれ、のんびりと流れる時間に、取材とはいえ心いやされた編集部でした。
普段は、ちば愛犬動物学園で講師をし、生徒へ動物写真の撮り方について指導している増田さん。生徒に、フォトコンテストにも積極的に応募するように呼びかけているそう。「365日フォトコンテスト」で、増田さんの指導した写真がグランプリを取る日も遠くないのかもしれませんね。
1945年、東京都生まれ。愛犬雑誌のカメラマンを経てフリーに。犬、猫、その他ペットの写真を30年以上撮り続けている。アイメイト(盲導犬)協会のボランティア活動にも参加。みずからも犬や猫の繁殖、育成にかかわっている。現在、バーニーズ・マウンテン・ドッグ、スピッツ、ジャック・ラッセル・テリア、マルチーズなどの犬、アメリカン・ショートヘアー、エキゾチック、スコティッシュ・フォールドなどの猫、ウサギといっしょに生活中。
思い出をつくる道具たち Vol.3 増田勝正